その場所を見つけたのは数日前のことだった。混雑する海水浴場から逃げるように防波林を散歩していた僕は、ふとしたはずみに小さな浜辺に出たのだ。きれいな砂と静かな波音。その澄んだ海よりなにより僕はまず彼女にこの場を見せたいとそのことを考えていた。 「お、お待たせ…」 シートを広げていた僕が振り向くと、林の陰で着替えた彼女が恥ずかしそうに出てくる。藍色の水着を身につけた小さな体は周囲の風景に本当にとけ込んでいて、僕は幸せそうに彼女の姿を見つめていた。 「な、なにじろじろ見てるのよ!ばかぁ!」 「ごめんごめん。それじゃ泳ごうか」 「べ、別にいいわよっ」 謝りながらもどうしても笑みがこぼれてしまう。数日前からそわそわしながら今日を楽しみにしていた彼女は、それでもその気持ちを隠すようにしずしずと波間に足を入れる。 「きゃっ!」 ばしゃん、と小さな波濤がくだけて足を濡らす。おっかなびっくりの彼女を追い越してざぶんと海に入ると、手で少しだけ水をすくって彼女に投げかけた。 「きゃあっ!つ、冷たいじゃない!」 「ははは…」 「もう…怒ったんだからね!」 押さえていたものを一気に解き放つようにざぶーんと海に飛び込むと、思いっきり水をはね上げる。すぐに明るい笑い声が波間に響いた。楽しそうで、すごく楽しそうで、僕は一緒になってはしゃぎながらずっと彼女の笑顔だけを見つめていた。 そろそろお昼にしようと海から上がり、バスタオルで彼女の髪をふいてあげる。ただそれだけのことなのに彼女はなんだか緊張していた。心臓の音がこちらにも伝わってきて――僕は思わずバスタオルごと彼女の肩を抱きしめた。 「きゃ…!」 「あ…。ご、ごめんっ!」 びくっとする小さな体をあわてて離す。彼女は真っ赤になって僕の顔を見つめていた。スクール水着のひんやりした感覚がまだ僕の体に残っている。 「ほ、ほら、お弁当食べようお弁当!」 「‥‥‥‥‥」 ぱくぱくと口を開閉させながらなにも言えず、ビーチパラソルの下にちょこんと腰を下ろす彼女。その体におそるおそるバスタオルをかけてやる。一瞬だけ硬直するが、ぎゅっと手を握りしめて赤くなったまま俯いていた。 「おいしい?」 「う、うん」 昨日2人で作ったお弁当をもぐもぐと口にする。味も確かにおいしかったけど、それより何より彼女の食事する姿に目を奪われていて、それがまた彼女を俯かせるものだからお昼ご飯は静かに過ぎた。 「ほ、ほらっ。食べ終わったらまた泳ぐわよ」 「少し休もうよ…」 「もう、年寄りなんだからっ」 「僕は年寄りだよ」 腰に手を当ててぷんすかとこっちを見ている彼女をまぶしそうに見上げた。 「一緒にお昼寝しよう」 「…え‥‥‥‥‥‥。う、うん」 場所を片づけてビーチパラソルの日陰の下にころんと横になる。隣に並んでる彼女が横たわったまま僕の顔を見た。 「…お昼寝したら、また遊んでね」 「ああ」 小さな手をそっと握る。濡れた髪がシートに落ちたまま、しばらくそうやって見つめ合う。 「来てよかった?」 「う、うん」 「僕も」 「う、うん…」 海よりも砂よりも、彼女と一緒にいられること、一緒にいることで彼女が幸せになれること。そのことがなにより嬉しい。 大好き… そんな言葉が聞こえた気がしたのは風のせいだったのか。いつの間にか目を閉じてる彼女を感じたまま、僕も静かに目を閉じた。ざざーん、ざざーんという波の音だけが静かに浜辺に響いていた。 「…って… あんたなに昼間っから白昼夢に浸ってるのよ!」 スクール水着……… 「やだっ信じらんない!アイリス、こいつ焼却場に捨てて来ちゃって!」 「そ、そんなことおっしゃられましてもっ!私もあんまり近づきたくは…」 |