(c)Tactics『ＯＮＥ〜輝く季節へ〜』



　１９９６年、秋。
　普通の学生であったオレの中に、不意にもうひとつの世界が生まれる。
　それは降ってくる鉄骨のように、忽然と日常を埋めていく。

　そのときになって初めて、気づいたこと。

　繰り返す旅の中にある変わりないもの。
　いつの間にか見慣れた異世界の風景。
　好きだったことさえ気づかなかった、大好きな人の温もり。
　すべてがオレをこの異世界に繋ぎ止めていてくれるものとして存在している。

　その絆を、そして大切な人を、初めて求めようとした瞬間だった。

　魔宝は集まり、やがて暁の女神は呼び出される。
　そのときオレはどんな世界に立ち、そして誰がこの手を握ってくれているのだろうか。





エターナル・ＯＮＥ





【フィリー】
　もしオレの人生で感謝しなくちゃいけない奴がいるとしたら、それはフィリーだろうな。
　あのとき、この世界に迷い込んだ日にフィリーと出会ってなかったらオレはどうなっていただろう。
　あの日から一緒にいることが多いし、たまにはそのお節介が鬱陶しく思うときもある。
　でも最後には感謝だ。
　ずっといい友達でいてくれよな。
　でも、あの時の３０００Ｇはどこに消えてしまったんだろうな。
　オレを救ってくれたロクサーヌからの借金は…。(知るか)

「ほら、起きなさいよーっ」



【ウェンディ・ミゼリア】
　出会いはこいつが唯一の宝物を失ったときだった。
　といっても、手袋だけどな。
　入れ替わりにオレたちになつくようになったんだけど(なついたか？)、事あるごとにすぐ癇癪を起こして人をニラむ困った奴だ。
　でも初めて進んで人と接しようとしているその思いは大切にしてやりたい。
　手袋はなくしたけど、そこから始まったのは、大人への旅だったんだよな。
　な、ウェンディ。

『私は、ウェンディの本当の母親じゃありませんから…』



【レミット・マリエーナ】
　街角でぶつかるという、なんとも古典的な出会いを果たしたのがこいつだ。
　見かけはこんなんだが性格が……いや、後が怖いからなにも言うまい。
　本人は結構切実に悩んでいるようで、理想とする「乙女」を目指し精進してるらしいんだが…。
　まあ、その健気さを讃えて、コピーを送ろう。
『永遠に乙女心を追い求める少女、レミット』
　ちなみに永遠、なので、手に入ることはないのだ…（ボカッ！！）

「前みたいに派手にヴァニシングレイでもぶっ放してくれ」
「いつやったっ、そんなことっ…」



【ティナ・ハーヴェル】
　街中にある公園で、オレは知らない女の子が倒れているのを助けた。
　深い瞳と暖かな笑顔をたたえた女の子。
　その子がヴァンパイア・ハーフだと知ったのは暫くしてからだった。
　そして、同時にオレは八重歯と貧血の意味を知る。
　正体を知って、どう話しかけていいのか戸惑うオレに、ティナは悲しそうに呟いた。
「普通でいいと思いますよ…」

「いつもは血を５リットルくらい飲んでるよ」



【楊雲】
　神秘的な空気の漂うまじない通り。
　仲間を捜していたオレは、長い黒髪の女の子に出会った。
　それが楊雲だった。…まあ、実は影の民なんだけどな。
　それ以来オレは楊雲によく話しかけるようになった。
　他人を突き放しているようで、本当は自分の心に触れてくる存在を待っている。
　少なくともオレにはそう思えたからだ。
　…でも…本気で避けられているような気がしなくもなかったりする…。

「…嫌です」



【紅　若葉】
　若葉との出会いは街の入り口だった。
　あの時以来、気がつけばいつもすぐ横にいてニコニコとオレを見上げていたな。
　まあ、元気な妹といった感じか？
　いったい何がそんなに楽しいのかオレには分からないけど。
　でも、いつの間にかそれが当たり前のように思えてきたことも事実だったな。
　どんなことでも一生懸命で、結局はそれが空回りして周りに迷惑かけてるんだけど…。
　…本人はきっと気づいてないな…。

『ぺこぺこ…』




　とても幸せだった…
　それが異世界であることをぼくは、ときどき忘れてしまうほどだった。
　そして、ふと感謝する。
　ありがとう、と。
　こんな幸せな冒険の旅に。
　カイルやレミットと競争し、魔宝を取り合うことだって、それは小さな幸せのかけらだった。

　永遠に続くと思ってた。

　ずっとぼくは旅をしていられるのだと思ってた。
　魔宝のかけらを集めていられると思ってた。


　今さら、元の世界なんていらなかったんだ。

　いらなかったんだ、そんなもの。

（わからないよ）

　わからないさ。

　だって一応元の世界に戻るためだったんだから…。

　当初の目的は…。


（………）

　長い時間が経ったんだ。

　消えていなくなるまでの約１年間、それに抗うようにして、ぼくはいろんな出会いをした。

　世界征服を夢見ては、失敗ばかりの好青年。
　振り回されても笑顔を失わなかった侍女さん。
　ただ一途に何かを発掘しているエセ考古学者。
　身寄りがなくても精一杯前向きに生きる元盗賊。
　ｅｔｃ．

　駆け抜けるような旅だった。
　そしてぼくは、幸せだったんだ。

（別れに向かって進んでいるのに…？）

　いや、だからこそなんだよ。
　それを、知っていたからぼくはこんなにも悲しいんだよ。
　別れに向かうからこそ、すべてはかけがえのない瞬間だってことを。

　元の世界なんて、もういらなかった。
　だからこそ、あのときぼくは絆を求めたはずだった。
　…オレは。

「永遠はあるよ」

　彼女は言った。

「ずっと、わたしがいっしょに居てあげるよ、これからは」


　いつまでも繰り返される旅。
　他愛のない仲間達とのやりとりや、たまのすれ違い。
　屈託なく笑い合って過ごす休日、退屈なバイト。
　それは、ふと思うと永遠とも感じられるような長く、穏やかな時間。
　………。
　でも、永遠がほんとうにあることをオレは知っていた。

　ぼくはそれを知っていたんだ。


　永遠の旋律。


　永遠の旋律だ。



「えいえんはあるよ」


「ここにあるよ」