かつて冒険者という職業がようやく世の中に現れ始めた頃。
　冒険者たちはひたすらに栄光と名誉を求め、血眼になって競争を繰り返しては、その無謀な行いにより次々と命を落としていた。
　それを深く憂えた冒険の守護神アドヴェウスは、一計を案じて彼らに一つのルールを課したのである…。

ゴミSS: 神の円盤

　俺の名は別所来人(べっしょ らいと)。別の世界からやってきた単なる善良な一般市民である。
　右も左もわからぬままロクサーヌに乗せられて旅に出た俺は、現在仲間と一緒にガミルの洞窟を目指していた。
「ああ、なんだってこんな目に…」
「そ、そんな落ち込まないでください。塵も積もれば山となると言うじゃありませんか」
「意味がよくわからん…」
「どうせいいことなんて何もないんです。魔宝だなんて…手に入るわけないんです」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「なに暗い話してるのよ！ほら、ガミルの洞窟に着いたわよ！！」
「おお、これがそうなのですか！チェックだチェックぅ〜」
「メイヤー、セリフが違う…」
　しかし到着を喜ぶ間もなく、カイルとレミットが既に先に行っているという。俺たちは大急ぎで走り出すと、洞窟に入ろうとするやつらの姿を追いかけた。
「むわてぇ〜〜〜〜」
「ち、来やがったか」
「もう、遅いじゃない！」
「姫さま？」
「ななななんでもないわよっ！」
　くそっ、唯一の希望である魔宝をそうやすやすと渡してたまるかっ！あまり足が速いとは言えない仲間たちを叱咤激励すると、そのまま洞窟へと突入する。
　ズキューーーーン！
　な、何だ！？いきなり俺の体が硬直し動かなくなる。誰かがテリトリーを広げたのか！？(ナゾ)
「なによあんた、神の円盤も知らないわけ？」
「なにそれ…」
「フン！これだから愚民は困る」
「まぁ冒険の守護神がこの世界自体にかけた、平和的な競争のための一種の制約(ギアス)とでも申しますか」
「は？」
「あーもう要領を得ないわねっ！ほら、出てきたわよ」
　ボゥッ、と空気が揺らぎ、目の前に円盤状の何かが現れた。これがッ、これが神の円盤かなのッッ！！？
「…ルーレット…？」
『ルーレットをまわしてください。ボタンを押して、止まったパワーゲージで回転力が決まります』
　突然謎の声があたりに響く。か、神様？
「フッ！では先に行かせてもらうぞ！！」
「あーっ、待ちなさいよっ！！」
「どおりゃぁ５だーーッ！　フッハハハハーーッ！！」
「やったぁ、６よ！」
「ギャニィーーーッ！」
「さすがですわ、姫さま！」
「えへへっ、当然よっ」
　カイルとレミットはそれぞれルーレットを回すと、先の方で立ち止まってこっちを見てる。なにこれ、一体これはどういうこと！？母さん全然わかんないわよ！！
「まぁ、来人さんはお母さんだったのですか？」
「そんな昔の某誌を読んでた人にしか分からないネタなんてあんまりです…」
「メイヤー、説明してくれぇぇっ！！」
「だからですねぇ…」
　要するに冒険の神様が、無謀な暴走を止めるためにこの世界に定めたルールらしい。うーん、確かに平和的ではあるようなないような…。
「さっさと回しなさいよ！」
「俺たちが進めんだろうが！！」
「わ、わかったよぉ…。これ、どうやって回すの？」
「気合いでぶったたくのよ！」
「気合いねぇ…。はぁっ！！」
　フィリーの言ったとおりに気合いをぶつけると、とたんにルーレットが勢いよく回りだした。おお、俺にもできるじゃないか。そしてだんだんスピードが落ちてくる…。
「ああっ１だぁーーーー！(ガビーン！)」
「このおバカ！！(ぺしぺし)」
「ハハハハハ！語るに落ちたな！！」
「やーい、ぐーず、どーじ、のーろま！」
「ひ、姫さまなにもそこまで…」
　そうこうしてるうちにカイルとレミットは５やら６やらで、遥か先方へ行って見えなくなってしまった。くっそうお前ら汚いぞ！！
「この世界ではあれくらいできて当然なの！リーダーしか回せないんだからしっかりしなさいよ！」
「リーダーかわってぇ〜〜〜」
「わ、わたしなんて、そんなもったいない」
「人をリーダーにして失敗するのを笑う気なんですね！いいえそうに決まってるわ！」
「研究の時間なくなるからイヤです(キッパリ)」
「自分の旅でしょっっ！！」
「しくしくしく…」
　その後も俺は２だの３だのを出しまくり、結果は見事にボロ負け。魔宝はカイルに持ってかれた。
「ふははははっ、これが実力だ！」
「きーっくやしいっ！！」
「こんなのってないよーーー！！」
「おやおや、やはり異世界の方には厳しすぎましたかねぇ（ポロロン）」

　ロクサーヌの話によると魔宝は複数あるそうで、なんとか首はつながった。かくなる上はルーレットの特訓だ！
「ほら、これが練習用の神の円盤よ」
「便利なものがあるなぁ…」
「ぶつぶつ言わないで早く始めるの！目標は確実に５か６を出すのよ！」
「お、おうっ！でやぁ！！」
「ああっ、わたし目が回ってしまいます…」
「無駄な時間を過ごしてる気がしますねぇ」
　次の日も、また次の日も。フィリーのしごきは続き、俺は時には血ヘドを吐いた。地面に崩れ落ちる俺に、フィリーの容赦ないおでこぺしぺしが降る。
「なにしてるのよ！そんなことであいつらに勝てると思ってるの！？(ぺしぺし)」
「う、うう…ぐはっ！」
「も、もうやめてよっ！！」
　たまらずウェンディが割って入る。
「やめてください来人さん！私…私…」
「フッ、どいてくれウェンディ。たとえ地をはってでも、俺は元の世界に帰らなくちゃいけないんだ…！」
「来人さん、あなたって人は…」
「よく言ったわ来人！それじゃ次は奥義の伝授よ！！」
「おうっ！！」
　そして俺たちはソーブルの湖に到着する…。

「フッハハハハハーーッ、またこの俺様に負けに来たのか！」
「何度やっても同じなんだから！」
「ふっ、今日の俺はひと味違うぜ…。なんなら先攻はお前らに譲ってやるよ…」
「な、なんだとおっ！」
「こ、後悔しても知らないんだから！」
　神の円盤が回り、４と５を出して停止する。俺は場の全員が注視する中、落ち着いて呼吸を整えた。
「いくぞ、特訓の成果…炎のコマーーーッ！！」
「な…なにぃこれはーーー！？」
「うそぉっ！」
　右手が炎を上げ円盤を撃つ。高速で回転したルーレットは、ぴたりと６の位置で停止した。
「んじゃお先に」
「お、おのれーーーッ！！」
「来人、かっこいい…」
「姫さま？」
「な、なんでもないわよっ！」
　カイルとレミットも必死で食い下がるが、今の俺の敵ではない。遠くやつらを引き離し、敵も余裕で回避して、難なく魔宝を手に入れた。
「やったね、来人！」
「ありがとう、フィリーのおかげさ」
「や、やーねぇもう(ぺしぺし)」
「うーむ、素晴らしいですね！」
「わたし感動してしまいました！」
「(来人さん…私あなたなら信じられそうな気がします…)」
　もちろんカイルとレミットが地団駄踏んで悔しがったのは言うまでもない。
　だがあいつらも、このままでは引き下がらなかった。

「ええいこうなったら俺様も特訓だ！真空ハリケーン撃ち！」
「ああっこのやろっ！エレクトリックサンダーー！」
「グレートタイフーンだァ！！」
「レインボーバズーカ！！」
「答案２枚返しよ！！」
「姫さま、それはちょっと違うんじゃ…」
「アアアアイリスは黙ってなさいよっ」

　海賊王の島、俺たちの戦いは熾烈を極めた。抜きつ抜かれつ決死の攻防が繰り広げられる。しかし腕も折れよとばかりに神の円盤を回し、最終的に勝利したのは俺たちだった。
「おめでとうございます！それじゃ帰りましょう」
「わー！まだ魔宝取ってないってば！」
「まぁ、そうでしたね！嫌だわわたしったら」
「でも変な海賊がいます…」
「あれが海賊王ブロスですね！ちゃちゃーっと片づけちゃいましょう」
「あ゛」
「なんです？」
「ルーレットの練習ばかりで他なんにも鍛えてない…」

　ひゅぅぅぅぅぅぅぅ

　当然、ボロ負けした。



「フハハハハハ、先行してもそのザマじゃ意味はないな！」
「ルーレットばかりしてるからですよーっだ」
「お前らもだろうが！！」
「あ゛」

全　　　滅

（ポロロン）
「ああっロクサーヌ！ブロスに勝てないよぉー！」
　いきなり現れたロクサーヌは、ボロボロになってる俺たちを見比べると、あくまでにこやかに深々とため息をついた。
「やれやれ、あなたたちなら魔宝の謎を解けるかと思ったのですが…。これじゃどーしようもないですね。別の人を探すとしましょうか」
　ポロロン、ポロロン…
　さわやかに去っていくロクサーヌ。あたりにリュートの余韻が残る。
「てめぇは鬼かーーー！！！！」


　こうして、俺たちの旅は意味もなく終わりを告げた。
　結局元の世界には戻れなかったが、ルーレットの特技を生かしさすらいのギャンブラー(笑)として今は生活している。慣れればこの世界もいいもんだ。たまにイカサマがばれることもあるが…。
「メメメメイヤー！追われてるんだ、助けろ！！」
「私ギャンブルとか嫌いなんですよねぇ…。時間を浪費してますよ」
「そんな殺生なーーっ！」
「このタコ野郎！俺の目がごまかされると思ってたのかァ！！」
「なんだよカイル！旧知の仲で見逃してくれたっていいだろ！」
「甘えんなァ！！(ボカスカ)」

　ちなみにレミットはどうしてるかというと
「ねぇアイリスぅー、スゴロクしよっ」
「またですかぁ…」
「だって私はスゴロクの女王様だもんっ。えっへん！」
　アイリスさんをスゴロクで負かしては大いばりしてるんだとさ。

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