ヒャッホー!ビッグサイト


    (カリカリカリカリ。ペンを走らせる音が響く)
    ジョルジュ:なあルーファス…。眠くて死にそうなんやけど…。
    ルーファス:冬の後には春が来る!頑張るんだジョルジュ。
    ジョルジュ:こないなことで頑張れゆうてもなぁ…。
    ルーファス:だーーっ!頼むから手を休めないでくれ!このままじゃ印刷が間に合
    わないよぉぉ!
    ルーのナレーション:俺はルーファス・クローウン。ウィザーズアカデミーの部長
    をやってる魔導士志願の3年生だ。ウィザーズアカデミーとは何なのか?魔法を研
    究して世のために役立てようという崇高な部なのさ、たぶん…。
    アリシア :へぇぇ〜、それが何だってマンガ描いてるのかしらねぇ。
    ルーファス:いや、だからさぁ…。
    チェスター:この原稿全部焼き払ってやりたくなってきた。
    ルーファス:わああああ!わかった、一休みしよう!
    ナレーション:ここから東へ行ったアリアーケの街に、ビッグサイトと呼ばれる大
    きな神殿がある。そこで行われるコミ=ケットの祭り−−様々な連中が自分の作った
    本を持ち寄っては売る祭典に本を出すべく、俺たちウィザーズアカデミーは決死の
    戦いを挑んでいたのだ。
    アリシア :まったくもう…。本出したいならルー君1人でやってほしいわね。
    ルーファス:そう言うなよぉ〜。去年はもっとひどかったんだからさ…。
    ジョルジュ:なんやルーファス、去年も行ってたんか。
    蒼紫   :むぅ、コミ=ケットの祭りと言えば妖気渦巻く怪しい祭典と聞き及びま
    すが…。なぜゆえにそのようなところへ?
    ルーファス:先輩だよ先輩!ひと月前になっていきなり『ルーファス、申しこんど
    いたから本作るぞ』とか言い出してさ。しかも本人は表紙だけ描いたらもう飽きて
    『あとはお前やれ』って原稿押しつけるし。
    アリシア :つくづく不幸な人ねぇ…。
    ルーファス:しかも1週間ほど徹夜で完成はさせたものの、表紙がデイル先輩だっ
    たせいで1冊も売れなかったんだ!あの苦労って一体…
    チェスター:そ、そうだったのかよ…。まあそんなに気を落とすなよな。
    ルーファス:ありがとう!まだ在庫あるんだけど1冊買わない!?
    チェスター:買うか!
    ルーファス:ハァ
    蒼紫   :つ、つまりは昨年の雪辱をそそぎたいがために、今年は納得いく本を
    作りたいのですな。
    ルーファス:わかってくれたか!さあみんな、あと一息だ、頑張ろう!
    アリシア :でもねぇ…。
    ジョルジュ:おれら関係ないやん…。
    ルーファス:な、仲間じゃないかぁぁ!
    (ガチャ)
    システィナ:こんばんは、原稿を持って参りました〜。
    デイル  :どぉーだ、おまえらは進んでるか、んー?
    ルーファス:原稿だけ来てくれれば良かったのになぁ…。
    ジョルジュ:ほな一休みしよか。
    ルーファス:今休んだばかりだろうが!
    デイル  :まあまあ、ひとつこの俺が講評してやろうじゃないか。
    ナレーション:突然だがウィザーズアカデミー会誌『Sorcery Party』の解説をしよ
    う。メインは俺のノンフィクション24ページ。アカデミーの素晴らしい活動の数々
    が描かれており、これさえ読めば来年の新入部員は大入り間違いなしだ!それから
    アリシア14ページに、ジョルジュ10ページ、先輩の爆発マンガ12ページ。蒼紫の俳
    句、システィナの神学論文。チェスターは何もすることがないのでアリシアのアシ
    スタントをやらされている。それ俺が魔法の解説などを数ページ書いた。こうして
    見るとまとまりというものがまったくないような…
    ルーファス:一応ウィザーズアカデミーの会誌なんだけどなぁ…。アリシアはラブ
    ロマンス描くし、ジョルジュは浪速のギャグだし…
    アリシア :へぇぇ〜ルーくん、なにか不満があるみたいねぇ。
    ジョルジュ:なんならおれのページぜんぶ白紙にしたってもええんやで。
    ルーファス:ごめんなさいっ!!
    蒼紫   :済みませぬ、俳句くらいしか書けぬもので…
    ルーファス:あ、いや、それはそれで趣があっていいと思うよ。
    蒼紫   :水墨画でも描ければ良かったのですが。
    ルーファス:(よけいに浮きそうな気がする…)
    システィナ:はいルーファスさん、これ原稿です。
    ルーファス:おお!さすがシスティナは早いなぁ。
    システィナ:そんなことはありませんよ。ただ頭に響く神様の声をそのまま書き連
    ねただけですから。
    ルーファス:(…何を書いたんだ一体…)
    デイル  :なんだルーファス、おまえのはまだ完成しとらんのか。
    ルーファス:あ、あと7ページですよっ。
    アリシア :『ルーファス君のアカデミー日誌』ねぇ…。こうして見ると、あなた
    ってつくづくマンガみたいな人生を送ってるのね。
    ルーファス:ほっとけ!
    アリシア :でも私はもっと美しく描いてほしいんだけどな。
    ルーファス:いや、それは画力の限界ってやつで…
    デイル  :む。
    (ポイ!)
    デイル  :構図が甘い!線がよたってる!話の展開にひねりがない!
    (ポイ!ポイ!ポイ!)
    デイル  :腕が悪い!24ページなど宝のもちぐされである!
    ルーファス:言いたいこと言ってくれますね…
    ジョルジュ:モチが腐るともったいないなぁ。
    デイル  :しゃべるな。
    チェスター:ところで、いつまでも休憩してていいのか?
    ルーファス:そ、そうだよ!10時を過ぎると印刷室が他の連中に占領される!
    ジョルジュ:学校の印刷室で同人誌作るかいな普通…
    ルーファス:金がないんだよ!!
    デイル  :まあ待て、とりあえず俺の原稿を渡しておく。
    ルーファス:う、本当に描いてきたんですか。
    蒼紫   :こ、これは…。
    アリシア :さすが、常人には理解できない作品だわね。
    システィナ:まるで天使様が頭の中で踊っているようです…。
    デイル  :マンガにはコツというものがあるからな。「2ページ見開きで万全!」
    ジョルジュ:せんぱーい。
    ルーファス:どこの世界に同人誌で2ページ見開きする人がいるんですか…。
    デイル  :2ページ見開きで万全!これにトーンを3重に張ってこそ味が出る。
    ルーファス:印刷でつぶれるだけじゃ…。
    デイル  :おまえらは同人の本質をわかっていない!
    ルーファス:かたよってるなぁ。
    蒼紫   :ときにルーファス殿、あと2時間しかありませぬが…
    ルーファス:ああっいつの間に!?
    アリシア :チェスター君、トーン貼り終わった?
    チェスター:終わってねぇよ!大した絵でもないのにベタベタ貼りやがって…。だ
    いたいなんで俺がてめぇのアシスタントやらなきゃならねえんだよ!
    アリシア :あーら、そういうことは絵の1枚も描いてから言ってほしいわね。
    チェスター:わっ…悪かったなちくしょぉぉぉ!
    ルーファス:あっ!…逃げやがった…
          ‥‥‥‥‥‥‥
          あああっダメやぁぁもうあかんーーっっ!!!
          初参加で新刊落ち、しかも他に何もないからスペース取っただけで売
          るもんなしやぁぁぁぁっっ!!
    ジョルジュ:とんでもないやっちゃな!
    アリシア :参加したくてもスペースをとれなかった人もいるというのに…。
    ルーファス:うわぁぁぁぁーーーーっ!!!
    蒼紫   :お二人とも、そこまで追いつめることはないでしょう。
    アリシア :なんて、ね。冗談よ。チェスター君、出てらっしゃい。
    チェスター:‥‥‥‥‥
    ルーファス:チェスター!
    チェスター:け…けっ!
    システィナ:神様は常に我らの味方です。ルーファスさん、あきらめずに最後まで
    全力を尽くせば、きっと神様の恩寵が得られますよ。
    ルーファス:システィナ…ありがとうみんな!俺は命を懸けて原稿を仕上げるぞ!
    デイル  :そんなに懸命になるほどの本か?
    ルーファス:先輩は黙っててくださいよっ!システィナ、悪いけど消しゴムかけて
    くれる?
    システィナ:は、はい…粉々にすればいいのでしょうか…
    (ぱらぱらぱらぱら…)
    ルーファス:‥‥‥‥‥‥。
    システィナ:な、なにか違いましたか?ああ神様、私はどうしたらよいのでしょう
    …。
    ルーファス:いや…いいんだ…。
    ジョルジュ:よし、終わりや!
    アリシア :こっちも終わったわ。どう?なかなかの名作でしょ。
    チェスター:読んでて鳥肌が立ってくるぜ…。
    アリシア :まあチェス太郎くんたら、いいものはいいと素直に言っていいのよ?
    チェスター:誰がチェス太郎だ!!
    蒼紫   :やはりここは『柿食えば』にすべきか…。うむ、ルーファス殿。こち
    らも完成いたしました。
    ルーファス:ありがとう、ありがとうみんな…。こっちもあと少しだから、あとは
    帰っていいよ。
    ジョルジュ:言われんでもそのつもりや。
    チェスター:ったく、ひでぇ目にあったぜ。
    蒼紫   :出来上がった本を楽しみにしています。
    アリシア :はぁ、久しぶりにゆっくり眠れるわ。
    システィナ:あ、アリシアさん。髪にスクリーントーンがついてます。
    アリシア :え゛
    (いやぁぁぁーーーーっ!)
    アリシア :もう二度と同人誌なんて御免ですからね!
    (バタン!!)
    ルーファス:ううっ、ごめんよアリシア…。それにしても、当初の予定では1週間
    前には完成してるはずだったのになぁ…。
    デイル  :予定なんてそんなものだ。で、お前の原稿はどうなんだ?
    ルーファス:はいはい、文字入れて…と、完成です!これは自信作だ!
    デイル  :ありがちなオチだなぁ。
    システィナ:まぁデイルさん、そんなことを言っては失礼ですよ。オチてるだけい
    いではないですか。
    ルーファス:‥‥‥‥‥‥‥。
          はっ!まずい、あと3分しかない!印刷室へ急ぐぞ!
    システィナ:ま、待ってください〜。
    (ダダダダダダダダダ)
    (ボーン、ボーン…)
    ルーファス:ああっ鐘の音がぁぁぁ!
    生徒会長 :ハッハッハッハッ。残念だったねルーファス・クローウン。約束通り
    印刷室は生徒会が使わせてもらうよ。
    ルーファス:か、会長っ!
          1分か2分くらいまけろよなっっ!だいたいたかが委員会の資料のく
    せに…
    生徒会長 :君たちの下らない本よりはよほどましだと思うがね。では、失礼するよ。
    (バタン)
    ルーファス:‥‥‥‥‥。
    システィナ:あのう…。ルーファスさん?
    ルーファス:うわぁぁぁーーっダメやぁぁぁもうあかんーーーっ!!
          みんなになんて言い訳すれバインダーーーー!
    システィナ:こ、困りましたね…。やはりここは神様に祈るしか…。
    デイル  :まったく世話の焼ける!おい、原稿貸してみろ。
    ルーファス:せ、先輩?
    デイル  :今回だけは助けてやるが、次からはきちんと余裕を持って作るように
    な。まあ無駄とは思うが…
           書の魔獣ビブロスの力よ、我が手に現れその形をなさん…
           マジックプリント!!
    (バサバサバサバサ…)
    ルーファス:ほ、本が…印刷されてる!?
    システィナ:奇跡ですね…
    ルーファス:せ、先輩…
    デイル  :まあせいぜい頑張って売れよ。じゃあな!
    ルーファス:なんだかんだ言って頼りになる人だなぁ…
    システィナ:あ、でも表紙が全部デイルさんのアップになってます。
    ルーファス:え゛
          …うわぁぁぁーーっダメやぁぁぁもうあかんーーーっ!!
          今年もまた在庫の山やぁぁぁぁーーーーっ!!
    システィナ:叫ぶのが好きな方ですねぇ。
    ルーファス:こ、こうなったら表紙は隠し、中身を広げて展示するしかない!シス
    ティナ、さっそくアリアーケの街へ飛ぶぞ!
    システィナ:はぁ…。でも私もそろそろ眠くて…ふぁ。
    ルーファス:そ、そうだよな。ゴメン、俺1人で行くからもう帰っていいよ。
    システィナ:申し訳ありません。それでは…
    ルーファス:よーし…フライ!
    (ばひゅーーーん)
    ルーファス:(俺ってなんで寝もしないでこんな事に一生懸命になってるんだろうなぁ…)

    (チュン…チュンチュン…)
    ジョルジュ:ん、もう朝か…って11時やんけ!
    デイル  :ジョルジュ君、生きてるかぁ〜。
    ジョルジュ:あーはいはい、今行きますぅ。
    (ガタガタ)
    ジョルジュ:おやみなさんおそろいで。
    デイル  :うむ、今ごろはルーファス1人で売り子をしていると思うが。
    蒼紫   :この私が寝過ごすとは、無念です…。
    デイル  :ひとつからかいに行ってやろうじゃないか。
    システィナ:あのぅ、本を売る手伝いはしなくてよろしいのでしょうか?
    デイル  :まあまあ、向こうで考えればよい。それではスーパーフライ!
    (バビューーーーン!!)
    システィナ:まあ、ここがビッグサイトの神殿なのですねぇ。
    アリシア :なかなか美しいところね。
    蒼紫   :なにやら民族衣装を着た方々が大勢おられるようですな。
    ジョルジュ:(民族衣装か?)
    チェスター:うっとうしい所だぜ…。
    デイル  :ルーファスの場所は…南地区ソ−1○か。では皆のもの行くぞ!
    (がやがやがやがや)
    チェスター:ああっ、てめえらぶつかってくるんじゃねえよッ!
    システィナ:まあチェスターさん、彼らもぶつかりたくてぶつかってるのではない
    と思うんです。
    アリシア :そ、それにしてもとんでもない場所ね。
    ジョルジュ:おーいそこのお兄さん、ソ−1○ってどこですか?
    謎の男  :私は光の守護聖ジュリアス。アンジェリーク、おまえは女王候補なの
    だ。そのことを忘れるな。
    ジョルジュ:いや…ソ−1○は…。
    謎の男  :それならあそこにある。これからは気をつけて行動することだ。
    ジョルジュ:はあ、えらいすんません…
    デイル  :お、いたいた。
    ルーファス:ううっみんなひどいよぉ…。俺1人でずっと売り子だなんて…。
    アリシア :あら、せっかく来てあげたのにそれはないんじゃない?
    ルーファス:アリシア!みんなぁっ!
    ジョルジュ:首尾はどうや?…ってその本の山見たらわかるな。
    ルーファス:そ、それでも3冊も売れたんだ!これで表紙がこんなんでなけりゃ
    10冊くらいは…
    デイル  :誰のおかげで本が出せてるかわかってないようだな。
    ルーファス:ううっ…ああーーっ!また在庫かぁーーーっ!!
    アリシア :しょうのない人ねぇ…ほら、1冊くださいな。
    ルーファス:ア、アリシア?
    蒼紫   :ルーファス殿、よろしければ私にも。
    ルーファス:蒼紫…
    システィナ:素敵な本ですね。私にもぜひ。
    ジョルジュ:ま、しゃーないわ。
    チェスター:けっ…べ、別にほしいわけじゃねえけどな!
    ルーファス:ありがとう…ありがとうみんな!…ちょっと空しい気もするけど…
    ジョルジュ:それゆうたらおしまいやがな…
    アリシア :さ、私が売り子をやってあげる。そうすれば完売間違いなしよ。
    システィナ:まあ、アリシアさんならきっと高く買っていく人がいると思いますけ
    ど…でも人身売買なんて神様がお許しには…
    アリシア :ちょっとちょっと!
    ルーファス:誰もアリシア売るなんて言ってない…
    システィナ:でも売り物といえば物を売ることですから、売り子といえば女の子を
    売ることではないのですか?
    ジョルジュ:ちゃうわーーー!!

    ナレーション:こうしてコミ=ケットの祭りは過ぎていった。結局本はあまり売れな
    かったけど、それなりに楽しかったとは思う。
    ルーファス:でもどうせなら売れてほしかったよぉ!冬の祭りではこの雪辱を!
    デイル  :ルーファス…うちはなんの部だか言ってみろ…


                              <END>
    

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