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「伊耶那ー! もう少し愛想よくしたらー!?」
(八咫angel、あんなとこにいたんや)

 午前最後のグループは伊勢OToMe.。
 立火たちとは反対側の席から、結が大声で茶々を入れている。
 しかしステージまで届くはずもなく、巫女風衣装の伊耶那たちは真面目な顔で舞い始めた。

『あめつちの 鎮まりいますは かしこみ かしこみ』

 伊勢斎宮学院の十八番、神楽を取り入れた和風のライブ。
 アマテラスが降臨したかのような、神秘的なステージに観客は見入るばかり。
 見終わった勇魚が、神ライブや! とそのまんまな感想を述べた。

「天之錦の参考にもなりそうですよね! 帰ったらたけちゃんと話してみます!」
「ほんまにねえ。和風にも色々とやり方があるんやねえ」

 小都子が答えながら、昼休みのドームで大きく伸びをする。
 さすがの全国大会だけあって、見るだけでかなりのエネルギーを使った。
 いよいよ挑む本番のため、お昼を食べてリフレッシュしないと。

「あ、羽鳥や」

 桜夜の視界に、出て行こうとする湖の歌姫が映る。マネージャーも一緒だ。
 まともに話したこともないが、今は関西人に会えただけでも嬉しくて手を振った。

「おーい、はっとりーん!」
「………」

 が、相手は会釈するだけでさっさと行ってしまい、鼻白む桜夜が残される。

「やけにピリピリしてんねんな。いつもは余裕しゃくしゃくな感じやのに」
「おそらく優勝を狙ってるんでしょう。これで最後ですからね」

 晴の言葉に、三年生は思わず息をのむ。
 自分たちには結局手の届かなかった天才が、手の届かない場所で戦おうとしている。

(全国優勝……か)

 その栄冠に未練がないわけではないが、今回は足るを知ると決めたのだ。
 皆で選んだ道を信じて、立火と桜夜は明るく声を上げた。

「ま、こっちは反対側の優勝にならへんように、せいぜい頑張るで!」
「さすがに最下位は嫌やからなー!」
「あたしたち、何位が勝利ラインなんです?」

 つかさが軽い口調で、難しいことを聞いてきた。
 部長は一瞬固まってから、すぐに破顔して断言した。

「私たちが帰りに笑えてたら、それで勝利や!」


 着替えを終えたネオμ'sとロビーで合流し、フードコートへ向かう。
 朝からの素っ気ない態度を埋め合わすように、夕理は素直に賞賛を伝えた。

「素晴らしかったです。私がイメージするμ'sと、遜色ない出来映えでした」
「ありがとうございます! いやー、どう評価されるか冷や冷やものでしたよ」
「キラセンやっといた方が安全だろ、って意見も何度も出たんだけどさ」

 肩の荷を下ろした矢澤姉妹のうち、特に妹の方は満足して階段を下りていく。

「でもやっぱり、たとえ叩かれてもやってみたかったんだ。μ'sがもっと活動してたらって想像すること」
「挑戦は大事やな。もしキラセンやったら既定路線すぎて、私は失望してた」
「あ、あはは。やっといて良かったなー」
(夕理ちゃん、ほんま誰が相手でも物怖じせえへんなあ)

 花歩としては伝説の妹さんたちには、なかなか話しかけづらい。
 矢澤にこ本人ではないのだから、気後れしすぎかもしれないが……。

 フードコートに座席を確保し、めいめい料理を注文に行く。

「へえ、大阪にも109マルキューあるんだ」
「進出してくれて助かってるで。時間があれば渋谷も行きたかったんやけど」

 ここあとつかさは、現代っ子同士で意気投合しているようだ。
 全員首尾よく料理を確保し、まずはネオμ'sお疲れさま! と乾杯する。

「ぶっちゃけ、何位以内が目標なん?」
「おいおい」

 今度は桜夜がぶしつけに聞き、立火が止めるが、こころは気にせず真面目に答えた。

「μ'sの名前を使ったんです。せめて十位以内には入らないと、面目は立たないでしょうねえ」
「そっかー。伝説を背負うのも大変やな」
「あのっ」

 桜夜が上手い方向へ振ってくれたので、花歩は思い切って声を上げる。

「μ'sの妹という特別な立場で、やっぱり良かったですか? あるいは逆に苦労したとか……」

 一瞬、場が静まり返った。
 やっちまったか!? と花歩の血の気が引く。
 いくら自分が特別になりたいからって、そんなことを聞いてどうしようというのか。
 そう青くなっている他校の下級生に、しかし、こころが向ける目は優しかった。

「今でこそ特別な伝説になってるμ'sですけど。
 人気が出始めた頃は、応援しやすい普通の女の子という立ち位置だったんですよ」
「い、いやいや、そんなわけないやないですか。あんな奇跡を起こしておいて……」

 Aqoursのリーダーもそうだが、普通を自称する相手に限って、どこが普通やねん! と花歩などは思う。
 でも身内の意見は違うようで、矢澤姉妹の言葉は続いた。

「しかも当時は私の姉って、絵里さんや穂乃果さんに才能や器で劣る、と言われていたようです」
「そーそー。私たちは宇宙No.1アイドルって信じ込まされてたのになー」

 ここあが恨みがましく言うが、その口ぶりは姉への思慕を隠しきれていなかった。
 そしてこころも、姉を語る瞳は変わらず尊敬に満ちている。

「それでも、μ'sの中で一人だけ。
 矢澤にこは今もただ一人、アイドル活動を続けています。
 やっぱり才能や遺伝子よりも、強い意志があるかないかだと思うんですよ。
 私はそこまでの意思はないので、大学に進学しますが……」

 ハンバーグを一口食べて、この三年間と一緒に飲み込んでから。
 アイドル活動を終えた矢澤こころは、大阪の一年生にひとつのバトンを渡した。

「丘本花歩さん。あなたの願いに、生まれや才能が無関係とは言いません。
 それでも意志の強さこそがより重要であると、私は信じています」
「は、はい! ありがとうございます! 意志だけは強く持ち続けます!
 ……あれ。もしかして、私の文化祭の動画見ました……?」
「それはもう、藤上さんからぜひ見てくれとメールが来たので」
「ひ、姫水ちゃああああん!」
「うふふ。素敵な友達の素敵な叫びだったんだもの。
 それに音ノ木坂にも、同じような人はいるのかなと思って」

 祐子たち下級生に、同意の笑みが浮かぶ。
 程度の差はあるにせよ、みんな輝きたくてこの道を続けているのだ。
 花歩は思わず立ち上がり、ぎゅっと拳を握って想いを吐き出した。

「私は今日も、そんなに活躍できそうにはないんですが。
 でも絶対に諦めず! あと二年をかけて!
 私にしかできないことをして、私だけのドラマを完成させたいです!」

 フードコートの一角に拍手が響いた。
 ええで花歩ー、さすが花ちゃん! と囃し立てられながら、赤くなって食事に戻る。
 そして両校の三年生たちは、そんなドラマを完成させられたのか、めいめい思いにふけるのだった。

(私は、あと一歩や……)

 皿に残ったカレーを口に運びながら、立火は思う。

(あと数時間の後、最後の一歩……花歩、お前たちがいてこそ完成させられるんや)


 *   *   *


「Aqoursの皆さんは……あかんか」

 せめてお話だけでも、と考えていた勇魚だが、既に同じ思考の子が大勢群がっていた。
 頭を切り換えて、午後の部開始まで後ろの生徒と話したりする。

「沖縄からやと交通費が大変やね!」
「LCCのおかげでそうでもないさー。むしろ地区予選の熊本行く方が高いっていう」
「おーい勇魚、そろそろ始まるけど……まあナンインやから、お喋りしててもええで」

 桜夜に言われて、勇魚は慌てて席に座り直す。

「いえっ、同じ大阪ですし! ナンインの皆さんもここまで頑張ってきたんです!」
「あんな連中にまで、勇魚はほんま優しいなあ」
「ま、私たちも今回くらいは真面目に聞いたろか」

 居ずまいを正す立火の前で、午後一番手のグループが登場した。

「関西地区代表、難波大学附属高校、『Number ∞』!」
「こんにちはー! 午後のドームも熱くいきましょうー!」

 いつもの常連にいつもの大歓声。
 参加校席のどこかで見ている鏡香は、最後の大会をどう思っているのだろう。

(あいつにとっての集大成のはずや)
(さすがに今回は気合いを入れて、感動的なステージを見せてくれるんちゃうか?)

 などと期待した立火と桜夜だが、そんなわけもなく……
 今まで通り、その場の盛り上がりだけを重視したライブだった。
 アイドルとはそれで十分なのだと、そう主張するように。

『私たちの毎日は 回って回ってfoofoo!』
『フワフワ!』

 それでもまあ最後だからと、三年生たちは思い切りサイリウムを回す。
 夕理と晴を除く後輩たちも、安心して盛り上がりに身を委ねた。
 特に勇魚と小都子が大声でコールする中、サービスに満ちたライブは終わる。

「あっりがとうございましたー!」
『ナーンイン! ナーンイン!』

 今回も上位は確実な反応に、じっと見ていた晴が部長に感想を尋ねた。

「これが『全国大会における平均順位』で圧倒的トップのグループです。ドームで見ていかがでしたか」
「そういやそんなレコード持ってたな。私としては腐れ縁がやっと終わった感じや」

 次の部長は鏡香ほど性格悪くはないだろうし、Westaとの関係も多少は変わるのかもしれない
 それでもNumber ∞の中身は変わらず、歯車は一定の速度で回り続けるのだろう。

「ナンインのことはもういいです。それより次のグループはお勧めです」

 それまでぶすっとしていた夕理が、急に目を輝かせ始めた。
 つかさが出演順の表を手に取る。

「へー、新潟のグループ?」
「哲学系スクールアイドル『Philosophia』や!」
「うん……夕理ってそういうの好きそう……」
「つ、つかさも見れば凄いって思うから!」

 そうして始まったライブは、衒学的で前衛的。

『無限の回廊 生命進化
 消え失せよ呼吸 ワタシ現世一つとなりて万象』

 荘厳な曲に難解な歌詞は、Number ∞とは正反対だ。
 しかし仮にも全国まで来たグループ。確かにつかさも、何となく圧倒されて拍手した。
 アホの三年生と花歩はうんうんとうなずいている。

「なるほど、分からへん」
「まあ……今回ばかりは私も責めません」

 諦めた夕理は、知性派の二人に目を向ける。
 姫水と小都子は気に入ってくれたようで、口にしたのはファーストライブの曲のことだった。

「『若葉の露に映りて』の方向性、望みがないわけではないんじゃない?」
「そうやな……あれは未熟だっただけで、頑張ればこんな風にもなれるのかも」
「そのうち一度くらいは、そういうライブもしてみよか」
「い、いいんですか? Westaの方向性と違いますけど」
「同じような曲ばかりはファンも飽きるからね。ね、晴ちゃん」
「次期部長のお心のままに」

 二年生たちの言葉に夕理の顔はほころんだ。
 全然理解できなかった勇魚も、とりあえず嬉しい気持ちになる。

「やっぱり全国大会って面白いで。関西では見ないようなグループに会えて!」

 仲間たちに笑顔を向け、うまくまとめた時だった。

(あ……)

 勇魚の視界の向こうで、Aqoursの九人が階段を降りていく。
 今すぐ走っていけば、声をかけることもできる距離。
 けれどもぐっと体を抑える。
 隣の伊耶那に言われた通り、たとえ天地の差があっても、対等に競う相手としてここにいるのだ。

(ただのファンとして楽しむだけやない)
(夕ちゃんがしたみたいに、うちもAqoursから学ぶんや)
(そしてその後は、うちらのライブをAqoursに見てもらおう!)


 *   *   *


「東海地区代表、静真高校『Aqours』」
『アークーア! アークーア!』

 元気にサイリウムを振る勇魚を、横目で見ながら立火は考える。
 立火にとってAqoursは、少し縁遠い存在だった。
 浦の星の廃校と、その後の奇跡的な優勝の当時。
 こちらは地区予選で敗れ、引き継いだWestaで頭が一杯で、他校どころではなかったからだ。

(それももう一年前。発起人の高海さんもこれがラストライブやな)
(同学年のスクールアイドルとして、しっかり見届けるで!)

 登場したAqoursは今や九人。
 新人ちゃん可愛いー! などと桜夜は叫んでいるが、一年生三人も予選を勝ち抜いてきたのだ。堂々としたものである。
 そして限られたMCの時間で、前に歩み出たのは千歌たち三年生だった。

「みんなー! こんちかー!」
『こんちかー!!』
「μ'sに憧れ、輝きを求めて、Aqoursは私たち三人から始まりました」

 しん……と静まるドーム内で、梨子、曜からの言葉が続く。

「奏でてきた音楽も、とうとう今日がフィナーレ。皆さんには感謝しかありません」
「一年前、鞠莉ちゃんたちがそうしたように。後輩に全てを託し、私たちは旅立ちます!」

(引退ブースト……!)

 狙っているわけではないだろうが、効果は絶大だ。
 方々から惜しむ声やすすり泣きが聞こえ、勇魚も切なく三人の名を叫んでいる。
 これこそが、彼女たちが築き上げてきたものだと立火は考える。
 自分が今日ラストですと言ったところで、お前誰やねんと思われるだけなのだから。

 そしてAqoursの最初の三人は、それぞれ次の道を口にした。

「私は音大に進学してピアノの道を」
「私は海洋学部で航海士になって、広い海に漕ぎ出すよ!」
「私はまあ……普通の大学なんですけど!」

 千歌のぶっちゃけに笑いが起こる中、花歩の顔だけが少しこわばった。
 そして勇魚も、笑いながら何か寂しそうなことに姫水だけが気づく。
 それ以外は全員が笑顔で、ラストライブが開始される。

「今まで本当にありがとう! みんな一緒に盛り上がろう!
 私たちの最後の曲、『見つけた一つの魔法』!」

『澄んだ空と海の狭間で 何もないと思っていたけど
 見つけたよ 素敵な世界 キミとなら使える魔法』

 夕理が予想した通り、去年のWBNWのような神曲とは言いがたい。
 どちらかというとAqoursのファースト曲、『ダイスキだったらダイジョウブ!』に近い曲調だ。

 歌われるのはスクールアイドルに出会い、初めて感じたときめきや輝き。
 沼津と東京の間を何度も往復し、彼女たちは初心に戻ってきたように見えた。
 経験だけなら千歌より一年長い立火も、三年前のことが思い出される。

(私は単に既存の部に入っただけやけど……)
(ほんま、人生を変える出来事やったなあ)

 曲の中盤、入れ替わるように二年生たちが前に出る。
 既に相当の貫録を持った、ルビィ、花丸、善子の三人。
 勇魚が白いサイリウムをひときわ振る前で、Aqoursの最上級生を受け継げる力を、存分に披露する。

 頂点の大会で、一年生たちはさすがに少々見劣りする。
 前列に出られるのは、もう一年練習を積んだ頃だろう。
 頑張れ、という風に後輩の肩を軽く叩いて、再び三年生が前に出た。

(ああ、終わるんや――)

 長い旅の終わりに、あの人たちは海の向こうに何を見るのだろう。
 観客の誰もが惜しむ中で、ライブは幕を閉じていく。



『無限の大好きが詰まってる 永遠の宝物 その名は――』

 息を吸った高海千歌は、感極まったように名前を叫ぶ。
 既にここにはいないメンバーが、駿河湾の砂浜に書いたその言葉を。

「Aqours――!」
『サーーンシャイーーン!!』

 観客の叫びが続き、今日最大の熱狂と拍手がドームに満ちた。
 目に涙を浮かべ、お辞儀して退場する彼女たちを見送りながら、参加校席も同様に沸く。
 桜夜は気さくに手を振った。

「いやあ、お疲れ千歌っち。ようやったで!」
「何で友達面やねん!」
「え、ええやろ、同じ時代に活動したんやから」

 立火に突っ込まれ弁解しつつ、一番のファンへと目を向ける。

「勇魚も生で見られて最高やったね!」
「はいっ、感動しました! ここに来られて良かったです!」
「でも勇魚ちゃん、何か寂しそうだったわね。単に最後だからというだけでなく」

 幼なじみの目はごまかせない。
 姫水にまっすぐ見られて、勇魚は気まずそうに視線を逸らした。
 決して不満などではないのだけれど。

「もう、浦の星のことは一切言わへんのやなって……それが何だか寂しかってん」
「こらこら、ファンの方が未練がましくてどうするんや」

 優しく諭したのは、一緒に千早赤阪高校へ行った小都子だった。

「覚えていれば十分なんや。わざわざ口に出さへんでも、ね」
「はい……はい、そうですね! ね、夕ちゃんはどうやった!?」
「まあまあやな。実力評価では現時点で三番目くらい」
「もー、厳しいで! 晴先輩は!?」
「去年の廃校ブーストほどではないにせよ、引退ブーストは大きい。優勝も十分あり得るな」
「なるほど! そういや花ちゃんも、何か気になったみたいやな」
「い、いやあ、素晴らしいライブの後で、俗っぽくて恐縮なんやけど」

 頭をかいた花歩は、これまた少し気まずそうだ。
 でも正直に、千歌が言った進路のことだと白状した。

「Aqoursの発起人で、結成したその年に全国へ行って、歴史に浦女の名を刻んで……。
 そんな高海先輩でも、行くのは普通の大学なんやなって」
「そりゃ当たり前やろ。ラブライブの優勝なんて、プロにでも進まない限りは別に評価されへんし」

 呆れ顔のつかさが、いつぞやと同じことを言う。
 ただ、あれから時間を経て、今の口調は少し優しかった。

「実利があってやってるんとちゃうねんで。あたしたちは」
「うん……そうやね。これはただの趣味!」

 好きで選んだ趣味だからこそ、全力で打ち込み、結果に一喜一憂するのだ。
 雲の上のまま去っていくAqoursの人たちも、その点だけは同じなはずだ。

 次のグループが案内され、皆は話を中断して席に座り直す。
 興奮冷めやらぬ勇魚に、伊耶那が小声で話しかけた。

「熱心に話し合われてましたね」
「あ、すみません、うるさかったですか?」
「良いのですよ。心動かされ、動かすために、この場にいるのですから」
「は、はいっ」
「みんな。次のグループが終わったら移動や」

 晴からも小声で連絡が飛ぶ。
 いよいよその時が近づく中、ステージに上がったのは、後ろの席から少し前に発った沖縄のグループ。

「みんな、南国らしく明るくいくよー! 思いっきり笑ってほしいさー!」
(ひい、まさか!?)

 ネタかぶり!? とおののく一同だが、明るく楽しい普通のライブだった。
 終了後、晴が冷静に部長へ指摘する。

「さすがに今回、我々とかぶるようなところはありませんよ」
「あはは、そりゃそうやな。こんなアホなことをするのは私たちだけや!」

 自信満々で言って、立火は勢いよく立ち上がった。
 部員たちもそれに続く。
 伊勢OToMe.や、近くの他校生に激励されながら、九人は終着点へと足を踏み出した。

 ドーム内の喧騒を背に、立火は階段を下りていく。

(やっぱり、全国大会は大した場所や。
 今のWestaでは太刀打ちできひん。――普通やったら)

 その隣に寄り添うのは桜夜。

(可愛いアイドルや、青春してるアイドルは、今日は他の学校に任せるで)

 二人の背中を見つめながら、小都子と晴は改めて考える。

(私たちが勝負するのは、ただ一点――)

 そして一年生の五人は、覚悟とともに階段を下り終えた。

(ウケるか、滑るかや!)


 *   *   *


『次は関西地区代表、新宮速玉高校『八咫angel』』
「お、ここにも放送入るんや」

 楽屋へ向かう通路を歩きながら、結たちのMCに耳を傾ける。
 確か二年ぶり二回目の出場だったはずだ。

『皆さんは熊野三山って知ってますかー?
 和歌山の南部にある熊野速玉大社、熊野本宮大社、熊野那智大社。伊勢神宮にも劣らぬ聖地です!
 あー、その顔は知らやんて顔やね。
 けど熊野の後ろに”こどう”って付けたら分かるんとちゃう?
 そう、世界遺産の熊野古道や!』
(長いな!)

 ご当地紹介ばかりが続くMCに、立火が内心突っ込み、夕理は苦虫を噛み潰した顔に変わる。

「やっぱり私、八咫angelは嫌いです! ラブライブは宣伝の場じゃありません!」
「まあまあ。ほんまは私も大阪をアピールしたいとこやで」
「しないでくださいね!?」
「分かってるって。そんな余裕はあらへんからな」

 向かう先にはスタッフがいて、案内されて楽屋に入った。
 ここまでは放送は届かず、八咫angelの歌声は聞けなかった。

「うーん……楽屋にモニターくらいあると思ったのに」

 つかさがブツブツ言いながら着替えを始める。
 もっと豪勢かと思いきや、大阪城ホールのものより多少広い程度だ。
 姫水が笑いながら、ピエロの衣装に腕を通した。

「そもそも野球場がメインだもの。殺風景でも仕方ないわよ」
「そやなー。部長さん、今日はホームラン頼みますよ」
「おっ、任しとき。バックスクリーンに直撃や!」

 着替えを終えた小都子が、櫛を持って桜夜のところへ行く。

「ほな先輩、髪をお願いします」
「ええで~、最高に可愛くするから」
「もう、可愛さは今回はいいですってば。最高に面白くしてください」

 事前に決めた髪型は、左右に大きなお団子二つ。
 面白さ重視だけれど、桜夜の目に映る小都子の姿は、どこまでも可愛いかった。

 衣装のポケットにクラッカーや手品の種を仕込み、準備は万全。
 立火は黒ずくめのマネージャーへ右手を差し出した。

「晴、最初で最後の共演や。よろしく頼むで」
「完璧な掃除をお見せしましょう」

 握手を交わしてから、部長の声は円陣を指示する。
 立火が号令する円陣も最後。
 最後最後と言ってばかりだが、実際に立火と桜夜には、すべてが最後なのだ。

 輪になった部員と、外れて撮影に構える晴の前で、明るい声が流れていく。

「ほんまは地区予選の円陣のとき、これで終わることも覚悟してた。
 けど皆のおかげで、こうしてもう一回、最高の舞台でライブができるんや。
 勝っても負けてもこれで終わり。思いっきり楽しんでいくで!」
「でも楽しかったのは自分たちだけだった、という結果になるのは嫌です」

 ずっと危惧していたのか、夕理が話の途中で反論してきた。
 咎めることなく微笑んでくれる部長に、安心して思うことを伝える。

「確かにこの九人で、アキバドームに立てるだけでも最高に楽しいですけど。
 ここまで来たからには、単なる自己満足で終わらせたくはないです」
「ああ――必ず見る人も楽しませたるで!」

 立火も桜夜も皆も、気を引き締めた上でなおかつ笑っている。
 夕理もすっきりした顔で、炎の形をした八つの手は、今まで最も軽やかに掲げられた。

「燃やすで、魂の炎! そして笑いを巻き起こす!」
『Go!! Westa!!』

 程なくして扉がノックされ、スタッフから移動を伝えられる。
 立火が元気よく返事をして外へ。
 夕理はバイオリンを、姫水はクラリネットを手に持ち、うなずき合って仲間に続く。
 そして晴はホウキとチリトリ、お手玉を抱えて最後尾を務めた。

 ステージへ向かいながら、花歩はスキップしたい気分だった。

(私、めっちゃ落ち着いてる! 昨日は三葉虫ごときにビビッてたとは思えへん)

 逆に今日は勇魚が少し固いようだ。
 近づいて軽く背中を叩く。

「勇魚ちゃん、リラックスリラックス」
「うん……Aqoursの人たち、うちらのライブをどう思うやろか」
「少なくとも印象には残ると思うで。良い方か悪い方かはともかく」

 AqoursやNumber ∞のような、万人に受けるライブでないのは覚悟の上だ。
 姫水も楽器を片手に、優しく幼なじみに話しかける。

「少しでも良い方に傾くよう頑張りましょうね」
「うん……そうやね!」
「ま、あたしも一緒やから。我ながら前回とは大違いやで」

 並んで歩くつかさの表情は穏やかだ。
 前回、地区予選での同じタイミングには、姫水を殺さんばかりに殺伐としていた。
 それが今は、その彼女と笑い合ってライブに向かう。
 そして夕理の口からは――

「主役は先輩たちに任せるけれど。
 私たち……仲良し五人組も! しっかりチームワークを見せるんや」

 そんな言葉が出て、驚いた他の四人に揉みくちゃにされ、照れくさそうにしている。
 舞台袖に出る扉の前で、上級生たちは五人の一年生を振り返った。
 瞳に無限の信頼をたたえながら。



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