この作品は「Kanon」(c)Keyの世界及びキャラクターを借りて創作されています。
真琴シナリオ、舞シナリオ、あゆシナリオに関するネタバレを含みます。
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2段復活
”真琴が帰ってきた――”
そう知らせてくれたのは、放送で呼び出された職員室での、秋子さんからの電話だった。
すぐさま担任に早退する旨伝えると、弾丸のように校舎を飛び出す。帰ってきてくれた。俺たちの想いが、ものみの丘の狐に通じたのだろうか。
途中で肉まんを買い込んで、そのまま水瀬家の玄関に駆け込んだ。
「秋子さんっ! 真琴はどこにっ!?」
「あら祐一さん、そんなに慌てなくても真琴は逃げませんよ」
「真琴ーっ! どこかに隠れてるのかーっ!」
「まあ祐一さん、あなたの足下にいるじゃありませんか」
足下?
視線を下げる、そこには…
生意気そうな顔の狐が一匹――
「‥‥‥」
変わり果てた姿に、俺はその場に崩れ落ちるしかなかった。
「そ、そりゃ生きて帰ってきただけでも有り難いとは思うけどさあっ…」
「そうですよ祐一さん。贅沢はいけません」
「だいたいホントに真琴かお前っ! ただの紛れ込んできた狐じゃないのかっ?」
(あうー)
とは言わなかったがそんな素振りを見せると、前足を上げて俺の頭を叩き始める狐。
「いててて。ち、ちょっと待てっ。ほら、肉まんやるから」
(あう)
ぴくん、とひげを振るわせ、俺が空中に掲げた肉まんに飛びかかる。
さっ
素早くその手を引っ込めると、勢い余った狐はそのまま壁に激突した。
間違いなく真琴だ…。
(あうーっ! あうーっ!)
怒って俺の足に噛みつく真琴を眺めながら、思案に暮れる俺。さて、どうやって人間の姿に戻したものか…。
「ただいまー」
と、遅れて早退してきた名雪が帰ってくる。
「祐一、美汐ちゃん連れてきたよー」
「お邪魔します…」
「いいところへ来た天野。実はかくかくしかじか」
「相沢さん、それは贅沢というものです」
「ぐっ」
まあ、天野にしてみればそうも思うだろう。
この姿だって真琴には変わりはないのだし。
けど…
「きつねーきつねー!」
(あう)
「ふわふわのもこもこー!」
人の苦悩をよそに、真琴を抱きしめてはしゃぐ名雪。
「祐一、真琴は狐のままでいいよっ」
「そうねぇ、食費も浮くし」
「人間になった場合、戸籍等の問題も発生しますしね」
「ちょっちょっとちょっとーっ!」
なんだか流れが怪しくなってきたが、女性三人を敵に回しては勝ち目がない。
ひとまず場を落ち着けるべく、俺は軽く咳払いする。
「いや、ここは真琴自身の意思を尊重すべきじゃないのか?」
「うん、そうだね」
真琴を放し、しゃがみこんで尋ねる名雪。
「ねえ真琴。人間として受験や就職に晒されるのと、狐のままで毎日食っちゃ寝できるのとどっちがいい?」
「どーゆー聞き方だ!」
真琴は考えるまでもなく、だらりと寝そべって肉まんをかじり始めた。
「いいなぁ…。わたしも狐になりたいよ…」
名雪、お前って奴ぁ…。
「それでは真琴は狐のままということで、皆さんよろしいですか?」
「いいよ」
「了承」
「ちょっと待てーーっ! 俺はどうなるんだ。だいたい狐の姿じゃ何もできないじゃないかっ!」
‥‥‥‥。
俺を待っていたのは、三人の冷ややかな視線だった。
「あらあら、一体何をしたいのかしら?」
「祐一、不潔…」
「相沢さん。あなたには失望しました」
「ご、ごご誤解だっ。ほら、なんだ、俺は真琴と一緒に対戦テトリスをやりたかったんだ」
「今時そんなものやってる人いないよっ」
くっ、もはやここまで。俺は真琴の首根っこを引っつかむと、一目散に水瀬家を飛び出した。
「祐一、どこ行くのーっ!?」
「真琴を人間にしたらすぐ戻る!」
「いいかよく聞け真琴。確かに狐は楽かもしれないが、マンガは読めないぞ?」
(あう)
「それどころか一生を名雪のペットとして送ることになるぞ?」
(あうーあうー)
「わかればいいんだ。それじゃ行くとするか…あれ」
目の前を栞が通りかかる。
「わ。祐一さんですー」
「そうだ栞。狐を人間に変える薬はないか?」
「祐一さん、昼間からラリってるんですか? 冗談は顔だけにしてくださいー」
ちょっと聞いてみただけじゃないか…。
「狐ってこの子ですか?」
手を伸ばして、真琴の頭をなでる栞。
「可愛いですー。毛皮が高く売れそうですー」
(あうっ!)
「おい…」
「動物実験にも最適ですー」
「もういい、しゃべるな」
「知らないんですね祐一さん。新薬が開発されるたびに、どれだけの動物が犠牲になっているか…」
(あうーっ! あうーっ!)
「なんてこと言う人、嫌いです」
「こっちのセリフだ!!」
と、こんなことをしていては昼休みが終わってしまう。
俺は栞に別れを告げ、学校の屋上に続く踊り場へと向かった。
動物が女の子になるのは魔法少女ものの定番! あの人なら何とかしてくれるに違いない。
が…
「ごめんなさい。実は佐祐理、オベリスクの召還魔法しか使えないんです」
「なんでよりによってそんなものを…」
佐祐理さんが杖を振るやいなや、空から巨神兵が現れる。
「これが佐祐理のオベリスクですよー! わははははーー!!」
「ああっ遊戯王ファンにしか通用しないネタを」
「ということで、頼むなら舞に頼んでください」
「舞に?」
じーっと真琴を注視している舞。こいつが?
「実は舞はすごい超能力者で、死んだ母親すら生き返らせるほどなんです」
「そ、そうだったのか。頼むぜ舞!」
「断る」
「‥‥‥‥」
「私 は 狐 の 方 が い い !!」
いや、そこまで断言しなくても…。
「きつねさん、おいでおいで…」
人の話を無視して真琴に手を伸ばす舞。バカめ、真琴がそうそう人に懐くはずが……って弁当見せたとたんに駆け寄りやがった! 所詮は獣かッ!
「あははーっ、可愛いですねーっ」
「祐一…。この子譲って」
「無茶言うなっ!」
もぐもぐと弁当食ってる真琴を、舞の手から引ったくる。
「ううっ、きつねさん、きつねさん…」(しくしく)
「よくも舞を泣かせましたね。祐一さん…あなたを殺します」
「さよーーならーーー!!」
脱兎のごとく逃げ出す俺。真琴は…満腹してげっぷしている。なんだか何もかも馬鹿馬鹿しくなってきた…。
い、いやここでくじけるな。まだ最後の手段がある!
俺は真琴を抱えたまま、並木道へと急いだ。
真琴とともに天使の人形を掘り当て、商店街で羽根つきリュックをつかまえた頃には、既に夕方になっていた。
「え、ボク?」
「真琴シナリオなら最後の願いを使ってないだろう。残しておいても仕方ないぞ。パーッと使え、パーッと」
「でもそれじゃボク、一生目が覚めないんじゃ…」
「細かいことは気にするな。誰もそんなこと気にしとらん! さあ選べ、お前は奇跡を起こすのか、奇跡を起こすのか、奇跡を起こすのかぁっ!」
「選択肢がないよっ!!」
ちっ、かくなる上はやむをえんっ…。
「たい焼き10個」
「50個」
「…お前な…」
「嫌ならいいよ」
「だーっ! わかった50個!」
想像したあゆの口からよだれが垂れる。
「はっ!(じゅるっ) えーと、他でもない祐一君のため、ボクは喜んで協力するよ!」
「勝手にしてくれ…」
「じゃ、その人形貸して」
天使の人形を空高く掲げ、厳粛な顔で呪文をとなえるあゆ。
『最後に…』
『たったひとつの願いを叶えて…』
『ボクの、願いは…』
ボンッ!
その瞬間、そこにはあの日のままの真琴がいた。
「あうーっ…。祐一ぃ…」
「真琴…。
服まで一緒に復活することないのに」
「な、なに言ってるのよぅっ! 祐一のヘンタイ! バカバカバカーーッ!!」
「いてててて。冗談、冗談だっ」
真琴のパンチを受けながら、頭にぽんぽんと手を置く。
「これで…ちゃんと結婚できるな」
「え…」
「約束したろ?」
「祐一…そのために、真琴を人間にしようとしたの…?」
「今度はちゃんと、秋子さんや名雪や天野も招待しような」
「あうぅっ…。ゆういちぃっ…」
涙ぐむ真琴を抱きしめながら…、俺は取り戻した幸せを感じていた…。
「ケッ、やってらんねー」(ペッ)
「…あゆ…」
「ボ、ボク何も言ってないよっ。それじゃ祐一君、たい焼き代はキャッシュで頼むよ」
「月賦にしろ」
「キャッシュ」
「ぐっ…。真琴、あとでお前の小遣いから半額徴収するぞ…」
「あうーっ、わかったわよぅ…」
「うぐぅ、たいやき〜」
奇跡を売っ払ったあゆは、羽根をぱたぱたさせながら去っていった。
「いいなあー、真琴もたいやき食べたい」
「秋子さんの料理の方がいいだろ。ほら、帰るぞ」
「う…うんっ!」
秋子さんは笑顔で了承してくれた。
天野はとっくに帰っていたが、電話で報告したら祝福してくれた。
あとは…
学校サボって寝ていた名雪を、とりあえず叩き起こす。
「ねむいよ〜」
「あうー、名雪ー」
「あ…。真琴、人間の姿になっちゃったんだね…」
「う…うんっ」
「はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ぁ…」
「あうー!」
「冗談だよ」
屈託のない笑顔で、真琴の頭をなでる名雪。
「おかえり、真琴」
真琴の顔にも満面の笑み。水瀬家一同が揃って、この家の中では、ずっとずっと春が続いていくだろう…
「って何だ名雪、そのバケツは」
「え? 水をかぶると狐にならないかと思って」
『それは別のマンガだ!』
俺と真琴が同時に突っ込んだ。
<END>
※らんま1/2ネタはもう古いですかのう…。
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