・この作品はゲーム「CLANNAD」の世界及びキャラクターを借りて創作されています。
アイコン劇場のテキストだけ抜き出したものです。時間のある方はアイコン劇場の方をご覧ください。





 連休を利用して、芽衣ちゃんが遊びにやって来た。
 だというのにヘタレ兄貴は補習で学校に缶詰め。辛うじて免れていた俺が、代わりに町を案内することになった。
芽衣「よろしくお願いしまーす。でもいいんですか? 受験生は追い込みの時期なのに」
朋也「別に進学する気はないからいいけどさ。けどこの町に案内するようなものなんてないぞ。隣町に行かないか?」
芽衣「え、でも…」
朋也「こんな何もない町より、向こうの方が楽しいって。さ、行こうぜ」
秋生「この大馬鹿野郎がぁぁぁぁぁーーー!!」
 BAGOOOON
朋也「な、な、なー!」
秋生「ここまで郷土愛のない野郎だったとはな。町の名所のひとつも案内できない奴に、住人である資格はねぇ。出てけ!」
朋也「出てけってあのなぁ! じゃあオッサンなら名所に連れてけるのかよ。こんな何もない町で!」
秋生「へっ、この町の観光カリスマとはこの俺のことだぜ。というわけで嬢ちゃん、この古河秋生様が案内してやらぁ」
芽衣「は、はい。それじゃよろしくお願いします、おじさま」
秋生「おじさまか…。それもいい響きだが、ここはひとつお兄さんと呼んでくれ」
朋也「オッサンてめぇ…。図に乗るにも限度があるぞ高校生の娘持ちが…」
秋生「やかましい! 三十過ぎなのに女の子からお兄さんと呼ばれる、まさに男のロマンじゃねぇか。お前も大人になれば分かるさ…」
朋也「こんな大人にだけはなりたくねぇー!」
芽衣「いえいえ、お若いですし全然違和感ないですよー。秋生お兄さんっ」
秋生「ぬははははっ。小僧の連れにしては物の分かっている娘だぜ。小遣いをやろう」
芽衣「ありがとうございますっ」
 相変わらずちゃっかりしてんなぁ…。
 結局なしくずし的に、オッサンの案内で歩いていくことになった。
 というか、歩いていける距離なのかよ。こんな近くに俺の知らない観光名所が?

秋生「ババーン! ここがかの有名なパン屋、古河パンだ。なんと日本に一軒しかねぇんだぜ!」
朋也「何がババーンだこのクソ親父!!」
 一瞬でも信じた俺が馬鹿だった…。
秋生「まあ待て、ここには人間国宝が住んでるんだ。そう、早苗と渚というな…」
朋也「あんたの個人的な国宝だろう!?」
秋生「へっ、いいこと言うぜ」
朋也「感心するなぁ!」
早苗「あら、賑やかですねっ」
芽衣「あ、早苗さんと渚さん。お久しぶりですっ」
渚「わ、芽衣ちゃんです。ようこそですっ」
早苗「いらっしゃい。秋生さんがまた何か悪さをしてるんですか?」
芽衣「いえいえ、そんなことないですよー。秋生お兄さんに町を案内してもらってるんです」
早苗「秋生お兄さん、ですか…」
朋也「そうなんですよ早苗さん。このアホなオッサンにひとこと言ってやってくださいよ」
早苗「わたしのことは早苗お姉さんと呼んでくださいねっ」
朋也「ああ…。アホ夫婦だった…」
渚「お父さん。せっかく遠くから来てくれたんですから、うちのパン屋なんかじゃなくてちゃんと名所を案内してあげてください」
秋生「まあ待て。世界遺産の白川郷と五箇山も、元はといえばただの民家じゃねぇか。つまりこの店だって、数百年経てば世界遺産になるかもしれねぇぜ」
渚「ええっ、そうなんですかっ! どうしましょう大変ですっ。観光客と地元の人との軋轢が心配です」
 アホ一家だった…。
朋也「安心しろ、何百年経ってもこんなところに観光客は来ねぇ…」
秋生「ちっ、仕方ねぇな。おうお前ら、車に乗れ」
芽衣「はーい」
朋也「どこへ行くんだよ」
秋生「希望を聞いてやる。ありがたく思え」
朋也「当てなんかないんじゃん…」

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秋生「ここが我が町が誇る、緑ヶ丘記念恩賜公園パークだ」
朋也「勝手に記念とか恩賜とかつけるなよ! あと公園パークって何だよ!」
秋生「細かいことをぐちぐちとうるせえ野郎だぜ…。とにかく住民の憩いの場所なんだ」
朋也「芝生と花壇しかないただの公園じゃないか…」
芽衣「まあまあ。素敵な場所だと思いますよ」
 うう、芽衣ちゃんはなんて心が広いんだ。
杏「あれ、朋也じゃない」
椋「こ、こんにちは」
朋也「何だ、いたのか」
杏「ご挨拶ねぇ。あんたこそ公園に来るなんて珍しいわね」
朋也「いや、この子に名所を案内してやろうと…」
芽衣「初めましてー。東北から来ました」
杏「遠くからご苦労様ね。名所…というと六本木ヒルズとかラフォーレ原宿とか?」
椋「中野サンプラザとか渋谷Bunkamuraとか」
杏「この町にいる限り夢のまた夢よね…」
椋「だよね…」
秋生「かーっ、そんなに横文字施設が欲しいかこのガキども! お前らなんか南セントレア市にでも引っ越しちまえ」
朋也「もう没っただろその地名は!」
椋「そ、そういえば… この公園には、他の町にはないものが一つだけあるんです」
杏「え、そうなの椋?」
芽衣「どんなものなんですか?」
椋「こちらに来てください」


椋「この地上絵を見てください。異星人からのメッセージだと占いに出ています」
杏「椋ってこういうの好きよねー」
芽衣「でも、なんだかロマンがありますねっ」
秋生「悪ぃ。それ、俺がガキの頃に描いたラクガキだわ」
 ………。
杏「朋也…。とりあえず、この辞書を投げていい?」
朋也「ああ、遠慮なくやってくれ」
秋生「面白え、俺に向かって投げようってのか? いいぜ、そんなに渚が欲しけりゃ見事三振に取ってみやがれ!」
杏「なんで野球勝負になってんのよっ! しかも渚っ!?」
朋也「芽衣ちゃん、とりあえず避難しような」
芽衣「え、あの人たち放っておいていいんですか?」
朋也「いいんだ。あんな野獣と魔獣の大決戦に近づいたらこっちが危ない」
杏「誰が野獣と魔獣の大決戦よっ!」
朋也「ぐあっ!」
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終わり






秋生「おっ、丁度よく役場があるじゃねぇか。そこの観光課で聞いてみようぜ」
朋也「オッサン観光カリスマじゃなかったのかよ…。まあこの際仕方ないか」

 ん、何だか騒々しいぞ。
 ガラの悪そうな連中が、窓口で何か詰め寄っている。時折怒声まで聞こえてくる。
芽衣「圧力団体っていう人たちでしょうか?」
秋生「ああ、どの町にも闇の部分、黒い利権ってのはあるもんだ…。悲しいことだがな」
朋也「こんな田舎に利権もクソもないと思うが…。ん、あれは?」
智代「だから、桜の木を切るなと言ってるんだ!」
有紀寧「そうですよー。町の自然を守りましょう」
不良1「ゆきねぇがこう言っとるんじゃ、言うとおりにせんかい!」
不良2「この役人がぁ!」
 ………。
智代「あれ、朋也じゃないか」
有紀寧「こんにちはー、朋也さん」
朋也「こっちを見るなぁぁぁ!  つーか何してんだよこんな大勢で!」
智代「いや、私はいいと言ったんだが、こいつらがどうしてもついてくると」
有紀寧「みんなあの桜が大事なんですよ。優しさって素晴らしいです」
朋也「こんなごつい連中が大勢で押し掛けたら、ヤのつく団体にしか見えないだろ…」
有紀寧「人を見かけで判断してはいけません」
朋也「そりゃそうかもしれないけどさぁっ」
 はっ!
芽衣「そんな、岡崎さんがこの町の黒い利権と繋がっていたなんて…!」
秋生「さてはてめぇが町の闇を牛耳る黒幕か! アンタッチャブルを恐れる秋生様じゃないぜ!」
朋也「いや待て落ち着けっ!」
 結局観光情報どころじゃなかった…。
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 古い神社だが、特に見所もないなぁ…。
ことみ「朋也くん、こんにちは」
朋也「ことみか。お参りか?」
ことみ「そうなの。朋也くんも暗黒物質の正体が解明されるよう祈っていってほしいの」
朋也「んなもん祈りたくない…。それよりここに珍しい物とかないか?」
ことみ「それならこっちなの」
秋生「あるのかっ」


ことみ「これが町指定重要文化財の『弁慶岩』なの」
芽衣「わ、何だかそれっぽいですね」
ことみ「ここで武蔵坊弁慶と織田信長が相撲を取ったという伝承があるの」
朋也「ちょっと待てい」
ことみ「???」
秋生「ヘッ、さすがは俺達の町だぜ。こんな史跡は日本中探してもどこにもねぇだろ」
芽衣「あはは、確かにどこにもなさそうですよね」
朋也「芽衣ちゃんに心なしか馬鹿にされてるよオッサン! ことみも少しは疑問を持てよ!」
ことみ「事実かどうかより、そういう伝承があるということが大事だと思うの」
秋生「うむ、その通りだ。まったく歴史ロマンのわからん小僧だな」
朋也「もういいです…」
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終わり






勝平「あれ、朋也クンだ」
 なんだ勝平か。
朋也「そうだ。お前、この町が気に入ったって言ってたな。何か隠れスポットとかないか?」
勝平「隠れスポットといえば、三丁目の角かなぁ」
朋也「またどうでも良さそうな場所だな」
勝平「いやいやそんなことないよ。だってほら……出るらしいから」
朋也「で、出るって……アレか?」
勝平「まあ、出るっていったらアレだよね〜」
 ヒーッヒッヒッヒ
 くそ、初耳だぞそんなの…。まあ、どの町にもあるお決まりのスポットではあるが。
芽衣「面白そうですね。行ってみましょうよ」
朋也「え…マジ?」
秋生「ははーん。さては小僧、ビビってやがるな?」
朋也「馬鹿言えっ! わかったよ、行くよ…」
 三丁目のタバコ屋の角を曲がると…

公子「あら、古河さんに岡崎さん」
秋生「おう、どうも」
朋也「ちわっス」
秋生「なあ先生。この辺で幽霊が出る場所を探してるんだが、知らねえか?」
公子「さあ…聞いたことがありませんね」
 勝平のやつ、いい加減な情報を。
風子「などと言っているところへ風子が参上です」
朋也「呼んでない。帰れ」
風子「失礼ですっ! 岡崎さんこそ帰るべきです、軒下の巣穴へ」
朋也「俺は何者だよ!」
芽衣「なんだか可愛い子ですね」
風子「むっ。誰だか知りませんが、風子の直感によるとあなたの方が年下です。可愛いなんて言われる筋合いはないです。可愛いですけど」
朋也「どっちだよ…」
公子「あの…」
公子「皆さん誰と話してるんですか? 私には何も見えませんが…」
朋也「うわあああこいつがそうだったのかぁぁぁ!!」
公子「ふふっ、よく分からないけど失礼しますね」
秋生「やるじゃねぇかちっこいの! これでこの町も有名心霊スポットだぜ」
芽衣「はい、すごいですっ。きっと全国的に有名になります」
朋也「いや、こんなのを名物にしないでくれ。頼むから」
風子「失礼ですっ! 風子は世界的に貴重な存在なので拝んでいってください。愛と正義の美少女生き霊です」
芽衣「どうかお兄ちゃんが無事卒業できますように…」
 よっぽど切羽詰まっているらしい…。
風子「ところで町の自慢といえば、やはり特産品ではないでしょうか」
朋也「特産品なんてあったか? この町」
風子「今から作りましょう。例えば」
朋也「もういいよヒトデネタは」
 …
 ………
風子「おおお岡崎さんは風子の存在理由の九割以上を否定しました! 史上これほど最悪な人は類を見ないですっ!!」
朋也「ワンパターンなんだよお前は! もういいから行こうぜ」
秋生「なんだ、細○数子は来ねえのか?」
朋也「来ねぇよ!」
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終わり





 ああ、結局ろくな場所に案内できなかった…。後はマジで普通の川と普通の道路と普通の町並みしかない。
朋也「ごめんな芽衣ちゃん、つまらない町で…」
芽衣「いえいえ、とても素敵なところですよー」
秋生「はっはっは、それほどでもあるぜ」
朋也「お世辞を真に受けた上に増長かよっ!」
 分かってたはずだ、この町に自慢できるものなんか何もないって。
 でも…。
朋也「…オッサン、止めてくれ。悪い芽衣ちゃん、ちょっと待っててくれ」
芽衣「は、はい」

 頼れそうなのは幸村のジイさんだが、休日なので居場所が分からない。
 かくなる上は、その次に歳を食っている知り合いに尋ねるしかない。
美佐枝「何よその選考基準はっ! あんたはケンカ売ってんのかっ!」
朋也「い、いやいやいや。ホントに美佐枝さんだけが頼りなんだってば」
朋也「何かない? 夕日が綺麗に見える場所とか、女の子から告白して生まれたカップルが永遠に幸せになれる樹とか何でもいいから」
美佐枝「いきなり言われてもねぇ…。珍しいものといえば、世界一のバカ二人組が近辺に住んでるけど」
陽平「それって僕のことですかねぇ!」
朋也「なんだいたのか、世界一のバカ」
陽平「二人組って言われたでしょっ! お前もだよっ!」
朋也「いや、お前が二人分バカなのかもしれないだろ」
陽平「そうか、そういう考え方もあるよねっ …ってねぇよっ!!」
美佐枝「そうだ、駅前においしい和菓子のお店があるのよ。『くらな堂』っていう」
朋也「無茶な名前…」
美佐枝「そこの羊羹がもう絶品でさ。この町に来たからには、あれは食べていって欲しいもんよね」
朋也「それだぁっ! ありがとう美佐枝さん!」
陽平「ぼ、僕も行くよっ!」


芽衣「あ、お兄ちゃん。いたんだ」
陽平「兄への思い溢れる言葉ですね!」
朋也「オッサン、駅前へ行ってくれ! 早く!」
秋生「なんだ、結局見送りか?」
朋也「そうじゃなくて! おいしい和菓子の店があるんだ!」
芽衣「わ、楽しみですっ」

 くらな堂…あった!
『日祝日は休業』
 ………。
芽衣「え、えーと、岡崎さんの気持ちは嬉しかったですよっ。ほんとに」
朋也「ちくしょう、それでも客商売かよぉ! これだから田舎は嫌なんだぁぁ!」
芽衣「楽しかったですから! ほんとに、ねっ?」
秋生「ま、楽しめたなら良かったじゃねぇか。これもこの町の力だな」
朋也「オッサン前向きすぎるよ!」
 結局なすすべなく、時間になったので駅へ向かった…。

陽平「そう落ち込むなって、これでもうちの地元よりはマシだよ?」
朋也「そ、そうか? こんな町でもいい方なのか?」
芽衣「はい、こっちなんて何もないですよー。ちょっと白神山地っていう山があるだけで」
朋也「なんだ山かハハハ」
芽衣「まあ世界遺産ですけど」
朋也「ぶぅ!」
芽衣「それじゃお世話になりましたっ」
 芽衣ちゃん微妙に勝ち誇ってるよ芽衣ちゃん、と思ったのは単なる俺の被害妄想だろう…。
 春原は改札の中まで見送りに行ったので、オッサンと二人で車に戻る。
朋也「変だよな、オッサン…。俺、こんな町なんか嫌いだったはずなのに…。何も芽衣ちゃんに自慢できなかったのが、なぜだか悔しいんだ…」
秋生「フッ…それが地元民ってモンだぜ」
秋生「なーに、歴史や自然だけが名所じゃねぇ。ビッグになって、そいつが生まれ育った町ってことで有名にしてやりゃいいじゃねぇか」
朋也「そうか、そうだよな…。世界的に有名な人間になればいいんだよな」
秋生「おう、その意気だぜ」
朋也「頑張れよ、ことみ!」
秋生「って他人任せかこらぁぁぁぁっ!!」
 オッサンの叫び声が、今日も空の下こだまする。
 そんな、人と町の物語。
(終)







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