エタメロリレーSS

Melodic Notes Vol.1



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#001   ガテラー星人 (メール)    97/02/15 21:46:30
「ほら来人、さっさと行くわよ!」
「はいはい、わかってますよ…」
 未だに夢ではないかと思うのだが、何度頬をつねろうが事態が変わるわけでもない。

 彼、別所来人がこの世界に降ってきたのは数十分前。妖精のフィリー、吟遊詩人のロク
サーヌと出会い魔宝の話を聞いたのはつい先ほど。今は仲間を集めるべくパーリアの街に
向かっているところである。
「何をさっきからぼーっとしてるのよ」
「いや…これはすべてドッキリカメラなのではないかと…」
「何よそれ、真面目に帰る気がないならわたしは降ろさせてもらうわよ」
「わーっごめん!そ、それじゃ街へ急ごう」
 目の前をフィリーがふわふわと飛んでいる。彼女の話によると、異世界から誰かが紛れ
込むのはこの世界ではよくあることなのだそうだ。まったくもってひどい話だ。
 一刻も早く元の平和な生活に戻らなくては…。そうこうするうちに街に着き、来人は心
からそう決意するのである。
「よし、いざ仲間を集めるぞ!レディゴー!」
「今度はいきなり張り切ってるし…。で、まずはどのへんへ行ってみる?」



#002   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/02/16 03:40:15
「よしっ!あの裏通りに行ってみよう。何か怪しい匂いがプンプンする。」
来人は瞳を輝かせながら薄暗い通りを指差した。
「何なのよ!その怪しい匂いって!」
「いや、こういう場合。表通りをウロウロしても、ありきたりで面白くないかな〜。なんて思ったもんで。」
フィリーが呆れたような顔をしながら見ている。
「・・・ ・・・わたし・・・帰る。」
「ご、ごめんフィリー。今度はちゃんと答えるから見捨てないでくれ〜。」
などと二人がやっている時だった。
「食い逃げだ〜っ!誰か、そいつを捕まえてくれ!」
通りの向こうから声が聞こえてきた。


#003   二宮にょにょ (kogura@wellmet.or.jp)    97/02/16 11:59:03
 「食い逃げ?」
 そう来人がつぶやいたときだった。
 「ちょっとどけえぃ!」
 
 ドン!

 「うわぁっ!」
 来人は走ってきた黒装束の男に突き飛ばされ尻餅をついてしまった。
 「いてっ・・・。今のは何だったんだ・・・」
 来人は起きあがって埃をはたき落としながら言う。
 「今のはね、どうやら魔族みたいね・・・」
 いつもより高く飛んで危険を回避したフィリーがそう答えた。
 「え?魔族?」
 「そう。人間とは違って力も魔法も強大な種族なんだけど・・・」
 「だけど?」
 「食い逃げする魔族なんて初めて見たわ。とりあえず滅多に見られない物が見て
 得した気分ね、私」
 「いきなり突き飛ばされた俺の立場は・・・」
 
 「裏通りとはいえここはにぎやかだな」
 「露店が集まっているからね。ここは結構掘り出し物とか多いのよ」
 「ふううん・・・」
 来人は店の品物をあちこち見てみる。
 古ぼけた壺。妙な形の石。変な動物を象った人形。
 掘り出し物よりは怪しい物のオンパレードである。
 「なんかわけわからないわ・・・」
 来人が思わずそう口にもらした時だった。
 「すばらしい!すばらしいです!」
 となりから妙な叫び声が聞こえてきたのであった。
 「え?」
 来人は横を見てみる。
 そこには眼鏡をかけたソバージュの少女がひびの入った石版に頬ずりしていたのであった。

 


#004   ガテラー星人 (メール)    97/02/17 23:49:07
「うっ、メイヤー・ステイシア!」
 少女の顔を確認したフィリーが嫌そうな顔をする。
「あ、フィリーさんじゃないですか。見てくださいよこの石板。何だかよくわかりませんね」
「わからなくてどうするのよ…」
「未知のものにこそ研究する価値があるのです。ねえ、あなたもそう思いませんか?」
「は、はぁ…」
 いきなり話を振られて気のない返事以外返事のしようのない来人。目を潤ませて石板を撫でて
いるメイヤーに、半ば呆然としつつフィリーに耳打ちした。
「…誰?」
「変人よ」
「いやそれは見ればわかるんだが…」
「そこのあなた!」
「はいーーーっ!?」
 突如来人に指を突きつけたメイヤーは、石板を小脇につかつかと歩み寄る。聞こえたかと
後ずさる来人に彼女は意外な行動を示した。手を伸ばすと来人の服の裾を掴んだのだ。
「見たことのない民族衣装です…。研究の価値ありですね!」



#005   ゆーふぉりあ (eup@din.or.jp)    97/02/18 15:19:37
「は、はあっ?」
「ふむ・・・素材からして、絹とも綿とも違うようですね・・・」
そりゃあそうだ。いくらここが無茶苦茶な世界だからといったって、さすがにポリエステルはないだろう。
しかし何か言ったらまた突っ込まれることは火を見るよりも明らかだったので、あえて何も言わないでおくことにしたが。
「それでいてこの手触り・・・そしてそれでいて丈夫そうな・・・謎ですね・・・」
はっきりいって、着ているものを本人不在のごとくいじくりまわされるのは、あんまり気持ちのいいものではない。
「可燃性なのでしょうか?」
「どわぁ、いったいどこからライターをっ」
さすがに驚いて離れると、メイヤーはいかにも、といったような表情で眼鏡を光らせる。
「まあ、いいでしょう。今回は見逃してあげます」
「・・・なぁフィリー、俺何か悪いことしたっけ?」
「だから言ったでしょ、やばいって」
「・・・言ったか?そんなこと・・・」
と、そんなことをフィリーとこそこそ話していると、
「ま、とにかくっ」
メイヤーがひときわ大きな声で言った。


#006   もとひろ (motohiro@wakhok.ac.jp)    97/02/18 17:33:53
・・・一瞬、耳を疑った・・・
「へ?・・・な、何だって?」
「いいですか、もう一回言いますよ・・・」
メイヤーは息を大きく吸うと、何処から出したか分からないメガホンで言い放った。
「その服を下さぁ〜〜い!!」
「えぇ〜!!何でぇ!!これは俺の一張羅なんだぞぉ!!」
間髪入れず、断った(?)が、それしきの事でメイヤーが諦めるわけもなかった。
「そんな事は、関係ありません。」

・・・・・・・・・・・・・・・・オイオイ・・・
ふと後ろからフィリーがそっと話しかけてきた
「(だから、言ったでしょ!!変人だって!!)」
[後悔、先に立たず]である


#007   SkyFox    97/02/18 20:51:50
 更にメイヤーは来人に詰め寄る。
「これも真実の追及のためなんです!どうか私にあなたの服を下さいッ!」
 来人も負けじと抵抗する。
「いやだからさぁ、俺はこれしか服を持ってないんだってば!」
「じゃああなたは、真実の探究とたった一着の服と、どっちが大事だと思いますか!?」
「……俺の服」
 来人の当然とも言える答えに、メイヤーは額に手を当て、「こりゃダメだ」と言わんばかりの
落胆の表情を見せ、
「どうして私の言うことがわかってもらえないのかなぁ……」
とつぶやいた。その瞳には涙も浮かんでいるようにも見える。
 そりゃ誰にもわかってもらえるわけないよなぁ、と来人は思うのだが、今にも泣き出しそうな
メイヤーの表情を見ていると、なんだか悪いことをしてしまったような罪悪感を抱いてしまう。
 後ろでパタパタと宙に浮いているフィリーのほうを振り返ってはみたものの、
「私は知らないわよ」とでも言いたげに、そっぽを向かれてしまった。
 仕方なく、来人はメイヤーに一つの提案を出してみた。
「そうだなぁ、替えの服を用意してくれれば、今俺が着てる服をあげてもいいけど……」
 その言葉を聞くや否や、さっきまで泣きそうな顔をしていたメイヤーが、
「その言葉、本当ですか!?」
と喜びを隠しきれないといった表情で答えた。
 メイヤーの態度のあまりの変化に少し戸惑いを覚えながらも、来人はゆっくりとうなずいた。
「あ、ありがとうございます!これで私の研究が一歩前進するわ!……あ」
「……あ?」
 メイヤーが何か重大な事実に思い当たったのを見て、来人は怪訝そうに繰り返す。
「私、男物の服なんて買ったことないんだ。どうしよう……」
「……はぁ?」
 来人とフィリーは呆れ返ったように口を揃える。そんなことには構わず、メイヤーは考え続け
ていた。
「えーと、どうしよう、うーんと、こんなときは……そうだ!あの人に聞いてみよう!」
「あの人って?」
「まぁとりあえず私について来てください!」
「え?え??えー???」
 来人の腕をグッと握り締め、メイヤーは石板を片手に露店を飛び出した。
「お、おい、お金はどうするのさ?」
「後で払います!今はそんなことは後回しです!」
「(おいおい……)」
 来人は片腕をつかまれたまま、なすすべもなく通りを引きずられていくしかなかった。
 半ば呆れたような表情を浮かべ、フィリーもその後をついていく。

 そして10分後……。
 2人の人間と1人の妖精は、とある建物の前に立っていた。
「さぁ着きましたよ!」
「え?ここって……」


#008   SkyFox    97/02/20 19:36:31
「ここって、カレンの家じゃない!?」
「あれ、よくわかりましたね、フィリーさん」
「うん、まぁロクサーヌの知り合いだから…。でもメイヤー、なんであんたがカレンのこと知っ
てんの?」
「研究のためとはいえ、古い遺跡を探索するのは危険を伴うじゃないですか。それで、元冒険者
だったカレンさんに助言なんかを聞いていくうちに仲良くなったんです。ほら、カレンさんって
女性でありながら冒険者として優秀だった方ですから」
「ふ〜ん…。あんたでも人の話を素直に聞くことがあるんだ」
「…それ、どういう意味です?」
 フィリーとメイヤーの間にちょっと険悪なムードが漂う。が、来人があわてて話をそらす。
「まぁまぁまぁ、二人とも。とにかく、そのカレンって人に会うのが先だろ?」
「おっとそうでした。何としてもその服を手に入れて、私の研究を完成させなければ!」
「(う〜ん……)」
 やっぱりこの娘のペースにはついていけないな、と考える来人を尻目に、メイヤーはカレンと
いう人物の家に近づき、玄関のドアをノックしていた。
「カレンさーん!いらっしゃいますかー!」
 ……返事はない。もう一度ノックする。
カレンさーん!いらっしゃらないんですかー!
「人の家の前で、なに大きな声出してんのよ?」
「……えッ?」
 突然後ろから投げかけられた声に3人が振り向くと、そこには大きな買物袋を抱え込んだ女性
が立っていた。

「なんだ、カレンさん、買い物だったんですか。」
「ええそうよ。それにしても、フィリーちゃんにメイヤー、今日は一体どうしたの?
 ……あら、キミ、見かけない顔ね?」
「あ、最近この街に来たんです。来人って言います」
 自分が異世界から来たことは、とりあえず隠しておいたほうがいいだろう。そう考え、来人は
そう答えた。
「来人クンか。よろしくね。…っと、外で立ち話もなんだから、家の中に入りましょうか。紅茶
でもご馳走するわよ」
「え、いや、お構いなく」
「コラ、人の好意は素直に受けるものよ?」
 遠慮する来人を、カレンは軽くたしなめる。
「はぁ。それじゃご好意に甘えて、ご馳走になります」
「それじゃリビングで待ってて。すぐに支度するから」

「……で?今日はどんな用事でここに来たの?」
 大きめの丸いテーブルを囲んで、4人はカレンが淹れた紅茶を飲みながら話を始めた。
 部屋はそんなに広いわけではなかったが、きれいに片付けられていた。壁際に置かれたサイド
ボードの上には、色鮮やかな花を差した花瓶があり、その上の壁には、小さな額縁に入った絵が
飾られていた。毎日きちんと掃除されているようで、部屋中には埃一つ見当たらない。
「男の独り暮らしだとこうはいかないよなぁ…」来人は、この世界に来る前に自分が住んでいた
アパートを思い出し、心の中で苦笑した。
 そんな来人の思いをよそに、メイヤーがカレンの問いに答えた。
「実は、男物の服が1着ほしいんですが、どうしたら良いのかと思って……」
「……はぁ?」
 さきほどの露店で、来人とフィリーが示したのとまったく同じ反応を、カレンも返した。
「そ、それはまた、ど、どうしてなの?」
 どういった表情をしたらいいのか、判断に困っているカレンに、メイヤーが露店での出来事を
説明する。
「……何とか事情はわかったわ。あなたらしいわね、メイヤー」
「いえ、それほどでも」
「(……ほめてないんだけど)」
 さすがのカレンも、メイヤーのペースにはついていけないらしい。
 気を取り直して。
「うーん、来人クンの体つきなら、私の弟の服じゃちょっと小さいかな。やっぱり新しく買った
ほうがいいわね。……でも、確かにその服、私も見たことがないわ。ねえ来人クン、君ってどこ
の街から来たの?」
「え?俺ですか?えーと……」
 突然のカレンの問いに、来人は返答に困ってしまい、フィリーのほうを見て小声で話しかける。
「ど、どうしよう……」
「どうしようったって、あたしに聞かないでよ。いっそのこと、ホントの事を喋っちゃえば?」
「俺がほかの世界から来たなんて言っても信じてくれやしないって!」

「どうしたの?何か私、まずい事聞いちゃったかな?」
「い、いいえ!そんなことはないです」
「じゃあどうして内緒話するの?おねえさん、そういうのって嫌いだな」
「あ、いや、ですから……」
 額に脂汗を浮かべて来人が弁解しようとしたその瞬間、玄関のドアが来訪者の存在を告げるべ
く「コン、コン」と乾いた音を立てた。
「はーい、今行きます」
「た、助かった〜」
 思わず来人は、大きく安堵のため息をついた。誰かは知らないが、この場は感謝しとこう。
 そんな来人の様子をメイヤーも疑問に思ったのだが、その疑問を口にする前に、カレンが戻っ
て来た。その後ろを、来人に勝手に感謝されている人物が入ってきたのだが、その人物とは……。

「ん〜ん、この香りはアプリコットティーですね。どうやら、ちょうどいいタイミングでここに
来たようですね」
「ロ、ロクサーヌ!?」


#009   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/02/23 23:09:09
「やぁ皆さん、お久しぶりです。それにしても来人さんが、もう仲間を2人も揃える事が出来たとは思いませんでしたよ。
何だか優柔不断げに見えたのでムリかも知れない、などと思ってたんですけどねぇ。」
「何?!何なのよ!?その仲間って?!」
ロクサーヌの話を聞いたカレンが驚いた声を上げた。
「おや?まだ何も聞いて無かったんですか?
来人さんは、異世界からこの世界に迷い込んできた、スペシャルな迷子なんですよ。」

ぶっ!!ゲホ、ごほっ!!
「異世界ですって!!」
ロクサーヌの言葉を聞いて来人は紅茶を吹き出してむせる。そしてメイヤーは目を輝かせて来人を見つめた。
「あぁ、もう何するのよ。もっとお行儀良くしないとダメじゃないの。」
一人カレンは来人が吹き出した紅茶を拭き取っている。

その後、来人から一通りの話を聞き終えた二人は、
「異世界、魔宝。なんて素晴らしい言葉でしょう。」
「迷子を放っておくなんて出来ないわね。よしっ、お姉さんに任せなさい。」
と言って仲間に加わったのである。


#0010   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/02/24 00:56:48
さてその頃、来人にぶつかった黒装束の男は考え込んでいた。

(むぅ。あのロクサーヌとかいうヤツのいう事は本当なんだろうか?
魔宝を集めれば願いが叶うとか言っていたが・・・)

「あっ!こんなトコにおったんか。ずいぶん捜したんやで!」
その時、大きな声が響いて考えが中断された。
(こ、この声は・・・)
恐る恐る声のした方を向くと、そこには昼間に食事代を賭けて大食い勝負をした牙人族の少女が立っていた。
「昼間はどないしたんや?いきなり走っていったけど?
・・・まあ、ええわ。それよりも早く食べ物おごってえな。」
(こ、こいつ・・・
昼間は金もあまり無かったんで、賭けに乗ってきたこいつと大食い勝負をしたのはいいが。
まさか、あんなに食うとは・・・)

「ちょっとあんた達ウルサイわよ!少しは静かにしなさいよ。」
声のした方を黒装束の男が振り向くと小さな女の子がいた。


#0011   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/03/02 23:07:20
「なんだ、お前は?ウルサイというのは、このオレに向かって言ったのか?」
男が口を開いた。その目は彼をにらむ金髪の小さな女の子の姿を映していた。

「ま、魔族!?」
女の子の口から小さく震えるような声が漏れた。
一瞬、脅えたような表情を見せただけで、その女の子は魔族らしい男を再びにらんだ。
「な、なによ。恐くなんかないわよ!」
しかし、まだ声には少し動揺が伺える。

「ほう、この食い物の事以外考えてなさそうな女と違って、このオレが魔族と知ってもそんな口が聞ける奴は珍しいぞ。」
「うちは、おもろい事も好きやで。」
牙人族の少女が、会話に割り込んできた。
「誰もお前には話し掛けてないぞ。」
「なんや、うちの事言ったんとちゃうんか?」
「うるさい!お前が出て来ると話が逸れてしまうではないか。」
「でも、じっとしてても退屈や。早よ、食べ物おごってぇな。」

2人のやり取りを聞いていた女の子は、ふと思った事を口にした。
「なによ、あんた魔族とは言ってもあまり大した事ないんじゃないの?」
その言葉に、一瞬男の動きが止まる。
・・・そして、
「なんだとっ!」
魔族の男は怒りを滲ませた声を上げた。
握った拳がワナワナと震えている。

「フ、フン!あ、あんた、私に逆らうと痛い目にあうわよ!」
突然の男の豹変ぶりに、女の子は脅えたような声で強がりを言った。
しかし言葉とは裏腹に、その心の中では助けを求めていた。
(あ〜ん、誰か私をこの魔族から助けて・・・。それにしてもアイリスどこ行ったのよ。今、私は人生で最大かも知れない危機に直面しているというのに。)


#0012   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/03/02 23:15:32
そしてその頃、当のアイリスはとても困惑していた。

「あ、あのそちらではありません。右の方に行ってください。」
「えっ!?あ、そうですか。それはそれは、どうもご親切にありがとうございます。」
もう何度同じ事を繰り返しただろうか。
しかし何度道を教えても、この紅 若葉と名乗る少女は正しい道を進んではくれなかった。

「あの、私も急ぎの用事がありますので、これで失礼します。」
「あ、はい。どうもありがとうございました。何度も道を教えてもらいましたから私は大丈夫です。それに、このご恩はけっして忘れません。」
少し不安だったが、アイリスは若葉と別れて道を急ぐ事にした。


#0013   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/03/02 23:57:06
さて来人たちは、来人用の新しい服を買う為に店へと向かっていた。

「あっ、来人見てっ!」
突然叫んだフィリーの指差す方を見ると、全身黒ずくめの男が女の子に襲い掛かろうとしている。
「変質者だっ!」
叫ぶや否や、来人は走り出した。
カレン、メイヤーもその後に続く。

一人取り残されたフィリーが話している。
「あの時来人を突き飛ばして行った、食い逃げ魔族の男よ・・・って、もう!誰も居ないじゃないの!」
しかたなくフィリーも来人たちの後を追っていった。


「まて、まて、待て〜ぃ。白昼天下の往来で小さな女の子を襲うとは、人の風上にも置けない破廉恥なる振る舞い!
天が許しても、この来人様が許しちゃ置けねぇ。覚悟しやがれ!」
(あぁ〜、な、なんてカッコいいんだ。一度こんなセリフ言って見たかったんだよなぁ。)
来人は、一人空に向かって感動の涙を流した。

「何やってんのよ来人君!こいつは魔族よ。変質者とはいえボヤボヤしてたらやられるわよ!」
カレンが横に走り込んできて魔族の男を見据えながら言った。

「誰が変質者だ!」
魔族の男が叫んだ。
「くっ、どうもお前達はオレの偉大さが分かってないようだな。いいか!そこのチビも良く聞けよ。
俺の名はカイル・イシュバーン。いずれは大魔王様を復活させ、この世界を征服する。」


#0014   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/03/11 00:09:30
・・・ ・・・し〜ん。
辺りが急に静かになった。
とはいえ、カイルの発言に恐れおののいているという訳では無いようだ。
その証拠に、カイルと名乗る魔族の男を見る皆の目が白い。
どうやら皆、そんな事出来るわけが無いとバカにしているようだ。

「お前ら、これでオレの偉大さが判っただろう。今のうちに謝れば許してやらない事も無いぞ。」
「何言ってるのよ。世界征服だなんて、そんな事出来る訳無いでしょ?」
カレンが言う。周りの面々もそうだと言わんばかりにうなずいている。
「なぁなぁ、ところでダイマオウサマってウマイんかいな?」
「な、何を言っている。大魔王様は食い物ではない。大いなる力を持った御方なのだ。それに大魔王様の御力を持ってすれば世界征服などたやすい事。」
「で、その大魔王様はどこに?」
「ヴ・・・」
アルザの的外れな質問。それに続くカレンの的確な突っ込みに言葉を無くすカイルだった。


#0015   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/03/11 00:31:46
「あ、お嬢ちゃん大丈夫かい?変な事されなくてよかったね。ちょっと、あいつは変な妄想に取り付かれてるみたいだから。」
 そんな中、来人は女の子に近づくと声を掛けた。
「おいそこっ!何が妄想だ。そのチビに変な事を吹き込むなよ。」
「またチビって言ったわね!私はレミット・マリエーナ!マリエーナ王国の第3王女なんだから!あんまり馬鹿にすると痛い目にあうわよ!」
「なに?マリエーナ王国?マリエーナ王国なんてはるか遠くの国じゃねえか!その上王女だと?そんな嘘つくんじゃねぇ!」
「そうだよ。あいつの言う通りだ。いくら何でも嘘はいけないよ。」
「あいつ、あいつと言うな!カイル様と呼べ!」
 しつこくあいつと言う来人をカイルが睨み付ける。だが来人はかがんでレミットの目を見ているので、そんなカイルには全く気付いていない。
 そしてレミットの方は、カイルに続いて来人にまで嘘と言われて完全に頭に来たらしく。
「なによ、なによ。みんなで嘘付き呼ばわりするし、ちっちゃいってバカにするし、あんた達どうなるか憶えてなさいよ!」
ドンッ!
 大きな声で叫ぶと同時に、来人を突き飛ばして走り去っていった。
「あっ、チョットどこ行くの?ねぇってば。」
 カレンの呼びかけにも振り返らず、レミットは路地を曲がって見えなくなった。


#0016   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/03/16 23:31:58
「なんだか変わった格好の方がいらっしゃいますね。全身黒ずくめとは。私の調べた古代の文献によれば、黒い服を着ていると心まで暗くなってしまうとか。だから・・・」
どこからともなくメイヤーが現れた。
「はいはい、メイヤー。わかったから講義はそのくらいにしておいてね。今は、この魔族の方と話してた所なんだけど・・・肝心の襲われてた女の子がどっかに行っちゃったのよ。それにしてもメイヤー。あなた今まで一体どこに居たのよ?」
「馬鹿者、あれは襲っていたのではない。あのチビがオレの魔族としての誇りを傷つけたから・・・」
「もちろん、その物陰からみなさんを観察してました。危険かもしれませんし。」
メイヤーの声が重なり、カイルは最後まで話をさせてもらえなかった。
「えぇーい。オレが話してる時はちゃんとオレの・・・」
「なんで、物陰から観察するのに私を抱えなきゃならないのよ。」
フィリーの不満そうな声がした。またしてもカイルは最後まで話をする事が出来なかった。

カイルはフルフルと全身を震わせている。
その間もメイヤーとフィリーは言い合っている。
「フィリーのような方があんな所に出て行くなんて危険ですわ。ですから私は・・・」
「何で危険なのよ。私なら何かあってもサッと躱す事ができるわ。」

「よくもオレを無視しやがって。必ず大魔王様を復活させてやる!お前ら、その時になって泣き喚いても遅いからな。」
そういうと、カイルは立ち去った。
「あっ、待ってぇな。ご飯おごる約束やろ、忘れんと必ずおごってぇな。」
カイルの後をアルザが追いかけて行く。

後には、何が起こったのか良く分からず呆然とする来人。そして、
「ホントに復活させる気かしら、もしそうなら困ったわねぇ・・・」
ちょっとだけ心配そうな顔のカレン。
そしてあの二人はまだ言い合っている。
夕方になり風が少し冷たくなった。


#0017   ガテラー星人 (メール)    97/03/17 13:34:38
「ああもう、変なので時間取られちゃったわね。さっさと服買って仲間集めて明日の出発に備えるわよ!」
「あ、明日ぁ?そんな右も左もわからないのにいきなり…」
「何を言うのです!時は金なりという言葉を知りませんね?」
「うじうじしてるコっておねーさん嫌いだナ。考えるよりまず行動よ」
「はあ…」
 もはや誰が主役だかわかったものではない。来人は3人の女の子に引きずられるように大通りまで来ると、カレンの指し示した一軒の服屋へと入っていった。
「ここの店はなかなか良心的なのよ。飛びぬけて安いってわけじゃないんだけど、ほら着る物ってけっこう安物買いの銭失いになるでしょ?特に冒険の旅に出るなんて言ったらそれなりのものは用意しないとね」
「ふ、ふーん」
 カレンの買い物講座に耳を傾けつつ、確かに自分の服を見ればありきたりなポロシャツにジーパンだ。メイヤーには価値があっても、今の来人にはいささか不向きだろう。
「あ、ねえねえこっちの服なんてどう?」
「コラフィリーちゃん、言ってるそばから。だいたいそこは女物でしょ」
「来人のじゃないわよ。わたしの服の話をしてんの」
「お前な…」
「どれもこれも機能性に欠けますね。無意味きわまりないです」
 メイヤーの言葉を無視して服を物色するフィリー。サイズの合いようがないはずだが、見るのが楽しいってやつだろうか。そういえば姿見の方でも別の女の子が一人、服をとっかえひっかえ鏡に映している。
「これにしよっかなー…。でもこっちかな?」
「あら?あの後ろ姿は…」
 カレンがふとその女の子に目を止めた。いきなりいたずらっ子のようににやりと笑うと、そっと近づいて背後から声をかける。
「リ・ラ・ちゃん!」
「わあっ!…え、カ、カカカレン!?」
 くすくす笑うカレンの前で手の中の可愛めの服に気づくと、その少女はゆでダコのように真っ赤になった。あわててそれを後ろに隠し、怒ったように声を上げる。
「な、なに、あたしになんか用!?」


#0018   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/04/21 00:59:13
「その後ろに隠した物は何かなぁ?」
 カレンがニヤニヤしながらリラに顔を近づける。
「な、なによ。こんな服、あたしには全然関係無いとでもいうの?まぁ、実際関係無いんだけどさ。ちょっと人に頼まれたから仕方なく、ね。」
「へぇ?人に頼まれたの?」
 あいかわらず、カレンはニヤニヤしながら聞き返した。リラの言う事を信用してないようだ。
「し、信じてないわね。ホ、ホラ。魔女のババロンばあさんよ!何でも、今日若い女のお客さんが来るとかで、そのお客にプレゼントするんだって。」
「ババロンばあさんにお客?そしてプレゼントですって?あのババロンばあさんがプレゼントするって、一体どんなお客かしら?是非とも見てみたいわね。」
 カレンが一転、真剣な顔付きになる。一方リラは迷惑そうな顔付きになった。
「魔法使いか、何か役に立つ事でも知ってるかな?」
 そこに来人がひょっこり顔を出した。
「アンタ誰?」
「彼は来人、迷子なの。で、私が家に送ってあげようって話になってるのよ。」
 リラの質問にカレンが細かい事を抜かした説明をする。
「えぇ?!こんな大きくなって迷子になったの?」
 リラが驚いた声を上げた。
「いくらなんでも、その説明はあんまりだぁ。」
「さぁ来人君。グズグズしてないで、服を買ったらババロンばあさんの所に出発よ!」
 来人の抗議に耳も傾けずカレンは言った。


#0019   SkyFox (skyfox@ymg.urban.or.jp)    97/05/05 06:19:40
「……これなんかいいんじゃないかな」
「え〜っ?来人、こんな地味なのがいいの!?」
「あのねフィリーちゃん。確かに地味だけど、旅をするのに目立った格好をしてると、余計に危ない目に遭うものなのよ。だからこれくらいでちょうどいいのよ」
「地味な格好の方が、泥棒に入るのにも都合がいいしね」
「……何言ってるんですか、リラさん?」
「……えーと、すみません店員さん。この服を下さい。あ、それと今すぐ着替えたいんですけどいいですか?」

 とりあえず来人が着る服を買った一行は、早速ババロンばあさんの住む家へと向かうことにした。その途中、先ほどまで自分が着ていた服を、来人はメイヤーに手渡した。
「約束だからね。これ、あげるよ」
「あ、ありがとうございます!異世界の衣類とは、このようなものなんですね。なんて素晴らしいんでしょう!ああ、研究意欲が湧いてきたわ!」
 ようやく研究対象を手に入れた喜びからか、メイヤーは、手にした服を両手で抱きしめていた。(なんだかなぁ……)さっきまで自分が着ていた服を、女の子が抱きしめてるのを見て、来人はただ唖然とするしかなかった。
 しかし、ふと何やら思い出した様子で、メイヤーに話しかける。
「そう言えば、昼間買ってた石板はどうしたの?」
「……あれッ?ああ、どうやらカレンさんの家に置いてきてしまったようですね」
「……お金、明日払っとこうね……」



#0020   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/05/06 07:36:25
「あっ!誰か倒れてるわよ!」
 フィリーの声に皆がそちらを見ると、栗色の髪の女の子と紫色の髪の女の子が倒れていた。

「大丈夫?しっかりして!」
「あ、おはようございます」
 カレンが抱き起こして声をかけた紫色の髪の女の子は、そう返事をした。
「は?!それよりも大丈夫?で、リラ。そっちの子の方はどう?」
 カレンとリラは、なれているらしくテキパキと動いている。
 一方、来人達はどうしていいのか解らないらしく、周りで右往左往しながら見ているだけだった。
「この子、大丈夫だと思うけど、・・・多分寝てるだけじゃないかな?」
「え?!こんな道の真ん中で?!」
 カレンは驚いたような声を上げた。
「はい。私、この方が気持ちよさそうに寝ていらしたので、隣で寝かせて頂く事にしたのです」
「それにしても一体なんだって、こんな所で寝てるのよ」
 紫色の髪の女の子ののんびりした言葉に、カレンはあきれたように言った。
「はい。実は道に迷ってしまいまして。それで仕方なく。で、この方が目を覚まされたら道を尋ねてみようかと思ったものですから」
「それにしても、急病か何かだとは思わなかったわけ?」
「あ!?そ、そうですね、気付きませんでした。あ、私。紅若葉と申します」

 と、その時。栗色の髪の女の子が、ゆっくりと目を開けた。


#0021   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/05/08 01:17:48
「あ・・、ここは・・・?」
 女の子は訝しそうな声をだした。その紅い瞳は神秘的な光を湛え宙を彷徨っている。

 さて、ここは公園のすぐ横とはいえ、りっぱに道の真ん中である。周りを見回してみても人通りが無いので、今まで誰にも見付からなかったのだろう。・・・一人を除いて・・・。

「あんたは、この道の真ん中で寝てたんだけど。一体どうしたっていうの?」
 そんなリラの言葉に、その女の子は眉を寄せて考え込むような仕種をしたかと思うと、ハッとしたような表情を見せた。
「あぁっ!なんて事なの。まさかあの影の民の女の方に言われた事が現実になろうとしているというの!?」

「影の民ぃ〜」
 途端にフィリーが嫌そうな声で呟いた。
「フィリー、影の民に何か嫌な思い出でもあるのかい?」
「何言ってんの!影の民と言えば、幽霊と話が出来るとか一緒に居ると不幸になるとか言われてるじゃないの・・・って、来人は知らないんだったわね」

「そうです。私も今日、まじない通りを歩いている時に、その女の方に声を掛けられたのです。・・・私の守護霊が注意を呼びかけている・・・と」
 フィリーの言葉の後に続いた女の子の言葉に、皆の視線が集まった。

「・・・貴方は今日という日を忘れない。何故なら、運命を変える3つの出会いがあるから・・・。気を付けなさい。その出会いは貴方の生き方を変えてしまう事になるでしょう・・・。
 私の名は楊雲。きっとまた出会います。その時まで、どうか心安らかであらん事を・・・」

「う〜ん。今の話を聞いてると何かの出会いがあったという事かしら?」
 女の子の話を聞いてカレンが質問した。
「ええ、だから私はこんな所で寝る事になってしまったのです」


#0022   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/06/16 05:45:52
「あれは公園を散歩している途中に起こりました」
 そう言ってティナは我が身に起こった出来事を話しだした。


「なんていいお天気だったんでしょう。今日は公園の木陰でのんびりする事も出来たし。あの言葉もきっと何かの間違いだったのよ」
 木漏れ日の溢れる小道を歩きながらティナは呟いた。
 お気に入りの木の下でのんびり過ごして不吉な言葉の事は忘れてしまいたい。そう思いこの公園に来たのだった。
 だが、あの不吉な言葉が頭から離れる事は無かった。しかし、変わった事も何も起こらなかった。
 故にティナは、あの不吉な言葉が何かの間違いだと思い始めていた。
 そう。あの時までは・・・



#0023   SkyFox (skyfox@ymg.urban.or.jp)    97/06/16 09:54:53
「…あの時?」
「それって、サ○ーブ○イアンが大逃げかましてダービー勝っちゃって、メ○ロブ○イトから流しで買ってた馬券が全部外れてオケラになっちゃったもんだから、あまりのショックで倒れちゃった時のこと、とか」
「…あのぉ、リラさん?」
「あ、ゴメンゴメン。ついあの時を思い出すたびに悔しくって。サ○ーブ○イアンを押さえときゃ良かったなぁって」
「どーして18歳未満のあなたが馬券買えるんですか?」
「え?い、いや、まぁ、その、ね…。
 あ、それよりもうこんな時間じゃない!ババロンばあさんに頼まれた服、早く持って行かなきゃ!」
 リラにそう言われて、一行は辺りを見回す。
 先ほどまで西の空に浮かんでいた夕日はとっくに姿を消し、わずかに残された太陽の光をも夜の闇が駆逐しようとしている。
「確かに、あまり遅くなるとババロンばあさんに失礼よね。じゃ、話の続きは歩きながらでもしましょうか。どう?立てる?」
 カレンはそう言うと、ティナが立ち上がるのを助けようと右手を差し出す。
「えっと、は、はい。すみませ…あっ!」
 カレンの手を支えに立ち上がろうと試みたものの、か細い声を上げてよろめくティナ。
 慌ててティナを抱き止め、辛うじて倒れるのを防いだカレン。
「うーん、ティナちゃんの方はまだ無理みたいね。仕方ないわ。…そうだ、来人クン、ティナちゃんをおんぶしてくれないかな?」
「えっ!お、俺がぁ!?」


#0024   SkyFox (skyfox@ymg.urban.or.jp)    97/06/16 11:09:41
「だって男の子はキミしかいないんだから、仕方ないでしょ。それとも、か弱い女の子に力仕事をさせようって思ってるの?」
「え、そ、それは…」
 確かに男は来人ひとりだけだが、他の女性が「か弱い」かどうかは疑問である…おっとっと、こんな事を口にすれば何をされるかわかったモンじゃない。

(筆者ツッコミ:「おーい、来人クーン。泥沼にはまっとるぞー(笑)」)

 それはともかく、どちらかと言うと来人は奥手である。女の子の体に触れた経験はかなり少ない方だ。それなのに、同じ年頃の女の子をいきなりおんぶしろだなんて…。動揺するのも無理はない。
 だがしかし。
「さぁ早く!ババロンばあさんが怒り出しちゃうじゃない!」
「あ、ああ、わかった」
 来人の動揺を無視するかのように、カレンがせかす。有無を言わせぬその言葉に、ついつい来人は従ってしまうのだった。

(筆者ツッコミ2:「私の書く来人君は、完全に尻に敷かれるタイプですな(笑)」)

 ティナの方に背を向け、その場にしゃがみこむ。
(まさか別世界まで来て、同い年くらいの女の子をおんぶすることになるなんて、考えてもみなかったよ…)
 まだ動揺が続いている。
 ところがティナの方も、来人の背中になかなかおぶさろうとしない。顔を赤らめ、なんだかオドオドした様子である。ティナも来人同様、いや全くと言っていいほど、異性の体に触れることに対しての免疫を持っていないのだった。
「…どうしたの、ティナちゃん。まさか、おんぶされるのが恥ずかしいの?」
「え、いえ、そ、そんなことは…」
 カレンにそうつっこまれて、慌てて否定しようとするのだが、やはり動揺を隠し切れない。
(…ふーん。二人ともホントにウブなのねぇ)
 心の中でニヤリと意地悪な笑みを浮かべるカレン。いや、ひょっとしたら顔にも現われていたのかも知れない。
「さぁ、早くしなきゃ。ババロンばあさんが待ってるんだから」
 そのままじっとしていてもラチがあかないので、抱きかかえていたティナを半ば強引に、来人の背中にあずけた。
 背中に当たる胸の感触と、両手に触れる柔らかい太ももの感触に、来人は思わず顔を耳まで真っ赤に染める。ティナの方も、初めて感じる同年代の男の子の背中に緊張して体を強ばらせている。
「ほらほら、子供じゃないんだから、早く立ち上がって」
 カレンが意地悪そうにせかす。
 仕方なく、来人はティナを背負ったまま立ち上がる。と、さほど重みを感じることなく、来人はすんなりと立つことができた。
(女の子の体って、こんなに軽いものなんだ…)
 妙な所に納得する来人。
「それじゃ来人クン、ティナちゃんをヨロシクね。
 …それからっと。若葉ちゃんの方はどう?大丈夫?」
「…えーと、はい、大丈夫です」
 若葉はそう答えると、少々おぼつかなくはあったが、メイヤーの手を借りて立ち上がる。まぁ若葉は単に寝ていただけであるから、何ともないのは当り前であるが。
「じゃ、早いとこババロンばあさんの家に行くわよ」

 最初は来人とフィリーの2人だけだったのに、いつの間にか7人になってしまった一行。
(筆者ツッコミ3:「誰か収拾をつけてください(爆)」)


#0025   濱ちゃん    97/06/20 17:22:14
「うわー。ダッシュダッシュ。」
ババロンばあさんの家まであと少しという所で突然雨が降り出したのだ。
「なあカレン。そのババロンばあさんっていう人はどういう人なんだ。」
「ふふふふふふ。」
「カレン?」
「知りたい?本当に知りたい?」
どうしたんだカレン?ババロンばあさんってヤバイ人なのか?
「いいのね?後悔しないわね?ふふふふふふふ。」
怖い。こわいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃ。
「い、いや。やっぱりいいよ。」
「ふふふふふふ。そう?ふふふふふふ。」
だめだ。カレンは今故障中だ。しばらく話し掛けない方がいい。
「あ、あの。」
「ん?なんだいティナ?」
「おいしそう・・・・・・。」
ううっ!!やばい。ティナまでホラー系だ。筆者はホラー好きなのか?
「ほらっ。ここがババロンばあさんの家よ。」
リラが指差したモノは・・・・・・・。
なんだってーーーーー。

雨はどうしたんだ雨は!! せっかくのラブラブが・・・・・。


#0026   濱ちゃん (ちょっとらぶもーど)    97/06/20 17:54:41
「ここは洞窟じゃないか。」
「そ。ここにババロンばあさんが住んでるの。」
「ふーん。ま、どこに住んでてもかまわないけどさ。」
「あ、あの。」
「ん?ティナ。どうかしたか。」
「いっ、いえ。その・・・・あの・・・・・・。」
「なんだい?」
「私、重くありませんか?いえっ。あの・・・・なんだか迷惑ばかりかけている
ようで・・・・。」
遠慮がちにティナは言う。
「何いってるの。そんなたいしたことじゃないわよ。」
カレン・・・・頼むからそういうセリフは俺に言わせてくれ。
「そんなに遠慮しなくていいよ。ティナはとっても軽いし可愛いから
おっ、俺もおおおおんぶできてうっ、うれしいなぁーって・・・・・」
「えっ?わっ、私もお会いできて・・・嬉しいです。」
抱き合う(おんぶ)腕に力が入り体が密着している。
もう世界は二人のものだ。
「ティナ。」
「来人さん。」
「お前が好きだあああああああ。」
その時突然オーガーが襲ってきた!!



#0027   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/07/27 23:27:30
「オーガー!?」
「何故こんな所に!?」
 カレンとリラが身構える。
「うひゃあ〜〜〜ぁぁぁ・・・」
 ダッシュで逃げ出したメイヤーに手を引かれて、フィリーが悲鳴を上げて遠ざかって行く。
 オーガーの事も忘れて、それを呆然と見送る来人。
 ティナは赤い顔をして来人の背中にくっついている。
「あ、あの今の言葉は・・一体・・・」
 どうやら、来人の好きだ発言に気を取られてオーガーの事には気付いてないらしい。
 そんな中、何と若葉がトコトコとオーガーに近付いて行ったと思うと口を開いた。
「はじめまして、ババロン様。私、紅若葉と申します。貴方に助言を頂きたくこちらに参りました」
 なぜかオーガーは動かない。
「ちょ、ちょっと。いくらなんでもそのオーガーはババロンばあさんじゃないわよ」
 カレンがそう若葉に話しかけた時、何処からとも無く笑い声が響いてきた。
「ほっほっほっほっほっ・・・」
「どこだ?どこだ?」
 キョロキョロと周囲を見渡す面々。
「あ、あそこだ!」
 来人の指差す方向に視線が集中する。
 そこには大きく光る月をバックに立つ影が一つ。


#0028   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/07/29 01:22:50
「天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!悪を倒せとワシを呼ぶ!」
 洞窟のある小さな丘のテッペンに陣取った怪しげな人影は、怪しげなポーズを取りながら叫んだ。
「あの声は、まさか・・・」
 呆然とカレンが呟く。
「ま、あの人ならやりそうな事よね」
 肩をすくめてリラが言った。
「ホイッ!」
 かけ声と共に影が宙に舞う。
「ジャコビニ流星キック!」
 そして華麗な蹴りが若葉に炸裂する。
「は〜れ〜〜ぇ」
 吹っ飛ぶ若葉。
 来人は慌てて若葉の落下地点に駆け込むと若葉をダイビングキャッチした。しかし何処に落としたか、その背にティナの姿が見えない。
「こりゃ〜ぁ!よりにもよって、オーガーとワシを間違えるなど言語道断じゃ!」
 そう言って若葉をビシっと指差す姿は、着物を着た婆さんだった。
『やっぱり、ババロンばあさん』
 同時に言って、カレンとリラは頭を抱えた。
 来人の腕の中では若葉が目を回している。


#0029   しゅう (shu@scan-net.or.jp)    97/07/30 07:00:15
 来人はこのババロンばあさんから発散される独特の気配に圧倒されていた。
「危ない!」
 突然来人は叫んだ。
 ババロンばあさんのすぐ後ろにはオーガーの姿が迫っていた。
「ほっほっほっ、心配せんでもええ。ほれジョージ、向こうに行っといで」
 ババロンばあさんがそう言うと、オーガーは洞窟に向かって歩いていった。
「あれは用心棒じゃ。ワシに助言を求める者には、すべからく一年間の奉仕が義務づけられておるでの」
「なんだって!じゃあ、俺が何かアドバイスを聞こうと思ったら一年も待つのか?」
 ババロンばあさんの言葉に来人は衝撃を受けた。
「大丈夫よ来人君。別に一年待たなくても助言を受ける事は出来るわよ。
 それよりも、いつまで若葉ちゃんを抱きしめたまま地面に寝転がってる気なの?」
 そのカレンの言葉に来人は顔を赤くしながら立ち上がる。
 若葉が小さくうめいた。


#0030   SkyFox (skyfox@ymg.urban.or.jp)    97/07/30 21:33:47
「…う、う〜ん…あら、私としたことがまた眠ってしまったようですわ」
 意識の戻った若葉は、上半身だけをゆっくりと起こして周囲を見回した。
 気を失ったせいで、先ほどまでどういう状況だったのか頭に残ってないらしい。
「えーと、あの、ここはどこでしょう? …あ、そうでしたわ。確か洞窟の中で…。
 あら、ババロン様はどちらに? それにこの老婦人は一体どなたなのでしょう?」
「まーだ言うかいこの嬢ちゃんは。ええ加減に目を覚ましたらどうなんだい?
 ワシがあんたの言うとるババロンじゃ」
 意識が戻っても相変わらずな大ボケをかます若葉に、半ばムッとした表情でババロンばあさんが答える。
「あら、そうだったのですか。これは大変失礼いたしました。
 はじめましてババロン様。私は紅若葉と申します。実は貴方様に助言を」
「もうそれはええ。大体の話は既にわかっておるでの」
 慌てて自己紹介をしようとする若葉の言葉を、ババロンが遮って話した。
「要は、この青年を元の世界に戻す方法を聞きに来た、そういうことじゃろうて」
「えッ!? ど、どうしてそれを!?」
 今度は来人が慌てふためいてババロンに尋ねる。初対面の来人の素性を一発で見抜くことなど、普通の人間ではありえないはずだ。服は既にこちらの世界のものに替えてある。別の世界の住人であったことなど、外見から判断するのは至難の業だ。それをいとも簡単に見破るとは…。
「なに、ちょっと占いをかじっておっての。たまたまそういう結果が見えただけじゃ」
 ババロンは事も無げにさらりと言ってのける。しかし、いくら占いをしていると言っても、並大抵の占い師ではそこまではわかるまい。別に占いなど信じてはいない来人も、さすがに、
(やっぱりこの婆さん、ただ者じゃないな…)
と舌を巻くのであった。

 後でカレンに聞いた話によると、隠居する前のババロンは、この世界でも1、2を争うほどの占星術師で、その占いの結果の正確さから、世間の人々の信頼も篤かったそうである。魔術に関しての知識も深く、魔術師組合の長を務めたこともあるが、どういった理由からか、若くして隠居生活に入り、今は1人でひっそりと暮らしている、とのことだ。


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管理者: ガテラー星人