Realism:後書き


 最初に見たときはなんかあっさり終わった感じの七瀬シナリオですが、よくよく考えてみればかなり面白いラストです。

  『七瀬が待つのをやめた瞬間に、主人公が帰ってきた』

 ただの偶然と思えばそれまでですが(他のシナリオでも1年後には帰ってくるし)、七瀬シナリオに限っての意味を考えるなら、「七瀬が現実に戻ってきたのに伴って、主人公も現実に戻ってきた」とも言えるんじゃあないでしょうか。それまで七瀬が居た「なんにもだった」「時間を留めた」場所は、明らかに永遠の世界と似通ってますから。
 それを考えると
 七瀬シナリオの中盤、朝起こしに来るところは、やたら大人しくなった彼女に「い…稲妻みたいだった七瀬留美が…こんなに弱々しくなっちまって…」((c)高橋留美子)て感じで正直ガッカリでした。(主人公の想像の「起きんかぁぁぁぁっ!」の方がまだ良かった(^^;) それがラストでは「格好悪い」「そんな王子様いないっ!」「構うわよ、あたしがっっ!」と少しだけ以前の七瀬に戻っていて嬉しかった。これと「贅沢言うな」「現実なんてそんなもんだ」『馬の蹄やタキシードでなく、自転車に喪服』等を考えると、「現実にない理想=永遠の世界、よりも、多少質は落ちても現実のコイツの方がいい」とか…そういう勝手な解釈をまとめたのが今回のSSです(^^;(実際はONEのテーマは「理想と現実」じゃないらしいですが。cf.原画集のコメント)
 個人的に「待つだけのヒロイン」はあんまり好きじゃないので七瀬のラストは気に入ってますー。前へ進む『意志』を見せてくれる人はいいですね。七瀬の場合途中で「子供」とはっきり言われてますから、繭と同様成長物語だったんじゃないでしょうか。

 逆に茜シナリオで引っかかるのがこの点で、茜の性格は好きだけど最後は待つだけ。特に一度目の、幼なじみと決別するまでの話は好きだっただけに、主人公が消えた後のあれは「お前それって何一つ進歩しとらんやないけ!」というのが正直な感想です…。二度目なんだからもう少し何かあってもいいと思うさ。このため茜シナリオの評価は75点。(七瀬も中盤ダメなので75点。みさき先輩は100点)
 ちなみにこの話では詩子と付き合って(^^;ますが、これもプレイ中必ず登場する詩子に「毎度うざったいぞ」と最初は思ったものの、よくよく考えれば「主人公が茜狙いでなくても、詩子は茜のために現れる」って事ですよねー。ちゃんと茜は救われるって事。(実際主人公なんかより詩子の方がいいと思うよ…。詩子なら世界中が消えたって生き残りそうだし)


【追記】
 本文中で一部、岩泉舞先生の「ふろん」(ジャンプコミックス「七つの海」収録)の表現を借りています。(いや借りるつもりはなかったけど他にいい表現がなかったというか)
 この話も主人公消滅もので、ONEのように「消えるから忘れられる」のでなく「忘れられるから消える」ので本質的には違いますが、ONEファンにはお勧めです。「みずか」のモデルってこの話の幽霊さんじゃぁ…とも思う。
(この人の作品は特に「ふろん」と「七つの海」が好き。確か「COM COP3」を最後にジャンプに出てきてないけど、今どうしてるんだろう…)




【おまけ・和月伸宏の茜シナリオ】(るろ剣14巻参照)

浩平「お前は健気さではこの上なく強くなった。だが心の上では見る影もなく弱くなってしまったんだ」
茜 「なんだと…」
浩平「最も近くにいた幼なじみの壮絶な消滅…。それを待とうという気持ちは拙者にもわかる。
 だがその気持ちも心を弱くしてしまった今のお前が口にしても、もはや生きることからお前自身が目をそむけるための只の言い訳に過ぎないんだ!
 今のお前は幼なじみのためでなく幼なじみのせいにして、己の時間を止めているに過ぎないんだ!
茜 「黙れ!」
 バキィ!
茜 「貴様に何がわかる!!」
浩平 「少なくとも…待つという目的の影で自我を眠らせて、この現実から逃げていることはわかるさ。
 茜、お前が…いやお前の弱さが、全てを幼なじみのせいにして、幼なじみを悪霊にしている
茜 「――――――!」
 ガシィッ!
浩平「茜、お前は知っているか。学校では今、詩子がお前に会いに毎日教室に入りびたっている事…」
茜 「…詩子は、強い娘だ。サボるのは好ましくないが、十分一人でやっていけよう」
浩平「じゃあその強い娘が、茜のためならばと自分の傘を提供したことは知っているか。あの真っ直ぐな瞳に応えられるのは、この世にお前一人しかいないんだ。(何じゃそりゃ)
 それでも茜! お前はまだこの現実から逃げ続けるのか! 幼なじみのせいにして、待つことを隠れみのにして、『空き地』に逃げるのか!?
 強き心を取り戻せ! そして失った誇りを呼び返せ! 止まった時間を動かすのは今なんだ!!
 目醒める時は今なんだ!!!
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
茜 「…それでも私は、彼に決着をつけねば前には進めぬ」
浩平「(笑顔) 彼に決着をつけることに、拙者は異存ない」

 奥義!『お前はふられたんだ』


 御庭番衆の本質は徹底した現実主義にある…。


(98/10/26)   



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