タコの8.『食い逃げ』


「ダッチの兄ぃ。今日も本当にいい天気やなぁ。」
「ホンマやなぁ。今日もたこ焼きバンバン売ったろうなぁ〜。」

そんなご機嫌状態の二人の屋台に、細身で長身。腰にはウエストポーチの男と、ちょっと小太りで、派手なジャージ姿の男が屋台に向かって歩いてきた。

「いやぁ〜。美味そうなたこ焼きやねぇ〜。」
と長身の男。
「ホンマ美味しそうなたこ焼きやなぁ。」
と、ジャージの男。

「そうでっかぁ。ありがとうございます。」
とイッチ。

「じゃぁな、わてらがな、この美味そうなたこ焼きに対して、一曲披露したる。」
「え?そ...そんなお客はん。ええですわ。」
「まぁ、遠慮せんといて。じゃ、歌うでぇ〜。」

細身の男が歌い出す。
「シュルルルルルル〜♪」
「はぁ、ええ声や。うっとりしてしまう。なんか吸い込まれそうや〜。」
と二人がぼーっとしているスキに.....

「ふっふっふ、かかったで。」
細い目の奥がキラリと光る。手には割り箸。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパ
恐ろしい早業で、出来上がったばかりのたこ焼きが次々とジャージの男の口の中に。

ダッチとイッチは、ぼんやりしていて気が付いていない?

「ほふほふ熱いわ。でも美味いなぁ。さて、今度はワイが唄う番やな。ヘィ〜♪ワァオ!」

「凄いシャウトやなぁ〜。」
「コレまたええ声やなぁ〜」
とダッチとイッチは、ぼんやりのままである。

「いやぁ〜。そんなら頂きますわ。」
と、ウエストポーチより箸を取り出し......
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパ
恐ろしい早業で、出来上がったばかりのたこ焼きが次々と長身の男の口の中に。
「いやぁ、熱々やなぁ。ホフホフ。」

丁度、その時グッチの兄貴の車が通りかかる。
「お、今日もがんばって働いとるのぉ。」
「ん?ちょっとグッチ車止めて。」
「どーした、トモッチ。」
「アイツぅ〜。見つけたでぇ〜。ここで会ったが100年目じゃぁ〜。」
バタン!
車を降りて猛烈な早さで屋台めがけて突っ走るトモッチ。

「見つけたでぇ〜。」
「お、あれはこの間の焼き肉屋におった、ねーちゃんや。ヤバイ。」
「いやぁ。ほんなら逃げまっか〜。」
「そーしよか。とりあえずたこ焼きも食べたしな。」
逃げる二人組。

はっと我に返るダッチとイッチ。
「あ、トモッチの姉御。どうしたんでっか?」
「よく見てみ。たこ焼きタダ食いされとるで。」
「うっ。ホンマやぁ。あまりにもええ声やったんでついうっとりしてしもうた....」
「やられたわ〜」
しょんぼりする二人。

「アイツはなぁ。こないだ焼き肉食べてたときに、同じ手で、大切に大切に焼いていたアタシの焼き肉全部食ったんやっ!」
「え?姉御ともあろうお人が...」
「ぜーったい許さへんでぇ。3枚じゃ身が厚いから5枚におろしたるぅぅぅ〜。覚悟しぃ〜。」
二人組を追って走り去るトモッチの姉御。

「なんやったんやろ。今の。」
「夢やないなぁ。つねったら。痛いし。」
「でも、たこ焼きタダ食いされたんは、事実やなぁ。はぁ。」
ため息をつく二人の背後から......

「そうや、事実や。」
「そ...その声はグッチの兄貴。」
「もちろん、タダ食いされた分は、きっちり落とし前つけてもらうわ。覚悟しぃや。」
「ひぇぇぇぇぇぇぇ〜。」

その後二人はしばらく絶食だったそうな.........

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