それは残暑厳しい夏の終わりだった。(2000年 8月23日だそうな)
場所は大阪住之江....
この暑い中歩いているのはイッチであった。
しかも、でっかい旅行カバンを引きずって。
『あ...あぢぃ。もう8月も終わりだっちゅーのになんて暑さでぇ。
も....もうだめだ....、大阪で修行して立派なたこ焼き屋になろうと上阪してきたのに...。
めぼしいたこ焼き屋が一件もみつからねぇ.....。
しかも、ここ2・3日まともなモノも食ってねぇ。
ああ....もうダメかも..腹減ったぁ。』
ばったりと倒れるイッチ。
そこに通りかかる1台の車。車の中では....
「おー、トモッチ見てみぃ。えらい派手な変なオッサン、キョロキョロしとるで〜。この場所には似やわんな〜。よそもん丸出しやでー。」
「あ、ホンマや。あ、グッチ。倒れたで、あのオッサン。」
「しゃーないなぁ。困った人を見るとほってはおけんのが俺の悪いところでもあり、良いところでもあるんやな。」
グッチ自画自賛しつつ、イッチの元へ。
トモッチも後ろから怖々隠れるようについていく。
「おう、オッサン。でーじょーぶかぁ?」
「は.....は....腹減って...もう.....」
朦朧としつつ答えるイッチ。
「何だとぉ。腹減ってるんかい。しゃーないなぁー。トモッチ、たこ焼き残ってたな。持ってきてくれるか?」
「生きてたん?そのオッサン。わかった。持ってくるわ。」
トモッチ、車の中からたこ焼きを持ってくる。
「悪ぃーなオッサン。こんなモノしかなくてよ。大した腹の足しにはならねーが、ま、食ってくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
ガツガツガツガツ。
すごい勢いで食べるイッチ。
「そんなに腹減ってたんかい。」
あきれるグッチ。
その後ろであまりの食べっぷりの怖さに脅えるトモッチ。
食べながらイッチはふと気づく。
「ああ....これだ。このたこ焼き。これこそ俺の求めていた味。」
食べ終わったところでイッチはおもむろに
「こ...このたこ焼きは、何処で売っていたんですかい?」
「あ、このたこ焼きかい。俺のところで作っているんや。出汁がそんじょそこらのたこ焼き屋とは違うでぇ。へっへっへ。」
自慢げなグッチ。
「あ....兄貴ぃ。日本一、いや世界一のたこ焼き屋になろうと上阪してきたイッチと申しやす。これもなんかの縁かと思いやす。是非弟子にしてくだせぃ。そして、このたこ焼きの味を、俺に....俺っちに伝授してくだせぃ。」
土下座して頼み込むイッチ。
「おう、どうするトモッチ。弟子だってよ。」
「いいんじゃな〜い。組に入れてやれば。人手も少し足らなかったし。」
「あ...ありがてぃ。兄貴ぃ、姉御ぉ。一生ついていきますぜぃ。」
涙を拳で拭うイッチ。
そして、イッチはこれを機にマムシ組に入り、たこ焼き屋としての第一歩を踏み出したのであった。
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