この作品は「こみっくパーティ」(c)Leafを元にした二次創作です。

※某所のSSコンペ(テーマ:「嘘」)に投稿したものです。












フィクションの会場






 明日は夏こみ。由宇が神戸から出てきたので、和樹と詠美と、ついでに大志が喫茶店に集まった。
「なんで大志が来てるんだ?」
「うむ。前のこみパの時、大庭嬢に金を借りたのでな。せっかくだから返しに来たのだ」
「あ、そうそう、貸してやったのよ。もっと早く返しなさいよ、まったくぅ」
 大志の手から五千円札を引ったくる詠美に、由宇が本気で感心したように言う。
「珍しいなぁ、詠美が人に金を貸すなんて」
「それがねぇ、この男ったら会場で財布を落としたとかで、明日から生活できないって泣きついてきたのよ。そこでちょおお金持ちの詠美ちゃんさまが恵んでやったってわけ。優しいでしょ」
「まあ財布を落としたというのは真っ赤な嘘で、実際は同人誌を買いすぎて金がなくなっただけだがな。何にせよ助かった。礼を言うぞ!」
 堂々と言ってお冷やを飲む大志に、しばらく静寂が続いた後、詠美の声が店内に響いた。
「こ、こ……この嘘つきメガネぇぇぇっ!」
「ひどい奴だな、お前…」
「馬鹿者! 正直に理由を言ったら貸してもらえるわけがないだろうが!」
「開き直るなぁ! ばかぁーーっ!!」
「ふっ、青いなぁ詠美…」
 わめく詠美に、由宇が眼鏡を押し上げて話に割り込んでくる。
「何よぉパンダ。どういう意味!?」
「考えてもみい。財布の紛失と、同人誌の買いすぎ。ピンチとして話が盛り上がるのはどっちや?」
「え、えーと……財布の方?」
「そうや! マンガ描きたるもの、どんな設定にすれば面白くなるかを常に考えなあかん。大志はんは実生活でまでそれを実践したっちゅうこっちゃ。さすがやで…」
 しみじみと語る由宇に、詠美も人差し指を突き合わせてぽそりと言う。
「そ、そうだったんだ…」
「いや、嘘やけどな」
「〜〜〜〜!」


 解散後、和樹が詠美を家まで送ることになった。その詠美は頭から湯気を出しっぱなしで暑苦しいことこの上ない。
「あーもうちょおちょおむかつく! あいつらぁ!」
「まあまあ、冗談のつもりだったんだろ。実害はなかったんだから許してやれよ」
「うー。何よ、善人ぶっちゃってぇ」
 恨みがましい視線が、今度は和樹の方へ向く。
「だいたいあんただって苦労してんでしょ。ええと……アレのせいで」
「アレって?」
「ほら、た何とか。あたしがお金貸してやったやつ! 分かりなさいよぉっ」
 人の名前も覚えられない上に逆ギレする詠美に、和樹は呆れ気味に回答した。
「ああ、大志だろ。…くしなぶつ大志」
「そうそう、そのくしなぶつよ。あのくしなぶつなんかとよく友達でいられるわね」
「‥‥」
「なによ、くしなぶつの話になると急に黙っちゃって。くしなぶつが何だってのよ。もしかして怪しいかんけーなわけぇ? くしなぶつと」
「ごめん嘘。本当はくほんぶつ」
「‥‥‥‥」
 詠美はしばらく固まった後、腕をぐるぐる回して殴りかかってきた。
「いたたたた。ち、ちょっと落ち着けっ!」
「うそつきうそつきぃ! もーあんたなんて二度と信用してやらないんだからぁ!」
「悪かった、悪かったって! ああもう、変な冗談言うんじゃなかった…」


 家に帰ってからも怒りは収まらず、枕に八つ当たりしてから、気を落ち着かせようとCDを手に取る。
 …が、そこでふと動きが止まる。
 今回の同人誌のタイトルは、安直にこのCDからそのまま頂戴したのだが…。ジャケットの英文字列をじっと見ていると、どうもスペルを間違えたような気がする。
 何度も騙されて自信がぐらついていた詠美は、一度疑い始めると頭から離れなくなった。
 さんざん迷ったあげく、結局つかもと印刷に電話をかける。
「あ、もしもし? 詠美だけどぉ」
『あ、お姉さんですか。本は今刷ってるですよ。いっぱい注文してくれて助かるです』
「ふふん、ちょお売れっ子だもん当然よ。そ、それでね……今度の本の表紙って、タイトルは何て書いてある?」
『えーと、”LOVE DESTINY”ですか? かっこいいタイトルですねぇ』
「いや、その……スペル」
『スペルですか? うーんと、合ってるみたいですけど』
「そ、そう! ま、まあ、あたしが英語なんか間違うわけないんだけど念のためよ念のため! それじゃ邪魔したわねっ!」
 大急ぎで電話を切ると、そのままベッドに倒れ込む。
 いらない恥をかいてしまった…。でもまあ、これで一安心だし、明日に備えて早めに寝ることにした。


 そして夏こみ当日――。
 自分のブースで、『LAVE DESTINY』と大きく書かれた同人誌を手に、わなわなと震える詠美の姿があった。
「ごめんなさいです! 間違えて裏表紙の方を見てたです!」
 その眼前でぺこぺこと頭を下げる千紗。確かに裏表紙には正しく『LOVE DESTINY』と書かれていたが、そんなものは既に詠美の目には入らない。
「そう、そうなのね…。あんたまでこのあたしを騙そうっていうわけね…」
「ええー!? ち、違うですよ。ほんとにただの勘違いで…」
「うるさいうるさーい! 裏切ったな! あたしの心を裏切ったな! パンダと同じに裏切ったんだ!」
「今時エヴァパロですか? しかも使い古されたネタですよ、お姉さん」
「むっきぃぃぃぃ! あたしのこーしょーなパロにケチつけんなぁーー!」
「にゃぁぁ〜〜!」
「なんやなんや」
 騒ぎを聞きつけ、由宇と和樹もやってくる。
「来たわね嘘つきコンビ。純真なあたしを騙してそんなに楽しいっ!?」
「えらい言われようやなぁ…。そんなに言うならしゃあないわ、実はウチは嘘つきやねん!」
「それも嘘でしょ! 本当は正直者なんでしょ! あれ? ってことは嘘はついてないってことで、でも嘘つきだって言ってるんだから嘘なんだってことで……ふみゅぅぅぅん!?」
「あっはっは、無限ループ」
「遊んでどーする!」
 と、二人の後ろから、詠美のファンらしき女の子がおずおずと顔を出す。
「あの…。えと、大庭先生に差し入れ…」
「あ、ごめん。どうぞどうぞ」
 道をあけられ、しどろもどろの口調でクッキーを差し出す女の子だが…
「なによ、ファンなんて嘘なんでしょ! いかにもゆーこ的な顔して、裏では2ch同人板で『大庭詠美を叩くスレ(その54)』とか立ててるんでしょ!」
「え? えと、その、あのっ」
「叩かれてるって自覚あったのか…」
 ファンまで信じられなくなり、とうとう会場の隅で体育座りをしてぶつぶつ言い始める詠美。
「フ…フフフ、そうよ、しょせんこの世は嘘ばかりよ…。はっ! まさかこの会場にいるのは全員あたしを騙すためのサクラで、実は幕張あたりで本物のこみパが開かれてるんじゃ! そして彩は本当はあたしよりも売れてて、内心であたしをあざ笑ってるんじゃあ!?」
「重傷やなぁ…」
 顔を見合わせ途方に暮れる二人。しかしこうなったのも自分たちのせいかもしれない。ため息をつくと、できるだけ優しく声をかけた。
「すまん詠美、ウチが悪かったわ。堪忍してや、な?」
「俺もちょっと冗談が過ぎたよ」
「ふんだっ! その謝ってるのが本気だってどうやってしょーめーすんのよぉ。嘘かもしれないじゃないっ!」
「そこまで疑われちゃうとなぁ…」
 証明しろと言われても、心を取り出して見せるわけにもいかない。
 どうしたものかと和樹が途方に暮れた、その時……

1.南さんが現れた
2.大志が現れた
3.由宇が帰ろうとした














1.

「あらあら、一体どうしたんですか」
 ピリピリした詠美を前にしても、南のペースはいつも通りだった。
 和樹と由宇が事情を説明すると、頬に手を当てた南は一言。
「そう…。それは由宇ちゃんと和樹さんが悪いわ」
「でしょでしょ? さすが南さん、話がわかるぅ!」
 自分に都合のいい話になったとたん、詠美はころりと態度を変える。
「ええ、嘘はどんな理由があっても許されません。思いきり非難していいですよ」
「うう…そらないで牧やん」
「何言ってんのよ、全部あんたたちが悪いっ! ばーかばーか」
「ところで詠美ちゃん。そこまで言うからには、あなたは嘘をついたことなんて一度もないのよね?」
「え……」
 穏和な物言いだが、けっこう痛い部分だった。ごにょごにょと口ごもる詠美。
「いや、その……ええと」
「あなたが一度も嘘をついたことがないのなら、嘘つきを非難するのも良いでしょう。でも、そうでないなら、嘘をつく気持ちも理解できるなら……相手を許すこともできますね?」
「み、南さん…。あなたって人は…」
 まさにキリストのごとき南の姿に、感激の涙を流す和樹、由宇、周囲の人たち。そして詠美も、憑き物が落ちたような顔で瞳を潤ませるのだった。
「南さん、あたしが間違ってた。あたしっ、あたしっ…」
「詠美ちゃん…。分かってくれたんですね…」
「うんっ! 今こそ正直に告白するわ、ヘ−1xaはあたしのダミーサークルだって! でもまあ、誰もあたしを責められないわよね!」
 BAGOOOOOON!!
 南のジェットアッパーで吹っ飛ばされた詠美は、会場の天井を突き破ってから十秒後に落ちてきた。
「ぎゃふん! んなっ、なっ、なんでっ」
「あなたって人は…。大手だから2スペ与えてるのに、さらにダミースペースまで取りますか…」
「だ、だってぇあっちのジャンルでも売りた…。ま、待ってよぉ。嘘つきを非難できるのは嘘ついてない奴だけじゃなかったのっ!」
「あら、私は大丈夫ですよ? だって生まれてこのかた嘘をついた事なんて一度もありませんから…」
「嘘つけぇーーー!!」
 叫びも空しく、眼鏡を光らせ近づいてくる南。
 詠美は目で周囲に助けを求めるも、返ってくるのは『ダミー野郎は氏ね!』という視線ばかりだった…。


ウルトラマンコスモス「大庭詠美が急にこみパに出られなくなった。彼女がいつまたみんなの前に姿を見せる事ができるようになるのか、私にも分からない」




<END>





2.

「甘いぞ大庭詠美!」
 意味もなく天井からひらりと舞い降りてくる大志。
「何よ、しょあくのこんげんのくせにっ!」
「はて、吾輩は少しばかり嘘を言っただけだが?」
「そ、それが悪いんでしょっ」
「ほほう、では聞こう。お前が描いたあれは何だっ!」
 叫んだ大志が指さしたのは、山積みになった同人誌の箱である。
「何って…マンガだけど」
「そう、マンガ! しかもノンフィクションというわけでもない。つまりお前は――堂々と嘘を公表し、しかも値段をつけて売っているではないかぁっ!!」
「そ……それはっ……!」
 たじろぐ詠美に、大志は片手を眼鏡に当て、もう片手の指をびしりと相手に突きつけた。
「そう、このこみパ会場は、嘘を繰り広げるため場所と言っても過言ではぬぁいっ!
 むしろ想像の翼をはためかせ、嘘を構築するのがマンガの真髄……。
 つまり嘘を否定することは――マンガを否定するのと同じことだ! 違うか! 違うか! 違うかぁぁぁぁっ!」
 がぁーーん
 大志の指摘に、がっくりとその場に崩れ落ちる詠美。
「どうだ大庭詠美、お前はマンガを否定するのか…?」
「で…できないあたしには! だってあたしからマンガを取ったら、ただのプリティで可愛い女子高生だもん!」
「‥‥‥」
「でも…あたしのやってたことってよーするに嘘つきだったの? そうなの…?」
 否定はできないけど、そう言われてしまうとイメージが悪い。何が正しいのか詠美が迷い道に入りかけたその時!
「にゃははは〜、そうそう」
「わ、玲子ちゃん」
 呆然と事態を見ていた和樹の背中から現れたのは、ゲーキャラ姿の芳賀玲子だった。
「むしろ嘘だからいいんだって。何でも自由にできるもん。
 たとえ原作では彼女のいるキャラがホモになっていようが
 はたまた原作では面識すらない二人がカップリングされていようが
 あまつさえ雑誌で顔グラが出ただけのキャラが、性格を妄想200%で捏造されようが――
 元々が嘘の世界なんだから問題ないってことよ〜! にゃはははは」
「そっ… そうねっ!!」
 何だか吹っ切れてしまったらしい詠美は、がっしと玲子の両手を握る。
「あたし目が覚めた! これからも嘘をついてついてつきまくるわ!」
「とりあえず炎の英雄は鬼畜攻めよね〜」
「大志! こいつらにマンガはリアリティも必要なんだってことを教えてやれ!」
「ま、まあ男性向けもあまり人のことは言えんしな…」
 嘘にこそ価値を見出した詠美! 彼女は一体どこへ行くのか!




<END>





3.

「あーもうええわ。和樹、負け犬は放っとき」
「お、おい」
「だっ…誰が負け犬よばかパンダっ!」
 由宇の煽りにあっさり釣られ、猛然と立ち上がる詠美。
「ふふん、悔しかったらあんたも嘘言うてみたらええやん。騙されたら騙し返す……それが勝負の世界の鉄則やねんで!」
「そ、そうなんだ…」
「(言ってるそばから騙されてるし…)」
 内心で頭を抱えている和樹に気づきもせず、真剣に考え始める詠美。
「じ……実は今月中に人類は滅亡するのよ!」
「な……」
「なんだってーーー!!」
「‥‥‥。あんたたち、あたしを馬鹿にしてるでしょ」
「いやいや、そんなことあらへんでぇ」(棒読み)
 いじけた詠美がまた引きこもり状態に戻ろうとしたその時。
「和樹ーーっ!」
 列の向こうから早足でやって来たのは、和樹の手伝いに来ていた瑞希である。
「もう、何やってんのよ。あたし一人に準備させる気?」
「あ、悪い。ちょっと立て込んでてさ」
「ねえ、そこのあんたっ!」
 と、和樹を押しのけて顔を出した詠美が、突然瑞希に声をかける。
 思わずきょとんとして自分を指さす瑞希。
「え……あたし?」
「そうよっ。あんた、マンガ描いてないんでしょ。だったらコスプレしてこなくちゃダメじゃない!」
「え? え!?」
 急に言われて、何事かと瑞希は和樹へ目を向ける。
「そ、そうなの? 和樹」
「いや……その」
 何てこと詠美め。由宇は騙せないから、こみパ初心者の瑞希をカモにする気なのだ。
 止めたい和樹だが、詠美の睨む視線が言っていた。『あんたあたしのこと騙したくせに、あたしの嘘は邪魔する気っ?』と。
「お、おい詠美。あのな…」
「まったくこれだから素人はぁー。こみパはオタクのさいてんなのよっ。同人誌なりコスプレなりで参加しなくちゃ参加者とはいえないじゃない!」
「そ、そんなこと言われてもあたしはただの手伝いだし…。アニメなんてドラえもんくらいしか知らな…」
「だったらドラえもんのコスしてきなさいよっ」
「そんなぁ〜」
 おろおろと困り果てる瑞希に、さすがに和樹も意を決して止めようとする。
 が、それを手で制したのは由宇だった。
「詠美…。あんまりいい加減なこと言うんやないで」
「な、何よ」
「由宇…」
「コスプレできんときは、声マネでええっちゅう決まりやろが!」
「何ぃーー!?」
 飛び上がる和樹に目もくれず、二人がタッグで瑞希に迫る。
「そ、そうだったわねっ。ほら、あたしたちが証人になってあげるからぁ」
「ほ…本当にそういう決まりなの?」
「もちのろん!」
「これも試練やで、瑞希っちゃん!」
「ううぅ……。『こ…こんにちは、ボクドラえもんです』」
「や……」
「やったーーっ!」
 どこから出したのかクラッカーが鳴らされ、涙目で手を取り合う詠美と由宇。
「やったわパンダ! あたしにも人を騙せたわっっ!」
「ふっ、成長したなぁ詠美。ウチが教えることはもう何もないで…」
「おい」
「ま、あたしにかかればこれくらい朝飯前っていうかぁ。世紀のペテン師詠美ちゃんさま、みたいなー」
「おい!」
「何よぉポチ。人が盛り上がってるんだから邪魔しないでよ」
「いや……あれ」
 和樹の指さした先へ、渋々詠美が振り向くと…
 これまたどこから持ってきたのか、棘付きラケットを手にした瑞希が、青白い炎を立ち上らせていた。
「ひぃぃえぇぇぇぇ!」
「ふ、ふふふ…。あんたたち、そんなに楽しかった? 楽しいかったのね、へえ…」
「ままま待ってっ! ほんの出来心な冗談なわけでっ!」
「そ、そうそう! 嘘も方便っちゅーことで!」
「嘘も方便……で済むかぁぁ!! バカーーーーッ!!」
「ギニャーーー!!」

 こうしてその日のこみパは…
 重傷患者3人が救護室へ運び込まれるという、史上初めての事態となったのだった。
「やっぱり嘘はあかんよな…」
「そうね、正直に生きないとね…」
「って何で俺まで巻き添えなんだよ!!」




<END>




感想を書く
ガテラー図書館へ
Heart-Systemへ
トップページへ


※3.を差し替え……つってもこの程度の展開しか思いつきませんでした。ヘタレでスマン。