一介の女子高生館林見晴。しかしその正体は美少女戦士キューティコアラである。本編ではまったく出番がないが、その裏で地球の平和のために日々悪と戦い続けているのだ!
『NIYARYYYYYYY!』
「スターコアラ・ザ・ワールド!」
『コアラララララァァァァッ!』
しかしそれは彼女の繊細な心にはあまりに過酷な試練だったという…。
「もうこんな生活イヤーーーー!」
見晴パロディSS: あなたのハート、いただきます!
「コンパクトなくしたぁ!?」
突然見晴が家に訪ねてきたので愛とムクが出迎えてみれば、きまり悪そうな見晴がとんでもない事を言い出した。
「それがね、確かにカバンの中に入れておいたはずだったんだけどね。さて家に帰ろうと思ったらどこにも見あたらなくてね…」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「本当だってば!(^^;」
一応探してはみたのだが、見張るのが得意な見晴ですらとうとう見つけることができなかったのだ。といってなんとなく嬉しそうに見えるのは気のせいではないだろうが…。
「むぅ、しかし困ったのだワン。あれを悪用されたら大変なことになるのだワン」
「だ、大丈夫、あんなの使いたがる人いないよぉ。それじゃそういうことで…」
「ね、ねぇ、2人とも見て!」
そそくさと帰ろうとする見晴にストップをかけるように愛が壁を指さした。さっきまで牛のポスターがかかっていたそこには、なんとPET総帥の顔が浮き出ているではないか!
『クッククク…。困惑しているようだな愚か者どもめ』
「こ、これは立体映像だワン!奴はどこかワン!?」
『フッハハハハハハーーッ!探しても無駄なことよ。この私の思念は遠く宇宙すら跨ぐのだからな!』
「どうでもいいけど牛のポスターと顔が融合してすっごく変…」
「あの…、牛男さんみたいで可愛いです…」
『じゃかましい!とにかくキューティコアラのコンパクトはいただいた。あれがなくては手も足も出まい!』
「見晴ちゃんかわいそう…」
「(別にかわいそうじゃない…)」
涙目の愛に心の中でツッコミを入れる見晴。
「と、とにかく返してもらうのだワン!」
『フッ、もう遅い。伊集院とかいう奴に3万円で売り払った』
「なんてことするのだワンーーー!?」
『ええいこっちも資金難なんだ!奴から取り戻せるというならやってみるがいい。所詮は徒労でしかないがな!ウワーーッハハハハーーッ!』
言うだけ言って牛男は消え、後には呆然とする3人が残った。見晴が気を取り直すようにぱちんと手をたたく。
「し、しょうがないよね!うん。伊集院さんのところに行っちゃったんだし、もうあきらめようっ!」
「あの、伊集院さんもいい人だからわけを話せば返してくれるんじゃないかな…」
「正体がわたしだってバレちゃうでしょーーがっ!」
「キューティコアラちゃん可愛いから大丈夫よ。ね、見晴ちゃん」
「ね、見晴ちゃんじゃないって…」
げんなりする見晴に、なにか書いていたムクが1枚の紙片を手渡した。
「正体をバラすわけにはいかないのだワン…。かくなる上は強行手段しかないのだワン!さあ、この紙を伊集院邸に投げ込んでくるのだワン!」
「そ、それって…」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
∞ 予告状 ∞
∞ ∞
∞ 明日午後8時、コアラのコンパクトをいただきにまいります ∞
∞ ∞
∞ 怪盗セイントコアラ ∞
∞ ∞
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「いやーーーーーっ!」
「わぁ、新たなスーパーヒロインの誕生なのね…。ね、見晴ちゃん?」
「なんで泥棒やんなきゃならないのよーーーっ!」
「さあ、この予告状を」
「いやいやいやいや!」
ぶんぶんと首を振る見晴に、ムクは困ったように下を向く。
「そうか…。そこまで言うなら仕方ないのだワン」
「ご、ごめんねムクちゃん…」
「代わりに僕が出してくるから安心するのだワンーー!!」
「前言撤回!このくされ犬ーーーーーっ!!」
「見晴ちゃん、ふぁいとっ」
小さくガッツポーズする愛を前に、駆け出していくムクを呆然と見送るしかない見晴。まだ17歳の春だった。
ムクは見事に任務を遂行したらしく、翌日の学校は朝からセイントコアラの話題でもちきりである。
「暖かくなると変なのが出てくるわよね」
「(目の前にいるよ…)」
あやめから逃げるようにA組の教室へ向かう。公の様子をうかがうためだが、そういえば伊集院も確かA組だったような…。
「はーーはっはっはっ!セイントコアラだかなんだか知らないが、この伊集院家の警備網に挑戦するとは片腹痛い!」
「(わたしは頭の方が痛いわよ…)」
「で、なんなんだよそのセイントコアラってのは」
「うむ、いい質問だヌシヒトJr.」
「(きゃーっ公くんっ!)」
きらめき市警の主人刑事の息子であるヌシヒトJr.こと主人公は、半信半疑で伊集院に視線を送っていた。私立探偵志望の彼にとってはまるっきりバカ騒ぎに思えるのだ。
その視線を受け流すようにちちちと指を振ると、伊集院は懐から1つのコンパクトを取り出す。その見覚えのある形状に見晴の体が硬直した。
「このコンパクトを売った者がこう言っていた…。『これを持っていればコアラの髪の強盗が必ず奪いに来るであろう』と!面白そうなので買ってみたんだがねぇ」
「コアラの髪だって!?」
とたんにヌシヒトJr.の目つきが変わる。思わぬ大声に後ずさる伊集院に目もくれず、あごに手を当てて考え始めた。
「まさか…まさかあの女の子なのか!?しかしまさか強盗だなんて…」
「(ひーん強盗じゃなくて怪盗ですぅっ)」
見晴のツッコミはやはり届かずうろうろと歩き回るヌシヒトJr.。伊集院がおそるおそる声をかける。
「おい、ヌシヒトJr.…。まさかセイントコアラのことを何か知っているのか?」
「伊集院、おまえには悪いが…」
問いには答えず、ヌシヒトJr.はびっと天を指さした。
「怪盗セイントコアラはこの俺が必ずつかまえてみせる!」
『ええーーーーーーーーっ!!?』
「(るんたっ、るんたっ)」
放課後に再び愛の部屋にやってきた見晴は、昨日とはうってかわって上機嫌だった。なんか怖いものがあるが、怖いの大好きな愛がおそるおそる尋ねてみる。
「あの…、見晴ちゃん、何かあったの?」
「エヘヘ、なんと公くんがね…。わたしのこと必ずつかまえてみせるって!」
「なんか意味が違うんじゃ…」
「いーーのっ!ららら公くんに会える〜〜」
「と、とにかくやる気になったのは良かったのだワン。さあ、このワンダフルパワーで奇跡のマジックを起こすのだワン!」
「うんっ!」
ムクからパワーを受け取ると、見晴は手を合わせて神さまにお祈りした。
「主よ、タネも仕掛けもないことをお許しください」
そのままパチンと指を鳴らす。
「ワン!」
「ムク、何か言った?」
「僕じゃないワン…」
ポン!と見晴の左手にシルクハットが出現する。
「ツー!」
右手に現れるは1組のカード。舞い散って見晴の姿を覆い隠す。
「スリーーー!」
シルクハットから出てきた見晴がステッキをさっと振る。その姿はピンクのスカートのついた黒いレオタード、燕尾風の尻尾に蝶ネクタイとまさに怪盗。怪盗セイントコアラの誕生だ!
「気をつけて行くのだワン」
「うん。コンパクトは必ず取り戻してみせるね」
「あの…、見晴ちゃん、がんばって」
「うんっ!」
トレードマークのコアラの髪には大きなリボン。見晴と愛はこつんと額を合わせると、そのまま目を閉じて祈るのだった。
『わたしたちに、神のご加護がありますように』
伊集院邸の中央ホールでは、防弾ガラスのケースに入れられたコンパクトが燦然と輝く中、50人を超える警備員がうろうろとひしめきあっていた。ケースの周囲は池になっており、ごていねいにバナナワニが7匹ほど放されている。
「どーーかねヌシヒトJr.! セイントコアラだかなんだか知らないが、ここへたどり着く前にお縄は確実だと思うがねぇ」
「いや、俺の勘が正しければセイントコアラは必ず来る。俺がこの手でつかまえなくちゃいけないんだ!」
「フン、せいぜいほざくがいい…。そろそろ時間だな」
時刻は7時45分。予告状の時間まであと15分たらず…。
「レイ様、大変でございます!」
「どうした!」
張りつめた空気を破るかのように側近の声。あたりが一気にどよめく中、驚愕と焦燥を含んだ叫びが夜のホールに響きわたった。
「セイントコアラが、セイントコアラが正門から!」
「残念ですがこの外井の漢にかけて中に入れるわけには参りません、ムフッ!」
「たまにはゆっくり休んだ方がいいわよ、仕事熱心な門番さん☆」
「お言いなさい!マッスル奥義、キン肉ビーーーム!」
外井の額に浮かんだ肉の文字から一筋の閃光が襲う。しかしセイントコアラが指を鳴らすと、届く寸前でボン!と花束に変わってしまった。
「な、なんですとッ!?」
「きれいなお花はいかが?」
「うおおおおおおお!」
セイントコアラが花束をさっと振る。花びらがあたりを取り囲み、外井のまぶたが閉じていく。
「レ、レイ様申し訳ありませぬ…ZZZZZ」
「くっ、撃て撃て!」
警備員たちがいっせいに銃を構えるが、コアラ髪の怪盗は落ちついたものだ。
「ふぅん、女の子に銃を向けるんだ。そんなことしてると嫌われちゃうよ」
「だっ黙れっ!」
「イッツ、ショー・ターーーイム!」
セイントコアラがステッキを振れば、たちまち銃がサボテンに変わる。そうとは知らずに思いっきり引き金を引いた警備員は、絶叫とともに飛び回る羽目となった。
「イデーーーッ!」
「本当にごめんなさい。それじゃ…」
「セっセイントコアラに侵入を許しましたっ!」
フッ
「な…何事だっ!」
突然の停電に伊集院を含めその場の全員が右往左往する。ただ1人ヌシヒトJr.だけが、迷わずケースの方へと走った。
「そこかっセイントコアラ!」
「(こ、公くんっ!)」
一瞬頬がゆるむがそんな場合ではない。すぐに非常用電源の薄い明かりがつき、見晴はあわてて顔を隠した。
「君は一体何者なんだ!君の正体は…」
「えっと、その……。えいっ!」
「どわぁっ!」
いきなり体当たりをくらって吹っ飛ぶヌシヒトJr.。伊集院と警備員も駆けつける。
「はーーっはっはっはっ!よくぞここまでと言いたいところだが、そのバナナワニに囲まれたガラスケースにどう近づくつもりだ!」
「ワン、ツー、スリー…はいっ!」
見晴がセイントイリュージョンステッキを一振りすると、とたんにバナナワニがバナナに変わる。あんぐりと口を開ける伊集院の前で、ガラスケースも粉々に砕け散った。
「な、な、な…」
「くっ、さすがセイントコアラ…すごい手品だ!」
「あんな手品があるかーーーっ!」
「コンパクトいただきっ!」
感心していたヌシヒトJr.がはっとする間にセイントコアラは逃げに入る。警備員たちが追いかけるが、なにしろタネも仕掛けもないのでやりたい放題だ。
「えいっ」
「うわわわわーーっ!」
紙吹雪がまきおこり、シルクハットから伸びた紙テープにヌシヒトJr.以外全員ぐるぐる巻きにされてしまう。
「むぎゅ」
伊集院の頭をふんづけ窓枠に飛び乗る見晴を、ヌシヒトJr.が必死で追いかける。玄関を横切って外に飛び出し、街灯の明かりを頼りにセイントコアラの姿を追った。
「待て、セイントコアラ!」
「(公くん…)」
夜の伊集院邸で2人の追いかけっこは続く。息を切らせながら、ヌシヒトJr.はしつこく食い下がった。
「(行き止まり!)」
見晴の前に高い壁が立ちふさがる。背後にヌシヒトJr.の足音が鳴り響いた。
「(ど、ど、どうしよう…)」
「やっと…つかまえたな」
彼の声を背にしたまま冷や汗が流れ落ちる。絶体絶命、いくらなんでも泥棒やってたなんてバレたら嫌われ確実…。
「(やっぱり宇宙人の言葉なんかに乗せられるんじゃなかったーー!)」
「君なんだろ!いつもぶつかってくる、君がセイントコアラなんだろ!?」
「え…」
思わず見晴は振り返る。その顔は薄明かりに影となって見えない。
「わ、わたし…」
「怪盗だなんて…」
「ち、違うの!これ元々わたしのコンパクトなの!本当に本当!!」
その必死の声にヌシヒトJr.は少したじろぐ。その一方で何か安心している自分もいた。
「それじゃ…なんで逃げるんだ?」
「う…」
ヌシヒトJr.が一歩前に出る。見晴がコンパクトを抱きしめたまま後ろに下がる。背中に固い壁の感触が当たった。
「名前くらい教えてくれてもいいだろ。俺…」
「ご…」
ヌシヒトJr.の言葉を待たずに見晴の右手が上がる。
「ごめんなさい!」
「セイントコアラ!」
ボン!
シルクハットから飛び出す風船たち。ヌシヒトJr.が腕で顔を庇っている間にあたり一面を覆い隠す。
「なっ…なんで逃げるんだよ!なんで…!」
風船が集まってできたバルーン。ぶら下がるセイントコアラはもうヌシヒトJr.のはるか頭上を飛んでいた。どう手を伸ばしても届かないほどに。
「(ごめんなさい…)」
彼の姿がどんどん小さくなっていく。バルーンにつかまりながらぎゅっと目をつぶる。でもそれでも彼の言葉ははっきりと見晴の耳に聞こえてくる。
「待ってろ、必ずつかまえてみせる!必ず…必ずだ!!」
色とりどりの灯りがともるきらめき市で、コアラの髪の怪盗を乗せたバルーンはふわふわと夜空を飛んでいくのだった。
「まさかあれが元々盗品だったとは…。ああっ僕があさはかだった」
翌日のきらめき高校。事実を知って頭を抱える伊集院に、しかしヌシヒトJr.の目は別の誰かを見つめていた。
「まあそういうことなら彼女は何も盗まなかったわけで、これにて一件落着かね」
「いや…盗んださ」
何を、という伊集院の問いにヌシヒトJr.の顔がかぁっと赤くなる。ごにょごにょと口のなかでごまかして、席につこうとしたところへ視界を横切るものがあった。
「!」
コアラの髪型……
しかしまばたきをした瞬間そこには何もない。
「気のせいか…」
ヌシヒトJr.は首をひねると、授業そっちのけで次の予告状のことを考え始めた。
「(今はごめんね、でも
でもいつか必ず、あなたにつかまえてもらうから――)」
ふと聞こえたその声も、だからたぶん気のせいだったのだろう、きっと……
「あの、そしてセイントコアラは、その後も時々きらめき市に現れたんです。
といっても翌年の卒業式までですけど、ね」
<END>