この作品は「To Heart」(c)Leafを元にした二次創作です。


 
 
飛び出せ、友情!




 やっほー、みんなのアイドル志保ちゃんよ。
 突然だけど命がピンチなの。学校でこんなサバイバルを味わえるとは思わなかったわね。
「HuHuHu…。脅えてないで出てきなサイ? 哀れな獲物タチ…」
「うわ、来た!」
 ヒュンヒュン!と眼前を矢が飛んでいく。タイミングを見計らい、隠れていた柱の陰からあかりの手を握って走り出す。
「さあ逃げるわよあかり! 追いつかれたらおしまいよ!」
「ねえ志保…。どうしてわたしまで巻き込まれてるのかな…」
「いやー、暇だったからレミィの前に五円玉吊して『ユーアーハンター、ユーアーハンター』って言ってみたんだけどさぁ。まさか本当にああなるなんてね、あっはっは」
「神さまお願いします。この件が終わったら志保とは縁を切ります。だからわたしだけでも助けてください…」
「なによ、友達がいのない奴ね。あたし達は昔から一連託生じゃない!」
 全力で廊下を駆け抜け、手近にあった資料室に逃げ込んで鍵をかける。ふー、これでしばらく時間を稼げるわね。
 振り返ると部屋の隅であかりがしくしく泣いている。
「いい加減諦めなさいよ。あたしの親友になった時点でこうなる運命だったのよ」
「そんな運命いやだぁー」
「でも、こうして二人でいると初めて会った時のことを思い出さない? あかりが調子に乗って引き受けた造花造りを、あたしが手伝ってあげたのよね…」
「逆でしょ逆! 手伝ったのはわたし!」
「そうだっけ? まあ色々と懐かしいわよね。修学旅行中に抜け出したり、授業サボって遊びに行ったり…」
「そのたびにわたしも巻き添えにされて一緒に怒られてたよね…」
 などと回想にふけっている時だった。いきなり扉の方で大きな音がしたのは。
 見ると曇りガラスの向こうに、体当たりしているらしきレミィの影が!
「そんな! もうこの場所がバレたっていうの!?」
「クックックッ…ハンターの嗅覚をナメてもらっては困りマース」
「しまった! しかもこの部屋は出口が一つしかないわ!」
「そ、そんなわざわざ逃げ込んどいて今さら…」
 連続する体当たりで扉がきしみを上げる。このままじゃ突破されるのは時間の問題よっ!
「ああーもう! こんなことになるなら素直にヒロに告白しとくんだったーっ!」
「…志保?」
 あ゛。
 あかりが目の前で笑ってる。にっこりと。殺意をみなぎらせて。
「ねえ志保、志保はわたしの親友だよね? 今までわたしと浩之ちゃんの仲を応援してくれたし、これからもずっとそうだよね?」
「きーっ、あんたのその『自分は弱いから周りが助けてくれて当然』って態度が嫌いなのよ! もういい、善人ぶるのもこれまでよ。フフ…。しょせん男の前じゃ女の友情なんて紙っぺらよね…」
「ひどい、ひどいよ。わたしが昔から浩之ちゃんを好きなの知ってるくせに…。この裏切り者!」(パシン!)
「痛いわねぇ、何すんのよ!」(バシン!)
 そしてビンタの応酬…にはならなかった。あたしの方が強いし。
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「うごふぅ!」
 あかりのハエが止まりそうなパンチをかわして、ラッシュを叩き込むあたし。
「あんたもう少し反射神経鍛えなさいよねー」
「ううう…暴力反対」
「さてあたしが勝ったことだし、ヒロはあたしのものってことでOK?」
「そ、そんな〜。ね、親友を裏切って男をゲットしても幸せになんかなれないよ? ここはひとつ友情に殉じてみんなの称賛と尊敬を…」
 ダギューン!
 扉を破って飛んできた銃弾が、あたしの鼻先をかすめた。
 ゆっくりと首を横に向けると、ガラスに映るレミィの影の、肩のへんからライフルげな棒状のものが…。
「ウフフ…、待ってなさイ獲物ちゃん達…。ハチの巣にしてあげマース」
「武器が変わってるー!」
 ガンガンガン! 鍵に向かって数発。さらに蹴り、で扉は盛大な音を立てて吹っ飛ぶ。
 慌てて荷台の下に隠れて覗き込むと、目をらんらんと光らせたレミィが口から白煙を吐いていた。
「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
「くっ、調子に乗りゃあがって…。かくなる上は仕方ないわ。あかり、あんたがレミィの注意を引きつけるから、あたしはその間に逃げるのよ」
「うん、わかった…って、ええ!? 引きつけるのはわたしの方!?」
「トロいあんたじゃ逃げ切れないでしょっ。だいじょぶだいじょぶ、ちゃんと助けを呼んでくるから」
「ホントかな〜。一時間くらい経ってからのんびりやって来て、『あんたの死はムダにしないわ。ヒロはあたしに任せて天国へさようなら永遠に』とか言う気じゃあ…」
「何てことなの、あかりがそこまで友達を信じない奴だなんて…。学校中に言いふらしてやる」
「そんなっ、わたしの純朴なイメージが台無しじゃない! わかったよぉ、行ってくる…」
 誰が純朴やねん、と言いたくなる台詞を残し、渋々隠れ場所から出ていくあかり。
「Target!」
 銃口を向けるレミィの前で、素早く両腕で頭上に輪を作る。
「なんちゃってー」
「……」
 ズガガガガガガガ
「きゃあああ!」
 銃弾の雨から飛び逃げて、あたしのところへ戻ってきた。
「わたしの芸が通用しないなんて! やっぱりメリケン人は笑いのセンスが足りないんだね」
「あんたと友達になったことをかなり後悔したわよ…」
「はうっ!」
「あかり!?」
 いきなり崩れ落ちるあかり! まさか今の銃撃で!?
 レミィの足音が近づいてくる中で、親友が弱々しく笑う。
「ごめんね志保、もうダメみたい…。さっきはあんなこと言ったけど、志保と友達でいられて楽しかったよ…」
「バカッ、何を弱気になってるのよ! しっかりしなさいよ!」
「志保、わたしが死んでも浩之ちゃんとはくっつかないでね…。ムカつくから…」
「聞かなかったことにしとくわ! ねえ、目を開けてよ! あかり、あかり…?」
 そんな、どうしてあかりがこんな目に遭うの!? 『お前のせいだよ』とは言わないでね!
 神さまお願い…。あたしはどうなってもいい、あかりを、あかりを助けて!
 最後にどうか奇跡を…!!
 カチャッ
「ア、弾が切れましタ」
 ……。
「今だぁぁぁぁぁっ!!」
 一気に飛び出して、炸裂するあたしとあかりのツープラトン!
「志保ちゃんキーック!!」
「あかりちゃんキーック!!」
「GYAAA!!」
 レミィはアメコミ風の顔になって倒れた。
 た…。
 助かった…!
「あかり…」
「志保…」
 夕焼けの理科室の中で、あたしとあかりは手をがっしりと握り合う。
「は、ははは…」
「あはははは…」
 変ね、こんなにおかしい気分だなんて…。ついでにあかりは制服に穴が空いただけだった。
「ねえ志保、浩之ちゃんのことだけど…」
「ああ、あれ? 冗談に決まってるじゃない。あたしがヒロなんか好きになるわけないでしょ」
「だ、だめだよ我慢するなんて。正々堂々と勝負しよう?」
「バッカねー、そんなことしたらあたしが勝っちゃうじゃない。いいのよ、あたしはあかりさえ幸せなら…」
「だめだってば、そんなことされても嬉しくないよ」
「いいから」
「だめ」
「あーっもうしつこいわね。あんたは今まで通り犬っころみたいにあたしの言うこと聞いてりゃいいのよ」
「ひ、ひどい、わたしのことそういう目で見てたんだ…。たまねぎ頭の分際で」
「ああ!? なに人のオリジナリティ溢れる髪型にケチつけてんのよこの赤頭! トマト! パプリカ!」
「ううう〜! 志保なんて志保なんてー!」
 泣きながら腕をぐるぐる回して攻撃してくるあかりを、再度タコ殴りにしようと身構えたその時…
「ストップストーップ。ケンカはよくないヨ」
「レミィ!?」
 正気に戻ったレミィが、顔にキックの跡をつけたまま、あたし達二人の肩を抱いていた。
「な、なによ、あんたには関係ないでしょ…」
「ノー、そんなことないデス。だって二人はアタシの憧れなんだモノ」
「え…?」
「ずっと羨ましかったノ。日本に知り合いもいないアタシには、シホとアカリみたいに何でもわかり合えるBest Friendが…」
「レミィ…」
 あたしは鼻をすすり上げてから、レミィの肩を抱き返す。
「バカね。あんたもとっくにあたし達の親友に決まってるじゃない」
「Really、ホントウ?」
「当たり前だよ。これからもずっと仲良くしようね?」
「シホ…、アカリ…」
 あたしが差し出した右手に、あかりとレミィが手を重ねる。一人はみんなのために! みんなは一人のために!
 ガチャッ
 そしてレミィには手錠が…え、手錠?
「銃刀法違反その他で逮捕する!」
「ワッツ!? これモデルガンデスヨ? いやホント」
「話は署で聞こうか」
「Noooooo!!」
 いきなり現れた警官にしょっ引かれていくレミィ。
 それをしばらく見送ってから、あかりが恐る恐る目を向ける。
「ど、どうしよ志保…」
「あたし達は決して忘れないわ…。宮内レミィという偉大な友人がいたことを…!」
「ええー!? も、元はといえば志保のせいなんじゃあ…」
「まあ気を取り直して街にでも行きましょ! 今日は新作のCDが出る日なのよー! アハハハ…」
「うわー! 逃避してるー!」
 夕陽の中、爽やかな笑顔で駆け出すあたしとそれを追うあかり。
 でも結局バレて、次の日三人揃って目一杯怒られましたとさ。
「だからなんでわたしまで…」
「友達、友達!」





<END>



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