この作品は「CLANNAD」(c)Keyの世界及びキャラクターを借りて創作されています。
智代、有紀寧シナリオに関するネタバレを含みます。
葉鍵板SSコンペスレ第三十三回(テーマ:「色」)に投稿したものです。
白色光/白色料
生徒会室で作業をしつつも、僕の目は彼女へと向いていた。
平凡な色彩の中で、一人だけ燦然と輝く存在。
我らが生徒会長は、今は交通安全運動のポスターについて役員と打ち合わせている。
「ベージュの地に白文字は見にくいと思うぞ」
「そうかなぁ。スタイリッシュでいいと思ったんだけど」
「スタイリッシュもいいが、内容が伝わらなくては仕方ないだろう。デザインはいいと思うから、遠目からも見える配色にしてくれないか」
「ん、わかった」
頷いて引き下がる役員。駄目出ししても素直に受け入れられるあたりが、坂上の人徳というものだろう。
そんなことを考えていると目が合ってしまったので、見たままの光景をそのまま口にした。
「さしずめ僕らは灰色の地で、坂上は原色だね」
しかし彼女の気には召さなかったらしく、不満そうな顔をされる。
「どうしてそういうことを言うんだ。そんな卑下が似合うような人間は、うちの生徒会にはいないはずだぞ」
「でも坂上と比べれば霞むよ。卑下してるんじゃなくて坂上を誉めてるんだ」
「それが卑下というんだ。情熱の赤も、若さの緑も、冷静の青も、どれが欠けても画家は絵を描けないじゃないか」
ごもっともだが、坂上が言うと正論すぎて引っかかる。
他の人間にはお題目でも、こいつだけは馬鹿正直にそれを信じているからだ。
「必要のない色だってあると思うけどね。世の中には」
なので僕はついそんなことを言ってしまい、坂上は僅かに表情を強ばらせるだけで、沈黙で答えた。
最近、坂上は彼氏と別れた。
原因の一端は僕にある。悪いことをしたとは全然思ってないが、坂上からすれば敵も同然だろうし、殴られるくらいは覚悟していた。
が…未だ、彼女は何も言ってこない。
代わりに、時々遠くを見るようになった。
呆けているわけではない。仕事は熱心にやっている。でも時々…遠くを見る。失ったものを懐かしむように。
事情を知る僕にとっては、それは鮮やかな輝きの中で、一点だけ残った染みに近かった。
(そりゃまあ、別れて数週間で吹っ切れというのも無理な話ではあるが…)
「お疲れですか」
翌日の昼休み。食欲がわかないので考え事をしていると、隣の席の宮沢さんが声をかけてきた。
「副会長さんも大変そうですね。何かお手伝いできることがあったら、言ってくださいね」
そう言って、微笑む彼女の名は宮沢有紀寧。
いつもこんな風に親切で人当たりも良く、人望では坂上にも引けを取らない。
ただ、特別に親しい友人はいない。休み時間や放課後になると、決まってどこかへ姿を消すからだ。
「ありがとう。君みたいな優秀な人が生徒会に入ってくれれば、僕も楽になるんだけどね」
「あははは。またまたそんなお世辞を」
笑顔でかわしてから、心配そうに覗き込んでくる。どうも僕は相当疲れた顔をしているらしい。
「本当に大丈夫でしょうか。何か生徒会で問題でも?」
「生徒会といえば生徒会だけど…」
「そうだ」
宮沢さんはぽん、と手を合わせて立ち上がった。
「お時間があったら、一緒に来ていただけませんか」
「? 別にいいけど」
嬉しそうに歩き出す宮沢さん。特にすることもないので着いていく。いつも彼女がどこへ行くのかも、多少興味があった。
が、期待と裏腹に、連れていかれたのは単なる資料室。
扉を開けて先に入った彼女が、右腕を広げて招き入れる。
「いらっしゃいませー」
「入ったけど…。ここに何があるのさ」
「今、コーヒーをお淹れしますね。砂糖はいくつですか?」
「っておい」
見ればコーヒーカップに食器、調理器具まで揃っている。部屋を私物化しちゃいけないだろう。
生徒会役員として抗議しようとしたが、『幸村先生の許可は取ってます』の一言で防御されてしまった。あんな爺さんでも教師には違いないので、権力構造上何も言えない。
憮然として待っていると、ソーサーつきのコーヒーカップが差し出されてくる。
「それで、一体何があったんですか」
「なに、それを聞くためだけに連れてきたの?」
「こういう落ち着いた場所の方がお話もしやすいでしょう?」
「大して変わらないと思うけど…」
まあ別に話して困ることではないし、誰かとこの憤りを共有したい気分もあったので、かいつまんで話した。
『坂上が変な不良と付き合って仕事を蔑ろにしたので、男の方に別れろと言ったら別れた』…む、こう言うと何の問題もないな。
「そうですか。別れてしまったんですか…」
「なんだよ? 僕が間違ったことをしたとでも?」
「うーん、わたしからは何とも言えませんが、それでは何が問題なんですか?」
「…坂上がまだ引きずってる」
それはそうでしょうね、と言いたげに、宮沢さんは困った笑顔になった。
「時間が解決してくれますよ」
「ならいいんだけど。万一坂上に吹っ切る気がないとしたらと思うと、気が気じゃないよ」
「好きでい続けるつもりなのだとしたら、素敵なお話ですねー」
「相手によるだろ!」
「そこまで嫌わなくても…。少なくともその岡崎さんという方、あなたの希望通りにしてくださったんでしょう? それならいいじゃありませんか」
「そうだけど…!」
つい、テーブルを叩いてしまう。
コーヒーの中のクリープは渦を作り、元の液体の色は影も形もない。
「そりゃ僕は別れろと言ったよ。あいつと坂上は釣り合わないってさ。でもさ、そう言われたならむしろ奮起して釣り合う男になろうと努力するのが筋ってもんじゃあないか?」
「ま、まあそうかもしれないですね」
「なのにあの岡崎とかいうヘタレ男は、坂上と別れた途端に元の怠惰な生活に逆戻りだってさ! 遅刻はする、三年生なのに進路相談にも出ない、当然まともに勉強なんかしてない、もう呆れてものも言えないね!」
ぜえぜえ…と息を切らせてから、一気にコーヒーを飲み干した。
要するに僕が最も憤っているのはそこらしい。
坂上が、あんな男のために悩んでいるのが許せない。あんな何の努力もせず、別れた途端にさっさと坂上のことを忘れ去るような野郎を、なんだって坂上が気にかけなければいけないのか。
「坂上は一体あの男のどこが気に入ったんだ…」
「まあまあ、恋の形は人それぞれですから」
取り乱す僕にも動じることなく、宮沢さんは変わらぬペースでカップを傾けていた。
「きっとその岡崎さんという人にも、他からは分からない良いところがあるんですよ」
「これっぽっちもそうは思えない」
「まあまあ」
さらに何か言おうとする彼女だが、昼休み終了のチャイムが鳴ってしまった。
どうもこの部屋にいると、時間の経過を忘れてしまうようだ。
「残念です。また来てくださいね」
「もういいよ。君のことだから『その岡崎ってクズですね!』なんて同意は絶対にしてくれないんだろうし」
「あはは…でも、来てくださいね。コーヒーを用意して待ってますから」
何でそこまで親切なのやら。
僕は軽く肩をすくめて、ごちそうさまを言ってから資料室を後にした。
当の会長はといえば表面上は何も変わらず、今日も熱心に仕事をしていた。
「うん、なかなかいい色合いじゃないか」
再提出のポスター案を誉められて、役員は嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ありがと。でもなーんか、印刷すると画面通りの色にならないのよね。プリンタが安物だからかしら」
「というより、光の三原色とインクの三原色は違うからな」
そう言われた相手はよく分かっていないようだったので、つい僕が口を挟む。
「パソコンの画面、つまり光の三原色は赤青緑で、絵の具やインクは赤青黄なのは知ってるだろ。正確にはマゼンダ・シアン・黄だけど」
「それは聞いたことあるけど…」
「うん」
その通り、というように頷く坂上。
「光の三原色を混ぜると白になるが、色料の三原色を混ぜると黒になる」
「なぜなら、光の色とはその光自体の色だが、物体の色とは『物体に一部吸収された後、吸収されずに残って反射した光の色』だからだ」
「バナナが黄色く見えるのは、青の光を吸収しているから」
「光を混ぜると全ての波長を含む白色になり、色料を混ぜると全ての光を吸収するので黒くなる」
「プリンタは違う三原色で画面の色を近似しているだけだから、どうしても多少の差はあるんだ」
「…ふーん。何となくわかったような」
役員は何となく納得し、僕も満足して自分の席に戻った。
見ろ、坂上についていけるのは僕くらいじゃないか。
まあ無駄知識で自慢するのも何だけど、少なくともあの岡崎とかいう馬鹿男には今の会話はついてこれまい。
あらためて、視界の端で彼女を見る。
昨日は原色と言ったが、むしろ白色なのかもしれない。全ての原色を含む色。
何もかもを持ち、なのに純粋でひたむきで真摯な坂上の色。
だからこそ、余計に黒い染みが目立つのだ。
数日は資料室に行くこともなかったが、しばらくして不快な事態が起こった。
昼休みに学食に行こうとすると、玄関からあの岡崎が眠そうな顔で歩いてきたのだ。今頃登校してきたらしい。
(おい…もう昼だぞ)
頭に来た僕が、嫌味の一つも言ってやりたくなったのは至極当然といえるだろう。
「随分と余裕あるんだね。とても三年生とは思えないよ」
「…うるせぇよ」
こちらを睨み付けて、さっさと行こうと――僕から見れば逃げていこうとする背中に、さらに言葉を投げつける。
「あんたさあ、この場所がどこだか分かってんの?」
「……」
「進学校なんだよ。勉強する場所なんだよ。勉強する気も努力する気もないならとっとと退学しろよ。見苦しい!」
「テメェ…!」
振り向いた岡崎に、胸ぐらを掴まれ持ち上げられた。
今までもこうして自分より弱い奴を脅してきたんだろうが、そういつでも通じるものか。脅えるかわりに、思い切り侮蔑の目を向けてやる。
効果がないと分かると岡崎は手を離し、睨むだけ睨んでさっさと行ってしまった。
(けっ。ヘタレ野郎め…)
殴ってくれればそれを理由に退学にできたかもしれないのに。そこまで上手くはいかないか。
(………)
…我ながら、精神がささくれ立ってるな。
自然と、足があの部屋へ向く。別に癒されたいわけじゃないが、コーヒーでも飲ませてもらえば気分も落ち着くだろう。
宮沢さんはいつもの人当たりの良さで歓迎し、コーヒーを淹れ、怪しげな本を勧めてくれた。
「おまじないなんてどうですか? とっても効くんですよ」
「一人、呪い殺したい奴がいるんだけど」
「穏やかではありませんねー」
「まあ、冗談だけどさ」
でも本当に人形か何か渡されたら、『岡崎しねえええ!』と叫びながら釘を打つくらいはしたかもしれない。
「まったく、なんで坂上はあんな奴を…」
コーヒーをすすりながら同じ愚痴を繰り返す僕に、宮沢さんは相変わらずにこやかに言った。
「本当に、坂上さんのことが好きなんですねぇ」
危うくコーヒーを吹き出しかける。
「…そういうこと、さらりと言わないでくれる?」
「あはは。気をつけます」
「断っておくけど、好きだの嫌いだの低レベルの話じゃないんだよ。ただ坂上ならもっと高みへ行けると…」
…こう言うと『それは勝手な理想を押しつけているだけだ』と思われそうではある。実際多少は自覚している。
でも、あいつにそれだけの素質があるのは本当だから…。
「…坂上ってさ」
「はい」
「色に例えたら、何色だと思う?」
ちょっと聞いてみたくなって、そんなことを口にする。
「それはやはり白…でしょうか。あの人は、純粋ですからね」
「だよな」
彼女の目にも、そう写るようだった。裏表のない坂上は、誰の目にもその色に写るのかもしれない。
「それでは、わたしは何色だと思いますか?」
「宮沢さんが?」
「はい」
いきなり返されて言葉に詰まる。眼前の、無垢に微笑む同級生は…
「やっぱり白…かなぁ」
我ながらイメージが貧困のような気もするが、それ以外に思いつかない。
「あはは。さすがにそれは思い違いですよ」
「なんで?」
「だってわたしなんかが、坂上さんと同じ色のわけがないじゃないですか」
謙遜、坂上風に言えば卑下なのだろうが、まあ言われてみれば、この二人はあらゆる面で対照的だ。
坂上は剛で宮沢さんは柔。
坂上は何でも正直に、自分の思うところへ突き進んで。宮沢さんは――。
「宮沢さんは――いつもそうして笑ってるんだな」
「はい?」
唐突に妙なことを言われても、彼女はやはり微笑んでいた。
「同じクラスになって二年目だけど、君が怒鳴ったり、苛ついたりしているところと見たことがない」
「そう…ですね。そうかもしれません」
生来のんびり屋ですからね、と言う宮沢さんの笑顔は、もうそれで固定されてしまっているようだった。
何故だか少しだけむかむかする。
この人は周りを助けてばかりで、誰かに助けを求めることはあるんだろうか。
(しばらく前に兄を失ったというのは、噂で聞いているが…)
「それで、これからどうするんですか?」
話を逸らすように、宮沢さんはそう尋ねてきた。
「どうと言っても…どうにも」
「その岡崎さんのことを認めてあげる、という道もありますけど」
「それはない」
「あはは…。言い切っちゃうんですね」
とはいえ、こうして愚痴るばかりなのも情けない。
僕にできることといったら…
「坂上さんなら、真剣な気持ちは真剣に受け止めてくれると思いますよ」
見透かされたようにそう言われた。
「…かもね」
相手の欲しい言葉を言ってくれる。
結局、宮沢さんはどこまでもそういう人なのかもしれなかった。
放課後の生徒会室。
役員たちが帰った後、坂上と二人きりになるのは簡単だった。いつもこいつは、最後まで残って仕事をしていくからだ。
夕陽の中で、赤く染まろうと坂上は坂上であり、その存在感は確として揺るがない。
「うん、これで準備は終わりだな。そろそろ帰るか」
「ああ。ところで坂上――」
「うん?」
実を言えば、あの日宮沢さんと話してから三日が経っていた。
岡崎にはあれだけ言いたい放題言えたのに、坂上には言えないとは情けない。だから今日こそはと決意してきた。
…これでまた、彼女に嫌われるとしても。
「もう、あの男のことは忘れろ」
坂上は黙って、真っ直ぐに僕の目を見ていた。
気圧されそうになりながら、必死で用意してきた言葉を続ける。
「あの岡崎とかいう最低男が、お前のために何か努力をしたか? お前が想ってるほどあいつはお前を想ってるのか? そう仕向けたのは僕だけど、でもその程度にしか想ってなかったから、あの男は逃げ出したんじゃないか――」
なのに今のお前はまだあいつを想ってて、そんなのあまりにも報われない。
…それは余計だと思ったから、口にはしなかったけど。
「もう、あんな奴のことなんか気にするな。お前にはいくらでも輝く世界がある。それに比べれば、あの男は単なる汚点だ。あんな奴、お前の好意を受ける資格なんかないんだ…!」
坂上は――
微笑んでいた。
「お前は本当にいい奴だな」
開いた口が塞がらなかった。
嫌われるのを覚悟して言ったのに、
「いつもそうやって、私のことを真剣に気にかけてくれる。お前にとっては一文の得にもならないのにな」
「い、いや――それは」
真面目に言われて、気恥ずかしさがこみ上げてくる。僕こそ、そんな風に言ってもらう資格はあるのか。
でも坂上は坂上で…
陽が落ちていく中でも、その色は変わらないまま一点の染みもなかった。
「だから私も、せめて正直に答えようと思う。嫌だ。絶対に忘れない」
「あーゆー奴だよ、あいつはなっ!」
静かな資料室は、僕のせいで最近騒々しくなってばかりだ。
「結局僕なんかが何を言ったって、あいつは生き方を変えたりしないんだ。全く強情で、一途で、前しか見ないんだから…」
苦笑する宮沢さんの前で愚痴りながらも、どこかこの結果を予想していたような気もする。
坂上の強さは、僕が一番よく知っていたのだ。
強烈な白色光に、多少の色を加えたところで意味はないって。
だから…
だからあいつなら、あの岡崎とかいう駄目男すら、いつかは更正させてしまうのではないだろうか。
「…まあ、とりあえず僕も気が済んだよ」
「それなら良かったです」
「色々とありがとう。もうここへ来ることはないと思う」
「そうおっしゃらず、また気が向いたら来てくださいね」
気が向いたらね、と答えはしたが、そんな時が来ないのは自分でも分かっていた。
部屋を出ていこうとして、出口の所で振り返る。
「宮沢さんの色は、やっぱり白だと思うよ」
「こんなにも坂上さんと違うのに?」
「白にも2種類あるんだ。色光の白と、色料の白」
それだけで、宮沢さんは十分理解したようだった。
色料の白。それは全ての波長の光を反射するということ。
誰にでも優しく微笑み、手を差し伸べ、望む答えを与えて…
けれどその内面には、決して光は届かない。その前に反射してしまう。
「いつか、僕なんかよりもっと強い光が当たるといいね」
「そうですね」
最後に微笑む宮沢さんは、やっぱり完全な白色に見えた。
* * *
彼が来なくなってからも、わたしの毎日は変わらなかった。
資料室で一人待ち、たまに来る客には飲み物を出して、話を聞く。
みんなが喜んでくれる限り、この毎日は変わらない、変わらなくていいけど…
「たのもう!」
いきなりそんな、場違いの声とともに彼女が現れたのは、そろそろ夏が始まる頃だった。
しかも威勢良く来た割に、入口のところで逡巡している。
「え、ええと…。入ってもいいだろうか」
「はい、もちろん大歓迎ですよ。いらっしゃい、坂上さん」
立ち上がり、椅子を引いて招き入れる。
「来てくれて嬉しいです」
「あ、ああ。本当は前から来たいと思ってたんだ。…でも、宮沢さんは私の過去のことを知ってるから」
「人づてですよ」
「それでもだ」
彼女の顔が少し陰る。この人にも色々あったのだ。最初から純粋な白色だったわけじゃない。
「でも、来てくれましたね」
「そうだな…。自分が傷つくのを承知で、私に直言してくれた奴がいたんだ」
わたしには少しだけ、心当たりがあった。
「言った内容はともかく、その勇気は見習いたかった。だから私も、もう逃げるのはやめようと思う。宮沢さん、実はっ!」
「は、はい」
テーブルに身を乗り出して、ずいと顔を近づけた坂上さんは…
「その…宮沢さんはとても女の子らしいから、内心密かに憧れていたんだ。こんな私で良ければ、友達になってもらえないだろうか!」
そう一気に言って、私は目をぱちくりして、そして思わず吹き出してしまった。
「笑うことないじゃないか…」
「ご、ごめんなさい。いえ、おかしくて笑ったわけじゃないんです。ただ坂上さんは、どこまでも真っ直ぐなんだなぁって」
色光の白。本当、彼の言うとおり、この人は光そのものだ。
こんな風な笑い方は、兄を失って以来では初めてかもしれない。
この人なら、わたしを照らしてくれるのかもしれない。
「喜んで、坂上さん。どうか、わたしと友達になってください」
破顔する彼女と握手した。
もうすぐ夏が来て、世界の色彩が最もはっきりする頃に、わたしも少し変わるかもしれない。
<END>
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