「ごめんねムク、また食べてくれる?」
「ワンワン!」
 すごく嬉しそうなムクとは裏腹に、私は深々とため息をつきました。お弁当、今日も無駄になっちゃったな…
 …できないよぉ…。まだ知り合って少ししかたってないのに、いきなりお弁当作ってったりしたら…あの人のこと好きだって、わかっちゃうよね…。
「ムク、おいしい?」
「ワン!」
 そう…ありがとう、ムク。
 うん、泣き言言ってても始まらないよね。明日もまた作ろう…





美樹原SS:愛愛ランチ





 そーっと、ドアの影からA組の教室をうかがってみる。彼は友達と話してたけど、お昼はまだ食べてないみたい。
 今がチャンス…って言っても、みんなが見てる中なんて恥ずかしいし…
 そ、そりゃ最初からわかってたことだけど…だって、そんな…何て言って渡せば…
「お弁当作ってきたんです。よかったら一緒に食べませんか?」
 ばかばか、何度も練習したじゃない。今渡さなきゃまた…
 …あっ!
 い、いまちらっとこっち見た…。ど、どうしよう、気づかれたったかも…
 …駄目…頭の中、混乱しちゃって…
「メグ?」
 し、し、詩織ちゃん!
「どうしたの?こんなところで」
 ドアの影で一人でオロオロしてる私に、彼女は優しく微笑んでくれます。もうどうしたらいいかわからなくなった私は、詩織ちゃんにお弁当を押しつけました。
「あの…、これ、食べてっ!」
「ええっ!?」
 私はくるりと回れ右をすると、逃げるようにその場を離れました。後に呆然とした詩織ちゃんを残したまま…

(メ、メグが頬を染めながら私に手作りのお弁当を…そんなっ!私一体どうしたらいいの!!?)


 結局昨日よりもさらに沈んで、私は家に帰りました。
「ワンワン!」
「ムク、ただいま…今日はお弁当はないの…」
「へー、それじゃ渡せたんだ」
 はっと振り向くと、お姉ちゃんがにやにやしながら見てました。
「‥‥‥‥‥‥」
「…その様子じゃ違ったみたいね」
「…もう…ほっといて…」
 私は深く深くため息をついて、階段を上ります。と、お姉ちゃんがぼそっと言いました。
「いーい方法があるんだけどなー」
 ‥‥‥‥‥‥
「え?」
「いいおまじないがあるんだけどー」
「ど、どんな!?」
「聞きたい?」
「う、うんっ!」
「じゃ耳かして」
 耳を近づけた私にお姉ちゃんが話した内容とは、それはそれは恐ろしい悪魔のような作戦でした。
「で、できないよそんなっ…」
「へー、で、また明日もお弁当わたせずにうじうじしてるわけ。かわいそうな愛ちゃん。あーかわいそー」
「う゛…」
 お姉ちゃんのいじわる…

 次の朝私は早く起きると、さっそくお弁当を作り始めます。ポテトサラダにミニトマト、うさぎさんリンゴに…鶏の唐揚げ。
『唐揚げを1つ取って、軽くキスをしておくの。大丈夫!バレないから』
 い、いいのかなぁ、こんなことして…。確かにこれなら詩織ちゃんにもムクにも食べさせるわけにもいかないし、かといって自分で食べるのもなんかイヤだし、彼に渡すしかないんだけど…。
 きょろきょろ、あたりを見回します。そ、そうよね。せっかくお姉ちゃんがアドバイスしてくれたんだもの。べ、別に間接キスとかそんなことを考えてるわけじゃないんです。ほ、本当ですっ!
 …もう一度まわりを見回して、そっと唐揚げに唇を近づけます…

 …ちゅっ。
 きゃあっ!は、恥ずかしいっ!


 決戦のお昼休みはやってきました。背水の陣…よね、ここで渡せなかったら…。
 あ、で、でも、彼また友達と話してるし…。その、タイミングが…。
 あ、そうだ、昨日のこと詩織ちゃんに謝らなきゃ…って今日委員会でいないんだっけ…。
 もう、これじゃいつもと同じじゃない…愛、覚悟を決めなさいっ!
「あれ?美樹原さん」
「ひっ!」
 すっとんきょうな声を上げてしまった私の後ろに、あの人が立っていました。
「どうしたの?詩織なら委員会…」
「え、あ、その、ち、違うんです」
 ど、ど、ど、どうしよう。
「誰かに用?」
「あ、あのっ」
 お姉ちゃんのおまじない、私に勇気をくださいっ!
「あ、あの…お弁当、一緒に食べませんかっ!?」
「え?でも俺、学食だから…」
「そ、そうですか…じゃなくて、あの、作ってきたんです!」
「え!?」
 思わず顔がトマトみたいになります。クラス中の人がこっち見てたみたいだけど、私はもう頭の中真っ白で、何も目に入りませんでした。
「と、とにかく裏庭に行こう」
「は、はいっ…」

「それじゃ、いただきます」
「ど、どうぞ…」
 ああ…彼が私のお弁当食べてくれてる…
「ど、どうしたの?」
「いえ…生きててよかったなぁって…」
「そ、そう…」
 私はそっと涙をぬぐうと、自分のお弁当箱を開けました。私って小食だから、あまり入ってないけど…
「…あっ!」
「な、何?」
「え、あ、いえっ」
 そ、その唐揚げはっ…!
 あ、えーと、その、なんでもないです…
「‥‥‥?」
 な、なんでもないです。ほんと…
(…間接キス間接キス間接キス間接キス間接キス間接キス…)
「…えと…よかったらどうぞ」
 え?
 あの人は私のお弁当箱に、唐揚げを入れてくれました…
 …って、ち、ち、違いますっ!別に欲しくて見てたわけじゃなくてっ!
「そういえば美樹原さんのお弁当箱小さいもんね。やっぱそれだけじゃ足りないよね」
 ちっ…違うんですぅ〜〜〜!

 …くすん、やっぱり悪いことはできませんね…


 家に帰った私は、ニコニコしながらムクの頭をなでてました。ちょっと手違いはあったけど、ちゃんと食べてもらえたし…それに、「おいしかったよ」って言ってくれたんです。幸せ…。お礼に明日お姉ちゃんにお弁当作ってあげようっと…
 Trrrr
 突然の電話に、空想にひたってた私は思わず飛び上がります。も、もしかして!?
『もしもし、メグ?』
「あ、詩織ちゃん…」
 現実はそんなに甘くないですよね。そういえば昨日お弁当押しつけたこと謝らないと。
『あのね…私夕べ一晩考えたんだけど…』
「え?」
 どうしたの詩織ちゃん?雰囲気重い…
『その…メグの気持ちは嬉しいんだけど!やっぱり私たち女の子同士だし!』
 はい?
『ほら、いくら男の子が苦手だからってヤケになっちゃダメだと思うな。きっといい人が見つかるから、ね?』
 あの?
『そういうことだから気を落とさないでね!それじゃっ!』
 ちょっとっ?
 ガチャ

 …???
 あの…、謎ですね…
「クゥーン?」



<END>




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