【注意】このSSは「彩のラブソング」の紐緒イベントを元にしています。
本編の設定とは全然違ってますが気にしないでください(^^;
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紐緒SS:クソゲー攻防日記
文化祭も間近に迫り、我ら電脳部も追い込みの時期である。であるが出展するはずのゲームの開発は順調に遅れており、そろそろ部員の間に諦めムードが漂う悲惨な状況だったりする…。
そんな所へ紐緒さんが突然入部を希望してきたのは驚いた。殺人レーザーを開発して科学部に出入り禁止になったらしい。
しかし命知らずにも、部長は彼女にひとつの条件を出したのだった。
『入部を認める代わりにゲームを1本作ること!』
「私も随分なめられたものね」
「ごめん、ほんっとーにごめん。紐緒さんだけが頼りなんだっ」
紐緒さん付きを命じられた僕は、徹頭徹尾ご機嫌取りに回るしかなかった。実際最後の頼みの綱なので一概に部長を非難もできない。
「ふん…まあいいわ。でも生憎だけどTVゲームなんていう猿の遊戯はやったこともないわよ」
「あ、それなら参考資料は山ほどあるから」
部室の片隅にあるテレビにつながれたプレステ、サターン、ムキャ、FXetcを指し示し、紐緒さんの白い視線を浴びる。
「なんで電脳部にそんなものがあるのよ」
「な、なんででしょうねー。あはあはは」
「本当に猿ね…。さっさとこの支配者にふさわしいソフトをセットしなさい。下らないものを出したら承知しないわよ」
「は、はいっ」
な、何だろう支配者にふさわしいゲームって!? DQやFFか? いやしかし相手が紐緒さんでは大作ソフトなど通用しない気が…。
追いつめられた僕は、とっさに紐緒さん並みの破壊力を持つ『それ』をサターンに入れてしまったのである!
『デスクリムゾン』
引きつる部員たちの前で、飛ばせないタイトルロゴが、そして意味不明なムービーが流れてゆく…
『こっちだぁ、越前!』
『上から来るぞ、気をつけろぉ!』
『せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!』
無表情のままデモを見ていた紐緒さんはスタートボタンを押し、
10秒後に全滅した。
「い、いかがでしたでしょうか…」
おそるおそるのぞき込むと、その右手には青白く輝くレーザーメスが!
「お気に召しませんでしたかーーッ!!」
「あなた、この私にこんなゲームをやらせて覚悟はできてるんでしょうね…」
「まま待ってくれ紐緒さん! このデスクリムゾンはただのクソゲーじゃあない。クソゲー超魔王と呼ばれる伝説のクソゲーなんだよ!」
「超魔王ですって…?」
ぴくっ。興味を示した紐緒さんに僕は矢継ぎ早にまくしたてる。
「そう、キングofクソゲー。レビュアーには『これマジで出すんですか?』とまで言わしめ、サタマガ読者レースでぶっちぎりの最下位。今なお多くの支持を集めクソゲー界の帝王として君臨する名作なんだ!」
「帝王…人心を掌握…」
ぴくぴくっ。紐緒さんは腕を組むと、ふんと笑って怪しいパッケージを注視した。
「私を差し置いて超魔王などとはちょこざいな。このエ○ールという秘密組織、さてはクソゲーで若者を洗脳し世界を征服しようという腹ね」
「別にエコ○ルは秘密組織じゃないと思う…」
「ふふふ、創作意欲がわいてきたわ! 帝王だかなんだか知らないけどこの程度私にかかれば造作もないこと。見てなさい!」
言うやいなや紐緒さんはパソコンに向かうとすさまじい勢いでキーを叩き出した。
そして5分後
「できたわ」
「早すぎーー!」
「名づけて『スタークラッシャー』よ。タイトルの安直さで既にデスに勝ってわね、フッ」
「そ、それじゃプレイしてみます…」
恐る恐るスタートボタンを押す僕。
それは確かに酷いゲームだった。ないも同然のチープなタイトル画面。ピロピロ鳴ってるだけの電子音。バラバラバラと理不尽なほど多量にバラまかれる敵弾は避けようもなく、そしてただ文字が出るだけのGAME OVER画面…。
3秒で全滅した僕は、得意げに腕組みする紐緒さんを見上げる。
「デスクリムゾンは全滅まで10秒…。ふふふ、あらゆる面で完全に越えてしまったわ」
「‥‥‥‥」
「何よその顔は」
ここで…『いやまったくその通り。さすがは紐緒さんでございます』とでも言っておけば丸く収まりはしただろう。だがそんな事をクソゲーマーの魂が許しはしない。ああ許しはしないとも…。
「紐緒さん…。残念だが僕はこれをクソゲーと認めることはできない」
「なんですって!?」
「これはクソゲーではない、単なるダメゲーだ。こんなゲームなら誰でも作れるさ! これをクソゲーと呼ぶには根本的な何かが欠けている!!」
「なっ…!」
そう…確かに今の時代にはチープとはいえ、中身はかつてのマイコン時代に多数作られていたものと同じではないか! 僕ですら昔MSX-FANに似たようなものを投稿していた。さすがに5分で作ったのは凄いがそれだけのことだ!
だが当然紐緒さんは納得しない。
「欠けているですって!? そもそも何かが欠けているのがクソゲーでしょう!」
「違う、違うよ! それだけで人の記憶にいつまでも残るわけがないだろう!?
デスクリには迷言と理不尽の数々が、
スペランカーには虚弱主人公が、
大冒険には電波なメッセージが、
バンゲリングベイには『ハドソンハドソン!』が、
スーパーモンキーは…まあ何から何までクソだけど…
とにかくそういう『キラリと光る』何かがあってこそ初めてクソゲーたり得るんだ! 『スタークラッシャー』にはそれがないッ!!」
一気に言い切って肺を空にする。しんと静まりかえった部室で…。紐緒さんの眼光は僕を突き刺さんばかりだった。殺される。そんな恐怖が身をかすめた時だ。
「ふん…。まあいいわ」
どっと冷や汗が吹き出る。
「だけどこのままで済ます気はないわよ」
「ひ…紐緒さん一体何を!?」
「一週間…一週間で本物のクソゲーを完成させてみせるわ。見ていなさい!」
「ひ、紐緒さん…」
白衣をはためかせて部室を出ていく紐緒さん。さ、さすがだ。素直に失敗を認め、なおかつ挑戦を諦めないあなたこそ真のゲームクリエイター…!
「頑張ってくれ紐緒さん、僕も陰ながら応援するよ! …あれ、どうしたんです部長」
「わざわざクソゲー作らせてどうするんだお前はぁぁぁぁっ!!!」
「ぐえっ! くっ首っがっ!」
そして一週間後。
シンプルながらイカしたタイトル画面に文字が踊る。
『CONQUER』!
「さあ、ゲームスタートよ!」
「は、はいっ!」
『CONQUER』は世界征服をシミュレートしたSTGである! 赤と青の2つのパンチを駆使し、エネルギーを節約しながら敵戦闘機を倒していくのだ。
「くっ、都庁がロボットに変形するとは…!」
初回プレイではいいところまで行ったのだが、ラスボスの都庁ロボとの戦いでエネルギーが切れてしまいあえなく散った。ふぅ、と嘆息してコントローラーを置く。
「どうかしら?」
「いや…面白いっスよこれ」
「何ぃーーー!?」(ガビーン)
クソゲーとは正反対の評価を受けた紐緒さんは慌てて詰問する。
「ちょっと待ちなさい! 東京上空でドンパチをする無茶なゲームなのよ!?」
「まあ紐緒さんだから…」
「ロボット一体で世界征服するバックストーリーに疑問を感じないの!!」
「紐緒さんのやる事だし…」
「そもそも都庁がロボットに変形するという破天荒な設定が…」
「いや、実に紐緒さんらしいなと…」
「‥‥‥‥」
すべて『紐緒さんだから』で済まされてしまった紐緒さんは、とうとう頭を抱えて座り込んでしまった。人生最初の敗北相手がクソゲーでは死んでも死にきれないだろう…。
「あ、あのさっ。こーゆーのは向き不向きがあってさっ。元々理詰めで考えるような人には向いてな…」
「つまらない同情なんて欲しくないわ!」
「あうう〜」
と、そこへ場違いに明るい声がかかる。
「ハーイ、どうしたの暗い顔して」
「あ、片桐さん…。文化祭用のゲーム作りで困ってたんだよ」
「フーン、ゲームならいいアイデアがあるわよ。お茶漬けが主人公のやつ」
「どういうゲームだーー!!?」
画:狐鉄丸さん
思わず絶叫する僕に、片桐さんはベラベラと企画を話し始める。
「自らのアイデンティティに疑問を持った海苔茶漬けがお湯を求めて茶碗の中を旅する長編ACGなのよ。主人公はマップ上に落ちているご飯つぶを集める事で、鮭茶漬け、梅茶漬けへとレベルアップしていくわ」
「‥‥‥‥」
「バット問題は箸よ! これを攻略するには秘密のコマンド↑↓→→←↓↓BABを」
「わかった、もういいよ片桐さん…」
僕の制止など耳に入らず、拳を振って熱弁を続ける片桐さん。と、視界の隅で不意に白衣がゆらりと揺れる。振りかえると紐緒さんの眼に光が戻っていたりして…
「素晴らしい、素晴らしいわ片桐彩子!」
「リアリー?」
「フッ、やはりゲームは一人では作れないという事ね。この私が破壊的なシステムと微妙に悪い操作性をもってそのアイデアを見事なクソゲーに仕上げてみせるわ!」
「OKユイナ! だったらグラフィックは私にお任せよ!」
「あのう…」
すっかり意気投合してしまった2人は、電脳部の机を占拠して企画を詰め始めた。なるほど、クソゲーとはこうして作られるのだなぁ。勉強になったよ…。
そして背後に部長の殺気。
「だからクソゲー作らせてどうするんだよぉぉぉぉっ!!!」
「ぶ、部長だってデスクリは好きじゃないですかーーっ!!」
こうして文化祭当日、電脳部が出展したゲーム『片桐彩子の挑戦状』は見事に全来客者からクソゲーの烙印を押されたのであった…。
<END>
【後書き】
スタークラッシャーはチープだがクソゲーとは言わんよなぁ…という感想から生まれただけのSS(^^;
個人的にはやはり『スーパーモンキー大冒険』のクソっぷりが最大ですね。あれは開いた口が塞がらない迷作だわ…。
世間でクソゲーに入れられてる『アトランティスの謎』『ファミコンジャンプ』なんかは私は結構楽しめました。センチメンタルグラフティも、手軽に遊べるギャルゲーとしては十分良く出来てたと思うのですが。(2は…(T T))
逆に有名だけどクソだと思うのはファイナルファンタジー2…ゲフゲフン。
(無意味に死ぬサブキャラ、使えないアルテマ、酷すぎるクァールなど突っ込み所満載だと思う(^^; 長いダンジョンを抜けた後でクァールに一瞬で全滅させられるのは辛かった…)
(99/02/20)
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