タコの5.『恩返し』


ワテの名はグロッチ。
気ままに大海を旅する象アザラシや。
それは日本ちゅー国の瀬戸内海っちゅーところを泳いでいたときのことやった.....

長旅ですっかり腹の空いていたワテは、人間様のモノに手を出したらヤバいって事は知っていたんやが、空腹には耐えきれず、ついつい目の前の蛸壺に手...いや..ヒレを出しちまった。
その瞬間.....
バキッ!!☆
蛸壺の蓋が閉まったんや!!
その音に驚いたのか、近くにいたタコが墨をまき散らし、目の前は真っ黒、何も見えたもんやない。
おまけにそのタコの野郎ぉがや、ワテの口の中に飛び込んできてな、そりゃ〜も〜苦しいの何の...
更に悪いことにな、苦しくてもがいていたら、蛸壺をつないである綱に身体が絡まってな、も〜ワテもこれで終わりかと観念したんや.....

そのころ地上では......
「♪大きいタコもじゅ〜じゅ〜小さいタコもじゅ〜じゅ〜
どんなタァ〜コォ〜もぉ〜じゅうぅ〜〜〜〜じゅう〜〜〜〜〜」
機嫌良く歌っているのはダッチであった。

本日ダッチは、たこ焼きに使うタコの収穫に来ていたのであった。
「さてっと、今日はどんなタコが入っているんやろか?大きいんやろか〜小さいんやろか〜。へっへっへ、楽しみやなぁ〜。」

蛸壺を引き上げようとしたダッチ...が....
「なんだぁ?蛸壺が...異常にお..も...い..??」
重さに負けず、ダッチは蛸壺を引き上げる。
「ん?何かいる?なんやあれ?」
更に頑張って引っ張り上げるダッチ。

陸に引っ張り上げられたのは、綱に絡まったグロッチであった。

「なんや?このアザラシ....あーっ!!このアザラシ、ウチの組の蛸壺に手ぇーだしたんやなーっ!!」
「あうあう」
「おうおうおうおうおうおう、このタコはなぁ、マムシ組のたこ焼きに使うタコなんや。それを勝手にこんなに食っちっまって...この落とし前はどうつけてくれるんじゃいっ!」
「あうあう」
「あうあうじゃねーっ。俺っちはグッチの兄貴にどう詫びたらいいんでぇ.....(ぐすっ)」
「あうあう」
「ったくよー。グッチの兄貴はよぉー。普段にこやかなお人なんだが....」
「あうあう」
「あうあう、うるせーってーの。バキッ!!☆/(x_x)」
「アウッ!!」
グロッチの喉に詰まっていたタコが飛び出す。

「あー、助かったぁ。タコで喉つまらして死ぬとこやった...」
とグロッチ。
「な....なんや、このアザラシ...喋れるんか。びっくりするなぁ。」
ちょっと後ずさりするダッチ。

「何処のどなたかわからんけど、ワテ、象アザラシのグロッチといいやす。この度は命を助けていただきやして、ホンマにすんまへん。」
唐突にお礼をいうグロッチ。

「ほー。すると俺っちは、おまえの命の恩人って事になるんやな。」
ちょっと鼻高のダッチ。

「そうなんですわ。命を助けていただいたっちゅーことで、何か恩返しをしたいかと思いますねん。」
「ほぉー。感心なアザラシやなぁ。ま、命を助けてもらったときは恩返しってーのは定番やな。」

そのときダッチはふと....
『まてよ、このアザラシ珍しいことに喋れるしなー。このアザラシ使うて一儲け出来るかもしれん。おまけに蛸壺の事も帳消しになるかもしれん。しめしめ...』
...と思った。

「そーか、自分でそう思うか。わかった。俺っちにはな、やっさしーグッチっちゅー兄貴がおるんねん。ほな、兄貴のところに連れって相談しよか?」
「そうでっか、じゃ、お供させていただきますわ。」

こうして、グロッチはマムシ組に連れて行かれ、以後出汁の元として、身を挺して恩返しをするのであった。
そしてグロッチの恩返しの年季は明けることはなかった.....

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