この作品は「CLANNAD」(c)Keyの世界及びキャラクターを借りて創作されています。
AFTER STORYに関するネタバレを含みます。
読む
シムCLANNADシティ
この町は変わっていく。
その大きな波が今、渚を奪い去ろうとしているのかもしれない。
でも、はいそうですかと納得するわけにはいかない。こうなったら出来る限り抗ってやることにした。
(とはいえ町が相手じゃどうしたもんやら…)
よし、他力本願で情けないがあいつらに相談しよう。かつての知人二人に電話し、喫茶店で待ち合わせる。
久しぶりに会った二人は、以前と変わらぬ姿だった。
「事情はわかったの」
「大変ですねー」
「ことみの頭脳と宮沢の呪術だけが頼りなんだ。何とかならないか?」
「呪術というのが少し引っかかりますが、熱が下がるおまじないでもしてみますか?」
本を取り出す宮沢に、ことみが首を横に振る。
「ううん、それではたぶんダメなの」
「どういうことだことみ?」
「話を聞く限り、渚ちゃんの病気は町の力が弱っているのが原因なの。町を癒さないと根本的な解決にはならないの」
その結論に俺は頭を抱えた。そんなおまじないがあるわけが…。
「では、町の自然を守るおまじないをしましょう」
「あるんかいっ!」
「幼稚園に行って上半身裸になってから、『ヨウジョモエモエヨウジョモエ』と3回叫んでください」
「俺、犯罪者じゃん!」
しかし渚の身体には代えられない。俺は泣く泣く実行し、当然ながら杏にボコられた。
杖をついてよろよろと家に帰ると、玄関前に元気そうな渚の姿が!
「お帰りなさいです。なんだか熱が下がったので起きてきちゃいました。えへへ」
「ほんとかっ!? あ、ニュースで何か言ってなかったか?」
「ニュースですか? 自然と景観を保全する条例が市議会で可決されたって言ってましたけど」
相変わらず恐ろしい威力だな…。まあ、あっさり解決して良かった。
「あ…もしかして、朋也くんが治してくれたんですか?」
「いや、俺じゃなくて別の奴なんだ。今から礼言いに行くか?」
「はいっ」
二人はまだ先ほどの喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
「お世話になりました。古河渚ですっ」
「宮沢有紀寧です。元気になって良かったですねー」
「一ノ瀬ことみ。ひらがなよっつでことみね。呼ぶときはマーボー」
「他社ネタはやめい!」
女の子三人は、しばらく俺そっちのけで歓談していたが…
「でも…」
と、おもむろにことみが口を開く。
「これで終わらせるのは勿体ないの。渚ちゃんは次の段階に進むべきなの」
手を組み、碇ゲンドウポーズで何やら不吉なことを言い出した。
「ど、どういうことでしょうかっ」
「死を乗り越えた渚ちゃんと町はパワーアップして、多少の変化には耐えられるようになったの。乱開発でない健全な発展なら問題ないの。むしろ町との繋がりを有効活用すべきなの」
「え、ええと」
「例えば町に運動施設ができれば、渚ちゃんの運動能力がアップするの」
「ええっ、そうなんですかっ! それはとっても素晴らしいですっ!」
本当かよ…。
「ではおまじないですね。『{好きな人の名前}+ラブフォーユー』と叫びながら町中を走り回ると、その場所に運動施設ができます」
「待てい!」
「朋也くーん! ラブフォーユー!」
「ああああ」
ことみと宮沢が俺を押さえつけている間に、渚は走って行ってしまった。しばらく表を歩けねぇ…。
そして3日後。
『次のニュースです。市の工場跡に大規模スポーツ施設が設立されました』
「早!」
「おはようございます。朋也くん」
振り返ると、なぜかジャージを着た渚の姿が。
「なんだかとっても運動したい気分ですっ。ワンツーワンツー」
本当に町と繋がってやがるよ…。
「いや、でも身重なのに運動はまずいだろ」
「軽い運動ならした方がいいんです。それじゃ行ってきますねっ」
そう言って、俊敏な動きで外に出ていった。こんなの渚じゃねぇー。
…と思いきや、窓の外を見ると渚が滑って転んでいた。危ないなぁ。渚らしいけど。
ゴゴゴゴゴゴ…
「じ、地震!?」
揺れはしばらくして収まったが、嫌な予感がして外に飛び出る。まさか転んだ渚に町がシンクロしたせいじゃないだろうなっ!
「な、渚、大丈夫か!?」
「は、はい。あ…ちょっと手を切っちゃいました」
『地割れだーーっ!!』
『人が落ちたぞーーーっ!!』
「……」
あ、あわわわわ…。
「頼む渚! 部屋で大人しくしててくれっ!」
「えー。せっかく元気になったんですよ」
「いいからいいからっ!」
必死で渚を部屋へ押し込む。こいつが町の命運を握っているかと思うとむちゃくちゃ不安だ…。
何はともあれ、無事汐は生まれたのだった。
「おめでとうございます」
「汐ちゃんも町との繋がりを引き継いでるの。有効活用すべきなの」
「いや、もういいから…」
「遠慮しなくていいの」
「そうですよー。CLANNADのテーマからすれば人類みな家族。よその子供はうちの子供です」
こいつら善意でやってるからタチ悪いよな…。
結局俺に止める術はなく、ことみと宮沢の町&汐発展計画は次々実行された。
「音楽ホールと美術館を作って文化水準を上げるの」
「コンクールできんしょうだった。えらい?」
「生涯学習センターを作って教育水準を上げましょう」
「テストでひゃくてんだった。えらい?」
「高速道路開通で渋滞解消なの」
「運動会でいちばんだった。えらい?」
ああ、娘がどんどん完璧超人になっていく。喜んでいいのか悪いのか。
しかし落とし穴は、まさに目の前に開いていたのだ。
「朋也くん、大変ですっ」
「どうした?」
「実は詐欺に引っかかって、借金が五千万円ほどできてしまいました。えへへ」
「『えへへ』じゃねーだろ!」
「誰でも信じるわたしには当然予想された未来です。えへへ」
「ママはとってもすなお」
「もういい…」
疲れ果てて二人に相談するしかない俺。
「そういえば市の財政は大赤字で、もうすぐ財政再建団体に転落なの」
「その影響か…」
「あれだけハコモノ作ってれば当然ですよね」
「作ったのお前らだろ!」
けど、どうすりゃいいんだ。町の赤字なんて俺にはどうしようもないぞ。
「一つだけ方法があるの」
「おお、さすがことみ」
「大規模合併なの! 黒字の市町村と合併し、さらに行政を効率化するの」
「特例債の発行はするなよ…。けど、さすがにそんなおまじないはないだろ」
「あります」
「…別に文句はないけどさ…」
俺が鼻からスパゲッティを食べると、次の日には合併が決まっていた。
人口と面積が2倍になったぞ。渚の借金もうやむやになったし、これで持ち直すといいけど。
「パパ、おはよー」
「おう、おはよう汐…って、ええっ!?」
昨日まで見下ろしていた汐が、いきなり見上げる存在になっていた。
「まさかっ!」
慌てて台所に行くと、渚が窮屈そうにしゃがみながら料理している。
「あ、朋也くん。身長が2倍になりましたっ。今まで背が低いのを気にしていたので嬉しいですっ」
「嫌だよ身長3mの渚なんて!」
「そ、そんな…。朋也くんの愛は身長で変わるようなものだったんですか…」
「小僧てめぇぇーーっ! 小さくないと愛せないたぁ、実はロリコンかぁぁーーっ!!」
「なんでオッサンまで来るんだよっ! うわ、立つな渚! 天井が崩れる!」
しかし時間が経つうちに、渚と汐の身長は元に戻っていった。
折からの少子化に加え、施設維持費を賄うための高い税金が敬遠され、人口が流出し始めたのだ。
(こ、このままでは過疎の町になってしまうっ…!)
実際商店街はシャッターが降りてるし、渚と汐も体調が悪いようだ。
「助けて〜、ことみえもん」
「大丈夫のび也くん。若者を呼び寄せる施設を建てればいいの」
「今は遊ぶ場所がありませんからねー」
「そういうもんか」
「都市の空気は自由にするの」
大型ゲーセン、ディスコ、パチンコ店などが次々開店し、町は活気を取り戻したかに見えた。が…
「最近、柄の悪い奴が増えたな…」
「そ、そうっすね」
仕事中に芳野さんにそんなことを言われる。若者が増えたのはいいが変なのも集まり、治安も悪化してきた。町って難しいなぁ…。
「よし、休憩にするか」
「はい…ああっ!?」
「おい、岡崎?」
遠くを横切った少女を、息を切らせて追いかける。ま、まさかまさか。あの髪を染めてピアスをいくつも下げて露出度の高い格好をしているのは…。
「汐っ!?」
「よぅ親父。小遣いくれよぉ」
くっちゃくっちゃとガムを噛みながら、娘はうざったそうに言い放った。
「お、おまえ何ていう格好を…!」
「ぺっ」
「それが親に対する態度か!? 大体今は学校に行ってる時間だろ! お父さんは許しませんよ!」
「けっ。偉そうなこと言っても、アタイは知ってるんだぜぇ…」
「な、何をだよ」
「親父が高校時代に不良だったってことをなぁぁ!」
「ぐはぁぁ!!」
し、しまった。それを持ち出されると何も言えない…。
「つーわけでアタイも好き勝手に生きるぜ。ABAYO!」
「汐ーーっ!」
がっくりと地面に膝を落とす俺の肩に、左右からぽんと手が置かれる。
「DQNだったことは一生ついて回るの」
「DQNでも強く生きてくださいねー」
「DQNDQN言うなよ! くそぅ、昨日まで素直ないい子だったのに…」
「何事も変わっていくものなの。滅びに向かうからこそ、すべてはかけがえのない瞬間なの」
「変わったら新しい楽しみを見つければいいって、昔立派に言っていたじゃないですか」
「ああ悪かったよもう立派なことは言いませんよっ! だから俺の純真な娘を返せ! 返せよぅ!」
「そう言われても、今の町の状況ではあと一施設が限界なの…」
ことみは重々しく言って、俺に選択肢を指し示した。
「町に潤いがあればいいの。(1)動物園 (2)水族館 (3)メイド喫茶。どれがいい?」
「……」
一瞬迷っちゃったじゃないか…。
「おい、そろそろ俺も入れてくれよ。汗かいてんだよ」
「うーん、もう少しです」
「覗かないでよ、パパのエッチっ」
(とほほ)
町に水族館ができて以来、あいつらは風呂に入ってばかりだ。しかも水風呂だし…。まあ、汐が不良になるよりいいか。
ニュースでも見よう。ポチッとな。
『市の活性化の切り札とされる改名問題が、本日市議会で決着しました。新しい名前は”ザ☆レインボー市”と…』
勘弁してくれ…。
<END>
感想を書く
ガテラー図書館へ
有界領域へ
トップページへ
# なんじゃこりゃ(^^;
本編は町、町言ってる割にあんまり町を感じなかったなーと。