「そりゃ、彩ちゃんがお料理したいっていうならわたしは喜んで協力するけど…」
笑顔でうんうんとうなずく私に、サッキーはびしりと指を突きだしたの。
「ただし芸術には絶対走らないこと!いい!?」
片桐SS:芸術ランチ
人生アートな私にとって、もちろん食生活も例外ではないわ。この片桐彩子渾身の力を込めて、芸術的なお弁当を作ったのはつい先日。さっそく彼に食べてもらったんだけど…
「彩子。おまえ…味見したか?」
「Jesus! 私まだ死にたくないわ!」
「それを俺に食わせるなよ!!」
以後彼の態度は急速に冷たくなってしまったの。So,sad. あまりに悲しすぎるわ…。
「そんなの当たり前でしょ!」
「Um-, そうかしらぁ?」
「彩ちゃん…お願いだから真面目にやってね」
んー、サッキーったら固いわねぇ。将来老化しやすいわよ。
「ま、どうでもいいから早くCookingを始めましょ。Let's start!」
「‥‥‥‥。それじゃまずはパンケーキからね」
サッキーはライスがいいってきかなかったんだけど、私のアメリカンな魂がそれを許さなかったの。だって、ねえ。私と日の丸弁当なんてミスマッチにもほどがあるわね。
「それはわかったから、小麦粉と牛乳出してね。はかりはどこ?」
「Oh! 私のキッチンにはフィーリングという名のハカリしかないのよ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「あ、ハイ。ハカリだったわね。今すぐ出しますです」
私がごそごそと戸棚の奥を探ってる後ろで、ため息まじりのサッキーの声が聞こえた。
「ねぇ彩ちゃん…。初心者によくあるお料理の失敗って、『量を間違える』『時間を間違える』『調理自体に丁寧さを欠く』 このあたりに集結されるのよ…」
「パーフェクトゥ!見事に私に当てはまるわ、HAHAHAHAHA!」
「自慢になりますか!!」
私はサッキーに刃物で脅されて(やや誇張表現あり)小麦粉と牛乳をはかり取ると、ボールで丁寧にまぜあわせる。ああ、めんどくさい。
「それじゃ卵とふくらし粉は?」
「あ、ふくらし粉ないのよ。片栗粉でいいわよね」
「あのね…」
「なんとなく片栗粉と片桐彩子って似てると思わない?」
「‥‥‥‥‥‥」
あら、サッキーが頭抱えてうずくまってる。いけないわサッキー。『病は気から、住まいは木から』って言うのよ。
「もういいよ、なんでも…。とにかく焼くのはちゃんと焼いてね…」
「OKOK」
ジュー、とパンケーキの焼ける音がして、あたりに湯気が立ちこめる。う〜ん、インパクトがなさすぎるわ。
「ねぇ、どうせなら何か入れない?」
「そ、そういうことは焼く前に言ってよぉ〜。カリフォルニアレーズン?それともスライスアーモンド?」
「…ケチャップ」
「彩ちゃん…」
私のウィットのきいたジョークは通じることなく、結局そのまんまのプレーンなパンケーキができあがった。んー、後でふりかけでもかけてみようかしらね。
「それじゃ次はハンバーグね!根性で頑張りましょう!」
「は〜いはい」
数時間後、紆余曲折を経ながらもお弁当は完成する。サッキーの指導のおかげで確かにおいしそうなんだけど…。
「ちょっと地味なんじゃない?」
「地味なお弁当でいいの」
「地味で平凡だなぁ」
「地味で平凡がいいのよっ!特に彩ちゃんの場合!」
「タバスコかけていい?」
「だっダメよ!タバスコをかけるくらいならマヨネーズと混ぜた方がましよー!」
「あ、それいいわね。レッツ試してみましょう」
「彩ちゃんっっ!」
サッキーの必死の形相に、私は思わずため息をついた。
「いいじゃないなんでも。どうせ胃に入れば同じなんだし」
ピシャーーン!
ズゴゴゴゴゴゴゴ…
ついついもれた私の本音が、とうとうサッキーの逆鱗に触れちゃったみたい…。
「あ〜な〜た〜っ〜て〜人〜は〜〜〜!!!」
「お、お、落ちついて!サ、サッキーでも怒ることがあるのねぇ」
「お料理をバカにする人を見れば怒りますっ!どうしてそういい加減なのよ!!」
「ほ、ほら私って大雑把だから…」
私はテーブルの上のお弁当を見る。確かにサッキーの言うとおり、私の変なランチよりはずっとましな出来だわ。彼だってこの方が喜んでくれるかもしれない。
でもね、でも…
「あ、彩ちゃん、何してるの!?」
私はお弁当を取り上げると、猛然とかき込み始めた。サッキーが呆然としている間に、ランチボックスはすっかり空になっていた。
「ソーリー、サッキー…。でもやっぱり私は私でいたいのよ…」
今の私を好きになってくれないなら、そんなの何の意味もないじゃない。私のよって立つべきはアイデンティティのアレって感じで云々。
「彩ちゃん…。そこまでの決意があるならわたしはなにも言わないわ…」
「サンクス、サッキー。やっぱりあなたはBest friend ね…」
「でもわたしの今までの苦労ってなんだったんだろうね…」
「あ、あはははははは。いや悪かったわよホント。でもサッキーは料理上手なんだからいいじゃない。彼だっていつも喜んでるんでしょ?」
「え?やだやだ、そんな…」
私の強引な話題転換に、サッキーの顔は即座に真っ赤になる。ほんとにシンプルイズベストな娘ねぇ。
「きっとサッキーの愛情が最高の調味料になってるのね!」
「やんやん、彩ちゃんたらぁ!そ、それじゃまたねっ!」
サッキーはくふくふと一人で笑うと、スキップしながら私の家を出ていった。でもやっぱりちょっと悪かったわね。そのうちなんかおごってあげようかナ。
さーてと…
「芸術を…始めましょうか」(キュピーン)
そして翌日
「さあ」
「お、おい…」
「さあさあ!」
「落ちつけぇっ!!」
「なんで後ずさるのよぉっ!」
ふっふっ、逃げようったってきかないわよ。ホーラ後ろはもう壁よ。
「エビチリスプレンディッドグラッチェグラタンにソーストマトよ。特に後者は逆転の発想に基づいた逸品なの」
「あやしすぎるーーーー!」
つくづく失礼な男ね。私はランチボックスのカバーをオープンすると、極彩色のお弁当を見せてあげた。
「ね?中身は悪いけど見た目は最高なのよ」
「ふつう逆だろ!!」
Teribble,ひどいわ。一生懸命作ったのに…。どうしても食べてくれないって言うのね…。
「わかったわよ、私が食べるわ! I'll go to heaven!」
「あ…彩子ぉ!!?」
私は覚悟を決めると、グラタン(の、ようなもの)を一口とって口に突っ込んだ。うっ、さすが私のランチ。並大抵の威力ではないわ…。
「お、おい!しっかりしろ!!」
「ああ、もうダメ…。でもあなたの胸の中がラストなんて幸せよ…」
「バ、バカッ!弱音を吐くんじゃない!」
「最後に一言だけ言わせて…。 Yes,that's right. I am NOVA …ガクッ」
「彩子ーーー!!?(意味がわからーーーん!!)」
なんてね、ウソ。私のお弁当を食べなかった報いよ。
でもせっかくだから、もう少しだけこうしてようかしら?
「彩子ぉぉぉぉぉっっ!!」
ハ〜イ
<END>
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