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「遅い! あいつはほんまにもー!」

 新大阪駅の文楽人形前で、立火が相方のことを愚痴っている。
 待ち合わせ時間は既に過ぎ、姫水が心配そうに周囲を見渡した。

「車で送ってもらうという話でしたよね。渋滞でしょうか……」
「どうせ寝坊か何かやろ。最後の最後になってこれなんやから」

 とはいえ全国大会は明日。今日遅れても観光ができなくなるだけだ。
 晴が冷静に打つ手を考える。

「間に合わない場合は、私と桜夜先輩だけ後の車両に乗ります。自由席になりますが」
「そんなー! うち、先輩たちと一緒に新幹線に乗りたいです!」

 という勇魚の願いが通じたのかどうか。
 結局七分遅れで、桜夜はキャリーケースを引いて到着した。

「ごめんごめん。どの問題集持ってくか迷っててん」
「ほんまかいな。って喋ってる場合とちゃう、改札入るで!」

 中で在来線側から来た夕理・つかさと合流し、急いでホームへ向かう。
 到着する列車の写真を撮り、中に入って何とか一息ついた。

「では桜夜先輩、真ん中へどうぞ」
「ううっ、お願いするで先生」

 姫水と晴に挟まれ、桜夜は勉強を教わりながら、二時間半を過ごすことになる。
 そして花歩は立火の目を避けるように、一番後ろの窓側へ行った。

(東京に着くまでに、せめて半分は歌詞を完成させたい!)

 隣に座る夕理からこっそり渡されたのは、ATFDとは似て非なる、明るくも爽やかな曲だ。
 少しクラシックっぽい部分もある。
 夕理らしさとWestaらしさが合わさったこの曲で、必ず三年生を朗らかに送ろう。

 前の席では勇魚がはしゃいでいたが、発車してしばらく経つうちに、声が小さくなっていく。

「あの……新幹線って、えらい静かなんですね」

 周りは真面目な顔のビジネスマンばかり。
 立火が笑いながら、同じくらいの声量で答えた。

「一度東京まで乗ったんとちゃうの?」
「あのときはそれどころではなくて……。中学の修学旅行で、広島に行ったときは大騒ぎでした」
「修学旅行は貸し切りやからなあ」
「一応、隣に聞こえる程度の声で話すのがマナーらしいで」

 小都子にも言われ、声を小さくしながらも、喋るのはやめない勇魚である。
 京都を過ぎ、滋賀の田園地帯を走る中、立火がふと気付いたように言った。

「そういや私、琵琶湖より東に行くの初めてや」
「え、マジっすか。関ヶ原を越えたことないんですか」

 後ろからつかさが首を伸ばし、驚きの声をかけてくる。

「そういや受験も大阪会場でしたっけ」
「そうそう。今日が初名古屋やなあ」
「あたしは浜松まで乗ったことありますよ。家族とうなぎ食べに」
「ええな! うち静岡に降りたことないねん。
 そういや花ちゃん、岐阜のおばあちゃんち……」

 行くとき新幹線乗った? という勇魚の質問は、夕理にブロックされた。

「花歩は忙しいんや。今は話しかけないで」
「あ、そやった。ごめんね花ちゃん!」
「ん? 花歩は試験勉強してるん?」

 振り返ろうとする立火に、花歩は慌てて作詞ノートを隠す。

「そ、そーなんですよー。今回は試験範囲広くて!」
「三学期はなあ。けど卒業する頃には、テストの日々もいい思い出になるで」
「は、はいっ」

 隠し事を心苦しく思いつつ、頑張って歌詞を作っていく。
 ちなみに岐阜へは車で行ったので、新幹線では既に未踏の地である。


 名古屋に停車し、立火が窓越しにホームを眺める前で、桜夜は限界に達していた。

「せっかくの旅行なのに! 何で私は勉強なんや!」
「旅行と言っても今できるのはお喋りくらいでしょう。車窓も大したことはありません。
 浜名湖まで行ったら、少しは景色を見てもいいですよ」
「なんか晴に管理されてる……」
「来週はもう卒業式です。どうか心置きなく見送らせてください」
「うう、そうやなあ……」

 姫水の言う通り、明後日の試験に受かればすっきり卒業できる。
 逆に落ちて後期試験までもつれたら、進路の決まらぬ情けない卒業式になる。
 仕方なく勉強に戻る桜夜である。

 その浜名湖も通り過ぎ、長い静岡を走って、ついに富士山が見えてきた。

「おお! あれが日本一の山!
 ちなみに浪花の天保山も少し前まで日本一やったで」
「低い方の一番やんけ!」

 立火と桜夜が言い合い、花歩も鉛筆を止めて大喜びで写真を撮る。
 が、勇魚は少し残念そうだった。

「また頂上が雲の中やー」
「勇魚ちゃん、前に来てくれたときもそうだったの?」
「そうやで。でもそのときは無事に姫ちゃんを助けられたんやから、縁起がいいのかも!」
「それに、今の私たちにはお似合いやしねえ」

 小都子が言う通り。全国大会に登山はできたが、頂上は雲の向こうで影すら見えない。
 反対側の窓の先、沼津の優勝候補・Aqoursとも、今回は全く勝負にならない。
 勇魚としては良かったのか悪かったのか、何とも言えない。

(とにかく明日は生でAqoursを見られるんや!)
(リトルデーモンとして盛り上がるでー!)


 *   *   *


 小田原、新横浜、と名前は知っている駅を通り過ぎ、いよいよ品川が近づいてきた。
 桜夜の勉強も一段落し、問題集をしまいながら後輩に尋ねる。

「姫水は品川に住んでたんやったっけ」
「そうですね。一番の最寄りは北品川駅でしたけど」
「ほー、北の品川……」
「品川駅の南にあるんですよ」
「何でやねん!」

 不思議な東京にツッコミを入れつつ、品川駅に到着。
 ホームで伸びをする部員たちを晴が振り返った。

「品川のホテルは高いので、宿は新橋や。あと少し移動するで」
「新橋……って日本史で習ったかも」

 無事に歌詞を半分作れた花歩が、文系の頭から記憶を引き出す。

「そう、鉄道発祥の地!」
「汽笛一声新橋を~ってやつやな。姫水、どんなとこなん?」
「今はビジネスと飲み屋街ね。大阪で言ったら京橋が近いかも」

 つかさと姫水の会話で出た地名に、夕理が複雑な顔をしながら皆と移動する。

 ちょうど東海道線が来たので一駅乗って、新橋駅で下車。
 駅前にある黒いSLに歓声を上げるが、それ以外は確かに京橋っぽい。
 ホテルへ荷物を預けて身軽になると、時計はもうすぐ正午だ。

「よーし、まずは蕎麦屋や!」
「歩いてすぐです」

 立火と晴に率いられて向かった先は、木造の通っぽい店だった。
 テーブルをくっつけて九人席を作ってもらい、さっそくお品書きを眺める。
 鴨南蛮が高いのは東西共通のようだ。

「あ、きつねそばやって」

 小都子が指したメニューは、大阪ではあまり見ない名前だ。
 油揚げが載った蕎麦について、姫水がネットで見た知識を思い出す。

「大阪ではたぬきそばって言うんでしたっけ」
「ということになってるけど、それも正直あんまり見かけへんねえ」
「油揚げはやっぱりうどんに載せたいとこやな。てことで私は月見にするで!」

 立火に続いて部員たちも、天ぷら、山かけ、と次々決める。
 小都子はせっかくだからと、きつねそばを選んだ。
 最後まで迷っていた桜夜が、後ろめたそうに口を開く。

「カツ丼にする……」
「お前……蕎麦屋でいいって自分で言うたくせに……」
「ええやろ! カツ丼食べたい気分なんや!」
「まあまあまあ、おいしいですよね蕎麦屋のカツ丼」

 花歩がフォローし、店員のお姉さんを呼んで注文した。
 一体どれだけ黒いのか、待つことしばらく……。

「お待ちどお!」
(あれ……?)
(言うほど黒くない……)

 大阪の出汁よりはもちろん濃いが、それでもせいぜい焦げ茶色。
 これなら伊勢うどんの方がもっと黒い。
 微妙な顔の少女たちに、店員は怪訝な目を向けた。

「どうかしたかい?」
「あ、いえそのっ」

 とっさに言い訳を思いつかない小都子に、立火がすぐに助けに入る。
 こういう時は正直に話した方がいい。

「いやー、私ら大阪から来ましてんけど。
 東京の出汁は黒いって聞いてたもんやから、実際はそうでもないなあって……」
「ぷっ、あははは! そういうことだったの。
 色はお店次第だけど、割とこんなもんだよ。真っ黒ってのはそんなに見ないねえ」
「うーん、やっぱり世間の噂は大袈裟なんやなあ。
 どうも、勉強になりました!」
「いえいえ。東京の味、ゆっくり楽しんでいってよ!」

 店員が笑顔で立ち去ると同時に、つかさが立火に耳打ちした。

「気持ちのいいお姉さんですね。さすが江戸っ子って感じ」
「確かに、そういうとこは認めなあかんなあ……。おっ、早よ食べな伸びるで」

 ずるずると、コシのある蕎麦に舌鼓を打つ。
 醤油ベースのつゆも、しょっぱ過ぎるなんてことはなく普通においしかった。
 そして黄金色のカツ丼を食す桜夜に、勇魚が図々しくおねだりする。

「先輩先輩、うちも一口食べたいです!」
「おっ、ええでー。ならお蕎麦ちょうだい」

 豚カツをかじる勇魚に、なら私も、あたしもーと後輩たちが手を上げ、私の分なくなるやん!と桜夜は笑いながら抗議。
 そして黙っておろしそばをすすっている夕理に目を留めた。

「夕理も食べる?」
「いりません」
「何やねん、もう! ほら、カツの端っこあげるから!」
「そっちこそ何なんですか、もう……」


 *   *   *


 秋葉原駅。
 新橋から移動してきた一同は、電気街口に降り立った。
 とはいえ街自体は日本橋が大きくなっただけ、と聞いてはあまり興味は持てない。
 スクールアイドル関連を目当てに、明日のドームとは逆方向へ進む。

「あれがUTX学院やー!」

 駅を出てすぐのところ、スクリーンの向こうに巨大な学校がそびえる。
 勇魚は大喜びだが、花歩にはいまいちピンとこない。

「第1回の優勝グループが出たところだよね。でも今は全然名前聞かへんねんな」
「芸能学校やし、他の学校とは最初から立ち位置がちゃうからな。
 プロのレッスンを受けるなんて不公平! と叩いた連中のせいで、最近は新入生くらいしか出してこない」

 晴の解説に、目を釣り上げたのはもちろん夕理である。

「叩いた連中とは何ですか。当然の批判です!
 でも安心しました。ゴルフラが人気出たせいで、UTXも再び本気を出さないか心配したんですが。そんな事はなくて」
「経営は順調やからな。今さらスクールアイドルに頼る必要もないんやろ」
(そういやあたしは曲カバーさせてもらったんや。拝んどこ)

 つかさは合掌してから、先へ行った仲間たちを追いかける。

 中央通りに出れば、萌え絵やイケメンの大きな広告が並ぶ。
 唯一片足を突っ込んでる桜夜が、立火に肘で突っつかれた。

「ああいうのに歓声上げたりせえへんの?」
「ハマってたのはおととしやから! でも受験終わったら、また何かゲームでもやろうかなあ」
「それより想像してみてください。この通りを埋め尽くす、スクールアイドルの集団を」

 姫水が目を閉じて、六年前のことを追想する。

「ここでSUNNY DAY SONGが歌われたんですよ。あのライブがあってこそ、私たちはアキバドームを使えるんです」
「おお……そう考えると感慨深いもんやなあ」
「姫ちゃん、ちょっと歌ってみよか!」
「そうね、小声ならいいかも」

 ふふふんふん、ふふふんふん、と皆で鼻歌を口ずさみながら、伝説のライブを追体験していく。
 姫水が穂乃果に会った場所から、少し通り過ぎたあたりで脇道に入った。
 数歩進んで、立火は大通りを振り返る。

(高坂穂乃果さんは、ほんまにどでかい事をやったんやな……)

 もし自分が同じ時代に生まれていたら。
 御堂筋をスクールアイドルを埋め尽くして、全国大会は京セラドームで開催させられたろうか。
 ……ぎりぎり予選を突破できただけの現状を見るに、夢のまた夢だったろう。

(ま、英雄にはなれなくても、私には最高の三年間やった)

 スクールアイドルの歴史の一滴には何とかなれた。
 伝説の場所を後にして、立火は足取り軽く先へ進んでいく。


 *   *   *


 その穂乃果の実家が、和菓子屋『穂むら』。大会前日とあってか行列ができていた。
 並ぶのは諦め、お饅頭の味はいつか姫水に確認してもらうことにする。
 そして大通りとは打って変わった、下町の路地を歩くことしばし……。

「これも有名や!」

 勇魚が万歳する目の前には、建物の間を登っていく階段。
 かつてμ'sが練習したという、神田明神の男坂である。

「うちらも走っていきませんか!?」
「いやいや、他に人もいるし危ないで。ほら、女の子が降りてくるし……って」

 小都子が指さした先で、四人の女子高生が談笑しながら段を下ってきた。
 その顔はどこかで見たことがある。今は制服だが、確か巫女の姿だったような……。

「八咫angelさん!?」
「あれ、大阪の戦闘集団や。はろはろー」

 相変わらず軽いノリの、リーダー神倉結かみくら ゆいが手を振ってくる。
 そういうイメージ持たれてるんやな、と苦笑しつつ、立火は坂の下で待ち構えた。

「奇遇やな。来るの大変やったんとちゃう?」
「新宮から五時間以上かかったで、ほんま死にそう。
 せやけど熊野の巫女としては、お参りしないわけにはね」

 振り返った結の頭には、かつてここで巫女をしていたμ'sの一人がいるのかもしれない。
 実績は上のグループだが、今は立場は同じや、と桜夜が気さくに話しかける。

「そっちの調子はどう? 私たちはバッチリやで!」
「おっ、やる気やん。うちも今や熊野三山の看板を背負ってるんや。めっちゃ暴れるつもりやからー」
「今回は伊勢OToMe.も参加しちゃあるからねえ」

 メンバーの一人が挙げたのは三重県のグループ。東海予選ではAqoursの後塵を拝したものの、三位で通過した。
 ライバル視している結はぐっと拳を握る。

「伊勢神宮ばっか知名度ありすぎや! 熊野三山も同じくらいに上げたい!」
「おお……壮大な野望やん。私も行ったことないけど熊野」
「ちょっとお! せめて隣の県の人は来たってや!」
「ごめんごめん、そのうち二人で行くから」

 桜夜の暴言を立火が笑いながら謝り、ほなまた明日、と今日は別れた。

「なんや、東京で関西弁を聞くと安心するねぇ」

 小都子がしみじみ言う傍ら、夕理は八咫angelに対しては少々複雑である。
 ご当地アイドルとはいえ、スクールアイドルを踏み台にしてプロになるとは。A-RISEと同様に許しがたい。
 しかし陸の孤島、人口減が続く南紀で頑張ってきたのも事実で、便利な都会に暮らす身としては後ろめたくもある。

(何もかもが同じ条件で勝負できたらええのに)

 現実的に不可能なことを考えながら、夕理は男坂を登る。


 事前に姫水に言われた通り、東京総鎮守の神田明神は、町中のこぢんまりした神社だ。
 同じく町中にある大阪総鎮守、生國魂いくくにたま神社よりずっと小さい。
 しかし境内は綺麗に掃除され、ラブライブの勝利を願う絵馬が大量に掛けられていた。
 つかさがきょろきょろと周囲を見回す。

「もっとご同類がいるかと思ったんやけど、そうでもないっすね」
「前日入りするのは31グループ中、遠方から来る奴だけやからな。混むのは明日やろ」

 晴の言う通り、今日の時点では一般の参拝客の方が多い。
 しかし皆無というわけではなく、立派な本殿前で、二人の女子高生がお祈りをしていた。

「あの人たち、スクールアイドルっぽいですね!」

 勇魚が言うと同時に、そのうちの片方がこちらを振り向く。
 鋭い目つきに、頭の両側で大きく髪を結わえた小柄な少女。
 動画で見たことのある顔に、勇魚は思わず大声を上げた。



「鹿角理亞先輩やー!! まさかお会いできるなんて!」
「ち、ちょっと勇魚ちゃん、声が大きいわよ」

 姫水が慌てて止めるが、相手は悪い気はしなかったのか、微笑んで近づいてくる。

「何? 私のファン?」
「はいっ。見事に復活して再び全国出場なんて、めっちゃ感動しました!
 去年の予選ではあんなに盛大に転んだのに!」
「おいいいい!」
「すみません! 勇魚ちゃんに悪気はないんです!」

 立火が焦って後輩の口をふさぎ、姫水が代わりにぺこぺこと謝る。
 またデリカシーのないことをしてしまったのかと、勇魚はみるみる青くなっていく。
 が、言われた側は苦笑して肩をすくめた。

「別にいいわよ。あの失敗があってこそ、今の私があるんだしね。
 どこかで見たと思ったら……あなたたち、明日の出場校ね」
「あ、ああ。大阪から来たWestaや、よろしく!」

 立火が挨拶する後ろで、花歩は昨日の予習を思い出す。
 彼女たちは北海道代表、函館聖泉女子高等学院『Eternal Ice』の二人。
 理亞の方は去年は別のグループ名で、夏の全国大会で八位に入っている。
 立火もそれを思い出したのか、年下相手でも挑戦者として言った。

「私たちは初出場や。胸を借りるつもりで戦わせてもらうで!」
「こっちも去年の成果にすがる気はないわ。初めてのつもりで挑む気だから。お互い頑張りましょう」
「ふふ。理亞ちゃん、なまら丸くなったねえ」
「う、うるさいわね。私だってもうすぐ最上級生だもの」

 相方に言われて赤くなった理亞が、それじゃと立ち去ろうとする。
 勇魚が名残惜しそうに、もう少しだけと話しかけた。

「あのっ、初めて会ったグループには宙返りをして、格の違いを見せつけるんですよね!
 ヨハネ先輩がブログで書いてはりました!」
「ぶっ! あの堕天使なに書いてんのよ!」
「理亞ちゃん、そんなことしてたの……」
「い、いやあの時は調子に乗って、神社で何してんだって後で姉様にも怒られて……。
 あーもう! 忘れなさい!」

 相方の子と話しながら、理亞は振り返ることなく神社を出ていく。
 宙返りを見せてもらえず残念そうな勇魚に、つかさが緊張を解くように息を吐いた。

「もー勇魚、少しは自重してや。見てて冷や冷やしたで」
「え、えへへ。ネットでしか知らなかった人に会えたんや。ほんまに嬉しくて」
「まあまあ、あの子も怒ってなかったしええやん。さ、私たちもお参りしよ」

 桜夜に言われて、本堂の前で一列に並ぶ。
 賽銭箱に硬貨が投げ入れられ、九人が願うことはただ一つ。

『明日のライブが成功しますように!』

 切実な祈りを終え、あとは境内をぶらぶらする。
 小さな神馬を見て笑顔の一年生たちに、小都子がぽつりと呟いた。

「さっきの鹿角さんたちも、明日は笑ってくれるかなあ」
「うーん、ちょっと難しいかもですね」

 再び予習の知識を引っ張り出して、花歩が腕組みして言う。

「『ラブライブは遊びじゃない!』が座右の銘らしいので。
 あ、でも似たような夕理ちゃんがいるんやから大丈夫かも」
「さすがに私も今回ばかりは……ふざけてるって思われるのも覚悟してる。
 でも私たちだって本気で考えて、本気で練習してきたことだけは、何とか分かって欲しいとこや」
「ああ。大阪人は遊びも本気やってこと、日本中の人たちに見せたるで!」

 部長の言葉に、皆も力強くうなずいた。
 さて次は上野へ……というところで、晴が立火と桜夜へ最終確認する。

「本当に本当に、科学博物館でいいんですね?」
「もう、なんや晴。私たちみたいなアホでも、知識欲くらいあるんやで」
「そーそー。東京観光は遊びやないんや!」



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