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「うーん、すごかった」

 本命の正倉院展に対し、花歩はそんな感想しか言えなかった。

「めっちゃ混んでましたね~」
「お前が来たいと言うから、わざわざ混む日曜に来たんや。お前も桜夜先輩の同類か?」
「めめ滅相もないー! あの絢爛豪華な鏡が素晴らしかったですハイー!」
「うちは昔のスリッパみたいなの履いてみたかったです!」
「借金の証文も千三百年経てば宝物扱いというのが面白いですね」
「よろしい」

 満足そうにうなずく晴に、三人ともほっとする。
 正倉院の宝物は八千点もあるというから、毎年来たとしても見切れないのだろう。
 ここから東に行けば春日大社、さっきの大仏殿から北に行くと正倉院、と晴の説明を聞きながら、国立博物館を後にする。

(さあ、ここからはスクールアイドルの時間や!)

 花歩は気合いを入れ直しつつ、日の落ちていく道を戻る。
 興福寺近くの園地では、今日はフードイベントが開催中。
 しばし待った四人の前に、目当てのグループが現れた。
 ステージ上の五人を、人間と鹿が観客として迎える。

「平城宮学園スクールアイドル、『瑠璃光ルーリーライト』です。
 おかげさまを持ちまして、ラブライブ奈良予選はトップで通過できました。
 関西地区予選へ向け、私たちの意気込みをご覧ください」

 流れてくるのは琵琶の音色。
 古代インドから正倉院に伝来したという五絃琵琶のように、シルクロードの雰囲気が漂う。
 しかしこのグループの得意技は音楽ではない。

『おお!』

 ステージを照らす明かりが消え、代わりに色とりどりの光の玉が十数個、縦横無尽に飛び回る。
 感嘆の声を上げる観客の中、晴はじっと目を凝らしていた。

(五人しかいないのに、一体どうやってるんや……)

 そして一人ずつスポットライトを浴びながら、映し出された影絵と歌い踊る。
 相変わらず見事な照明芸に、花歩たちも見とれるばかりだった。

 ライブが終わり拍手しながら、勇魚が隣の先輩を見上げる。

「こんなに綺麗なライブは初めてです!」
「今日みたいな夜か、設備の整った会場でしかできひんから、高校生には大変やけどな」
「全くその通りや。とはいえ、これしか武器がないからね」
『!?』

 振り返ると、白衣の女生徒が近づいてくる。
 ステージにいた五人ではない。下から照明を操っていた彼女が、部長の行木なめきなのを晴は知っている。
 見るからに理系っぽい彼女は、姫水を前に目を細めた。

「まさかWestaの藤上さんが来てくれるとは思わなかった」
「知っていてくださり光栄です」
「悪いけど、正倉院展に来たついでなんや」
「ははは。だとしても嬉しいよ」

 晴がタメ口を使っているということは、相手は二年生なのだろうか。
 普段は部長の影に徹する晴だが、今日は引率者として他校に相対する。

「私はマネージャーの岸部や。
 芸術センスのない人間やから、照明についてはあまり考えてなかったが。
 こうも素晴らしい技術を見せられると、非力でも手は尽くすべきかもしれへんな」
「おお、怖い怖い。お株を奪われないように気をつけないと。
 例のバトルロード、奈良の予定はないん?」
「明日香女子に申し込まれたから、週明けに検討するところ」
「あー、こっちも遠慮せず挑めばよかったかな。
 ま、今さらしゃあない。あと二ヶ月、技を高めるのに専念するよ」

 それじゃ地区予選で、と軽く手を上げ、瑠璃光の部長は戻っていった。
 見送った姫水が疑問を口にする。

「あちらの三年生は引退されたんですか?」
「あそこは元から一、二年生しかいない。部ができたのも去年やしな。
 つまり、来年はフルメンバーが引き続き活動するということや」

 それと戦うことになる花歩と勇魚は、思わず身を固くする。
 そして晴は東を向いて、若草山に重なる夜空を見上げた。

「スクールアイドルが盛んではない奈良だが、だからこそ何とかしたいと考える者もいる。
 明日香女子も、敢えて挑戦してきたからにはそうなんやろうな」
「うち、やっぱり明日香の人にも会ってみたいです!」
「ま、明日の部活で決めることや。
 せっかくのイベントや。夕飯はそこの屋台で済ませるか」
『はいっ!』

 こうして、かつての平城京での休日は終わった。
 その二代前の都、かつての飛鳥京では何が待つのか――。


 *   *   *


「全員でお昼ってのもええもんやな~」

 桜夜の言う通り、月曜の昼休みに皆は部室に集合していた。
 二年生は明日から修学旅行なので、急いで奈良戦の結論を出さねばならない。
 購買のパンを食べながら、晴がカレンダーを指し示す。

「神戸戦のために二週間の準備期間は取りたい。となると明日香に行くなら、今週の土曜しかないですね」
「うーん、めっちゃ急やな」
「私たちは帰りの新幹線に乗っている頃ですね……」

 小都子が残念そうに不参加を告げる前で、つかさが親指を自分に向ける。

「せやからSaras&Vatiに任せてくださいって。あたし達のフットワークの軽さなら、今週末だって余裕っすよ」
「部長の私も当然行くで。となると人数的にはあと一人二人……」
「ならば花歩と勇魚を連れていくべきでしょう」

 晴に名指しされ、二人の背筋がぴんとなる。
 この二人が戦力にならねば全国へは行けない……という晴の考えは、今も変わってはいなかった。

「お前たちはまだまだ経験値が足りない。今は一つでも場数を踏むことや」
「は、はいっ! うちもそう思います!」
「部長! どうか私たちを連れていってください!」
「よし、ならば私たち三人でユニットや! 古代ロマンの地で武者修行といくで!」

 立火、花歩、勇魚。ここに新ユニットが誕生し、他のメンバーから拍手が送られた。
 部長とユニットを組めるなんて! あ、もちろん勇魚ちゃんがいるのも嬉しいで、と浮かれ気分の花歩である。

「てことで、放課後までにユニット名を考えといてや」
『はい!』

 これで明日香村へ行く五人は決定した。
 桜夜が仕方なさそうに卵焼きを頬張る。

「私と姫水は留守番か~。何して遊ぶ?」
「真面目に練習しましょうね。それとも朝から晩までお勉強会にしますか?」
「練習しよう!」

 さっそく晴が明日香女子へとメールを送り、部長はほっと息をついた。
 まだ弁当は半分以上残っている。

「割と早く話が済んだな。他に何か議題ある?」
「あ、それなら新曲の方向性を……そろそろ決めたいんですが」

 手を上げて発言する夕理に、弛緩した空気も再び引き締まる。
 先週も議論したが、色々とジャンルは挙がるものの決定的なものはなかった。
 一体どんな曲なら、26位から4位以内に躍進できるのか……。

「やっぱり、夕理ちゃんが書きたい曲でええと思うよ」

 いつものように優しい小都子に、立火もその通りと首を縦に振る。
 そして桜夜が軽い調子ながら、ほんの少しだけ柔らかく言った。

「何で今回はそんな控え目なんや。いつもみたいに強気に出たらええやろ。
 こっちも今さら文句なんか言わへんって」
「木ノ川先輩……」

 何かに迷っていた夕理の顔から、揺らぎが消える。
 こちらを見つめる部員たちの前で、小さく息を吸って言葉を吐き出した。

「ここしばらく、ずっと考えていました。私の音楽の根源はなんやろうって。
 それはやっぱり……クラシックなんやと思います」

 聞いた途端、桜夜がばたりとテーブルに突っ伏した。

「終わりや……。また高尚路線で惨敗や……」
「思いっきり文句言うてるやないですか!
 まず聞いてください。クラシックというのは、木ノ川先輩が眠くなる曲ばかりではないので!」

 スマホを取り出した夕理が曲を再生する。
 それは確かに、皆の眠気を吹き飛ばすものだった。

♪チャーララーララーラララー ラーラララー ラララーララー



 勇壮で躍動的、聞いているだけで気分が高揚してくる。
 ジャンジャンジャーン! と鳴るシンバルに、桜夜も顔を上げて思わず体を揺らした。

「ブラームスの『ハンガリー舞曲』第5番です。あるいはこの曲」

♪チャッラララララ ラララララララララ チャララララララララー



 頭がせわしなくなるようなテンポの速い曲に、勇魚が嬉しそうに声を上げる。

「運動会で流れる曲や!」
「ハチャトゥリアン『剣の舞』。こういう方向性で、一曲考えてみたいと思います」
「ええやないか、この勢いなら盛り上がるで! 曲のテーマはなんや?」

 立火の質問にまた一瞬躊躇する夕理だが、覚悟を決めたように拳を握った。
 ここまできたら、自分の選択が正しいと信じるしかないと……
 十六の瞳に向かって、きっぱりと宣言する。


「テーマは『決闘』!
 京都、飛鳥、神戸。三都のバトルロードのその先で――
 私たちの最大の戦いを、大阪城ホールで見せてやりましょう!」


 ごくり、と唾をのむ部員たちの胸に、様々な思いが去来する。
 桜夜は初めて素直に、この後輩を信頼できることを嬉しく思い。
 小都子は『欲しいもののためには戦え』という、いつか二人でした話を思い出す。

 つかさはやる気に燃えつつちらりと姫水を見て。
 その姫水は良い選択と冷静に判断し。
 勇魚は自分とは合わないテーマながらも、とにかく頑張ろうと気合いを入れる。
 そして満面の笑みで全てを託す部長に、夕理は胸が熱くなりながら、曲作りの相方に問いかけた。

「というわけで花歩! どうやろ!」
「うん――夕理ちゃん、私もやるで! Westaの決戦の曲を、一緒に作ろう!」

 手を伸ばして固く握手してから、夕理は最後に計画を話した。

「まずは神戸戦に向けてプロトタイプを作ります。
 それへの観客の反応を見て、最終的に完成させます!」
「おおー、めっちゃ力入ってるな!
 みんな、泣いても笑ってもこの曲が天王山や。
 なにわの闘魂ってやつを、関西中のやつらに見せたるで!」
『おーー!』


「夕理」

 昼休みが終わり、教室に戻る途中で晴に話しかけられた。

「曲の方向としては私も文句はない。
 だが何か躊躇していたな。お前はいったい『誰と誰を』決闘させるつもりや」

 ぐ、と夕理は言葉に詰まる。
 さすがに鋭いが、今はまだ言えなかった。
 今回ばかりは小都子ですら、おそらく賛同はしてくれないだろうから……。

「神戸での結果を見てからお話しします。
 断言しますが、私は決して私情に流されたりはしません。
 全国へ行くために、最も可能性の高い方法を真剣に考えています!」
「そうか、勝てればええんや。勝てるならな」

 それだけ言って離れようとする晴に、前方を歩く一年生を見ながら、話を変えるように夕理は尋ねる。

「……修学旅行の自由行動、先輩はどうするんですか?」
「人が少ないグループに名前だけ入れてもらって、実際は単独行動する。
 お前に向いてるとは思えへんけどな。来年は部のやつと同じクラスになれるよう祈っておけ」
「そ、そうですね……経験上、クラス分けには期待してないんですけど。
 でも、お祈りはしておきます」


 *   *   *


 一方、返信の届いた明日香村では……

「うわああああ! 勝負受けるって! どうしよう!」
「礼阿先輩が申し込んだんやないですか……聖徳太子の真似までして」

 呆れている万葉の前で、礼阿だけでなく安菜も動揺して頭を抱えている。

「ううう……大阪のヤクザに八人がかかりで蹂躙される……」
「大丈夫やで安菜ちゃんー。五人しか来ないみたいやー」
「ううう……舐めプされてる……」
「難儀な子やねー」

 まあ配信の画面映りを考えると、人数は対等にしてもらえた方がこちらとしてもありがたい。
 なんて考えながらメールを読み返した万葉が、懸念点を礼阿に伝える。

「それにしても今週末とは急ですね」
「無茶なタイミングで申し込んだのはこっちやからな。そこは飲まなあかん。
 けどお客集まらなそうやなあ……。京都であれだけ人多かった後やと、がっかりされそう」
「んー、それやったら、舞台だけは最高のとこ用意しよかー」
「え、飛鳥。何か当てあるの?」
「みんな耳貸してー」

 ごにょごにょ、と告げられた『舞台』の名に、三人はあんぐり口を開けた。
 礼阿の額から冷や汗が流れ落ちる。

「え、ほ、ほんまに借りられるの?」
「いけるいけるー。ちょっと連絡してくるねー」

 電話をかけに出ていった部長を見送り、恐る恐る安菜に尋ねる万葉だった。

「飛鳥先輩って何者なんですか?」
「フフフ……実は一帯の漁師を仕切る網元だったのだよ」
「いえここ海なし県ですけど……」


 *   *   *


 その日の放課後から、Westaは三つに分裂して活動を始めた。
 まずは立火、花歩、勇魚の新ユニットである。

「ユニット名思いついた?」
「はいっ! うち、がんばって考えました!」

 部長に元気よく手を上げた勇魚が、自信満々で案を披露する。

「大阪で一番自慢できるものは、やっぱりおばちゃんやと思います!」
「え……そ、そうやろか?」
「いつも明るくて親切で、気さくに飴ちゃんをくれる大阪のおばちゃん……。
 うちも将来はそんな風になりたいです!
 なのでユニット名は『おばちゃん娘』でどうでしょう!」
「おばちゃんなのか娘なのかどっちやねん!」

 立火と花歩の同時ツッコミが入り、勇魚はしょぼんと肩を落とす。

「やっぱりあかんでしょうか」
「いやいや、悪くはないとは思うで。けどちょっと斬新すぎたかな!
 てことで私の案やけど……」

 立火はこほんと咳払いすると、後輩たちに向かって人差し指を立てた。

「やっぱり三人の名前から一文字ずつ取るのがええと思うんや」
「王道ですね!」
「勇魚、花歩、立火の頭文字を取って……。
 ユニット名『I・KA・RI』でどうや!」
「さすが立火先輩です! 船のイカリみたいにどっしり構えようってことですね!」
「いや、どう聞いても怒る方の怒りにしかならないと思いますが……」

 花歩に冷静にツッコまれ、立火は慌てて修正を図る。

「そ、それやったら『RI・KA・I』でお互い分かり合う感じはどうや!?
 いやむしろアナグラムで『RAKII』というラッキーな名前を……」
「部長……どんどん無理がある感じになってます……」
「ぐあー」

 頭を抱える立火だが、正直自分でもそんな気はしていた。
 気を取り直し、ずっと歌詞を頑張ってきた後輩に全てを託す。

「これはもう日本語のエキスパートたる、作詞家の花歩大先生に頼るしかないで!」
「頼むで、花ちゃん大先生!」
「えええ!? わ、私の案も正直大したことないんですが……」

 こんなことならもっと一生懸命考えればよかった、と今さら後悔しても遅い。
 二人から期待の目で見られ、逃亡もできず仕方なく披露した。

「その……前に部長に読ませてもらった漫画、カッコいいタッグ名が出てきましたよね?」
「キン肉マンとテリーマンのザ・マシンガンズやな! あの友情パワーにあやかりたいもんやな」
「なので武器つながりということで……。

 『ザ・ハリセンズ』でどうでしょう?」

(って、完全にお笑いトリオの名前やーん!)
(なんか有名な芸人さんと似通ってるし!)
(くそう、結構歌詞書いてきたのに、私のセンスなんてこんなもんや……)

 怒涛の自己ツッコミを繰り広げる花歩だが、メンバー二人は逆に感激していた。
 勇魚などは目に涙まで浮かべている。

「さすが花ちゃんや……これ以上うちらにピッタリの名前はないで!」
「うむ、まさに大阪という感じやな!」
「え、あの、ほんまにいいんですか? もう一度考え直した方が……」
「行くで、ザ・ハリセンズ始動や!」
「おおー!」
「お、おおー」

 その隣で、小都子に練習を見てもらっていたのはSaras&Vati。
 うちつかさの方が、ニヤニヤしながら声を投げてくる。

「これはどっちが人気出るかユニット対抗やな。花歩、負けた方が何かおごりにしない?」
「え! 私とつかさちゃんで!?」
「そっちは部長さんがいるんや。丁度いいハンデやろ」
「むむむ……ハ、ハンデなんていらんわ! 私だけでつかさちゃんより目立ってみせるで!」

 勝手に火花を散らす二人に、夕理と勇魚は困り顔。
 そして立火は、笑いながら後輩たちを諭した。



「止めはせえへんけど、相手はあくまでmahoro-paやからな。あちらさんに失礼のないように頼むで」
「も、もちろんですっ」
「分かってますって」

 軽く答えたつかさは練習に戻りつつ、やる気の花歩を横目に映す。

(今回は姫水が留守番やからなー。香流にも言われたし、花歩の相手をしてやらないと)

 夕理も少し嬉しそうに、持ってきたバイオリンを構えた。
 海遊館をテーマにした曲、『KAI-KAN YOU-CAN』を、小都子の指導のもと改善していく。

 一方のハリセンズは『Western Westa』。
 入学式の時とは違う三人で、頑張ってステップを踏む。
 二つの曲が響く部室で、留守番組には晴から注文がついていた。

「今のWestaの実力者は部長、姫水、それに小都子が殻を破った。
 あとは桜夜先輩にレベルアップしてもらわなあかん」
「ええー? 可愛さでは関西一やと思うんやけど」
「それは認めますが、全国へ行くにはもう一つ上が必要です。
 なので姫水、今週は桜夜先輩のコーチとして鍛えてやってほしい。部長も了解済みや」

 部室の反対側でうなずく立火を見て、姫水もあごに指を当てる。

「なるほど……方針としてはごもっともです。
 桜夜先輩は既にかなりの実力は備えてますから、花歩ちゃんのコーチより難易度は上がりますけど。
 でも、私にできる限りのことはしてみます」
「ううう……立火もそう思ってるんやったら」

 桜夜としても、もうヘラヘラ笑ってられる状況ではないのは分かっている。
 ぱしんと両頬を軽く叩くと、かつてない真剣な目を後輩に向けた。

「頼むで姫水、私を全国レベルのアイドルにして!」
「はい、先輩ならきっと大丈夫です」
「今日のところは私も手伝うで」

 姫水と晴にあれこれ指示されながら、桜夜は時間を大事に費やしていく。
 六回目のラブライブ。これで本当に最後のチャンス。
 負けても幸せになれるように、と相方は言ってはいたけど。
 やっぱり立火には、勝って笑ってほしかった。


 練習後のミーティングで、小都子は改めて居ずまいを正した。

「では、私と晴ちゃんはしばらく留守にします。みんな、ケガに気を付けて頑張ってや」
「熊本と大分に行くんですよね! やっぱり復興支援なんですか?」
「前から行き先は九州やけど、まあ結果的にはそうなるのかな」

 勇魚の問いに答えた小都子に、去年行った三年生たちが言葉を続ける。

「熊本城には入れへんかったけど、こういう時に行ってこそ人情やからな」
「くまモンがいっぱいいたから、私は満足やったで」
「わあ! うちもくまモン大好きです!」

 来年に控える修学旅行に、一年生たちも思いをはせる。
 つかさも空気を読んで、『九州も悪くないけどさあ。やっぱ沖縄か北海道が良かったなあ』なんてことは思っても言わない。
 姫水だけはあやふやな自分の未来に、微妙な顔をするしかなかったけれど……。


 *   *   *


 翌日から、さっそく小都子の旅行写真が届いた。

『福岡に到着しました。これから天神で友達と買い物です。
 いきなり荷物になるのもあれやから、控えめにするけどね。
 晴ちゃんは金印を見に博物館へ行ったみたいや』

(そういえば泉先輩も福岡やな……まあ会いはしないだろうけど)
(小都子、今は泉先輩のことどう思ってるんやろなあ……)

 考えても仕方ないことを考えながら、立火は部室の鍵を開ける。
 後ろにいた桜夜が、からかうように声をかけてきた。

「今まで頭使うのは晴に頼りっぱなしやったろ。いなくて大丈夫~?」
「失礼な、私の頭だってタコが詰まってるのとちゃうで! ちゃんと部長として的確な判断を……」

 話しながらぞろぞろと部室に入り、晴が置いていったノートPCを開くと、部にメールが届いている。
 mahoro-paの部長からだった。

『田舎なもんであんまり客入りは見込めへんねんー。
 ほんでみぃそれでねぇ、せめて舞台だけは最高のものを用意したんやけど、どうやろー。
 ↓クリックしてね』

「ほほう……どんだけ豪勢なステージなんや」

 示されたURLをクリックすると、画面上に地図が開く。
 そこに書かれた地名は……

『石舞台古墳』

「確かに舞台って入ってはいるけど!」



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