・この作品はアニメ「らぶドル〜Lovely Idol」の世界及びキャラクターを借りて創作されています。
・アイコン劇場のテキストだけ抜き出したものです。時間のある方はアイコン劇場の方をご覧ください。
・アニメに準拠のため、マジキュー連載の設定とは異なる部分があります。
『脱退ですか?』
海羽「みんなぁー、今日はどうもありがとーっ!」
瑠璃「クリスマスには少し早いけど、瑠璃たちからのプレゼントを受け取ってねー!」
デビューしてから数度目のライブ。海羽と瑠璃の声に、会場は最高級に沸く。
デビューしたとは言っても、私の人付き合いの下手さが治ったわけではないので、こういうファンとのやり取りは海羽と瑠璃、あるいは舞と琴葉の役目だった。
笑顔で立ってるだけなのは申し訳なくもあるけど…その点は、比奈もどちらかというと大人しい方だし、一人じゃないことで少し安心する。
舞「おっと、ここで比奈のクリスマスの予定を発表するぞ」
と、その比奈が舞の手で舞台中央に引き出される。
琴葉「ご存じの方もいらっしゃると思いますが、クリスマスに行われるショコラのライブに、比奈さんがゲスト出演することになりました」
客『おめでとぉぉぉ!!』『やったねぇぇぇぇ!!』
比奈「ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」
比奈「ずっとずっと、お姉様と同じステージに立つことを夢見てきましたが…」
比奈「三期生として無事デビューできたことで、ゲストとはいえ叶うことになりました。応援してくださった皆様に感謝を!」
客『わぁぁぁぁーー』
舞「ってことでショコラに負けないように、こっちも盛り上がってこう! 瑞樹!」
瑞樹「うん! それじゃ次の曲行くね、『GO↑GO↑☆PARTY』!」
智弘「お疲れ様! いいライブだったぞ」
瑞樹「良かった…」
瑠璃「えへへ、やったねー」
智弘「明日は一日オフにしたから、ゆっくり休んで疲れを取ってくれ。それじゃ、俺は後片付けがあるから」
六人『お先に失礼しまーす』
海羽「んじゃ、帰って打ち上げでもしよっか?」
瑠璃「さんせー! デザートは昨日買い込んでおいたしねー」
瑞樹「うん…比奈のお祝いも兼ねて」
比奈「あ…。そのう、申し訳ないのですが…」
比奈「今日の報告を、一刻も早くお姉様方にお知らせしたいのです」
舞「あーはいはい。行ってこい行ってこい」
琴葉「比奈さんらしいですねぇ」
比奈「すみませんっ。それでは風間さんが迎えに来ていますので、皆様お休みなさい」
瑞樹「あ…」
海羽&瑠璃「じゃーねー」
瑞樹(みんな、気にしないのかな…)
SFP合宿所――
五人『ライブ成功おめでとう! かんぱーい!』
瑞樹「これで、今年のライブはお終いなんだね」
瑠璃「激動の一年だったよねー」
琴葉「と言っても、比奈さんはクリスマスライブが残っていますけどね」
海羽「ふぇー。クリスマスまで仕事なんて大変だにゃー」
舞「あほっ。クリスマスに仕事のないアイドルなんて恥だぞ、恥!」
舞「マネージャーも、なんで十二月のこんな半端な時期にライブだったんだ…」
瑠璃「お兄ちゃんは悪くないもん! 瑠璃たちがそこまでメジャーじゃないってこと!」
舞「うぐっ。い、痛いところを」
琴葉「そうですねぇ。クリスマスは大物のライブが多いですし、日が重なってお客様が減るのもどうかと」
瑞樹「でも、良かったんじゃない? 私たちもクリスマスにライブだったら、比奈はショコラの方には行けなかったんだし」
琴葉「それもそうですね」
海羽「比奈ちゃんなら三期生のライブ抜け出して、ショコラの方に行っちゃいそうだけどねー」
瑞樹「え…」
舞「そりゃ違いない」
海羽&瑠璃&舞&琴葉「あはははは…」
瑞樹「………」
翌朝――
トントントン… コトコトコト
比奈「おはようございます…」
比奈「み、瑞樹様!? 昨日の今日なのですから、朝食はコンビニエンスストアで十分ですのに」
瑞樹「うん、ちょっと目が覚めちゃったから」
比奈「それでは私もお手伝いしますね! さて何を温めましょうか」
瑞樹「いい! 何もしなくていいっ!」
瑞樹「それにしても、本当に良かったね。ショコラのこと」
比奈「はいっ。お姉様方も楽しみにしているとおっしゃってくださいました」
瑞樹「けど、夢が叶っちゃったら、これから困っちゃうんじゃない? 目標がなくなったりとか」
比奈「いえいえ、叶ったなんてとんでもありません。今回はあくまでゲストですから」
比奈「私の最終目標は、ショコラの一員としてお姉様方とユニットを組むことです」
瑞樹「……え……?」
比奈「それには、もっともっと実力を磨かなければいけませんけどね」
比奈「何しろお姉様方は素敵で無敵で知的で可憐でなおかつ凛々しく…瑞樹様?」
瑞樹「あ…ううん、何でもない…」
比奈「そうですか?」
瑞樹「………」
六人『いただきまーす』
比奈「あの…瑞樹様?」
瑞樹「うん?」
比奈「やはり、気になることがあるのではありませんか?」
海羽「ん、ひょうはほ?」
舞「飲み込んでから喋れ」
瑞樹「そ、そんな事ないよ」
比奈「いえ、私にはわかります。瑞樹様がそのようなお顔をされている時は、いつも何かを抱えていらっしゃいます」
瑞樹「……」
比奈「何でもお話しください。私たち、仲間なんですから」
瑞樹「…仲間…」
瑞樹「そう…。言ってもいいんだ」
比奈「はいっ」
瑞樹「比奈は、いずれショコラに加入するんだよね…」
比奈「はい、それが私の目標ですからっ」
瑞樹「なら…」
瑞樹「その時は、らぶドル三期生からは脱退するってことだよね…」
比奈「え…」
――――――――
比奈「あ…あはは」
比奈「何をおっしゃるんですか瑞樹様。お姉様方は一期生でありながらショコラなわけですし、私もそのような感じでですね…」
瑞樹「私たちは一期生二期生とは違うでしょ!」
バンッ!
瑞樹「あの人たちはそれぞれの活動がメインだけど、私たちは六人で一つのユニットみたいなものじゃない! 練習もライブも、いつも六人でやってきたじゃない!」
瑞樹「ショコラなんて、どう見ても私たちより忙しそうなのに…。そっちに加入したら、今まで通りの活動なんてできるわけないでしょ!」
……………
比奈「み、瑞樹様…」
海羽「………」
ごくん
海羽「ま、まあまあまあ。落ち着こうにゃー」
海羽「そ、それを言ったらあたしの目標も世界に羽ばたくミュージカルスターだしねー」
海羽「ハリウッドからスカウトが来ちゃったりなんかしたら、三期生とはサヨナラかなー。なんちてー」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
海羽「ふみー!」
瑠璃「海羽ちゃん、お願いだから空気読んで…」
舞「ま、瑞樹の言うことも一理あるよな」
琴葉「舞さんっ」
舞「どっちも活動する? 何を甘いこと言ってるんだ。そんな中途半端な気持ちじゃ、どっちも上手く行くわけないだろ」
瑞樹「そ、そうよっ…」
舞「うん、つまりだ…」
舞「今から比奈が抜けたときの準備をしとけって事だな。残念だけど仕方ない」
瑞樹「な…!?」
比奈「ま、舞様…」
舞「まあ、メンバーが減ったり増えたりなんて、アイドルグループじゃよくあることだしー?」
瑞樹「ま、待ってよっ!」
瑞樹「どうしてそんな簡単に言えるの!? ずっと一緒に歌っていくって約束したじゃない!」
瑞樹「私たちはいつまでも仲間だって…」
舞「あのなぁ、アイドルは女学生の仲良しグループじゃないんだよ! プロなんだよ!」
舞「ステップアップのチャンスよりも、馴れ合いの方が大事なのか!? そんな奴、この業界でやっていけるわけないだろ!」
瑞樹「…舞は、ステップアップのチャンスの方が大事なんだ」
舞「ああ、チャンスがあれば遠慮なく脱退するね!」
琴葉「ま、まあまあ、落ち着いてください」
琴葉「舞さんの言うことも分かりますけど、それを口にしたらお終いですよっ」
琴葉「ファンの皆様はシビアな関係より、むしろ仲良しグループを見たいわけですしね? ここは建前だけでも結束していませんと」
瑞樹「ファンが見たいから……建前……」
琴葉「あ! い、いえ、今のは言葉のあやで…」
瑞樹「そう……そっか」
瑞樹「芸能界ってそういうところだったんだ!」
ダッ
比奈「あっ…!」
瑠璃「瑞樹ちゃん!」
舞「ほっとけほっとけ!」
瑠璃「待って、瑞樹ちゃん!」
瑞樹「離して!」
瑠璃「ううん、瑞樹ちゃんの気持ち分かるよ。実は瑠璃も、比奈ちゃんのショコラ熱はどうかと思ってたんだよね」
瑞樹「え…そうなの?」(良かった、私だけじゃなかったんだ…)
瑠璃「だいたい姉を好きだなんておかしいよね! 姉なんて嫌うものだよねふつう!」
瑞樹「ええ!? 論点はそこなの!?」
瑠璃「そう、姉妹なんてしょせんは女と女…。そこには男を挟んだドロドロとした愛憎が渦巻いてるんだよ。あの女さえいなければお兄ちゃんは瑠璃のモノ! あの女さえッッ」
瑞樹「え、えーと…」
瑠璃「とゆーわけで、瑠璃だけはずっと瑞樹ちゃんと一緒だからね!」
瑞樹「もしマネージャーが他の事務所に移っても?」
瑠璃「……」
瑠璃「…………」
瑞樹「あなたの気持ちはよっっっく分かったわ…」
瑠璃「ああっ待ってぇー! 今のは言葉のあやでぇー!」
お昼――
海羽「あれ、お昼ご飯は?」
琴葉「ないです…。外で買ってきましょう」
海羽「はい?」
瑠璃「瑞樹ちゃん、部屋に引きこもって出てこないよぉ…」
海羽「――――!!」
海羽「瑞樹ちゃーーん! あたしが悪かったですー! 一生脱退なんかしないからご飯作ってぇー!!」
舞「だーっ! 自分の未来より目の前の昼食の方が大事なのかお前はっ!!」
海羽「あうぅー…」
舞「だいたい、今までが瑞樹に頼りすぎだったんだよ。食事当番は瑞樹が来る前みたいに、全員で交代な。忙しいときはコンビニ弁当」
海羽「…あたしが当番の時は、猫まんまでいい?」
比奈「わ、私…」
比奈「やっぱり、瑞樹様に謝ってきます!」
舞「何を謝るんだよ」
比奈「そ、それは…。その、瑞樹様を傷つけたわけですし…」
舞「でも結局、いつかはショコラに行くんだろ」
海羽&琴葉&瑠璃「………」
比奈「それは…っ…」
舞「別に悪いことじゃないんだから、堂々としてりゃいいんだよ」
舞「…アイドルグループなんて、そんなものなんだから」
比奈「………」
比奈「やはり、瑞樹様とお話をしないといけません…」
比奈「でも、手ぶらでは気が引けますし…。ここはお菓子を作っていきましょう」
ガチャ
智弘「比奈、瑠璃から話は聞いたぞ」
智弘「瑞樹には俺からよく…うぉっ!?」
比奈「あ、マネージャー。ちょうど今焼けるところですので、マネージャーにもおすそ分けしますね」
智弘「うわああああああ!」
ちゅどーーーーん
瑠璃「お兄ちゃん、どうしたのそのケガ!?」
智弘「聞くな…」
比奈「誠に申し訳ございませんっ!」
智弘「瑞樹は? まだ部屋か?」
瑠璃「うん、なんか中からどんよりしたオーラが漂ってくる感じ…」
トントン
智弘「瑞樹、俺だ」
瑞樹「…今日はオフなんでしょ。一人にして」
智弘「あ、あのな瑞樹。お前の仲間思いは立派だ。俺はそう思う」
智弘「でもそれを周りにまで強要するのはいかがなものかと思う次第で…」
瑞樹「だったら勝手に脱退でもなんでもすればいいじゃない。私には関係ないから…!」
智弘「み、瑞樹っ!」
ドンドンドン
智弘「はぁ…」
比奈「瑞樹様…」
智弘「初めて会った頃の瑞樹に戻っちまったなぁ…」
比奈「私の責任です…」
智弘「比奈は悪くないよ。三期生の絆も大切だけど、自分が本当にやりたい事も大切だ」
比奈「………」
智弘「少し時間を置くしかないな…」
瑞樹「………」
昨日までは、毎日楽しかったのにな…。
なんだか、疲れちゃった…。
悪夢を見る
幸せな夢を見る
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瑞樹「………」
智弘「は、ははは…。ま、まあ芸能界ではよくあることさ。な?」
瑞樹「私、やめるのやめたのやめる…。いいよね…」
智弘「瑞樹ぃぃぃぃっ!!」
次へ
比奈「瑞樹様、私が間違っていました! もうショコラなんてどーでもいいです!」
瑞樹「ひ、比奈!?」
比奈「これからは瑞樹様を、瑞樹お姉様とお呼びしていいですか?」
瑞樹「う、うん…。呼びたければ呼んでもいいけど…」
比奈「瑞樹お姉様っ!」(ひしっ)
瑠璃「あーっ、ずるーい。瑠璃も瑞樹ちゃんの妹になりたーい!」
海羽「瑞樹ちゃん、ミュージカルにはあたしと一緒に出ようね!」
琴葉「舞さんだって、本当は瑞樹さんの側にいたいんですよっ。私もですけど」
舞「ふ、ふんっ。そ、そこまで言うなら一緒にいてやるっ」
瑞樹「みんな…ありがとう…私たちはいつまでも一緒だよね!」
みんな『瑞樹お姉様!』『瑞樹お姉ちゃん!』『瑞樹ちゃん!』『瑞樹さん!』『瑞樹!』
瑞樹「ウフフフ…。ここが私の居場所なんだ…」
智弘「何このハーレム!」
瑞樹「…はっ!」
夢…か…。
瑞樹「はぁ…」
過剰反応だって事は分かってる。
流れの速い芸能界で、永遠に一緒になんて、最初から無理だったんだって…。
でも…それなら私は、何のためにここにいるの?
数日後
講師「はい、今日のレッスンはここまで」
六人『ありがとうございました!』
瑞樹「………」
比奈「あ、瑞樹様…」
琴葉「すっかりいじけてしまいましたね」
智弘「ああなると難しいなぁ…」
智弘「こんな時になんだが、仕事の話だ。年末のバラエティに急な空きができて、二人ほど出てほしいそうだ」
智弘「比奈の予定と被ってるから比奈以外で…瑠璃と海羽、どうだ?」
瑠璃「はーい」
海羽「ううー。あんまり楽しいこと喋る気分じゃないなー」
瑠璃「お仕事なんだから、スマイルスマイル」
舞「瑞樹にも、少しはトークの仕事もさせろよ」
智弘「ま、まあそれはまたの機会にな…」
比奈「あの…六人一緒に、出ることはできないのですか?」
智弘「ん? それは無理だろ、バラエティに六人は」
比奈「そうですか…」
舞「脱退するかもしれない奴が、何を言ってんだ」
琴葉「舞さんっ!」
比奈「………」
智弘「そ、それじゃ海羽と瑠璃は明日打ち合わせな。俺はもういっぺん瑞樹と話してくる…」
瑠璃「お兄ちゃん、胃に穴開けないでね…」
海羽「ううー。こういう重い雰囲気やだなぁ」
海羽「だいたい比奈ちゃんだって、ショコラに行くって決まったわけじゃないじゃん。向こうがイヤだって言うかもしれないし、ねえ?」
比奈「言いにくいことを平気でおっしゃいますね海羽様…」
舞「そうだな。これ以上、決まってもいない未来に振り回されるのはたくさんだ」
舞「比奈、お前明日、クリスマスライブのリハーサルだったよな」
比奈「はい、そうですけど」
舞「丁度いいや。ショコラの二人に、メンバーに入れてくれるつもりがあるかどうか聞いてこい」
比奈「ええっ!?」
瑠璃「うーん、そうだよねー。ダメなら悩む必要ないもんね」
比奈「ま、ま、待ってください。今の私の実力ではお姉様方にはとてもとても…」
舞「今すぐとは言ってないだろ。将来的な話として聞けばいいだろ」
琴葉「み、皆さんあんまりですよ。あっさりダメって言われたりしたら、比奈さんは明日からどうやって生きていけばいいんですか?」
比奈「琴葉様も結構あんまりですけどね…」
海羽「まーまー、その時はあたしたちが慰めてあげるから♪」
瑠璃「でも、逆に今すぐオッケー大歓迎! って言われたらどうするの?」
舞「それは…ショコラに行くんだろ」
比奈「は…はい…」
瑠璃&海羽&琴葉「………」
舞「と、とにかく! このまま宙ぶらりんはみんな嫌だろ。はい決まり!」
比奈「ううぅ…」
比奈「瑞樹様…」
翌日 リハーサル会場
比奈(夢にまで見た、お姉様方と一緒のステージ…)
比奈(ショコラに入れれば、ずっとお姉様方と一緒にいられる…)
比奈(…私、どうしたらいいんでしょう…)
知奈「比奈ちゃん!」
比奈「は、はいっ!」
知奈「そこのステップは違うでしょう!? 何度言ったら分かるの!」
比奈「す、すみませんっ!」
知奈「朝からぼーっとしているようですけど、ショコラのライブを甘く見ないことね!」
比奈「はい…っ…」
美奈「まあまあ知奈ちゃん。比奈ちゃん、次は頑張りましょう? ね?」
ディレクター「知奈ちゃん、厳しすぎるんじゃないかい。比奈ちゃんも憧れの舞台で、少し緊張してるんだろうしさあ」
知奈「ディレクターさんは黙ってらして!」
ディレクター「は、はあ…」
知奈「ただの新人ならともかく…ショコラの妹として出るなら、これ位こなしてもらわないと困りますわ」
比奈「ごめん…なさいっ…」
ディレクター「す、少し休みを取ろうか。15分間休憩!」
美奈「比奈ちゃん、顔を洗ってリラックスしていらっしゃい」
比奈「はい…」
知奈「………」
美奈「知奈ちゃん、みんないなくなったわよぉ」
知奈「あああーっ!」
知奈「ごめんね比奈ちゃん! ごめんねぇー!」
美奈「泣いて後悔するくらいなら、しなければいいのにぃ…」
知奈「だって身内には甘いなんて噂が立ってご覧なさい! 周囲に示しがつきませんわ!」
美奈「知奈ちゃんはもう少し身内に甘くてもいいと思いますぅ」
休憩室
私、何をやってるんでしょう…。
ようやくここまで来たのに…。
昔のことを思い出す
思い出さない
子供の頃――
私はお父様、お母様に連れられ、海外を飛び回る毎日でした。
お姉様方に会えるのは、たまに日本に帰国したときだけ。
お父様とお母様も忙しく、いつも一人ぼっちで…
ただぬいぐるみを抱いて、お姉様に次会えるのはいつだろうと、その事ばかり考えていました。
けれどお姉様方が、らぶドルになって…。
比奈「お姉様、ただいま帰りました! 半年ぶりですねっ!」
しーん
比奈「あれ…お姉様?」
風間「美奈お嬢様、知奈お嬢様は、お仕事でございます」
比奈「え…」
風間「お二人が出ないと番組に穴が開くため、やむなくとのことで」
比奈「で、でもっ。今日帰りますと、前から連絡してありましたのに…」
風間「知奈お嬢様が仰るには、アイドルとは親の死に目にも遭えない職業なのだとか」
比奈「………」
私の部屋には、お姉様方からのお詫びのお手紙と、プレゼントのぬいぐるみが置かれていました。
それを見るだけでも、お姉様方の気持ちは十分伝わりましたけど…。
でも…少しだけでもいい、一緒の時間を過ごしたかった…。
比奈(このままでは…嫌です)
比奈(もう、お姉様と離れるのは嫌!)
私はお父様に頼み込んで、ようやく日本で暮らせることになりました。
即座にスイートフィッシュスクールの門へ。お姉様のもとへ!
知奈「いらっしゃい、比奈ちゃん」
美奈「これからは一緒ですねぇ」
比奈「は……はいっ!」
でも…その喜びも、長くは続きませんでした。
距離が縮まったことで、かえって思い知らされたのです。
美奈「あはは、知奈ちゃんたらぁ」
知奈「も、もう、姉さん!」
比奈「あ…」
お姉様方は、性格は正反対だけど。
何も言わなくても、心の奥底で理解し合えるような、深い絆を持っているって。
美奈お姉様と知奈お姉様の間に、私が入り込む隙なんて無いんだ…。
双子と、その妹というのは、三人姉妹じゃない。二人と一人なんだ…。
比奈(…でも)
それでも、もっと近づけば、あの輪の中に入れるんじゃないかと、淡い期待を捨てられず。
私はデビューを目指して、必死で頑張ってきました。
なので…。
唯「残念だけど、延期しなくちゃいけなくなりました」
あの時はショックで…やっぱり私には無理なんだろうかって、絶望しかけたこともありました。
そんな時に、あの方が現れたんです。
次へ
そうです、過去を振り返っている暇はありません。ココロの矢印はいつでも上向きでないと!
レンジが爆発したことや、デビューに苦労したことは、もう過ぎたことですし…。
…デビューに、苦労……。
瑞樹『できるよ。私は、やってきたから』
挫けそうになった私を、奮い立たせてくれた瑞樹様。
瑞樹『六人で歌えればと思って、作ってたの』
想いを込めるための歌を、形にしてくださった瑞樹様。
瑞樹『それは、みんなと歌えるのが、これで最後になるかもしれないから』
バラバラになりかけた私たちの心を、一つにしてくださった瑞樹様…。
今の私がここにいられるのは、瑞樹様や三期生の皆様がいてくれたからです。
なのに私は、アイドルになれたと思ったら、もうお姉様方の所へ行こうとしている。
いつだって夢は、大きく鮮やかに描いてきたつもりでしたけど…。
甘い部分ばかり見て、苦い部分に気づこうともしなかったのかもしれません…。
コンコン
比奈「は、はい。どなたですか?」
ガチャ
比奈「あなたは…」
一期生
二期生
三期生
あゆみ「こんにちは、ちょっと入っていい?」
比奈「あゆみ様!? は、はい、どうぞっ!」
あゆみ「ショコラの応援に来たんだけど、差し入れだけ置いて帰るね。なんか知奈ちゃん落ち込んでるみたいだから」
比奈「? そうなのですか?」
あゆみ「これ、温泉地ツアーでもらったお饅頭なんだ。おいしいよ〜」
比奈「ありがとうございますっ。あゆみ様もとてもお忙しいのに…姉に代わって感謝を」
あゆみ「あはは。演歌歌手はあんまりクリスマスに縁はないから」
あゆみ「それに、美奈ちゃんも知奈ちゃんも、デビュー以来の大切な仲間だからね」
比奈「仲間…」
あゆみ「どうかした?」
比奈「い、いえっ。…やはり、一期生の皆様も、固い絆で結ばれているのですね、と」
あゆみ「そうだね。でも、ちょっと三期生が羨ましいかな」
比奈「え…?」
あゆみ「一期生二期生は個別の活動がメインじゃない? 三期生はいつも六人一緒だから、楽しそうでいいなって」
あゆみ「あたしなんていっつも一人だよ。真琴ちゃんも最近は時代劇ばっかりだしさ。はぁ〜」
比奈「そう…ですか…」
あゆみ「………。比奈ちゃん、何か悩んでる?」
比奈「い、いえっ!? そそそんなことは」
比奈「ただ、その…」
比奈「その、それでもあゆみ様は、一期生六人で活動しようとは思わないのでしょう?」
あゆみ「うん? そりゃ、あたしは演歌一筋だからね」
あゆみ「いくら仲間と一緒でも、自分の歌いたくないものを歌うなら意味がないよ」
比奈「そ、そうですよね…」
あゆみ「あ! でも、それは壱か零かってわけじゃないよ」
あゆみ「この前だって六人一緒だったから、演歌じゃないシアワセ革命を歌ったんだし」
あゆみ「心の天秤が微妙に傾いてるだけで、どっちかを取ったからって、もう片方が大事じゃないってわけじゃないんだ」
あゆみ「…だから比奈ちゃんも、片方を捨てるだなんて、そんな風に考えなくてもいいと思うよ」
比奈「あゆみ様…」
見抜かれてしまったのかもしれません…。
比奈「ありがとうございます。少し吹っ切れた気がします」
あゆみ「うん、良かった。元気の出ないときは演歌を歌うといいよっ」
比奈「あ、あはは…。試してみます」
あゆみ「それじゃね〜」
比奈「はいっ」
私の心の天秤…。
どちらの側も重くて、でも、僅かに傾いている方向は、それはやっぱり…。
次へ
ひびき「あっれー、比奈ちゃんだ」
しずく「どしたのこんな所で? あ、ショコラのライブに出るんだっけ」
比奈「ひびき様、しずく様…。はい、その通りです」
ひびき「そっか、比奈ちゃんもショコラに入るの?」
比奈「そ、それはまだ分かりませんけど…」
しずく「私はそうなってくれると嬉しいな。比奈ちゃんが近くにいれば、知奈ちゃんさんも少しは丸くなるだろうし」
ひびき「その知奈ちゃんさんと一番張り合ってるのは誰なのさ。向こうもしずくが丸くなればって思ってるよ」
しずく「うっさいなあ。ひびきが口じゃ勝てないから、私が代わりに言ってあげてるんでしょ。感謝しなさいよ」
ひびき「な、なんだよー!」
比奈「くすくす…。お二人は、本当に仲がよろしいのですね」
しずく「んー、まあ、腐れ縁だし…」
ひびき「仲いいよー」
しずく「あんたはストレートすぎ」
比奈「…あの、ひとつお聞きしてもよいでしょうか」
ひびき「うん、何?」
比奈「もし、もしもですよ」
比奈「ピッコロに新メンバーが加入するとしたら、お二人としてはどうですか?」
ひびき「ええー?」
ひびき「うーん、ちょっとビミョー…」
しずく「ま、いいんじゃない? 話題作りにもなるし」
ひびき「ええっ!?」
しずく「正直、ピッコロの活動もマンネリ気味だしね。この辺でカンフル剤を入れるのもいいかも」
ひびき「な、な…」
ひびき「なんだよー! しずくはあたしと二人じゃ不満なんだー!」
しずく「ちょ、誰もそんなこと言ってないでしょ…」
ひびき「言ってるよ! あたしは嫌だからね!」
ひびき「しずく以外となんて組みたくないのに…しずくはそう思ってないんだ! ばかー!」
しずく「あんたさあ、もうちょっと気を使いなよ…」
しずく「それって比奈ちゃんはショコラに入れないって、そう言ってるようなもんじゃん」
ひびき「あ゛。…あぅ〜」
ひびき「ち、違うからね。あくまでピッコロの話だからね? 美奈ちゃんさんと比奈ちゃんさんはそんなこと思ってないって」
比奈「あ、あはは…。お気になさらないでください」
しずく「そりゃ、私も知らない人が入ってくるのは、ちょっと嫌だけどさ。例えば舞ちゃんがピッコロ加入なんてのはアリじゃん?」
ひびき「舞ちゃんかぁ〜。なんかしずくが二人になったみたいで、あたしが苦労しそう」
しずく「例えばって言ってるでしょ。大体、ひびきのいい加減さに苦労してるのはこっちよっ」
ひびき「なんだよー!」
比奈「ま、まあまあ。とっても参考になりました」
しずく「そう? とてもそうは思えないけど…」
比奈「いえ、お二人を見ていたら、悩んでいる自分が馬鹿らしくなりました」
ひびき「あはは、照れるなー」
しずく「誉められてないよ…。まあ、役に立ったなら、お礼代わりにそこのお菓子もらってっていい?」
比奈「いえいえ、こんな誰かの食べかけのお菓子より、私自らお二人のためにお菓子を作って差し上げますね」
しずく&ひびき「さよーならー!」
比奈「なんで逃げるんですか…」
次へ
瑠璃「やっほー、調子はどう?」
海羽「元気にしてる?」
比奈「海羽様、瑠璃様…」
比奈「ど、どうしたのですか? バラエティの打ち合わせだったのでは」
海羽「うん、ちょっと休憩だったから。気になって走ってきちゃった」
瑠璃「もー、海羽ちゃん足速すぎだよー」
瑠璃「ふふーん、瑠璃ちゃんは鍛え方が足りないんじゃないかにゃー?」
比奈「貴重な休憩時間を…。私のために…」
……。
比奈「…私に、そのような資格があるのでしょうか」
海羽「にゃ?」
比奈「だって…だって私は、三期生の皆様を踏み台にしたようなものですよ!?」
比奈「最初から憧れの人に近づくことが目的で、そのためにらぶドルの立場を利用したんです!」
海羽「比奈ちゃん…」
瑠璃(な、なんか心が痛いなぁ…)
比奈「あの人の側に行きたいからアイドルになろうなんて、どこまで不純な動機だったのでしょう…」
比奈「私は身勝手で最低で、生きてる価値もない人間なんですー!」
瑠璃(うわあああああ)
海羽「………」
瑠璃「あ、あのー、ちょっといいかなぁ?」
比奈「はい、何でしょう?」
瑠璃「ゴメンなさい! 実は瑠璃も、お兄ちゃんの側にいたいだけでらぶドルになりましたぁ!」
比奈「ええっ!?」
瑠璃「瑠璃は生きてる価値もない人間です。らるらる〜」
比奈「あ、あわわわわ。い、いえ、瑠璃様はそんな事ありませんよっ。ダメなのは私だけで」
瑠璃「ううん瑠璃の方が」
海羽「う〜〜っ…」
海羽「二人とも、なんでそんなこと言うかなぁ!」
比奈「み、海羽様?」
瑠璃「海羽ちゃん…」
海羽「あたしはバカだから上手く言えないけど…」
海羽「別に細かいことはいいじゃん! 楽しかったんだし!」
瑠璃「そ、そーゆーもんなの?」
海羽「そ! 大切なスタイルは楽しむこと!」
海羽「それぞれの理由はあったのかもしれないけど、それが何だって、あたしは一緒にいて楽しかったよ」
海羽「踏み台にされたなんて思うわけないじゃない! あんなに素敵な時間をもらえたんだから!」
比奈「海羽…様…」
海羽「だから…だから、比奈ちゃんがショコラに行きたいなら、あたしは笑顔で送り出すよ」
海羽「だって、夢があるなら応援してあげるのが、本当の仲間だもんっ…!」
比奈「そんなの…優しすぎます」
海羽「当たり前のことだってば! ね、瑠璃ちゃん!」
瑠璃「うん…」
海羽「瑠璃ちゃん?」
瑠璃「も、もちろん海羽ちゃんの言うとおりだよ」
瑠璃「でも…でもね」
瑠璃「瑞樹ちゃんの気持ちも、わかってほしいかなーって」
比奈「…はい」
海羽「に…にゃう〜」
瑠璃「瑠璃も、瑞樹ちゃんと同じで後から入った組だから、比奈ちゃんとはまだ一年も一緒に活動してない」
瑠璃「最初の目的はお兄ちゃんだったけど…今は、もっと一諸にいたいって、瑞樹ちゃんと同じ風に思ってるんだよ」
海羽「そっ…そんなの、後から入ったとか関係ないよ…」
海羽「本心では、あたしだってそうに決まってるじゃんっ…」
比奈「皆様…ごめんなさい…」
瑠璃「ううん、比奈ちゃんの選んだ道なら、しょうがないよ」
瑠璃「瑠璃が魔法少女なら、比奈ちゃんを二人に増やせたんだけど…比奈ちゃんは一人しかいないもんね」
瑠璃「だからその時は、瑞樹ちゃんのことは瑠璃に任せて!」
瑠璃「瑞樹ちゃんが寂しくないように、瑠璃がずーっと一緒にいるから!」
比奈「瑠璃様…で、でも瑠璃様はマネージャーが」
瑠璃「へーきへーき。もし仕事が分かれることになっても、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから」
比奈「………!」
海羽「ちぇー、瑠璃ちゃんにいいところ取られちゃったなぁ」
海羽「それじゃ、もしマネージャーがいなくなった時は、あたしが瑠璃ちゃんと一緒にいてあげる」
海羽「もちろん、瑞樹ちゃんともね」
海羽「だから比奈ちゃんは、安心してショコラに行って大丈夫だよ…」
瑠璃「だよっ!」
お二人とも…私などのために、どうしてそこまで言ってくださるのですか?
私は……
LoveLoveLoveが見えちゃった
いっそ嫌われた方が…
比奈「ありがとうございます…お二人の愛に、感謝を」
海羽「あ、愛!? って大げさな」
比奈「いいえ、私には確かに見えました。お二人の、そして瑞樹様の確かな愛が」
瑠璃「うんっ、瑠璃のラブは無限大だよっ」
海羽「に、にゃはははは。ま、まあ、あたしは一番のお姉さんだしねー」
瑠璃&比奈「そうだったの?」ですか?」
海羽「ううう…二人ともあんまりだにゃあ」
比奈「あのっ、実は私…」
瑠璃「いけない、もう時間!」
海羽「あわわわわ。それじゃ比奈ちゃん、またね!」
瑠璃「じゃあね〜」
比奈「はいっ! ありがとうございました!」
比奈「……」
さあ…。
私も、目の前のことを頑張りませんと!
次へ
比奈「ふぅ…やれやれ」
比奈「呆れたお人好しですね。私もいい加減、良い子の演技をするのが馬鹿らしくなってきました」
瑠璃「ひ、比奈ちゃん!?」
比奈「私がどうしてショコラに行きたがるのか、まだ分からないのですか?」
海羽「そ、それはお姉さんのことが好きだから…」
比奈「ショコラにいた方が売れるからですよ!」
比奈「三期生なんて、先輩たちがいなかったら、ファーストライブすら成功できなかったじゃないですか」
比奈「それだけ一期生二期生は偉大なんです。お二人も、三期生なんかには早く見切りをつけた方が身のためですよ」
海羽「な、な、な…」
瑠璃「ひどいよ、比奈ちゃん…」
比奈「ふふん、これが芸能界というものです。ほーほほほ!」
海羽「あったまきたー! もういいアンタなんか知らない!」
海羽「行こう、瑠璃ちゃん!」
瑠璃「う、うん…。じゃあね、比奈ちゃん…」
バタン
比奈「…私の演技力も、なかなかのものですよね…」
美奈「いいの? 比奈ちゃん…」
比奈「お姉様…」
比奈「…いいんです。これで皆様も、私のことはすぐに忘れてくださるでしょうから…」
次へ
ディレクター「はい終了! お疲れ様〜」
美奈「バッチリでしたねぇ、比奈ちゃん」
比奈「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ」
知奈「ま、まあこれ位は当然ですわ。だって私の妹なんですもの」
美奈「『私の可愛い妹』の間違いでしょう、知奈ちゃん?」
知奈「ね、姉さん!」
比奈「お姉様…」
比奈「……」
比奈「あの! 少しお時間よろしいですか? 折り入ってお願いがあるのです」
美奈「あら、なあに?」
知奈「…言ってごらんなさい」
比奈「あの、今すぐというわけではないのですけど…」
比奈「いつか…」
瑞樹(比奈、今頃お姉さんと仲良くやってるのかな…)
瑞樹(素直に祝福してあげられないなんて…私って、なんて嫌な人間なんだろう)
コンコン
瑞樹「誰…?」
マネージャー
三期生
通りすがりの腹黒お嬢様
智弘「瑞樹、俺だ」
瑞樹「………」
智弘「開けてくれないか。お前だって、このままじゃ駄目だって思ってるんだろう?」
瑞樹「…………」
ガチャ…
瑞樹「…それで、どういう風に私を言いくるめるつもり?」
智弘「う…。そ、そう言われるとやりにくいんだけどさ」
智弘「あー、えへん」
智弘「お前の気持ちは分かる。俺にも経験がある」
智弘「俺も、ずっと一緒にやっていけると思ってた」
智弘「…あいつらと」
瑞樹「……! 一期生と、二期生…」
智弘「そう。それなのに会社命令であっさり担当変更だぜ? ひどい話だよな」
智弘「でも、そのお陰で、こうしてお前らと会えたんだ」
智弘「別れは寂しいことだけど、悪いことばかりじゃないって、今では思うんだ!」
瑞樹「………」
瑞樹「私は、そんな風には思えない…」
瑞樹「後にどんな出会いがあったって、どんなメンバーが入ったって、絶対に比奈の代わりにはならない…」
智弘「もちろんだ、代わりにしろなんて言ってるんじゃない! でも…」
瑞樹「………」(ぶんぶん)
智弘「そうか…」
智弘「……」
智弘「なら、比奈にそう言ったら」
瑞樹「え…」
智弘「直接頼めばいいじゃないか。ショコラになんか行かないでくれって」
智弘「比奈は優しいから、瑞樹が真剣に頼めば聞いてくれるかもしれないだろ」
瑞樹「……」
瑞樹「マネージャーって、いつもそういうこと言うんだ」
瑞樹「歌うのをやめればいいとか、比奈に頼めばいいとか、身も蓋もないことばっかり」
智弘「…すまないな」
瑞樹「言えるわけ…ないじゃないっ!」
瑞樹「比奈が、どれだけお姉さんたちのことを好きなのか、ちゃんと知ってる!」
瑞樹「だって仲間だもんっ…! そのために比奈がどれだけ頑張ってきたか、知ってるってばっ…」
瑞樹「ううっ…」
智弘「そこまで分かってるなら、いいんだ」
智弘「全部水に流して笑顔で送ってやれ…とまでは言わない」
智弘「でも、比奈とお前との絆が嘘じゃなかったことは信じよう。…な?」
瑞樹「マネージャー…」
智弘「俺も、いつまでお前を担当できるかは分からないけど…。だからこそ、一緒にいられる間は、その時間を何よりも大切にするから」
瑞樹「マネージャー…マネージャー…」
智弘「うん…うん」
次へ
琴葉「瑞樹さん、レッスンの時間ですよー」
舞「三人仕事にいったからな。私たちだけで練習するぞ」
ガチャ…
瑞樹「六人一緒じゃないとやだ…」
舞「やだ、じゃないだろ! どこまで寂しんぼうなんだよお前は!」
舞「よっぽど今まで友達がいなかったんだなっ!」
ぐさっ
琴葉「そういう舞さんのお友達の話も、ついぞ聞いたことがありませんけどね」
舞「えーい、お前はいつも一言多い!」
瑞樹「何よ…。悪いの!?」
瑞樹「アイドルになりたかったわけじゃない! 有名になりたいわけでもない!」
瑞樹「歌うだけならストリートでもできた。でもみんながいたから、一緒に歌いたかったから、らぶドルになったのに…」
瑞樹「それが無くなったら、私がここにいる意味なんて何もないじゃない!」
舞「こ、このっ…。まだそんな甘い事…」
琴葉「瑞樹さん…」
舞は、三期生に愛着はないの?
琴葉は、脱退なんてしないよね?
裏切り者の比奈を許さない…
瑞樹「舞は、三期生に愛着はないの?」
舞「そ…それとこれとは話が別だっ」
舞「自分の居心地なんかよりも、メジャーになることを考えるべきなんだよ! それが一流のアイドルなんだよっ」
瑞樹「そっか…」
琴葉「はぁ…」
琴葉「瑞樹さん、本音と建前は見分けないといけませんよ」
瑞樹「……?」
舞「な、何のことだよ」
琴葉「照れ屋の舞さんが、『仲間の方が大切です』なんて言うわけじゃないじゃないですか」
琴葉「でも、実際にそんな機会があっても、何だかんだと理由をつけて三期生に残りそうな気がしませんか?」
舞「ばっばか! 勝手な妄想すんなっ!」
瑞樹「そう言われればそうかも…」
舞「そこ、目をキラキラさせない!」
琴葉「せっかく上手くまとめようとしてるんですから、邪魔しないでください♪」
舞「あ、あのなぁ…」
舞「………」
舞「わ…私の事はどうでもいいんだ」
瑞樹&琴葉「?」
舞「お前だ、瑞樹!」
瑞樹「わ、私…?」
舞「そうだよっ…」
舞「誰にも言ってなかったけど…。この前インターネットで、瑞樹のファンの書き込みを見つけたんだ」
舞「ストリート時代からのファンだったって」
瑞樹「…らぶドルに入って、腑抜けたとでも書かれてた? それなら私の努力が足りないから…」
舞「そうじゃない。そりゃこんなベタベタなアイドルグループに入ったこと自体は複雑そうだったけど」
舞「ちゃんとしたプロのレッスンも受けるようになって、さらに上手くなったのは確かだって、そう書かれてた」
舞「でも、正直、他の五人の声が邪魔だって…」
瑞樹「え…」
舞「同等の実力ならまだしも、明らかに劣る連中の歌声なんて、聞くに耐えないって…」
瑞樹「そっ…そんな人の言う事なんて聞く必要ない!」
舞「ばかっ! お客様は神様だろ!」
舞「それに、私だって最近そう思うんだ。瑞樹は高いところに登っていける。8年やってそこそこの評価しか得られなかった、私とは違って…」
舞「本当はあの時、ソロデビューしていた方が良かったんじゃないかって」
舞「そうしたら、私たちに足を引っ張られることもなく、もっともっとメジャーになってたんじゃないかってっ…」
瑞樹「か…勝手なこと言わないでよ!」
瑞樹「言ったでしょ! 私は別にメジャーになんかならなくていい、みんなと一緒にいたいだけだって…!」
舞「何だよっ!」
舞「それだけの力を持ってるくせに! 勿体ないだろ! 私なんかがいくら望んでも、辿り着けない場所まで行けるくせにっ…!」
舞「ううっ…」
琴葉「舞さん…」
瑞樹「………」
瑞樹「舞らしくないよ…」
舞「え…」
瑞樹「舞に辿り着けない場所なんて、あると思ってるの!?」
瑞樹「もし本当に、私がもっと高いところに行けるなら、その時は舞も一緒でしょ!」
琴葉「………!」
舞「瑞樹…」
舞「そ…そんなの無理だろ。もっと現実を…」
瑞樹「それが舞らしくないの!」
瑞樹「自信家で、背丈は小さいけど態度が大きくて、いつも偉そうなのが舞じゃないっ!」
舞「あ、あのなぁ…」
琴葉「全くもってその通りです!」
舞「おいっ!」
瑞樹「それが、やりもしない内から自分に見切りをつけるなんて…そんなに情けないとは思わなかった!」
舞「………」
琴葉「一本取られましたね、舞さん」
舞「ちぇ…」
舞「分かったよっ…。そこまで言うなら一蓮托生だ」
舞「足を引っ張られても後悔するなよ…ううん、絶対に後悔なんてさせない!」
瑞樹「舞…」
舞「まあ、瑞樹は歌は良くてもそれ以外がダメダメだからな。しょうがないから私がフォローしてやるっ」
瑞樹「うん…!」
琴葉「ふふ、さっきまで泣きそうだった人の言葉とは思えませんけど」
舞「ほっとけっ。もちろん、お前も道連れだからな」
琴葉「…はい、分かりました♪」
次へ
瑞樹「こ…琴葉は、琴葉は絶対に抜けたりしないよね?」
琴葉「私…ですか?」
琴葉「そうですねぇ…」
琴葉「案外、最初に脱退するのは私かもしれません」
瑞樹「なっ…!?」
舞「お、おい!?」
琴葉「瑞樹さんは才能があって、努力もしていて、結果としてデビューしてすぐに売れていますから」
琴葉「――だから、あまり売れなかったアイドルの気持ちは、きっと分からないでしょうね」
瑞樹「琴…葉」
琴葉「もちろん私は幸運です。瑞樹さんや舞さんのお陰で、こんなに大きな舞台に立てた」
琴葉「でも変わろうと、生まれ変わろうと思ってSFPに来たのに、結局私は何も変わってない。瑞樹さんたちの影に隠れた、印象の薄いアイドルのまま」
琴葉「他の皆さんはいいんです。それぞれ得意分野が違いますから」
琴葉「でも私は歌手で…。そして瑞樹さんに、何もかもが劣っている」
瑞樹「そ、そんな事ない…」
瑞樹「う、ううん、それ以前に! やめようよ、仲間同士で勝ち負けがどうこうなんて!」
琴葉「そうはいきません。私の目標をご存じですか?」
琴葉「すべてのファンを喜ばせられる、完璧なアイドルになること…」
琴葉「アイドルを極めること。今の私が言っても、笑われるだけでしょうけどね」
琴葉「だから…。もしここにいても、このまま地味に埋もれ続けるだけなら、私は…」
琴葉「…あはは、舞さん。何を愕然としてらっしゃるんですか?」
舞「え、いや、だ、だってっ…。琴葉がそんなこと考えてたなんて…」
琴葉「私だって、何も考えてないわけじゃないんですよ?」
瑞樹「…おかしいよ、その考え…」
琴葉「え…」
瑞樹「アイドルを極める?」
瑞樹「そんなの、私にすら勝てないようじゃ、実現できるわけないじゃない!」
舞「………!」
瑞樹「出て行くなら私を倒してからにしてよ! でないと許さないんだから…!」
琴葉「み、瑞樹さん…」
琴葉「………」
舞「一本取られたな、琴葉」
琴葉「そうみたいです」
琴葉「分かりました。それでは瑞樹さんに勝ってライバルがいなくなったら、その時に上を目指すことにしますね」
瑞樹「うん、私も負けない。琴葉に出て行かれたら困るから」
琴葉「あはは、強敵すぎて嫌になっちゃいます。ねえ、舞さん?」
舞「わ、私もか?」
琴葉「あら、舞さんは瑞樹さんに負けっぱなしでいいんですか?」
舞「ちぇ…分かったよ、付き合ってやる」
舞「…だから、比奈は許してやれ」
瑞樹「舞…」
琴葉「そうですね…。一緒にトップアイドルを目指すことはできても」
舞「一緒にショコラに入ることは、さすがに無理なんだからさ…」
………。
比奈、今頃私のせいで苦しんでるんだろうな…。
次へ
瑞樹「比奈の裏切り者…。虫も殺さないような顔をして、私の心を弄んだんだ…」
舞「ま、待て待て待て、落ち着けっ!」
琴葉「瑞樹さん、目が怖いです〜!」
瑞樹「やっぱり、グループを抜けるときはケジメが必要だよね!?」
舞「どこの暴走族だよっ!」
瑞樹「どうしても抜けると言うなら、私を倒してもらわないと! ストリートで鍛えた拳が疼くわ…」
舞「ストリートって、ストリートファイトかよっ!」
琴葉「マネージャー! 瑞樹さんが壊れましたー!」
次へ
ガチャガチャ
声「え、鍵がかかってるんですか? 仕方ありませんね。黒服さん、やっちゃってください」
瑞樹「? 何?」
ピッピッピッ…BOM!
瑞樹「きゃあっ!?」
西守歌「開きました開きました」
瑞樹「だ、だ、誰よあなた!」
西守歌「瑞樹さん…。あなた、どうやらヘタレているようですね」
瑞樹「か、関係ないでしょ…」
西守歌「腹黒パーーンチ!」
瑞樹「あうっ!」
西守歌「欲しいものは自力で手に入れなくてどうするんですか! あなたはそれでも私と同じ西又絵野川キャラですか!?」
瑞樹「さ…さくにゃん関係ない…」
西守歌「ということで高性能大和撫子、この益田西守歌が瑞樹さんの危機を救って差し上げますねっ」
瑞樹「もうさっぱり意味が…」
西守歌「さて問題は、比奈さんがショコラ入りを希望しているということです」
西守歌「つまりショコラに行けない事情があれば、問題は解決するというわけです」
瑞樹「それはそうだけど…。そんなの無理でしょ」
西守歌「そこでこの携帯電話です!」
Trrrrr
西守歌「もしもし○○芸能ニュースさん? 西守歌です。ちょっとアンケートの捏造をお願いしたいのですけど」
西守歌「お題は『ショコラに妹加入は是か非か?』 反対が…そうですねぇ、87%くらいで」
瑞樹「こらーーっ!!」
西守歌「きゃあっ。もう、びっくりさせないでください」
瑞樹「びっくりしたのはこっちよっ! 一体何をやってるのよ!」
西守歌「えー、だって芸能人って世間の声に弱いじゃないですか。それはもう政治家以上に」
瑞樹「そういう問題じゃないっ! 捏造なんかしていいわけないでしょ!」
西守歌「またまたー、世の中なんて駆け引きですよ。陰謀ブラボー!」
瑞樹「か、駆け引きなんて私たちの間には存在しないわ! 心の通じ合ってる大切な仲間なんだからっ…」
西守歌「ううっ、なんて健気な方なんでしょう」
西守歌「その大切な仲間に9話では合宿所から追い出されかけ、今もこうして裏切られつつあるのにその台詞…。なかなか言えるものではありませんわ」
瑞樹「なんか引っかかる言い方ね…」
西守歌「でも困りましたね…。やはりここは比奈さんに惚れ薬を盛って、瑞樹さんにメロメロにした方が良いでしょうか?」
瑞樹「もういいから帰って!」
西守歌「えー、せっかく来ましたのにー」
西守歌「分かりました、でも最後にこれだけは言わせてください…」
瑞樹「な、何?」
西守歌「あやさんの横にくくった髪を隠すと、まんま私ですよね」
瑞樹「どうでもいいー!!」
次へ
風間「それでは比奈お嬢様、お休みなさいませ」
比奈「はい、送っていただいてありがとうございました」
ブロロロロ…
比奈「遅くなってしまいました…」
比奈「あ…」
瑞樹「…おかえり」
比奈「瑞樹様…」
瑞樹「…ただいまって、言ってくれないのかな」
比奈が話したのが一・二期生ならばこちらへ
比奈「…ただいま、瑞樹様」
瑞樹「比奈…」
瑞樹「ごめんなさい!」
比奈「ええ!? み、瑞樹様!?」
瑞樹「私、子供みたいな事ばかり言って…」
瑞樹「比奈の気持ちも考えないで、自分のことばっかりっ…!」
比奈「…瑞樹様は、何も悪くないです」
比奈「いいえ、むしろ嬉しかった。瑞樹様が、そこまで私のことを大事に思ってくださって」
瑞樹「違うっ…! 私、自分が寂しいだけだった!」
比奈「瑞樹様…」
瑞樹「もう我が侭言わないから、比奈が夢を叶えたいなら応援するから、だから…」
瑞樹「…三期生をやめても、私の友達はやめないで…」
比奈「…………」
比奈「…私、今日、お姉様方にお願いしてきました」
瑞樹「そう…」
比奈「はい、いつの日か…」
比奈「私たち三期生全員を、ゲストに呼んでくださいって」
瑞樹「え…」
瑞樹「比…奈…?」
比奈「別に、無理をしているわけではないですよ?」
比奈「自分の心に正直になったら…皆様と一緒にいることを望んだ、それだけの事です」
瑞樹「比奈…」
瑞樹「ごめん…ごめんね」
瑞樹「私が、比奈に夢を諦めさせたんだよね…」
比奈「違いますよ、瑞樹様」
比奈「今の私の夢は、らぶドル三期生が、ショコラに負けないくらいのユニットになること」
比奈「ショコラに入ろうと入るまいと、お姉様は私のお姉様。なのに私は、自分の寂しさを埋めるために、アイドルになろうとしていました」
比奈「もう姉の影ばかり追いかけるのはやめます。だから…」
比奈「私たち六人で、ショコラに追いついて――いつか追い越してしまいましょう?」
瑞樹「比奈…」
瑞樹「比奈…比奈ぁっ…」
比奈「瑞樹様…」
比奈「あなたに出会えたことに…感謝を」
海羽「にゃああああん!」
瑞樹「み、海羽!?」
海羽「ああもう! 二人とも大好きだよぉぉぉ!!」
比奈「み、海羽様苦しいです…」
瑠璃「瑠璃も瑠璃もー」
瑞樹「も、もう…」
琴葉「だそうですけど、舞さん、どうしましょう?」
舞「ま、まあ比奈がそれでいいならいいけどさ…」
舞「でも、明日からは今まで以上にビシバシいくぞ! 馴れ合いグループなんて言わせないようになっ!」
琴葉「あら? 舞さん、目に涙がにじんでますよ?」
舞「う、うるさいなあっ!」
比奈「皆様、お騒がせいたしました。これからもよろしくお願いしますね」
琴葉「はいっ。さ、外は寒いです。早く中に入りましょう」
海羽「そうしよそうしよー」
瑠璃「ほら、瑞樹ちゃん、もう泣かないの」
瑞樹「うん…」
比奈「…ただいま」
智弘「……」
智弘「もしもし、姉貴? 折り入って頼みがあるんだけど…」
智弘「ああ、分かったよ。好きなだけこき使ってくれ。それでさ…」
次へ
比奈「私に、それを言う資格はありませんから…」
瑞樹「……」
比奈「お姉様方は…ショコラに来たければいつでも構わないと、言ってくださいました…」
瑞樹「…そっか」
比奈「どれだけ憎まれても、仕方ないと思います」
比奈「いいえ、どうか憎んでください。どう言い訳したところで、私は皆様を裏切るのですから」
瑞樹「ううん…」
瑞樹「おめでとう、比奈」
比奈「……! やめてください! そんなこと言わないで…!」
瑞樹「比奈が、自分を責める必要なんてないよ」
瑞樹「…けど、もし嫌じゃなかったら…」
瑞樹「私の友達はやめないでくれると…嬉しいな」
比奈「瑞樹様…」
比奈「ごめんなさい」
瑞樹「比奈…」
比奈「ごめんなさい…ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!」
瑞樹「もういいよ、比奈…」
瑞樹「…今まで、楽しかった」
ほどなくして、比奈は正式にショコラに加入した。
そうなると、人気も忙しさもショコラ>三期生なわけで…。仕事の都合もあり、比奈は合宿所を出て家に帰ってしまった。
一人減ってしまった食卓が、どこか寂しい…。
瑠璃「ねーお兄ちゃん、もう一人スカウトしてきてよー」
智弘「いいじゃないか五人で…。セーラームーンだって五人だったろ」
瑠璃「ダメだよやっぱりらぶドルは六人じゃないと! 空鍋かき混ぜてる人とか呼ぼうよ。どうせ顔いっしょだし」
智弘「そういう問題のある発言はやめい!」
Trrrrr
智弘「はいもしもし…。え、もう一人メンバーが増える?」
瑠璃「空鍋かき混ぜてる人?」
瑞樹「それはもういいって」
ガチャリ
明菜「母でしたー」
智弘&瑠璃「………」
瑞樹「お、お母さん…」
明菜「瑞樹、私は駄目な母親だったけど…。せめてもの償いとして、らぶドルメンバーに加えさせてもらうわ」
智弘「いえ気持ちは立派ですけどね。やはり年齢というものが」
明菜「大丈夫、心はいつも17歳だから♪」
瑞樹「お母さん…。これで私、もう一度歌えるわ!」
智弘「って歓迎するのかよ!」
瑠璃「やっぱ六人だよね♪」
智弘「らぶドルオワタ…」
END
エンディング分岐へ
最初から
クリスマスライブ当日
知奈「さて、そろそろ着替えてきましょうか」
美奈「また衣装が届いてなかったりしてぇ」
知奈「やめてよ縁起でもない…比奈ちゃん?」
だ、大丈夫です、大丈夫。今日に備えて、昨夜の舞様の誕生パーティも、皆様早めに切り上げてくださいましたし…。
でも、もし私が失敗したら…。
お姉様方の顔に泥を塗ることになり、三期生全体まで駄目だって思われてしまいます…。
美奈「比奈ちゃん、そんなに緊張しないで。失敗しても死ぬわけじゃないしぃ」
比奈「は、はい…」
知奈「何を言っているの姉さん! ショコラに失敗なんて許されませんわ!」
比奈(あうあうあう)
声『比奈!』
比奈「え…?」
比奈「み、皆様、どうして…?」
舞「見学だ。見学」
琴葉「という名目での、比奈さんの応援ですよ」
海羽「比奈ちゃんの晴れ舞台を見ておかなくちゃね♪」
瑠璃「一人足りないままクリスマス過ごすのもやだしー」
瑞樹「私たちは、見ていることしかできないけど…。それでも、比奈の近くにいたいから」
比奈「皆様…。こんな私のために…」
比奈「ありがとうございますっ…」
比奈「昨夜のパーティでも、レンジを三度ほど爆発させましたのに…。そんなことは誰も気になさらないということですね…」
五人『それは反省しろ!』
比奈「はぁ〜い」
智弘「悪いな美奈、知奈。舞台裏の邪魔にならない所にいるから、あいつらにも聞かせてやってくれないか。姉貴の了解は取ってる」
美奈「もちろん、いいですよぉ」
知奈「別に構いませんけど…。本当、三期生には優しいんですのね」
智弘「え? そ、そりゃ今の俺は三期生の担当なんだから当然だろ?」
知奈「知りませんわ! フン!」
智弘「な、何を怒ってるんだ?」
美奈「智弘さんは、相変わらずですねぇ」
美奈「でも…良かった。比奈ちゃんに良いお友達ができて」
知奈「そうね。ちょっと羨ましい…」
智弘「ああ。あの団結力こそが三期生の最大の武器だと、俺は思ってる」
知奈「うかうかしていると追い越されてしまいますわね。まだまだ、若い子たちには負けられませんわ!」
美奈「知奈ちゃん、オバサンみたいよぉ」
知奈「ね、姉さぁん…」
瑞樹「比奈、ちょっと緊張してる?」
舞「カボチャだぞ、カボチャ」
琴葉「いえ、人の字を手に」
比奈「ふふっ。皆様の顔を見たら、緊張なんて吹っ飛んでしまいました」
比奈「だって、私にはいつだって、皆様の想いが寄り添っているのですから…」
舞「は、恥ずかしい奴め…」
海羽「にゃあ〜! その通りだよ、感動したよ〜!」
瑞樹「うん…。芸能界がどんな世界だろうと、私たち六人の絆は揺るぎはしないないわ」
舞「うわーっ! 瑞樹まで恥ずかしいこと言い出したーっ」
琴葉「舞さんがいつまで染まらずにいられるか見物ですねっ」
瑠璃「えっとー、一応お兄ちゃんもいるから覚えててあげてね?」
比奈「も、もちろんですとも! 最高のプレゼントをくださったマネージャーに、感謝を」
智弘「はは、俺はついででいいよ。ほら、そろそろ行かなきゃ」
比奈「はい! それでは皆様、行って参りますね」
瑠璃「頑張れー!」
琴葉「ステージを楽しんできてくださいねっ」
瑞樹「あ、比奈…」
比奈「はい?」
瑞樹「…せーの」
瑞樹&海羽&瑠璃&舞&琴葉『メリークリスマス!』
比奈「…はいっ!」
END
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