この作品は「ときめきメモリアル2」(c)KONAMIと「賭博黙示録カイジ」(c)福本伸行/講談社を元にした二次創作です。
八重花桜梨に関するネタバレを含みます。

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パロディSS:ときめき黙示録カオリ






 
 
 
 

第1話「発売」



 1998年3月。高校に入って1年。八重花桜梨は最悪だった。
 バレー部の皆に裏切られ、しょぼい孤立としょぼい人間不信の日々…。
(くそっ… くそっ… この苦境を切り拓く何か… 有効な手だてはないものか…?)
 教室に居場所がなく、いつものように屋上で時間を潰していると、不意にきしみ声を上げて扉が開く。
 現れたのは、可愛い系の顔をした一人の男子生徒だった。
「君…? カオリ… 八重花桜梨さん…?」
「そうだけど…」
 坂城匠と名乗ったその少年は、バレー部からの伝言と前置きして要件を伝えた。盗んだ部費を早く返せ、と。
「な…! ふざけろっ…。誰が払うかっ…!」
「ククク… 鈍いなカオリさん。お前はめられたんだよ…」
「きさまっ…!」
 図星を指されて激高するカオリに、匠は手を広げてそれを制する。
「カオリっ…! 本意じゃねえ。俺だって女の子にこんなことは言いたくねぇ。
 落ち着け。これから話すのが俺の本意。
 一ヶ月後に… プレステであるギャルゲーが発売される」
「ギャルゲー…?」
「ああ。とある超有名ギャルゲーの続編となる作品。
 そこで人気が出れば、グッズ、CD、アイドルデビューと思いのまま。
 カオリ… お前、これに出演しろっ…!」
 突然の提案に、半ば呆気にとられるカオリに、匠は内心でほくそ笑んだ。
(ククク… お前のような萌えしか取り柄のない女キャラの最終戦さ。
 可愛い女の子どもがプレイヤーをときめかせる修羅の学校…)
 その名はひびきの高校…
 ときめきメモリアル2……!

「カオリさん。あんたがときメモ2に登場するのは、非常にラッキーなことだと思ってるんだよ」
 どう判断したものか困っているカオリに、匠は人のいい笑顔で話し出した。
「あんたの毎日って今ゴミって感じだろ? 部活には出られない、友達はいない…」
「え……まあ……」
「このときメモ2は、あんたの負け癖を一掃するいいチャンスだ。
 『ときメモ』で人気上位3人に入れば、それはギャルゲー界に君臨したも同然…。
 勝てっ、カオリ…! 勝って人気キャラの座を掴め…!」
 その言葉の勢いに、カオリは言葉もなく立ち尽くす。
(ナンパ男の言うことに感心してりゃあ世話はない。
 しかし… この男の言うこと当たってる…。
 私は確かに… なんていうか、スゲー煮詰まっていて…)
 と、不意に電話のベルが鳴る。
 ポケットから携帯を取り出して二言三言話した匠は、顔を上げるとカオリに気の毒そうな目を向けた。
「残念… なくなった…」
「は…?」
「出せるキャラは13人だけなんだからよ…。仕方ない…こうなりゃお前このまま退学するしか…」
「ち、ちょっと待って!」
 大慌てで詰め寄るカオリ。
「な、なんとかならないかな…」
「なんだ…? おまえ参加したいのか…?」
「まあ……その……どちらかというと……」
 煮え切らないカオリに匠は舌打ちすると、再度携帯に向かって会話する。
 何とかねじこめた、と匠はひびきのの場所を教え、カオリは礼を言ってあたふたと屋上を後にした。
 数瞬の後、給水タンクの影から別の男子生徒が、やはり携帯を手に姿を現す。
「上手くいったな匠」
「ああ、これは不動産屋の常套手段。さもその物件が引く手あまたのように電話をかける。何事も応用だよな…」
「しかしちょっと可哀想っていうか…。あいつ綾波のパクリとか言われるクチだろ、どっちかというと」
「そりゃそうだ。さっき俺が嘘電話をしていたとき、あいつたぶん俺のこと『いい人』と思ったと思うんだよ」
「いい人、か…?」
「ククク…」
 匠の口が嘲笑に歪む。
「俺が『いい人』のわけねえじゃねぇか…!」
(話にならない甘ったれ…。ギャルゲー界じゃああいうウスノロは…。
 いのいちに不人気… マイナーキャラ……!)


 ひびきの高校に転校したカオリは、桜が舞う中校舎へと急いだ。
 既に他のヒロインたちも来ており、校庭へ向かって歩いている。
 その連中を見て頭を抱えるカオリ。
(あちゃ〜〜。何だよこいつら…。どいつもこいつも変な髪の色にアニメ絵…。
 しかしまあ…。萌えキャラを集めたギャルゲー。無理もねえか…)
 自分を棚に上げてそんなことを考えるカオリに、近づいてきたのは作業着姿の女性だった。
「あんさんの思ってることわかるで。のう、カオリさん」
「‥‥‥? おまえ、なんで私のこと…」
「ククク…ゲーム雑誌に載っとるやないの。まあ、私は隠れキャラやからまだやけどな…」
 九段下舞佳、と名乗ったその女性も、このゲームの参加者であるらしかった。
「しかしこのギャルたち、善良な少女ばかりってわけやない。人気トップを虎視眈々と狙っとる奴もおる。
 人気が出なかったときの処遇は、そりゃあひどいもんやで。
 グッズは店の片隅で山積み。ドラマシリーズではチョイ役。同人誌も売れんから誰も描かへんっちゅう話や」
 ぞっ…
 カオリの背筋を冷たい汗が落ちる。
「マジかよ…?」
「確かには知らん。しかし覚悟は必要や、ええかカオリさん…」
 しかし舞佳の話は途中で切れた。校舎を見上げる位置に集結したヒロインの前に、一人の男が現れたのだ。
 校庭に設置された壇に立つのは、袴姿で髭面の初老の男だった。
「わしがひびきの高校校長、爆裂山である!
 ではさっそくですが… これから皆さんが行うゲームの説明をしましょう。
 プレイヤーは皆さんに電話をかけ、デート等のイベントで好感度を上げます。
 最も好感度の高いヒロインが、卒業式に伝説の鐘の鳴る中で告白します。
 いわば13人の中から最も萌えるヒロインを選ぶ… 限定高校生活…!」
 限定と聞いて… すぐにある予感が走った。
 この勝負可愛さ健気さじゃない。おそらくは愚図が墜ちていく。
 勝つのは知略走り他人出し抜ける者…!

「では、説明を終わらせていただきます」
(え…。それだけ…?)
 お辞儀して退場しようとする爆裂山に、呆気にとられるカオリたち。
「人気が出なかったらどうなる…? 人気下位のキャラの処遇を聞きたい…!」
 立ち上がってそう叫んだのは、水色の長い髪をした少女だった。
(あ、それは私も聞きたい…)
 心の中で同意するカオリ。が…
「質問には一切お答えできません」
 回答を拒否する爆裂山に、少女たちのざわめきが大きくなる。
「何を言うかっ…! バカにする気かきさまっ…!」
「そうだっ…!」
 続いて、茶色い髪の半袖少女が立ち上がる。
「そもそも人気で差別しようというのが非人道的…。ヒロインは全員公平のはず…!
 我々にはビデオクリップでムービーを作ってもらう資格がある…!」
「そうだっ…! そうだっ…!」
 場は大騒ぎとなり、右往左往していたカオリも一緒になって拳を上げる。
「そうだっ…」
「Fuck You」
 しかし、その一言が場を凍りつかせた。
 好々爺の面影は消え失せ、地獄の鬼のような爆裂山の目が、吐き捨てる言葉とともに向けられる。
「ぶち殺すぞ… ゴミめら…!」

 ざわ・・・
「う…」
 ざわ・・・ ざわ・・・
 気圧されたヒロインたちを前に、語り始める爆裂山。
「お前たちは皆… 大きく見誤っている…。
 まるでときメモ1直後のギャルゲー黄金期のように、この世をキャラ中心… 美少女さえ出せばユーザーが勝手に萌えてくれる…。
 そんなふうにまだ考えてやがるんだ。臆面もなく……!
 甘えを捨てろ。
 おまえらの甘え… その最たるは、今、口々にがなり立てた、ヒロインは全員公平… その考えだ。
 マルチとレミィが、ほのかと美由紀が同じ扱いか? なぜ、そんな風に考える…?
 前作の、藤崎詩織。
 虹野沙希。
 館林見晴…。
 彼女らが今脚光を浴び、誰もが賞賛を惜しまないのは
 言うまでもなく、ただ、彼女らが萌えたからなのだ…!
 勘違いするな。立派な人間だったからじゃない。
 彼女らは萌えた。ゆえに今、その全て、人格まで肯定されている。
 もし彼女らが、萌えないキャラだったらどうか…?
 可愛い女の子でなかったらどうか…?
 これも言うまでもない。おそらく
 虹野はお節介。
 館林はストーカー。
 そして藤崎は、いけすかない高慢女。
 誰も相手にさえしない。わかりきったことだ。
 お前らは『ときメモ』の後継者なのだから、もう気がつかなきゃいけない。
 もう、心に刻まなきゃいけない…!
 人気こそが全てだと…
 萌えなきゃゴミ…
 萌えなければ…
 萌えなければ…
 萌えなければ……!」



 校長の爆裂山は、カオリたちには耳の痛い「檄」を飛ばし、壇を降りた。
 同時に大音量のOPが流れ始め、舞台は入学式に変わる。
 三年間の高校生活は始められたのだ…。
(バカな…! バカな…! なんでこう簡単に始まっちまう…?
 くそっ…。やるしかねえっ…!)
 覚悟を決めたカオリは、屋上へ行って考えをまとめ出す。
(一見考えると運否天賦…。生き残る可能性は、プレイヤーの好み次第に思える…。
 しかし…何かあるはずだ、何か… 萌えの可能性を高める何かが…!)


第1話  終‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


【次回予告】
『年上年上ときたからもう年上キャラはいないなんてのはまさに泥沼…
 嵌っている… 既に泥中、首まで……!』





# 続きません(^^;

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