この作品は「ときめきメモリアル2」(c)KONAMIの世界及びキャラクターを借りて創作されています。
「一度プレイした人向け」程度のネタバレを含みます。
一応「ひびきの動物園日誌」の続きになっています。






ひかりんのクリスマス大作戦








 もうすぐ今年もクリスマス! ジングルベルの流れる街を見てるとなんだかワクワクしてくるよねっ。
 去年は琴子&男の子2人と遊園地で遊んだけど、今年はどうしよっかな?
「そんな君のために光ちゃん! 今年もナイスなシチュエーションを用意したよっ」
「あ、坂城くん」
「はい、光ちゃんの分」
 坂城くんが差し出したのは、伊集院家の紋章が入ったプラチナに輝くパーティ券だった。
「こ、これは伊集院家クリスマスパーティの招待状っ!? 私なんかが行ってもいいの!?」
「もちろん、光ちゃんのために苦労してゲットしたんだからね〜」
「ほざくな庶民がーーっ!!」
 どげしっ!
 いきなり背後から蹴り倒される坂城くん。
「や、やあっ伊集院さん」
「お前がどーしても配りたいと言うから配らせてやってるだけなのだ! 図々しいったらありゃしないのだ!」
「あ、早く続きを配らなくちゃ。あー忙しい忙しい」
「坂城くん、この券2枚あるよっ?」
「水無月さんには光ちゃんから渡してあげてね。じゃあね〜」
「逃げるか庶民ーーーっ!」
 行っちゃった…。えーと、みんな元気があっていいよねっ!
 この分なら全員招待されてるみたいだし、今年もみんなで楽しめるといいな〜。
「ね、公くんは券もらった?」
「ああ、クリームソーダと引き替えにな…。くそう匠の野郎」
「やったー! じゃあ去年みたいに4人一緒だねっ!」
「…来るのか? 水無月さん」
「あ゛」
 思わず手の中の券を見つめる私。
 ま、まあ親友の私が誘えば大丈夫だよ、うんっ!


「ク・リ・ス・マ・ス・ですってぇ〜〜!?」
 甘かった…。
 茶道部を訪ねた私を待っていたのは、琴子のちゃぶ台ひっくり返しだった。
「あなたという人はあなたという人はっ! そんなバテレンの祝祭に私を誘おうなどと、どうやら私たちの友情もこれまでのようね」
「わああああ! い、いーじゃない日本人がクリスマス祝ったってぇ!」
「じゃあ答えなさい光! 切支丹でもないあなたがなぜキリストの誕生日を祝うと言うの!?」
「え、え〜っとぉ。やっぱり世間はクリスマス一色だし、せっかくだから楽しみたいなーみたいな」
「ああ嘆かわしい…。自らの考えも持たず流行に流されるとは、日本の学生水準はここまで落ちていたのね…」
 悪かったね…。
「そう言わずに一緒に行こうよぉ。公くんたちも来るしさ、ねっねっねっ」
「ふんっ、冗談じゃないわ。絶対嫌よ。行くなら一人で行きなさい」(つーん)
「うううっ…。琴子のばかぁ〜!」
 すげなく断られた私は泣きながら走り去った。ちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃない、けちー!


 で、翌日。
「うーん、やっぱり水無月さんは無理か」
「ま、まだ諦めるのは早いよっ!」
 公くんと坂城くんを前に、拳を握って力説する私。やっぱり行くなら琴子と一緒に行きたいもん。
「何か方法はあるはずだよ! さあ一緒に考えようっ!」
「考えようって言ってもねー」
「よう、何騒いでるんだ」
 ガラガラと扉を開けて穂刈くんが教室に入ってきた。そーだ、彼って琴子のこと好きなんだよね。
「ねー穂刈くん、伊集院さんのところのパーティ行くよね?」
「ん? ああ、一応…」
「やったー! じゃあ穂刈くんから琴子を誘ってあげてよ。ねっ!」
「み、みみみ水無月さんを俺がっ!?」
「そう、君が!」
「いや、その、しかし…」
 あーあ、真っ赤になっちゃった。ホントに純な人だなぁ。
 寄ってきた公くんと坂城くんも調子を合わせる。
「そうだぞ純、クリスマスに好きな子を誘うのは男の義務とゆーものだ」
「まさに恋人達の季節、一気にラブラブになるチャンスだよね〜」
「恋人…ラブラブ…。ぬおおおおおっ!」
 あ…行っちゃった…。
 ってだめじゃん!
「も〜、それじゃ公くんが誘ってあげて」
「水無月さんは怖いから嫌だ」
「そんなことないよ! 確かに琴子はちょっと頑固で冷血で髪型が変で右○だけど、根はとってもいい人なんだよ!?」
「それは誉められたと思っていいのかしら? 光…」
 肩にぽんと置かれた手は、振り返ると額に青筋浮かべた琴子だった。
「ひょぇぇえええ!!」
「何やらつまらないことを企んでたみたいねえ」(ぺきぽき)
「ないない、なにもないですぅっ!」
「やっぱ怖いじゃないか…」
「主人くん何か言ったっ!」
「い、いや別にっ! さーてそろそろ授業の準備を!」
「あ、俺も俺も〜」
「2人の薄情者〜〜っ!」
 あっさり孤立無援となった私は、指を鳴らしてる琴子をひかりんスマイルで迎撃する。
「えへへ〜」
「ごまかされないわよ」
 失敗!
「ふぅ…。だから行くなら一人で行けばいいでしょ。私は止めないから」
「そんな〜、琴子と一緒がいい〜!」
「子供みたいなこと言ってるんじゃないの!」
「ううっ…。ひどいよ、私はこんなに琴子のこと愛してるのに…」
「誤解を招くよーな言い方はやめなさいっ!!」
「いいじゃない〜! 年に一度のクリスマス、楽しまなきゃ損だよっ! さあ琴子も一緒にご馳走食べにレッツゴー!」
 とまで言ったとたん、ピッカーと琴子の目が光った。
「光…あなたどうやら命が惜しくないようね…」
「え? え!? 一体何がっ!?」
「私の前でエゲレス語を使うとは!!」
「ええ〜〜!?『レッツゴー』なんて既に日本語じゃないっ!」
「そんなもの日本語と認めるかぁぁぁぁ!!!」
「いやぁぁぁぁああ〜〜〜!!!」
 暴れ出した琴子によって教室は壊滅。クラス全員が避難した中、私一人机のガレキの中で救助を待つ羽目になった。ううっ、くじけるもんかぁっ。

------- その頃の会長と茜ちん -------
「くっそぉ伊集院のヤロ〜! やけに大勢招待してると思ったら、要はあたしだけ仲間外れにしようって腹かっ!」
「あ、ほむらは券もらえなかったんだ〜。タッパーあるから料理だけ詰めてきてあげるよ」
「へっ、伊集院とこのメシなんざこっちから願い下げだぜ。見てやがれーこのままじゃすまさねーからな。この右腕のドリルにかけて!」
「パーティぶち壊すのはダメだよ! 年末の大事な食糧なんだからねー!」
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 放課後。
「琴子〜! どこ〜〜!?」
 ドドドドドドドドドドドド
「にゃー!」
「あっ、ごめーん!」
 琴子を探して縦横無尽に走り回る私。途中で寿さんを轢いたりもしたけど、まあダンプよりは軽いんだから大丈夫だよね。
 ど、どこにもいない…。逃げたなぁ〜!
「ガッハッハッ、元気に走っておるのう」
「あ、校長先生。それはもう走ってこその陽ノ下光、ダイガードEDのごとくたまには景色を楽しみながら走り続けます!」
「うむうむ、元気があって善哉善哉…が、廊下を走った罰として伝説の鐘の掃除ッ!」
「ひえ〜〜!」
「ワシがひびきの高校校長、爆裂山和美である!!」
 とほほ〜。仕方なくとぼとぼと時計塔に向かう。
 って鐘つき堂の入り口どこだかわかんないよ〜!
 色々迷ってるうちに屋上に出ちゃった。あれ? あの人は…。
「‥‥‥」
 背の高い女の子が、遠い目をして金網越しに街を見ていた。
「あ、あなたはゲームの進め方によっては真冬でも平気で屋上につっ立っている、某みさき先輩以上の強者・八重花桜梨さん!」
「…なにか用?」
 あ〜ん、冷たい目で見たぁ〜〜。
「特に用はないんだけどねっ。あ、八重さんもクリスマスパーティ行くの?」
「‥‥‥‥‥」
 うっ、なんだろこの世界の終わりみたいな暗い雰囲気は。
「…一緒に行く友達、いないから…」
 き、聞いてはいけないことを聞いちゃったみたい…。
「唯一仲が良かった佐倉さんも転校しちゃったし…。世間がクリスマスで浮かれている間、私は話し相手もなく一人ぼっち…」(どよ〜ん)
「あ、あはは、そ、そうなんだ。ごめんね、それじゃっ!」
「ちょっと待った」
 むんず
「ま、まだ何かっ?」
「あなたには人の心ってもんがないの…!?」
「わ、私にどうしろとーっ!?」
 手を離して、湖の底のように沈んだ瞳で金網に手をかける八重さん。
「…もういい…いっそここから飛び降りよう…」
「わーーっ! ちょっとちょっとぉ!」
 目がマジなので慌ててその腕にしがみつく。
「いいの…。どうせ私なんて一片の存在価値もない惨めな女の子なんだから…」
「なんかよくわかんないけどとにかくそんなことしちゃダメだよ! 青春は一度きりしかないんだよ!?」
「…それ、私の持ちネタ…」
「いちいち細かい人だなぁっ! だから友達できないんだよ、って首吊るなぁーー!」
 どこからロープ取り出したのよー!とかいう問題じゃなくて。
「よしっ、私たちと一緒にパーティ行こう!」
「え…」
 一瞬嬉しそうになる八重さんだけど、無理矢理視線を逸らして暗い顔をする。
「いいわ無理しなくても…。迷惑だろうし…」
「アンタ今さらそんな」
「‥‥‥‥(じ〜〜〜)」
「あーもうっ、行こうったら行こうっ!」
「う、うん…。ごめん…」
 ようやく素直になって、まっすぐ私の方を見た。
「私も…一緒に行っていい…?」
「うんっ!」
「あ、ありがとう…」
 えへへ〜。やっぱり人という字は人と人が支え合ってるんだねっ!
 八重さんの手をしっかと握りながら、あらためて琴子を誘うことを決意する私だった。
(鐘の掃除? 忘れた)


「ふぅ、ようやく光も諦めたみたいね」
 呟きながら帰ろうとする琴子を、電柱の上から見守る私。それは甘い考えだよっ。とうっ!
「ソーラーパワー! 太陽の少女、陽ノ下光参上!!」(意味なし)
「…どうでもいいけど何でそんなにハイテンションなのよ…」
「子供は風の子、元気な子だよっ!」
「光…。親友として忠告するけど、クスリはダメよ?」
「誰がラリってるかぁ!」
 琴子の前に回り込んで、くいくいと腕を引っ張る。
「ねー一緒に行こうよー。ねーねーねーねーねーねーねーねー」
「ええいやかましいっ! 一人で行けって言ってるでしょっ!」
「琴子…」
 ぽろぽろぽろ…
 昔の泣き虫に戻った私の目から、涙がとめどなく溢れ出した。
「泣くことないでしょーーっ!」
「高校2年生のクリスマスは二度とないんだよ…? 私は琴子と楽しい思い出を作りたいだけなのにっ…」
「わ、私に泣き落としなんて効かないわよ」
「琴子ぉ…」
「そ…そのすがりつく子犬のような目はやめなさいっ!」
「(じーーーーー)」
「ああぁぁぁぁっ!!」
 琴子、陥落。
「わかったわよぉ…」
「やったーーーーーーーー!!」
 八重さん、あなたの技は有効に使わせてもらいました!(ぐっ)
「わーいわーい! それじゃ当日は6時に橋の前で待ち合わせね。楽しみ〜!」
「ああ、あんな催しに出るなど水無月家末代までの恥…。もうご先祖様に顔向けできないわ…」
 まーまー、行ってみればきっと楽しいよっ!
 膨らむ期待に胸をわくわくさせながら、24日を指折り数える私だった。


 そしていよいよクリスマスイヴ当日! 日がゆっくりと沈み、街全体が何か神聖な空気に覆われる夜…。
 に、私は必死で走っていた。
「遅刻するぅぅぅーーーー!!」
 ああっなぜ? ちょっと服選んでプレゼント包んでテレビ見てただけなのになぜーー!
 そのとき背後の道からクラクションが!
「光ちゃん、よかったら乗っていかない?」
「ああっ華澄さんだぁ! 助かったぁ〜!」
 いそいそと乗り込む私。
「えへへ〜、ありがとうございますっ」
「いいのよ、ゼミのクリスマス会に行く途中だから…。光ちゃんは相変わらず元気ね」
「あ、あははー」
 うう、子供だと思われてるんだろうなぁ…。車が動き出し、運転する華澄さんをちらりと横目で見る。
 相変わらず美人だし、落ち着いてるし、頭もスタイルも良くて、その上大学生の分際で車持ってるなんてどこまで贅沢な…。
「光ちゃん、今失礼なこと考えてなかった?」
「とととんでもないですぅ」
 と、一台のスポーツカーがクラクション鳴らして横を通り過ぎていった。
「あははー、追い抜かれちゃったね…てっ!?」
 いきなりアクセルを思いっ切り踏み込む華澄さん!!
「私の前を走るんじゃねぇぇぇーーーー!!」
「ひぃぃい!?」
 パパラパパラパパラーーー!!
「フルスロットルから神業の如きコーナーリング!!」
 ギャギャギャギャギャギャ!!
「いやぁぁぁあああああ!!」
「光ちゃん! これがマッハの領域よ!!」
「そんなもの体験したくないぃぃぃぃぃ!!」
 ドズーーン!!!
 1分もしないうちに車は電柱に激突し、華澄さんは頬に指を当ててにっこり微笑んだ。
「なーんて、ね☆」
「何がーーー!!?」
「ここからなら近いから歩いていってくれるかな。あ、でもどうしても車がいいならそのへんのをカージャックして…」
「いい! いいです走っていきます! ありがとーございましたっ!」
 思いっきりドアを開けると私は脱兎のごとく逃げ出した。に、二度と華澄さんの車には乗るもんかぁぁぁっ!!
 たったかたったか…
 橋のところまで来ると、既に八重さんが待っていた。
「メリークリスマース! かーおりん!」
「…かおりんて誰…」
「あ、琴子まだ来てないんだー。そうそう、かおりんのことも琴子に話しといたからね。いい友達になれるといいねっ」
「そ、そう…」
 時計を見ると6時ちょっと前。彼女時間に正確だからちょうどに来るかな。
 普段どてらなんて着てるから目立たないけど、ホントは美人なんだし、着飾ったところをみんなに見せて驚かせてやりたいな〜。
 とかなんとか考えてるうちにもうすぐ6時。3、2、1…
「あら、待たせちゃったかしら?」
 ほーら来た。
「ううん、今来たところだよっ」
 と、振り向いたそこには…

 甲頭巾!
 火消し装束!
 三つ巴紋の陣太鼓!!
「なぜに大石蔵之助ぇーーー!!?」
「ごめん…やっぱり友達にはなれそうにもないわ…」
「ふっ、何を言っているのふたりとも。日本人なら年末は忠臣蔵! ましてこれから敵の集会に乗り込もうというのだから、いわば我々は赤穂浪士にも等しいということよ!」
 がっくりとその場に座り込む私。こ、こんな格好じゃ会場に入れてもらえるわけないよぉ…。
「ひどい、ひどいよ琴子…。そんなに嫌なら最初からそう言えばいいじゃない!」
「だから何度もそう言っとろーがっ!!」
「ああーんもうだめだぁ〜! この世の終わりだぁーー!」
「ち、ちょっと光…」
 泣きわめいてる私に、かがんだ蔵之助もとい琴子がそっと肩に手を置いた。
「ごめんね光…。冗談のつもりだったんだけど、少し度が過ぎたみたいね…」
「ええっ冗談だったの!? わ、私こそごめん。普段がアレなだけにてっきり大マジなものとばかり!」
「なんか引っかかる言い方だけどまあいいわ…。決して光を悲しませたいわけじゃないのよ?」
「琴子…」
「美しい友情だね…」
 そっと涙を拭うかおりんとともに、私たちの間を暖かい空気が包んだ。ありがとう…青春…!
「で、着替えは?」
「ないわよ」
「‥‥‥ねぇ‥‥本当に冗談だった‥‥?」
 全然問題は解決してないじゃない〜!
 私が叫びかけたその時。
 シャンシャンシャンシャン‥‥‥
 空から聞こえる鈴の音。思わず見上げると、なぜかカエルに引かせた小さなソリが、空中から滑り降りてきた。
 その上には赤い帽子と赤い服に身を包んだ女の子…
「メリークリスマス、良い子のみなさん」
「てゆーか白雪さん! どうやって宙に浮いてるの!?」
「私は魔法のサンタ、ケロケロ・ケロリーナ。今日はお困りのあなたがたにプレゼントを贈りに来ました」
「って白雪さんでしょっ! 既に人間じゃないよそれっ!」
「やっぱりサンタさんはいるんですよね、妖精さん?」
「人の話を聞けぇーー!」
 丸無視した白雪さんはどこからかステッキを取り出すと、あんぐり口を開けてる琴子に向かって一振りする。
「ヘンな衣装よ、素敵なドレスにな〜れ。ピピルマピピルマー!」
 ボン!
 音ともに琴子の体が白い煙に包まれる。
 ゆっくりと晴れたそこには、紫のドレスに身を包んだ綺麗な琴子が立っていた。
「ああっ! ちょっと何よこれ!」
「まぁ、そんなに喜んでくれて私も嬉しいです」
「こらぁ妖術使い! こんな洋風の衣装私が着られるわけないでしょっ!」
「いいことをすると気持ちがいいですね、妖精さん。それではみなさんさようなら〜」
 シャンシャンシャンシャンシャン…
「ありがとう、魔法のサンタさん!」
「日和ったわね光ぃーー!」
「えへへ〜、よかったね。これでパーティにも入れるよっ」
「じ、冗談じゃないわよ。こんな肩の出た破廉恥なドレス、大和撫子の着るものじゃあないわ!」
「大丈夫よ…。水無月さんが大和撫子だなんて誰も思っちゃいないから…」
 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
 数秒後、石化した琴子を抱えて私たちは会場へ急いでいた。
「かおりんて意外ときついね…」
「事実を言っただけなのに…。やはりこの世は嘘と裏切りで塗り固められた上辺だけの人間関係で構築されてるのね…」
「わーーっ、また落ち込むーー!」
 なんてやってる間に会場にとうちゃーく!
「メイ様のお友達でいらっしゃいますか?」
「人類みな友達だよっ!」
「結構です。どうぞお入りください」
 そして巨大な建物の中に入るとそこには…

「すごーい! すごいねーすごいすごいすごいすごーーいっ!!」
「落ち着きなさいっ!」
「私…離れて歩いてもいい…?」
 復活した琴子にいきなり怒られたけど、本当に豪華だなぁ。あたしゃ生きててよかったよ。
「はぁっ…。けばけばしいというか成金趣味というか、趣というものが全く感じられないわね」
「まあまあそう言わず。あ、伊集院さんだ」
 会場の明かりが落ち、壇の上に立つ伊集院さんにライトが当てられた。
「庶民どもよく来たのだ。日頃の現実を忘れて今日はせいぜい楽しむがいいのだ」
 ガラガラガラ…
 背丈の倍はありそうな大きなケーキが台座に乗って運ばれてくる。伊集院さんの手にはこれまた大きなキャンドル。あ、これから火をつけるんだぁ。
 ん?
「ねえ、あのケーキ足が生えてない?」
「ケーキに足が生えるわけないでしょ」
「いや、あの台座のカーテンの下から足が見えたような気がしたんだけど…」
 うーん、気のせいかなあ?
 キャンドルがそろそろと伸び、今にも火がつくという時だった。
「ディアナ・ソレル覚悟!!」
 べしゃ
 ケーキ台の下から飛び出した人影が、何かを伊集院さんの顔に押しつけた。
 何かってゆーかケーキ…
「な、な、な…」
 クリームまみれの顔が小刻みに震える。
「ニャハハ。あたしからのプレゼントだぜ、遠慮なく受け取りなっ」
「こ、この山ザルーーっ! メイの前で∀ガンダムごっことはいい度胸なのだーーっ!!」
「おおっとーあたしはこの辺で退散するぜ。アバヨ!」
「ふみゅぅぅぅんっ! 泣かす! ぜぇったい泣かすぅっ!!」
「メイ様、ゲームが違います!」
 ドドドドドドド…
 会長と伊集院さんが土煙を上げて駆けていくのを、その場の全員ただ呆然と見送っていた。
「…とまあ、クリスマスとはこのように楽しいものなんだよっ」
「何がどう楽しいのよ…」
「お、来てたのか光」
 ぞろぞろとやってきたのは男の子3人。
「わ〜い、公くんだぁ〜」
「八重さんも来たんだね〜」
「‥‥‥一応」
「う、うう美しいです水無月さん!」
「ち、ちょっとジロジロ見ないでよ!」
 わいわいがやがや
 うん、やっぱりクリスマスはこうでなくちゃね!
「ね、みんな一緒がいいよね」
「…ハイハイ」
「も〜、素直じゃないんだから〜」
 ああでもこんな高級料理がタダなんて、ひびきの市に住んでて良かったぁ〜。このジュースなんかも…
「光、それは酒だぁっ!」
「はひ?」
 あ…
 公くんの顔が3つに見えるぅ〜
「ああっまずい! まずいぞ!」
「どういうことよ主人くん!」
「幼稚園の頃にも光は間違って酒を飲んだことがあったんだが、その時は…」
 うふ、うふふふ…
 なんか最高にハイってやつだぁ〜!
 ああ〜〜〜


 あれ?
 夜風の冷たさに目を覚ますと、私は誰かに背負われて会場の外を運ばれていた。
 琴子の匂い…。薄目を開けると、琴子の背中の上だった。
「まさか光があんなことをするなんて…。八重さん、このこと本人には黙っておいてもらえるかしら…?」
「そうね…。みんなの前で○○○して△△だったなんて絶対言わないわ…」
 ‥‥‥‥。
 寝たフリしてよう…。
「でも…」
 くすっ。かおりんがちょっと笑ったみたい。ああっ見たかった。
「な、何よ?」
「本当に仲いいのね…」
「べ、別に。そのほら、見てると危なっかしいじゃないこの子は。ほんと、世話焼かせるんだから」
「…私には、そんな友達いないから…」
「そんなことないよっ!」
 思わず叫んだ私に、かおりんが驚いたように顔を上げる。
「同じ学校の生徒だもの。私たちはみんな友達、奇跡の友情パワーだよ!」
「陽ノ下さん…」
「光…。起きてるならとっとと降りんかあっ!」
「あうっ!」
 地面に落とされ、座り込んでえへへ〜と笑う。
 きっとこれもいい思い出だよね。
 だって、思い出はあなたの心にあるから。
 だから忘れないで。あなたの想いが伝説の鐘を鳴らせることを…
「って華澄さんどこから出てきたのっ!?」
 人差し指を立てたいつものポーズを道端で決めてる華澄さん。まさかずっと待ち伏せしてたんじゃ…。
「ふふっ。やっぱり最後は真のヒロインが締めるべきでしょ?」(カメラ目線)
「どっち向いて喋ってるんですかぁっ。だいたいSSじゃわかんないってばっ!」
「まあまあ…。それじゃ3人とも、私の新車で送ってあげるわね」
「あら、それは助かります」
「外は寒いものね…」
「(ひーーーー!!)」
 声にならない悲鳴を上げて制止しようとする私に、華澄さんが笑顔を向ける。
「光ちゃん…。昔のこといろいろバラされたい?」
「あうぅ〜〜!!」
 結局なすすべなく車に押し込められる私。数分後、聖夜のひびきの市に3人の悲鳴が響き渡ったのでした…。





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 その頃パーティ会場の片隅では、犬と一緒にヤケ酒をあおっている某飼育員の姿があった!
「ムク…。しょせん人の運命は変えられないものなんだね…」
「クゥーン」
「ま、まあ動物園はちゃんとあったんだからいいじゃないっ。声だけなのはみんな一緒だしっ」
「見晴ちゃん、こうなったら思いっきりグレちゃおうね! その名も『動物番長』&『コアラ番長』としてひびきの高校に殴り込みよ!!」
「弱そーーー!!」



<END>






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