タコの7.『追憶』


「おっちゃーん、たこ焼き1つ。」
「あいな、ウチのたこ焼きはホンマうまいでぇ〜。」

今日もたこ焼き屋としての1日が始まった。

「俺もこのくらいの頃、このたこ焼きに出会ったんやなぁ。」
ボ〜〜〜〜〜〜〜〜っとするイッチ。

「なぁ、おっちゃん、ぼーっとしてどないしたの?」
「あ〜っ、イッチ焦げてるでぇ」
「おーっとっとっとっとっと、俺っちの返し技を見せる時が来たわ。秘技、ツバメ返しやっ。」
シュタタタタタタタタタ〜。
イッチのツバメ返しの技によって、たこ焼きが次々と裏返っていく。

「おー。おっちゃんスゴイなぁ。」
「ホンマ、すごいなぁ。賽の目切りの技といい、何処で修行したんや?」
「ま、それは秘密や。こればっかりはいくらダッチの兄貴でも秘密やねん。」
「なんや、水くさいなぁ。」
「えろうすんません。けど、ホンマにこれだけは言えんのですわ。」

・・・・・・・・・・・・
誰にも言っておらんが、実は俺っちは東の雄経裸国の王子だったりするんや。
秘密やで。
小さい頃から、次期国王として、大切に大切に育てられていたんや。
もちろん王子やから、稽古事もいろいろやったんや。
これが、賽の目切りや、ツバメ返しとして役立つとはなぁー。
その時の俺っちには思いもよらんかった......
そーいえば、王子って事で、いろいろ嫌がらせを受けたこともあったなぁ。

ある日な、やっぱ下々のことを知らにゃいけないっちゅーことで、
お忍びで城下に行ったときの事やった。8歳の頃やったかなぁ。

「へい、いらっしゃいいらっしゃい、美味しいたこ焼きいかがっすかぁ〜。」
俺っちとさほど年の変わらないであろう長身のアフロ頭の少年がたこ焼きを売っていたんや。

「ちょっと聞くが、これはなんという食べ物か?」
「へい たこ焼きって言うんでさぁ〜。」
「美味しいのか?」
「そりゃ もう」
「聞くが、そちは大人でもないのに何で働いているのだ?」
「そりゃ 貧乏だからに決まってますって」
「それでは、1つくれるか?」
「あいな 焼きたてで熱いから気を付けてくださいよ」

はふはふ。もぐもぐ.....うーん......
あまりの美味さに驚いて、よろよろっとした時や。
がつーん!☆
たこ焼き屋の屋台に思いっきり額をぶつけてしもうた。

「イッチ様っ!!大丈夫でございますか?」
「ん、大したことはないぞ....」
「ああ、イッチ様、そのお顔.....」

そうなんや、このとき思い切り額をぶつけたおかげで、
このときから俺っちはしかめっ面になっちまったんやなぁ。
オマケに打ち所が悪かったのか、このときから「ゲラ」になっちまったんや。
稽古事の時も笑いをこらえるのが大変になったんや.....
はぁ。

でな、このとき、たこ焼きの美味さに魅せられた俺っちは、
いつか国を飛び出して、一人の男としてたこ焼き屋になることを密かに誓ったんや。

そーいえば、このときのアフロのたこ焼き屋の兄ちゃん、どーしてるやろか?

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