「確かに舞台って入ってはいるけど!」
思わずツッコむ立火に加え、花歩もおののいて疑問を呈する。
「え、ここって誰かのお墓ですよね? 罰当たりじゃないですか?」
「蘇我馬子の墓って話よね。でも敷地が広いし、さすがに石舞台の上じゃなくて手前でやるんじゃない?」
姫水の言う通り、地図の上では緑地に囲まれている。
メールに電話番号が書かれていたので、立火はこの際だからと電話してみる。
しばらく呼び出し音で待たされてから、のほほんとした声が届いた。
『はいもしもしー。明日香村の飛鳥ちゃんやー』
「どーもどーも、住之江区のスミノちゃんやー、って誰やねん! 立火や!」
『あはは、大阪の人はおもろいなー』
大らかな奈良人に、立火は咳払いしてから本題に入る。
「どえらいステージを用意してくれたもんやなあ。ほんまにええの?」
『μ'sは秋葉原の大通りを借り上げたやろ。それに比べたら軽い軽いー』
「な、なるほど……ところで細かいこと言うけど、ここ入場料かかるんやろ」
『さすが商人の大阪やなー。悪いけど一人二百円たのむでー』
(遠い上に有料となると、ファンにはあまり来てもらえそうにないか……。
いやでも、ネットではきっと話題になるで! ここは了承を)
『それとー。さすがに長時間は借りられなくて、三十分だけやねんー』
「なにぃ!?」
そういう大事なことは先に言えと言いたい。
となると曲数は双方二曲が限界。
Saras&Vatiとハリセンズが一曲ずつ歌って、それでイベントとして盛り上がるだろうか?
(別の場所に変えてもらうか? でも頑張って借りてくれたんやで)
(トークを削るか……いや、他県へ行くのに喋らなかったら印象薄いままや)
(こんな時に晴がいてくれたら……)
(って、あいつは旅行を楽しんでるんや! 部長の私がどうにかせな!)
この間、思考時間は数秒。
見つめる部員たちの目が、徐々に不安そうに変わっていく中――
追い詰められたその時こそ、立火の頭にアイデアがひらめいた。
「もしもし!」
『はいはいー』
「今回はお互い人数が少ないやろ。だからこそできることがある!
最後に合同で一曲やって、盛り上げて終えるのはどうや!」
『おおー』
ゆったりした飛鳥の声が、少しだけ高揚する。
『それええなー。曲はやっぱりSUNNY DAY SONGかなー』
「せやな! 一緒にやってもらえる?」
『もちろんー。がぜん楽しみになってきたでー。
ほんなら当日、飛鳥駅まで来てやー』
「ああ、よろしく頼むで!」
電話を切ってふうと汗をぬぐうと、花歩と勇魚が目に入る。
同時に、自分の思慮が足りなかったことに気が付いた。
「ごごごごめん! 勝手にセトリ変えて……」
ただでさえ時間がないのに、追加でSDSを覚えなければならなくなった。
が、部長とは裏腹に、二人の後輩たちが動揺することはなかった。
「大丈夫です! 花ちゃんとうちならやれます!」
「前も墨俣一夜ライブとかやったやないですか。あのとき見てただけの私とは、今は違います!」
「勇魚……花歩……」
すっかり頼もしくなった一年生に、思わず三年生の目が潤む。
つかさもまた友人たちの成長を嬉しく思いながら、冗談めかして部長をつついた。
「ちょっと~、少しはあたしたちの心配もしてくださいよ~」
「あ! まあ、あれや。お前たちを信じてるで!」
「調子ええ部長さんやなあ。ま、できますけどね」
「SDSは何度も動画で見ています。何の問題もありません」
夕理も請け合い、留守番の桜夜も今だけ笑顔で輪の中に入る。
「私たちも入って、ちょっと一回やってみいひん? 姫水もええやろ」
「はい、もちろんです。私には思い出深い曲ですね」
あの時は現実から初めて疎外され、今もまだ取り戻せてはいないけれど。
秋葉原を埋め尽くした光景を思い出しながら、姫水は七人のSDSに参加する。
全てのスクールアイドルのための曲。初めて他校と一緒に踊るのには、ぴったりかもしれなかった。
* * *
一方で、いきなり曲が増えたのは明日香女子も同じである。
「もー! ただでさえこっちは弱小やのに!」
「あはは。でも、だからこそ色々挑戦せなあかんやろー」
「まあ、そうなんやけどね……」
六年前の秋葉原イベントの動画を見ながら、急いで練習する。
元々全国のスクールアイドルや、当日飛び入りした中学生でも踊れるようにした曲だ。習得はそう難しくはなかったが……
一段落してから、万葉が動画を見直してぽつりと言った。
「私たちがこの中にいたら、確実に埋もれてましたよね」
「う……」
正直なところ、グループとしてのmahoro-paにこれといった特徴はない。
よくあるような曲を、よくある衣装と振り付けで演じているだけだ。
本当にWestaと勝負して良かったのか、礼阿は不安になってくる。
「いうても、あと四日しかないのに個性を身につけるなんてなあ……」
「いえ、できます」
真剣な声を上げたのは、意外にも安菜だった。
何か秘策があるのか、フフフと笑いながら人差し指を振る。
「聖莉守がらみでネットで話題になってるんやけど。
才能のない人間は、何を武器にスクールアイドルとして戦うべきでしょうか?」
飛鳥、礼阿、万葉が、考え込んでからそれぞれ答えを述べる。
「運ー」
「努力や」
「無理です。諦めましょう」
「万葉ちゃんちょっと冷めすぎてない!?
えへん、弱者でも唯一持てるアイドルとしての武器。
それは――キャラ作りです!」
「……ふむ」
どんな変なことを言うのかと思いきや、意外とまともだった。
確かに才能もお金もなくても、アイデアだけで何とかなるのがキャラ作り。
世の中には、宇宙人キャラで人気が出たアイドルもいるのだ。
「でも、今から作れる個性的なキャラなんてある?」
「クフフ……どうやら私の黒歴史を明かすときが来たようですね」
「自分で黒歴史とか言っちゃうんですか……」
鞄から古いノートを取り出した安菜は、ぐふっ、と勝手にダメージを受けながら、仲間たちに広げて見せる。
そこに書かれていたキャラ設定とは――
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明日香村の飛鳥ちゃん 作:大野安菜
飛鳥は明日香村に住む普通の女の子。
酒船石にステキな出会いを願っていると、突然光に包まれて女の子が現れた!
「お姉さま、お会いしたかったですぅ!」
妹っぽいその子は、自らを小野妹子の生まれ変わりと名乗り……?
古代ロマンの地で繰り広げられる、ドタバタ萌え萌えコメディ!
飛鳥ちゃん:主人公
小野妹子ちゃん:日本最古の妹キャラ
聖徳
蘇我馬子ちゃん:日本最古の悪役キャラ
==============================================
(黒歴史すぎる!)
礼阿と万葉が内心で悲鳴を上げる前で、安菜は自嘲的な笑みを浮かべる。
「このネタで萌え4コマを描こうとしたんですが、話が広がらなくて挫折しました」
「そ、そう……」
「ていうか私が主人公なんー? 光栄やなー」
「す、すみません勝手に……飛鳥先輩は昔から有名人なので」
村に小中学校は一つずつしかないので、四人とも以前からある程度は知っていた。
しかし安菜がここまで誰かと仲良くなれたのは初めてで、しかも昔作った設定と同じ人数。
一方的に運命を感じて、後輩に指を突き付ける。
「というわけで、万葉ちゃんは今から小野妹子の生まれ変わりや!」
「ええ……小野妹子って男なんじゃ」
「最近は偉人の女性化が流行りやからええの!
礼阿先輩は聖徳
「
ツッコミに疲れた礼阿を差し置いて、立ち上がった安菜は悪役っぽいポーズを取る。
「そして私は日本最古の悪役、蘇我馬子! クックックッ、専横するでぇ……」
「馬子を悪人みたいに言う風潮ってどうなんですかね。飛鳥寺建ててくれたのに」
「まあ天皇を暗殺してるからねー」
のんびりと答えた飛鳥の指が、自分のにこにこ顔を指さした。
「私も何か転生元はないのー? 額田王とかどうー?」
「萌え作品の主人公にそーゆーのいらないです!
普通の女の子って設定なのに、後付けで実は特殊な生まれがとかほんまクソ!」
「安菜ちゃんのこだわりってよく分からへんなー」
「ど……どうする? このキャラ作りでいく?」
決めかねている礼阿に、部長はもちろん反対はしない。
「万葉ちゃんが嫌でなければええよー」
「え、私に投げられるんですか……正直トンチキな設定やと思いますけど」
言われた発案者は完全にキョドりながら、ちらちらと視線を送ってくる。
いまいち頼りがいのない先輩たちに、万葉は諦めの境地で溜息をついた。
「ま、他に手もないですしね。
安菜先輩が恥を忍んで提案してくれたんです。今回はこれでいってみましょう」
「万葉ちゃん~!」
「ちょっ、泣かないでくださいよ」
鼻をすすった安菜の姿に、礼阿の覚悟も決まった。
そもそも自分の思い付きで挑んだ勝負。
何かの爪痕を残せなければ、最初からやる意味はないのだ。
「よし、キャラに合わせて歌詞も変えるで! 衣装も前に作った飛鳥風のにしよう。
大阪の奴らの驚く顔が目に浮かぶようやな!」
「ドン引きされないといいですけどね……」
「平気平気ー。なにわの人はユーモアを解するからー」
* * *
その日の晩、風呂上がりの立火に晴から電話が来た。
『状況はいかがですか』
「なんやもう、気にしないで旅行楽しんだらええやん」
『昼間は楽しみましたが、ホテルではやることがないので』
「そう?」
どうせ誰の輪にも加わらず、孤高に過ごしているのだろう。
晴の暇つぶしになればと、今日の活動結果を詳しく伝える。
三曲目をSDSに変えたことについて、少し突っ込まれた。
『三曲目はなにラ!を五人でやる予定だったでしょう。
バトルロードのテーマ曲を外すわけにはいかないのでは』
「それは私たちハリセンズが、ウェウェの代わりにやる。
つかさ達に任せることも考えたけど、一人でも多い方が映える曲やからな。
花歩と勇魚に悪いとかはもう思わへん。あいつらならやってくれる」
『なるほど……良い判断です』
ほぅと息を吐いて、立火は電話のこちらで相好を崩した。
「卒業間際になって、ようやく晴に認めてもらえた感じやなあ」
『ずっと前から認めてましたけどね。でも丸くなったと思われるのも嫌なので、苦言も呈しておきますが』
「ほら来た。はいはい、聞かせてもらいます」
『ユニット内で、花歩を贔屓しないようお願いします。
勇魚は別に気にはしないでしょうが、それでも対等に扱ってください』
「またそれか……」
四月から半年ぶりの釘差しである。
小都子も似たようなことを言われたと、前に愚痴っていた。
後輩はすべて公平に、というのは、もちろん正論ではあるのだが……。
「そんなに私、花歩に肩入れして見える?」
『部長が家に泊めた一年生は、この分だと花歩だけになりそうですよね』
「あ、あれは成り行きで……。
そういう晴だって、何やかんやで勇魚のこと気に入ってるんとちゃう?
せやからそんなん言うてくるんやろ~」
『違います』
立火の反撃は、短くぴしゃりと返されてしまった。
ごまかすつもりなのかは不明だが、話の矛先を変えてくる。
『花歩にだって、あまり期待させるのは酷でしょう』
「期待って……私はあくまで先輩後輩として接してるつもりやけど」
『もちろん花歩も、部長が自分に惚れてるなどと勘違いはしないでしょうけど。
でも乙女心は複雑ですからね』
「ぶっ、あはははは! 晴からそんな発言を聞くとは思わへんかったで!」
『……この話はここまでにしましょう。
これで終わるのも何なので、奈良戦を盛り上げる一案をお伝えします』
「おっ、本来の仕事やな。やっぱり晴のことも頼りやで」
遠く福岡のホテルから、参謀のアイデアが届けられる。
全国へ行くために、できることは全て行おうという、互いの心は一致していた。
* * *
一年二組での二人きりのランチは、すっかり曲作りの場となっていた。
まだ何か悩んでいそうな夕理に、花歩はカボチャを食べながら首をかしげる。
「曲の方向性は決まったんやから、後は書くだけやろ?」
「なんかこう……最近殺伐としすぎかなって」
「あー、バトルとか対決とか言ってばっかやもんねえ。
でも私は、つかさちゃんとの勝負は楽しみやで」
姫水相手の時の必死さに比べたら、こちらは遊びみたいなものだろうけど。
構ってくれるだけで嬉しいし、つかさも姫水にそう思ってるのだろう。
「夕理ちゃんも対決を楽しむくらいの気持ちで書いたらええんとちゃう?
なんか一周回って、灼熱のレゾナンスと似た感じになるかもやけど」
「ならへんわ! こっちはクラシックがベースなんやから!
……分かった、私なりの熱い曲を必ず作ってみせる」
「うんうん……あ、小都子先輩からや」
熊本に着いたようで、工事中のお城の写真が添付されていた。
来年も入れなさそうなのは残念だけど、今しか見られない姿でもある。
自分たちも、今できることを頑張らないと。
「曲はできたところから花歩に渡す。今回はプロトタイプやから、自由に書いてええよ」
「了解や!」
と、昼の花歩は問題なく前向きだったのだが――。
『Laughing! Laughing! なにわLaughing!』
放課後のザ・ハリセンズは、なにラ!の三人バージョンを必死で特訓する。
一度離れて後輩たちの演技を見た立火は、思わず釣られて破顔した。
「勇魚はこの曲、ほんまに楽しそうやな~」
「はいっ、初めて聞いたときからやってみたかったので!
ようやくライブができてめっちゃ嬉しいです!」
「そうかそうか。私と一緒に、大阪の笑いを奈良にも広めたるで!」
「えへへ、やっぱり笑顔が一番ですよね! 花ちゃん、素敵な曲を作ってくれてありがとね!」
「う、うん……」
親友に喜んでもらえるのは嬉しいのだけど。
花歩には先ほどから、胸に小さなもやもやが生まれていた。
(なんか今日の部長、勇魚ちゃんと距離近くない?)
(私の気のせいやろか……)
もちろんこの曲が初めての勇魚は、京都で経験済みの花歩より優先されるべきだけど。
手取り足取り教え教えられている二人を見て、心がざわめくのは止められない。
それに全く気付けない勇魚は、素直に立火に甘えている。
「えへへー。うち、なんやお姉さんができたみたいです!」
「そっか、勇魚は家では長女で大変やもんな。部活では好きなだけ私に頼るんやで」
(部長、私も長女です! いやまあ妹の方がしっかりしてるけど!)
(考えてみたら二人とも大阪っぽいし、そうじゃない私より相性いいのかなあ……)
(って、あかんあかん! 練習に集中せな!)
一方で、脳内でごちゃごちゃ考えているのは立火も同じだった。
晴を信頼しているし、勇魚も大事に思っている以上、あの苦言を無視はできない。
(こ、これくらいやれば公平になるやろか……)
(もちろん花歩を軽んじる気はないで。普通に! 当たり前の先輩として接すればええんや!)
(やっぱり、勇魚も家に泊めた方がええのかなあ)
(でもセンター試験二ヶ月前やしなあ。もっと早く動いていれば……)
そして三人で試したライブは、どこかギクシャク感が否めなかった。
撮った動画を見返す立火も花歩も、まずいのは自覚しているが、どうしたものか分からない。
けれど、じっと動画を見ていた勇魚が……
急に振り向いて、二人の手をぎゅっと握った。
「うち、二人とユニット組めてほんまに嬉しいです!」
「い、勇魚ちゃん!?」
「勇魚……」
「いつも友達でいてくれる花ちゃん。うちをここまで育ててくれた立火先輩。
立火先輩とは、あと数えるほどしか一緒にライブできひんけど。
だからこそ、一回一回を大事にしたいです!」
勇魚の純粋な想いに、二人のもやもやも押し流されていく。
目を合わせた立火と花歩は、ひとまず力強くうなずき合った。
「よし花歩、勇魚のためにも本気でやるで!」
「はいっ、部長!」
本番まで三日しかないこともあり、今は細かいことは棚上げして練習する。
とりあえず、今の間は――。
* * *
修学旅行四日目、今日は大分で自由行動の日だ。
『これが阿蘇山の火口です。
去年の先輩たちは、噴火警戒中で見られへんかったんですよね。
今はこの写真で我慢してください。いつか一緒に行きましょうね』
昨日送ったメッセージを再読しながら、小都子はぼんやり考える。
二人が卒業した後のこと。二度と会えないということはないだろうけど、旅行に行けるほど交流は続くだろうか。
「小都子ー。写真撮るでー」
「あ、うん」
同じ班の子に呼ばれ、大分駅前で記念撮影。
ここから生徒たちは、別府へ行くか湯布院へ行くかの選択を迫られる。
中には遠く耶馬渓まで行く猛者もいるようだが、小都子たちは無難に近くの別府だった。
おしゃれな子たちが湯布院方面へ行くのを見て、班の一人が未練がましく言う。
「うーん、やっぱり向こうの方がいい気がしてきた」
「こらこら、さんざん相談して決めたやろ。ええやないか地獄巡り」
忍が注意するのを聞きながら、小都子は笑って改札を通った。
「時間があったら水族館にも行こうね。……あ、晴ちゃん」
友達には先にホームへ行ってもらい、一人の晴に話しかける。
「晴ちゃんはどっちに行くん?」
「どっちも行かへん。国分寺跡の歴史資料館と、豊後森の機関庫に行く」
「ぶ、ぶんごもり? ってどこや」
「湯布院から三十分くらい先や。京都の梅小路の扇形庫が、より廃墟っぽくなったと思えばいい」
「ふうん……相変わらず独特な趣味やねえ」
私も一緒に、と言いかけたが、忍たちとの貴重な旅行を反故にはできない。
晴の一人旅を邪魔することなく、手を振って別のホームへ向かった。
「後で写真見せてや」
「そっちのも頼むで。部のブログに載せる」
明日は帰阪の日。そして奈良戦の日でもある。
遠くから応援するしかできない自分たちだが、残り少ない旅行を目一杯楽しもう。
* * *
「よし、練習はここまで! 最近朝晩は寒いから、風邪に気ぃつけるんやで」
『はいっ!』
「みんなおつかれ~」
呑気な声とともに、別室で練習していた桜夜と姫水が戻ってきた。
タオルで汗を拭きながら、つかさは思わず尋ねてしまう。
「桜夜先輩はこの一週間、いったい何をしてたんすか?」
直後に口調が刺々しかったかと後悔した。姫水とずっと二人きりの先輩に、少し嫉妬したかもしれない。
だが桜夜は気にもせず、笑いながら素直に答えた。
「私の可愛さをもっと上手く見せるための練習ー」
「Supreme Loveの時は私が脇役に回って引き立てましたけど。
それを桜夜先輩一人でやってのけるのが目標です」
「へええ。そんな計算が必要そうなこと、桜夜の頭でできるん?」
姫水に説明され、つい突っ込んでしまう立火に桜夜は憤慨する。
「失礼やな! 私だってスクドル経験長いんやで」
「諸刃の剣ではあるんですけどね。何も考えず素直に楽しむのが、桜夜先輩の魅力でしたから。
でもそれに甘んじていては全国へは行けません。先輩、一生懸命頑張ってますよ」
「あはは、姫水の教え方が良かったからね。
ま、論より証拠や。ちょっと見たってや」
部員たちが見守る前で、桜夜が披露したのは『Western Westa』。
余裕ぶっていた立火の顔が、みるみる驚愕に変わっていく。
観客を意識し、意図して魅了しようとする姿は、もう可愛いだけの彼女ではない。
思わず惚れ直してしまいそうだった。
拍手する後輩たちの前で、しかし桜夜は満足していなかった。
「まだまだ計算はしきれへんなー。半分以上は直感でやってる感じ」
「桜夜先輩はそれくらいでいいと思いますよ。明日中に仕上げましょうね」
「ん!」
姫水に笑顔を向けてから、桜夜は相方に向け一歩近づく。
「どう? 私、スクールアイドルとして立火と並べそう?」
「……とりあえず、私も負けてられへんとは思ったで」
「そっかそっかー。まっ、明日はちゃんと見てるから。しっかりやるんやで」
すっかり嫁さんな先輩に微笑みながら、姫水も一年生四人を激励しようとする。
明日は頑張って、と言うだけなのに、つかさを目にした途端に素直に言えなくなった。
(バイトに頑張ってって言うときは、あんなに簡単だったのに……)
躊躇している姫水を、つかさが正視して一歩踏み出す。
「あたし、頑張るから! 配信でしっかり見といてや!」
「え、ええ……」
「よろしい!」
それを見た他の一年生は、笑いながら心の中で応援する。
初めて演者と観客に分かれる、この二人のことを。