あしたの公子ちゃん
−完結編−




 ついに私も3年生!一流大学も絶対大丈夫って言われたし、もう詩男くんの理想に届いちゃったかなぁ?
「あ、公子」
「あっ…。詩男くん、どうしたの?」
「家も隣同士だし、たまには一緒に帰ろうと思って」
 うふふ、言い訳しちゃって。詩男くんてかわいいっ!
「うんっ、一緒に帰りましょ」
「あ、ああ」
 何だか詩男くんと並んで歩くの久しぶり。最近忙しくって。(デートで)
 あれ、彼ってば私の顔じーっと見てる。
「私の顔になんかついてる?」
「い、いや…。最近可愛くなってきたな…って」
「えっ…」
 や、やだもう。公子生きててよかった…。
「ねぇ、詩男くん」
「え、なに?」
「…うふふ、なんでもなぁい」
 私はぺろっと舌を出すと、面食らってる詩男くんを残しておうちに駆け込んだの。いつか絶対告白させてみせるね☆
「公子、俺は…」


「…それはいいんだけど、最近男の子の間で変な噂が流れてるわよ」
「へ?」
「愛想振りまくのもいいけどさ、いい加減詩男くん1人に絞った方がいいよ」
 えーっ、他の男の子とデートするなってコト?
「やだぁー、あんなのただちょっと遊びに行ってるだけじゃん。いわゆるひとつの社交辞令ってやつよぉー」
「そうは見えないけどなぁ…」
「ほーんと好代は心配性なんだから。そりゃのぞむくんかっこいいし、未夫くんロマンチストだし、魅羅彦くんて実は優しいし、以下略。でも本命は詩男くんだもーん」
「…知らないよ、どうなっても」
 どうなるっていうのよぉ。みんなだって付き合いはタダの付き合いだってわかってくれてるわよねぇ?

 そーいうことで今日も夕くんと遊びに行って来まーす。今度はどこへ連れてってくれるのかな。
「待ってくれ、公子!」
 え?
 るんたったと出かけようとした私だけど、いきなり家を出たところで詩男くんに呼び止められちゃったの。
「ま、また…また誰かとデートなのか?」
 またってことないでしょ。7日に1回くらいじゃない。
「そ、その…実は朝日奈くんに無理矢理誘われちゃって」(ウソ)
「断れよ!」
「そんな…っ…。気の弱い私にそんなことができると思ってるの!?」
「あ…そ、そうだよな。公子は昔から優しかったから…」
 やーん、公子照れちゃうぅ。
「よし、俺が直接行って断ってくる!」
「え゛、そ、そこまでしてくれなくっても…」
 急に詩男くんはこちらを振り向くと、私の肩をがっしとつかんだの。え…まさかまさかっ?な、公子どうしようっ。
「今まで言えなかったけど、俺は…」
「う、うんっ」
 それあと一歩ぉー!
「俺は公子が…」
「ちょーーっと待ったぁ!」
 公道に響く男の子の声。誰よっバカっ!
「公子が嫌がってんだろうが!ええ!?優等生の藤崎サンよ!」
「げ、夕くん…」
「朝日奈…おまえこそ、嫌がる公子を無理矢理誘うとはどういう了見だ!」
「はぁ?今日は公子の方から誘ムガガ」
「あ、あはははは。2人ともケンカはだめよう〜」
 必死で夕くんの口をふさぐ私だけど、詩男くんの熱い想いは止まらなかったの。
「公子、俺の気持ちを聞いてくれ!」
「ちょっと待ってよ!抜け駆けなんて卑怯者のすることだ!」
 はぅっ、沙希人くん!
「ボクだって公子ちゃんのことが」
「Wait! ユーたちに好き勝手はさせない!」
「そうですね…争い事は好みませんが、彼女のためなら僕も」
「ハッ、公子を幸せにできるのはこの俺だけだぜ」
 彩史くん未夫くん魅羅彦くんまで!
「面白い、オレとやる気か!?」
「いくら先輩たちでも容赦しませんからね!」
「フフフ、この天才と張り合おうなどとは愚民どもめ」
「みなさんなにか盛り上がってますねぇ〜」
 ぞろぞろと出てこないでよっ!1人を除いて緊迫した場面に、詩男くんの声が重く流れる。
「…相手が誰であろうと、公子だけは渡せない。俺の命にかけても!」
「やめて、やめてみんな!私のために誰かが傷つくなんて、私…私…」
「ここは男らしく河原で決闘だ!」
「おう!」
 聞いちゃいねぇ!
「はっ」
 不意に詩男くんの表情が固まる。その視線の先を見ると、愛也くんが思い詰めた表情でこちらを見てたの。
「詩男…君はやっぱり公子さんのこと…」
「め、愛也!待ってくれ、俺は…」
「…いいんだ、君になら彼女を任せられる…。公子さんを幸せにしてやってくれ!さよならっ!」
「愛也ぁぁぁーーーーっ!」
 詩男くんはそのまま愛也くんを追って走っていきました…って、アンタがいなくなってどうすんのよ!
「さあナオコ!オレたちの熱い戦いを見守っていてくれ!」
「最後まで立っていられた者が、彼女に告白する権利を持つのですね…」
「私の意志はーーーーっ!?」

 それはとてつもなく激しい戦いだったわ。夕日の沈みかけた赤い河原で、彼らは殴り合い、蹴り合い、愛とプライドをかけて、いつまでも戦い続けたの。優樹くんのプロレス技が炸裂し、結一くんの科学兵器が火を吹く。互いに譲らぬ名勝負だったけど、最後に生き残ったのは一番体力のあったのぞむくんだった。
「へへ…。勝ったぜ、公子。この勝利はおまえのために…」
「のぞむくん、ごめんっ!」
 ボグッ!
「はぅあ!」
 見事のぞむくんを倒した私は、感動と哀しみの涙を流しながら詩男くんを探して街を走り回った。
「しおくぅーーーん…くーん…くーん…」
 ああ、どうしてこんなことになるの?神様の意地悪…
 しくしくと泣く私の肩に、ポンと誰かの手が置かれたの。こ、この感触はっ!?
「詩男くんっ!」
「あっ…ごめんなさい、人違いでした。それじゃ…」
 …ぶち殺す。


「だーから言ったじゃない」
「…私は悪くないもん」
 だいたい詩男くんが悪いのよ。あそこで愛也くんなんて追いかけないで、あとの戦いで勝利してくれたら万事グーだったのよっ。
 当の本人はちらちらとこちらを見ながらなにか悩んでるみたい。どーせ愛也くんのコトよね。
「うーん、告白しちゃった方がいいのかなぁ」
「いいんじゃない?また面倒起きたら大変だよ」
 そうね…世の中には運命というものがあるもの、その流れに逆らってはいけないわ…。言い換えればもう潮時ってカンジー…。
「詩男くんっ」
「な、公子、なんだい?」
「放課後…伝説の樹の下に来てほしいの…」
「えっ…ど、どうして?」
「いや、これ以上言わせないで。公子恥ずかしいわ…。それじゃお願いね」
「公子…」
 放課後、約束の場所で彼を待つ私の胸は、期待と不安で張り裂けそうです。
 来て。来ないで。
 ああでもでも、やっぱり来て。恥ずかしくて逃げたい気分だけど、勇気を出して告白します!(永遠の伝説?忘れた)
 たったっと彼が駆けてくる。私はきっと、この日のために生まれてきたんだわ。
「は、話ってなに?」
 心なしか詩男くんの声も震えている。長かったね、詩男くん。でも私たちようやく結ばれるのよ。
「詩男くん、私ね、初めて会ったときからあなたのことが…。無邪気に遊んだあの日が、疲れて一緒に眠ったあの記憶が、私には一番大事な時間だったんだと思う。でもあなたはどんどん素敵になっていって、もう私なんかの手の届かないところへ行っちゃったって。私、遠くからあなたの姿を見つめながら、いつも1人で泣いてたの」
「公子、それは…」
「ううん、最後まで言わせて。それじゃいけないんだって気づいたのは高校に入ったときよ。見てるだけじゃダメなんだって、あなたにふさわしい女の子になろうって…そう決めて、やっと迷いが晴れた気がする。私ね、あなたに好かれるために必死で頑張った。くじけそうになることもあったけど、あなたの笑顔を思い出したら耐えられた。どうしても誘いを断れなくて他の男の子とデートする羽目になったときも、いつだってあなたのことで頭がいっぱいだったの。だってずっと前から…大好きだったから」
「ごめん公子…。ちょっとでも疑った俺を許してくれ…」
「ううん、いいの、すれ違いなんてよくあるし…。えへへ、自分でもなに言ってるかよくわかんないや。でもこれだけは信じてね。私の心の中にいるのは、ずっと詩男くんだけだったってコト…」
「ああ…俺も公子のことが…」
「や、やっぱり緊張しちゃうね…。ねえ詩男くん、私、これからもずっと…詩男くんのそばにいていい…?」
「もちろんだ!公子、もう離さないよ…」
「うん、ずっとあなたが好きでした…」
 幸せ…あなたのハートにときめきラブ…。
「ちょっと待てやコラァ!」
 んもう誰よぉ。こんないいところを邪魔するなんて、失礼しちゃうわっ!
 …って、どっかで聞いた声のよーな…
「そうかい、あの優しさは全部嘘だったってことかい」
「ひどいよ先輩、ボクの純情を踏みにじったんだね!」
「公子さん、これはどういうことか説明してもらいましょうか」
 ひぃぃぃぃっ!みなさんどーしてここにっ!?
「Unbeliavable! オレとのことは遊びだったっのか!?」
「女なんてそんなもんだよな。信用した俺が馬鹿だったよ…」
 な、なによ悪い!?私のこと好きなら『おまえの幸せのために、黙って身を引いてやるよ…』くらいのことは言いなさいよねっ!
「修学旅行でつきっきりで看病してくれて…あんなに嬉しかったのに!」
「ほ、ほら、私って困ってる人ほっとけないしー」
「オレの水泳の試合にいつも応援に来てくれたのはなんなんだよ!」
「あぁん、そんなに怒ったら公子困っちゃうぅ」
 ブリっ子もーど!
 …効果なし。
「公子、これは一体…」
「ち、違うのよ詩男くん!私を信じて!」
「そ、そうだな。そいつらとデートしたんだって、無理矢理誘われて断れなかったんだよな?」
 どぎゃーーん!
「…高見さん、先日は電話をどうもありがとうございました」
「『どこか連れてってぇ〜』っていつも言ってたよなぁ?」
「あ、あははは。記憶にございま…」
『もしもし結一くぅん?今度の日曜空いてるぅ?遊園地に行きたいんだけどぉ』
 そこにはテープレコーダーを手にした結一くんが…
「ふ、録音しておいて正解だったな」
「オニ!あくまぁぁぁ!」
「公子…」
「…あっ、お空にUFOが飛んでるぅ。うふっ☆」
 キュピーーーン
 BOOOOOOOOM!
 BOOOOOOOOM!
 BOOOOOOOOM!
 BOOOOOOOOM!
 BOOOOOOOOM!
 BOOOOOOOOM!
「いやぁぁぁぁーーーーっ!」


「どういうことよ好代っ!あんたが告白しろなんて言ったせいよ!」
「誰もそうは言ってないわよ…」
「ああ、なんて残酷な運命なの?あと少しで詩男くんのハートは私のものだったのに、ちょっとした誤解のせいであんなことに!」
「あれをちょっとした誤解と言い張る…」
「お星様のバカーーーッ!」
「バカはあなたよ。自業自得でしょ」
 聞き慣れたイヤミな声。まさかまさか…
「レイ子!みんなが樹の下に集結したのはあんたのせいね!」
「あーら、自分のしたことを棚に上げてよく言うわね。私はただ藤崎君が騙されるのを見てられなかっただけよ」
「騙すなんてひどい…。好きな人には自分のキレイな面を見てほしいのは当然じゃない…」
「ものには限度ってものがあるのよ!」
 それだけ言うとレイ子はスタスタと行ってしまいました。こうして私の恋は、性悪女伊集院レイ子の卑劣な罠により、無惨にも打ち砕かれてしまったのです。
「くすん、可哀想…」
「誰が?」
「私に決まってるでしょ!」

 いつのまにか私は『11股かけたインラン女』という根も葉もないレッテルを貼られてしまったのでした。うわぁん。
「ゆっか之助くぅーーん!」
 彼なら今回のことも別に気にしなかったりしてぇ。
「お母様が、あなたには近づくなとおっしゃってるので」
 …マザコン野郎!
「愛也くぅーーん」
 そうよ、私にゾッコン(死語)の彼がいたじゃない!
「詩男くんの気持ちを踏みにじるなんて…。あの、ひどすぎます!」
 …私がなにしたって言うのよぉぉぉーーーー!


 そして秋が過ぎ、冬が来ても

 男の子たちの冷たい視線は変わることはなかったのです

 年が明け、テニスのインターハイで優勝しても

 私の心は満たされるはずもなく 

 ただただ詩男くんを求めて いつまでも虚空をさまようのでした

 『去年の今ごろはよかったね…ふっ…』

 でも運命の神様は どこまでも私に残酷でした


「実は、夕と付き合うことになったの」
「そうなんだ…。おめでとう、やっぱりお似合いだと思うよ」
 白々しくお祝いを言う私の心の中に好代への殺意が芽生えてたとしても、誰が私を責められるかしら?ううん、誰も責められるはずはないわ…
「それじゃ好代、行こうぜ」
「う、うん。夕」
「幸せにね…」
「ありがとう、公子…」
 幸せそーねぇ好代ちゃん、親友裏切って楽しーでしょ。ハッ女の友情なんてしょせんそんなもんよぉ。
 でも、好代にだって彼氏ができたのよ。私にできないなんてそんなおかしなことがあるわけがないわ。そうよ公子、弱気になっちゃダメ。もう一度詩男くんにアタックしてみようよ、ね。好代ちゃん、勇気をありがとう…とか言ってる間に卒業式。
「あっ、詩男くーーーん!」
「それじゃ行こうか、愛也」
「う、うん。詩男…」
 …なによあの2人実はできてたんじゃないのっ!ホ○なんて不潔よっ!ばかーーーーっ!!

 …はぁ、終わっちゃったのね…。私の青春はお・し・ま・い。ウフ、フフフフ、あーおかしい。女々しい女の子の歌でも歌おうかしらちくしょう。
 ひとりうつろな目で帰り支度を始める私の足もとに、1枚の紙切れが舞い落ちてきた。どうやら机の中に入ってたみたい。差出人の名前はない。

 『伝説の樹の下で 待っています』


 ―――――――まさかまさかまさかっ!?


「あなたは…」
 コアラの髪型の男の子は、恥ずかしそうにうつむいたまま話し始めたの。
「今までごめん。僕、館林みは郎っていいます。今まで君にぶつかってたのは、実は偶然じゃないんだ」
「そんなの誰だってわかるわよ」
「あ、あはは、やっぱり?実は僕きみに一目惚れしちゃって、せめて顔を覚えてほしくてあんなことを…」
「そ、そうだったの…それじゃその髪型も?」
「うん、こういう頭にしてればすぐ覚えてもらえると思ったんだ。ちょっと恥ずかしかったけどね」
 ちょっとなんてもんじゃないわ。私のためにそこまでして…
「あの、あんなことしておいて何ですけど…
 やっぱり、一目ぼれを信じます。僕と付き合ってください!」
 ぽとり、と私の目から涙がこぼれました。こんな風に私のこと想ってる人がいてくれたなんて。ごめんね、ただの変な人だと思ってた。
 …きっと私、あなたに出会うために生まれてきたんだね…
「実は私も、みは郎くんのことが気になってたの」
「それじゃOKなんだね!嬉しいよ。お互いのことはこれから知っていこう」
「う、うんっ!」


 こうして、私の高校生活3年間は幕を閉じました。

 思えば、デートばかりしてたような気がするなぁ(苦笑)

 なにはともあれ、無事卒業できて本当によかったよね。

 一流大学にも合格できたし、なにも言うことはないかな。


 そういえばみは郎くんは私と同じ進路だったの。いつのまに調べたのかな…

 彼とはお互いにまだ理解しあえてないけど いつまでも二人で歩んでけると思う。

 この学校の伝説が永遠に語り継がれるように、私たち2人の愛も永遠なんだもの…



 し・あ・わ・せ。えへっ☆




<END>





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