料理SS:ミス味っ子(前)
文化祭にふさわしい絶好の秋晴れのこの日、ここきらめき高校体育館では、料理研究同好会の主催による一大イベントが行われていた。以下は味の道に命を懸けた熱い少女達の戦いの軌跡である。
「ブラ〜ボ〜!
さあやって参りました『きらめき高校味勝負』!司会は俺こと早乙女好雄が務めさせていただくぜ!」
サルー!の声が観客席から飛ぶ。
「てなわけでまずは審査委員の紹介だ。審査委員長はご存じこの人。きらめき高校にその人ありと謳われた伝説の料理人!
味皇…虹野沙希ーーーー!」
「精進せいよ!!…って、あ、あはは。みんな根性で頑張ってね!」
「いやぁ虹野さんもなかなかノってるね!」
「もぅ、恥ずかしいなあ…(--;」
「続きましては理科室の主にして恐怖の天災もとい天才紐緒結奈!理論的な講評が期待できそうです」
「当然ね」
「そして庶民の敵、ふざけた野郎だ伊集院レイ!相変わらずのイヤミな意見を聞かせてくれることでしょう!」
「あとで覚悟しておきたまえ早乙女…」
「そして一般生徒代表はこの2人だ!」
「朝日奈夕子でーーっす!超楽しみって感じぃ!ね、ゆかり」
「そうですねぇ、楽しみですねぇ」
「昼飯代も浮くしねっ。今びんぼーだから助かったぁ」
「それでは時間も押してるので始めさせてもらいましょう!第一の料理人の名は早乙女優美!」
「さ、帰ろっかゆかり」
いきなり逃げにかかる夕子に、優美が抗議の声を上げる。
「ひっどぉーい!そんなに優美の腕が信用できないんですか?」
「いや、だからさぁ…ちょろっとお腹の調子が悪いっていうかぁ」
ひたすら逃げ腰の夕子に、今度は沙希が立ち上がった。目には炎が燃えている。
「ひなちゃん、せっかく優美ちゃんが頑張ろうとしてるのにそんなのって良くないと思うな!そもそも料理っていうのは…」
「わかった!わかりましたっ!とほほ、タダ飯より高いものはないや…」
観念した夕子は席につき、さっそく優美が料理を始める。今回のメニューはハンバーグをメインにしたランチである。
「できましたぁ!」
「おお!相変わらず外見だけはまともだな」
「お兄ちゃんどういう意味?」
「お、そうだ」
何か思いついたらしい好雄は、優美の料理を持って伊集院のもとへ直行する。
「伊集院ク〜〜〜ン」
「な、なんだ早乙女!その嬉しそうな顔は!」
「こってりでまったりのしやわせな味。さあ召し上がれ」
「こっこの僕がそんな庶民の料理など」
「伊集院さん、優美の料理が食べられないって言うんですか?」
「くっ…」
伊集院は覚悟を決めるとフォークを口に運んだ。
「どうだ?」
「どうですか?(わくわく)」
「こっ…こんなうまいものを食ったのは初めてだ!」
目を血走らせながら断言する伊集院。
「(ちっ、敵ながら大した精神力だぜ…)」
「わぁい本当ですか?やっぱりお酢とみりん入れてよかったぁ」
(バターーン)
「レ、レイ様っっ!!」
「優美…お前味見してるのか?」
「してないよ」
「しろよ味見くらい頼むから!」
同時に各審査員も料理を口にする。
「栄養上の配慮が全くなされていないわね」
「結構なお味ですねぇ」
「(朝日奈夕子死亡…)」
「虹野さん、無理して食べなくてもいいぜ」
「こっ…根性よ!」
とりあえず全員が食べ終わる。
「さあ採点です……3点0点5点0点10点!まあこんなもんっすね!」
「…うわぁぁぁぁん!」
泣きながら去っていく優美の背に、沙希は心の中で激励した。
「(優美ちゃん、その悔しさをバネに大きく羽ばたくのよ!次代の料理界を担うのはあなたなんだから!)」
「ヨッシー…次もこんなんだったら承知しないかんね」
「わかったって!んじゃ大本命(誰の)、美樹原さん」
「えっ?…でも…恥ずかしいし…」
「大丈夫よ。メグならきっと出来ると思うな」
「そ、そう?詩織ちゃん」
「せっかくのチャンスじゃない。勇気を出さなきゃ」
「う、うん…」
「さっさと始めなさい!」
紐緒陛下に怒鳴られて、おそるおそるステージに上がるメグちゃん。
「あ、あの…それじゃ…あの…」
「いらいらいらいら」
「あ、あのっ…にんじんのケーキ作ります…」
「おおっと美樹原さんのメニューはにんじんケーキだ!これはなかなか楽しみであります!」
生クリームを泡立てるメグちゃん。だが緊張のあまり手元が危なっかしい。
「メグ、落ち着いて」
「う、うん…」
詩織ちゃんの応援でなんとか焼き上がった。なおこのSSで時間の経過は無視するものとする。
「では審査員の方々、どうぞ!」
「フッそうだな。このケーキの滑らかな歯触りがにんじんの甘みと見事に調和し、なおかつ隠し味のブランデーのふくよかなる」
「では次の方」
「おい、待ちたまえ!」
「こんな甘いものは脳が腐りそうね。あなたたち凡人にはお似合いだわ」
「ええー?超おいしいじゃん。ね、ゆかり?」
「結構なお味ですねぇ」
「おいしいんだけど、ちょっとムラがあるかな。薄力粉とシナモンはあわせてふるった方がいいと思うよ」
「う、うん。ありがとう沙希ちゃん…」
「さすが味皇様のナイスなアドバイスですね!では採点の方!
…8点0点8点9点10点!なかなかの得点です!」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです…」
「それじゃ控え室で待っててくれよ。どうもー。
(ちっやはり美樹原さんじゃギャグに走りやがらねえ…)」
「ではどんどんいきましょう!如月さん」
「私ですか?あまりお料理は得意ではないのですけど…」
「なあに、俺がついてるから気楽に行こうぜ」
とたんに観客席のところどころから殺気が飛ぶ。(笑)
「な、なんだよ。俺何かしたか!?」
「それではサルマーレとミティティの盛り合わせを作りたいと思います」
「はい?」
「…ルーマニア料理です」
「あ、いや、さすがは如月さんですね!ではどうぞ!」
目を輝かせて完成を待ちわびる審査員。だがコンロの火の前で立ちっぱなしで料理するなど彼女に耐えられるはずもなかった。
「はあ、はあ…」
「おい、如月さん大丈夫か?」
「すみません、ちょっとめまいが…」
「無理しないで保健室で休んだ方がいいぜ」
「えーっ?超楽しみにしてたのにぃ」
「すみません、ご迷惑をおかけして…」
「あ、ウソウソ!気にしないでゆっくり休んでね!」
如月未緒無念のリタイア。だがその姿は僕らの心にいつまでも焼き付くに違いない。
「(よくやったわ如月さん!力つきたとはいえ料理に命を懸けたあなたこそ、真の料理の鉄人よ!)」
「では一休みして審査員の中から…夕子、なんかやれよ」
「あたしぃ?んなこと言われたってさぁ」
「なんでもいいって!いくらお前でも一つくらいレパートリーがあるだろ?」
「あー超ムカァ。それじゃこの夕子さまとっておきのメニューを披露しちゃうわよ」
「まぁ、楽しみですねぇ」
ピザもちの作り方
(1) もちの上に溶けるチーズをのせる
(2) その上にミートソースをのせる
(3) オーブントースターで焼く
「やっぱり夜更かしする時なんかぁ、こういうのって助かるよね!」
「…料理か?これ…」
「なんか文句ある!?」
「結構なお味ですねぇ」
<続く>
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