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伝説のルビーの壷を探せ!Vol.1



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#001   ガテラー星人 (メール)    97/02/15 22:10:40
「ねえねえおにーちゃん、これなぁにー?」
 ウィザーズアカデミーの部室で学園の古い資料を読んでいたルーファスに、背中からのぞき込んだシンシアが図版の一つを指し示して尋ねた。
「ああ、これはルビーの壷だよ」
「るびーのつぼ?」
「召喚魔法ってあるだろ?」
「あ、ボク知ってるよ」
 1stで習うことはないが、シンシアやラシェルも聞いたことだけはある。異世界から魔力の高い者を呼び出しその力を借りる高度な魔法。ルーファスも妖精界や精霊界のようにこの世界と隣り合わせに存在する場所からしか何かを召喚するのは無理である。
「でも昔は魔界や神界から召喚できた大魔導士もいたらしい。それに対抗するため作られたのがこのルビーの壷。これを相手に向けて呪文を唱えると、召喚された敵をたちまち元の世界へ戻してしまうという、まあ召喚士にしてみれば恐怖のアイテムだな」
「へー、なんかおもしろそー」
 ルーファスの話にメリッサも会話に加わってくる。
「それがうちの資料に載ってるってことはぁ、その壷ってこの学園にあるわけ?」
「違う違う、一応学園の裏山にあるカリオン地下遺跡にあるとは言われている。でもあそこの扉を開けるのは妖精だけで、本当かどうかは未だに未確認ってわけさ」
 この辺りでは昔妖精を巻き込んだ大きな戦いがあった。その時にもこの壷は活躍したらしいが、戦いの後妖精たちは用の済んだ壷を封印し、自らは妖精界へと引きこもったのである。
「えー、メリッサつまんなーい」
「でなけりゃとっくに誰かが見つけてるよ…」
「それじゃおにーちゃん、このまえのようせいさんにたのんでみようよ!」
「ああっあいつのことは思い出したくない!」
「あーあ、せっかく冒険のチャンスなのになぁ」
「夢想ばかりしてないでちゃんと勉強しなさい!」
 ソーニャに怒られてその話はそこでお流れになった。もっともその後すぐに思い出すことになるのだが。



#002   ガテラー星人 (メール)    97/02/16 01:24:18
「なんか人の視線を感じるわねぇ…」
 といっても悪意や敵意の視線ではない。興味と好奇心、はては拝む者までいる始末だ。
「きっとわたしが美しすぎるのがいけないのね!」
「あーはいはい。買い物はこれで全部か?」
「私はお茶がほしいですねぇ(ポロロン)」
「誰もあんたに聞いてない…」
 双面山に向かう一行は道中このフィロンの街へとたどり着いた。とりあえず宿を取り、買い出しに
来人とフィリー、おまけにロクサーヌがついてきている。
「なんかけっこう見たこともないマジックアイテムとかが売ってるわね」
「それはもう、Skill&Wisdomのある街ですからね」
「何それ?」
「冒険者を養成するための専門学校ですよ。なかなかの歴史ある学園なのですよ」
 と、ロクサーヌが説明した時である。
「うわっとっ!」
「おっと、悪い!」
「ちょっとぉ、危ないじゃないのよ!」
 雑踏の中を全力で走ってきた青年に、来人は思わず突き飛ばされかける。紫がかった髪に色素の
薄い瞳。なかなかの美形と言えなくもない。
「そう怒らないでくれよ。可愛い顔が台無しだぜ」
「やだそんな…本当のことを!」
「ぶつかりそうになったのは俺なんだけど…」
「男はどうでもいいのさ。おっとまずい、じゃあな!」
「いたぞ!あのイカサマ野郎!」
「逃がしてたまるか!」
 3人が呆然と見送る中を、青年と追っ手は風のように走り去ってしまった。あるいは彼もその
学園とやらの生徒なのだろうか?
「歴史のあるねぇ…」
「いやいや、実際学園の書庫は他に類を見ない規模だそうですよ。私も旅の途中でなければじっくり
見てみたいんですけどねぇ」
「そ、それじゃ元の世界にも戻る方法があるかな!?」
「こら来人!何を弱気になってるのよ!」
「いや、でもさぁ…」
 これまでに見つかった魔宝は4つ。そのうち来人たちの手にあるのは青の円水晶1つだけ。
残り1つはレミットの、2つはカイルの手の中にある。弱気になるなという方が無理であろう。
「とにかく宿に戻って腹ごしらえよ。おなかが空くからそういう考えになるのよ」
「へいへい…。地道にやるしかないのかなぁ」
 しかし一行が宿へ向かう途中、人の波に飲まれそうになりながら駆けてくるピンク色の髪が見えた。
来人を見つけたキャラット・シールズは、走り寄って肩で息をしている。
「ど、どうしたんだキャラット?」
「た、大変だよ。ボクが、ボクが若葉さんとちょっと散歩してたらね…」
 なんとか呼吸を落ち着けて、キャラットが途方に暮れたように言う。
「その、若葉さんがどこにも見あたらなくて…。要するに迷子になっちゃったみたいなの!」
「なにぃーーーっ!!?」


#003   狐鉄丸 (yukihiro@po.incl.or.jp)    97/02/17 11:55:46
 「ああ、ここは一体どこなんでしょう?…。」
若葉は途方にくれていた。隣を歩いていたはずのキャラットがいつのまにか自分を置いてどこか
へ行ってしまったのだ。

 見知らぬ街でひとりぼっちになってしまい、宿へ帰ろうにも真性の方向オンチである若葉には
宿の方角などかいもく見当がつかない。道ゆく人にたずねても、若葉は宿の名前がどうしても思
い出せないのだからお話にならない。
 「あのっあのっ。たしか青い屋根でした。それから…えっと…そう!私の泊まった部屋にきれ
いなタペストリがあって、それにはオレンジ色で鳥さんの刺繍がしてあったんです!」
「…お嬢ちゃん…全然わかんないよ…。」
「ああ、待ってください…」
こんな調子なので、親切な街の人でも、若葉が云う宿屋が一体どこなのかわからないのだった。

 方向もわからないのにやみくもに歩き続けた為、気力も体力も使い果たした若葉は塀にもたれ
て座り込んだ。そういえばさっきからずうっとこの高い塀にそって歩いているようだ。見上げる
ほどの白い塀は、後ろを振り返っても前を見ても道の片側にながながと続いている。

 「もうダメです…迷子になってこのままここで朽ち果てる…それが私の運命だったのかもしれ
ませんね…ああ…来人さん…。ここでお別れです…。」
若葉が涙を浮かべながらお祈りを始めた時だった。

 「あんた、何してんだぁ?」
空から声が降ってきた。
「ああ、神様がお迎えに来て下さったのですね…。お父様お母様お姉さまお兄さま、先立つ不幸
をお許し下さい…。」
「…自殺はよくないなぁ。それにこんな所で死なれた日にゃぁ、ガッコの評判も落ちるだろ?」
「ガッコ?それは天上のお言葉なのでしょうか?」
若葉の天然ボケに天の声はあきれて、いささか言葉を失った。
「…祈ってないで、上見ろよォ。」
「上ですか?はい?」
若葉が天を仰ぎ見ると、瞳に陽気な光をたたえた獣人の男の子が、高い塀から若葉をじっと見お
ろしていた。

 「天の御使いは勇ましい狼の形をとっておられるのでしょうか?」
きょとんとした顔で”天の御使い”に若葉は問いかけた。マックスの耳がピピンと立つ。
「イサましいオオカミ?それって俺の事?」
身を乗り出して嬉しそうに聞き返す。シッポがぱたぱたとせわしく動いているが、若葉の方から
は見えない。
「あなたの他にまだどなたかいらっしゃるのでしょうか?御使いさま」
「俺はその御使いってヤツじゃねぇけど、あんた、なかなか人を見る目があるじゃねぇか!ええ
?」
マックスはにこにこと満面の笑みを浮かべながら高い塀から飛び降りて、若葉の前に見事に着地
した。
「まぁ!身軽なのですね。さすがは天の御使いさま…。」
「だから俺はそんなのじゃないっつーの!」
「はい?」
マックスのにこにこ顔に答えるように、若葉もにこにこと首をかしげる。
「俺はマックス!マックス・マクスウェルだ。狼の獣人で、ここ」
と云って親指で塀の向こうを指すような仕草をした。
「Skill&Wisdomの2ndだ。あんたは?なんだよ?何歳?迷子なのか?」
「まぁ、どうしてわたくしが迷子だとわかったのでしょう?」
「さっき自分で云ってたじゃねえか…。」
「あら、そうでした?」
「……で?名前は?迷子なら俺が送ってやってもいいぜ。」
しかし若葉はマックスの申し出には答えず、はっとして聞き返す。
「あのっ!さ、先ほどSkill&Wisdomと申されましたでしょうかっ!?」
若葉の脳味噌には今やっと「Skill&Wisdom」という単語が到達したらしい。
「そうだよ。この塀の向こうにあるのはSkill&Wisdom!由緒ある冒険者養成学校だ。」
「まあどうしましょう!わたくしったらなぜこの街の名前を聞いてすぐに思い出さなかったので
しょうか!ああ、蒼紫お兄さまがこの塀の向こうにいらっしゃるだなんて!」
ピンクに染めた両の頬を手で覆ってハチャハチャしだした若葉にどう対応したらいいのかわから
ないマックスは、額に巨大な汗を浮かべて見守るしかなかった。

 「あ、あのう!マックスさんと云いましたか。もしかしてわたくしの兄をご存じではないでし
ょうか?」
「はあ?あんたの兄さんここの生徒なのか?今何年だ?」
マックスはこのオオボケ娘と関わった事をすでに後悔し始めていたが、迷子を放ってもおけない。
「たしか今二年生だと聞いておりますが。」
「俺と一緒か。で、名前は?」
「あ、申し遅れました。わたくし紅若葉と申します。」
「あんたの兄さんのだよ…。」
「兄は紅蒼紫と申します。黒髪に濃紫の艶があって、顔立ちもそれは大変美しく、とてもお優し
くって、勉学も武道もおできになって…。」
若葉の兄への賛辞はとどまる事を知らない。
「うーん、ちょっと俺わかんないよ。ごめんな。でも兄貴に会いたいんなら会ってけば?」
「そっ!そのような事ができるのですか?」
「本当は生徒以外は学内に入っちゃいけないんだけど、面会手続きをすれば入れるぜ。行く?」
「はっ…はいっ!!ありがとうございます!ありがとうございます!」
すざまじい勢いで90度のお辞儀を繰り返す若葉にもはやマックスは汗だらけになって、
「お…おう。でも、あ、あんまり頭を振るのってよくないぜ…。」
としか云いようがなかった。
「は、はい…でも…ああっ!」
若葉は顔を上げてマックスを見たとたん、よろよろとその場にすっころんだ。
「あ、頭が痛いです!」
マックスはもう何も見なかった事にして、頭を抱えてうずくまるこのわけのわからん娘を捨てて、
消え去ってしまいたいという気持ちでいっぱいにくなった。

 が、やはりこのままにはしておけないと考え直し、若葉をひょいと抱き上げたかと思うと、人間
にはとうていできない跳躍を見せ、そびえる塀を飛び越えた!

 「…いわんこっちゃない…。事務室へはちょっと休んでから行こうな。」
「あの塀を飛び越えるなんて…狼なのに飛べるのですね…なんてすごい…やはりあなたは天の御
使い…?」
目を回しながらもボケ倒す若葉だった。

 マックスは一刻も早く紅蒼紫とやらを見つけだして、このやっかいものとおさらばしたかった。



#004   阿黒    97/02/18 00:54:31
「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」
 カイルは懸命にその二本の足を前後に動かして移動していた。簡単に説明すれば、逃げている。
その後をアルザ、リラ、ウェンディがやはり必死に続いている。そしてその後ろから…
 シュババババッ!バチバチバチッ!
 連続して発射された電撃の青白いスパークがイオン臭を発生させ、必死に逃げる4人を追撃する。
「な、な、なんやあのケッタイなタマは!」
「この学校のセキュリティよっ!多分!」
「せきゅりいてぃ?きゅうりのお茶かいな?」
「んな訳ないでしょ!つまりい、泥棒よけ!ワナ!」


#005   阿黒    97/02/18 01:35:53
 つまりどういうことかというと。
 いつものようにいつものごとく、カイルが世界制服計画に使えそうだという根拠
のない勘に、お宝の匂いをかぎつけたリラが便乗し、おもしろければそれでいいア
ルザが深い考えもなしについていった。ちなみにウェンディが無理やり連れ込まれ
たのはもはや説明するまでもない。
「だから私は反対したのに!あんなに反対したじゃないですか!いやしたしね!!」
 ウエンディの涙混じりの絶叫はとりあえず無視して、カイルは肩ごしに後ろを見
る。拳ほどの大きさの金属球が5個、宙を滑空しながら追ってくる。


#006   狐鉄丸 (yukihiro@po.incl.or.jp)    97/02/18 11:11:22
 「げっ…」
5つの金属球は輪になって回りながらお互いにバチバチ放電を始めている。でかいのが来る。
「おっおいっ!やばいぞっ!走れっ!もっと走れっ!」
しかし気がつくと後方にいたはずの3人はカイルを追い抜き、遥か前方を走っている。
「こ、こらっ!リーダーを置いてゆくとは何事だっ!貴様らっ!けしからんっ!」
カイルは涙目になりながら狭い通路をひたすら走り続けた。

 カイル達がセキュリティシステムに追い回されている地点は学園の地下深くで、細かな通路が
網の目の用に張り巡らされている。壁にかけられた照明魔法の効果がまだ残っているのか通路は
ほの明るく、視界が聞かないという事はない。ここは、ずっと昔にダンジョン研修場として作ら
れたものだった。

 当時の学園長がスパルタ思想の持ち主で、トラップと謎解きだらけの凝りに凝った迷路の中に、
大量の本物のモンスターを放ち、地下全体にフォースフィールド魔法をかけたという恐ろしいラ
ビリンスを作りあげた。

 もちろん、行方不明者が続出し、ダンジョン研修は行きすぎとの声もあがり、すぐに研修は取
りやめになった。学園長はSkill&Wisdomを去り、教師生徒総出でダンジョン探索が行われ、モン
スターは一掃され、フォースフィールドも解かれた。行方不明者達は最深部にあった「愚か者の
部屋」という所で眠っていて、全員無事だった。

 しかしダンジョン大捜索隊の作成した迷宮地図や記録は、その全てが抹消された。今では古参
の教師連がわずかにその騒動を知っているだけである。

 その後、地下の一部は改造されて、書庫にされたり、セキュリティの為のメイン動力炉が置か
れたり、学園の宝物庫として利用されていた。
それ以外の場所は封印が施され、立ち入
り禁止区域になっていた。当時作られたダンジョンへの入り口自体も封印され、学内に新しく作
られた階段以外からは迷宮へ降りられないようになっている。

 カイルが仕入れた情報は3つ。学園の裏山にあるカリオン地下遺跡に「ルビーの壺」と呼ばれ
る宝物が眠っていると云うこと。妖精達の協力をなしにしては遺跡の扉を開ける事はできないと
いう事。そしてあとひとつは…

 Skill&Wisdomの封印された地下迷宮が、カリオン地下遺跡とつながっているらしいという事だ
った。

 前を走っていた3人が、角を曲がって姿を消した。
「うおぉぉおおぉおおお〜待ってくれえ〜。」
先ほどから何度も稲妻がカイルのマントを焼き、髪を焦がしていた。一度は反撃してみたのだが、
金属球は魔法を全て跳ね返す。自分の魔法でさらにぼろぼろになったカイルはもう走るしかなか
った。

 その時、さっき3人が曲がった角からウェンディが顔を出した。
「カイルさん、早くはやく!」
「おお、ウェンディよ〜。俺が…世界を…征服…した…暁には…。」
ぜいぜいと呼吸も荒く、ちゃんとしゃべれないが、それでもカイルは自分が世界の覇者となった
暁には、ウェンディを左府将軍として取り立てる事を約束した。

 「何云ってるんですか、早くはやく!」
カイルがウェンディにせかされて角を曲がったそこには、行き止まりになっていて、「あがり」
と書かれた魔法陣がでかでかと床に書かれていた。リラとアルザの姿はない。

 「え?なにコレ?」
「きゃあああっ!アイツらに追いつかれちゃうじゃないですかっ!早くここに入ってくださいっ
!早く、早くっ!」
「え?」

 何がなんだかわからないまま、カイルはウェンディに突き飛ばされた。


#007   もとひろ (motohiro@wakhok.ac.jp)    97/02/18 20:35:05
ちょうど、その頃
マックスに連れられた若葉は、事務室に続く廊下に来ていた。
「いいか、ここをまっすぐ行って、左手の階段から事務室に着くことが出来るからな
 それじゃ、オレは用事があるから・・・」
「はい、どうもありがとうございます。狼さん」
「(・・・名前くらい覚えてくれよ・・・)」
マックスは、とことん疲れてしまった
若葉は優しい狼さんを見送ると、教えてもらった事務室へ向かった
「ここをまっすぐ行って、右手の扉でしたよね。」
やっぱり天下無敵の方向音痴であった。



#008   阿黒    97/02/19 23:58:31
 しかしそんな事は気にせずに若葉は進んでいった。
k「ええと、ここをまっすぐ行って右手の扉」
 言ってるそばから左手の扉を開ける。
「あら?ここは何の部屋なのでしょう?」
 見慣れぬ光景が若葉の目の前に広がっていた。
 あまり熱心に清掃されていないようなタイル。
 同じく少し黄ばんだ白い陶製のチューリップ(らしきもの)。
「あのお、すいません、誰かいらっしゃらないでしょうか?」
 若葉の問いかけの声だけが虚ろに響く。
「それにしても不思議なお部屋…さすがS&Wというわけですね。
これで寿命が3年伸びましたわ


#009   阿黒    97/02/20 00:15:57
「あの…モシモシ?」
 まるで新幹線から初めて富士山を見たようなお婆ちゃん
のような若葉の素朴な感想に、一筋の汗を額に浮かべながら問いかける。
「はい?なんでしょうか?」
 その声に若葉は振り向く。隣の扉を開けて、中から出て
きたらしい学生がそこに立っていた。金髪に長い耳。エルフだ。
「あのね、キミ、そこは男子トイレだよ?」
 若葉はちょこんと首をかしげた。何かを考えるようにペロリと人指し指の先
をなめる。その指で頭のところでクルクルとまるを描き、親指だけ原をあわせて
両手の指を組んだ。


#0010   阿黒    97/02/20 00:30:23
 ポクポクポクポクポク、チーーン!
「まあ、なんということでしょう!殿方のご不浄の場に立ち入ってしまう
なんて!知らぬこととはいえ私ったら何てはしたない!」
「それよりボクは今の木魚と鐘の効果音が何なのか気になるけど…」
「とにかくお教えくださいましてありがとうございます。私、紅 若葉と
申します」
「は?はあ、ボクはセシル=ライトっていいます」
 つられたようにセシルもお辞儀をかえす。と、若葉が不思議そうに自分を見ている。
「あのう、失礼ですがセシル様は男の方でいらっしゃいますよ…ね?」


#0011   阿黒    97/02/20 00:44:41
「え?え、ええ、勿論。それと、様、ってのはやめてくれませんか」
「そうですか?それで、セシルさん今そちらの扉から出てこられたのですよね?」
 若葉が指し示す先にプレートがかかっている。赤色で女性が簡略化されたデザイン
のマークと「女子トイレ」の表示が。どうして男子トイレの表示には気づかないのか、
と内心あせりながらセシルは思った。
 実は単に男子トイレ側はプレートがとれていただけなのだが。
「…あー!わかりました!さてはセシルさん」
「ち、違うからね!覗きなんかじゃない!絶対ちがうんだから!」


#0012   阿黒    97/02/20 01:11:45
 勘違いしてる。この子は絶対勘違いしてる。出会って数分もたっていないが
そう確信して疑わないセシルである。
「男女別を間違えてしまうなんて、誰でもやってしまう事ですわよ」
 ほら、やっぱり。それに普通はなかなか間違えられるものではない。
「もういい…ところでキミ、誰か探してたみたいだったけど?」
「ああ、そうでした!実は…」
 若葉はこれまでの事情を(彼女としては)かいつまんで説明した。古代語解読
にも似た検討の結果、セシルはどうにか事情を理解した。しかし。
「どうしたのですか?なんだか随分お疲れのようで


#0013   阿黒    97/02/20 01:47:27
「う、うん、まあ色々あったからね…」
 窓から差し込む夕日は徐々に明度を下げ、赤い色も闇に変わりつつある。
「セシル?なにやってるんだ?」
「…ルーファス先輩!」
 いきなりしがみつかれて、狼狽しつつもルーファスはそっとセシルの顔を
覗き込んだ。泣き出す一歩手前の瞳が揺れている。
 その背後でシンシアが不満気似二人を見つめている。


#0014   SkyFox    97/02/21 21:34:32
「……セシル、どうしたんだ?普段なら体に触れられるのを嫌がるお前が、急に抱きついて
くるなんて」
「……え?」
 ルーファスの言葉に、セシルはきょとんとした顔をしてルーファスを見つめた。そしてす
ぐに、顔を耳まで真っ赤に染めながら、あわててルーファスから離れた。
 ぱぱぱっと両手で制服の乱れを直すセシル。
「ご、ごめんなさい!ちょっと気が動転してたもので……」
「あ、ああ。別に構わないけど」
 とは言うものの、セシルが抱きついてきたときの、妙に細い体の線と、それに反して妙に
ふくらみのある胸が気になるルーファスであった。

 それはともかく。
「でも一体何があったんだ?……おや、君は?」
 やっと若葉の存在に気付き、ルーファスは訊ねた。
「あ、あの、申し遅れました。私、紅若葉と申します」
 と、深々とお辞儀をする若葉。
「いや、ご丁寧にどうも。俺はルーファス・クローウン。ここの生徒で、3rdに在籍して
いる。君はこの学園じゃ見かけたことのない顔だけど、転入生なのかな?」
「い、いえ、その、違うんです。私、こちらに通っている兄に会いに…」
「お兄さん?」
「はい、兄の名は紅蒼紫と申します。黒髪に濃紫の艶があって、顔立ちもそれは大変美しく
……」
 学園の塀の外で、マックスに出会ったときに話した兄への賛辞を若葉は繰り返した。道に
迷っていない安心感からか、小さい頃の話など余計なことまで話す。その話は、先程のもの
より更に果てしなく長かった。
   ……
 約30分後。
 一通り話し終えて満足気な若葉の前には、ぐったりしてうずくまる3人の姿があった。
「あらみなさま、どうなさったのでしょう?」
「……あ゛、終わった?」
「はい」
「んじゃしばらく待っててくれるかな。疲れがどっと出てきたみたいだから」
「まぁ、それはいけませんねぇ。安静にしていらっしゃらないと」
「(……誰のせいだと思ってんの?)」
 さすがにそうとは言えず、心の中にとどめておいたルーファスであった。


#0015   こてつまる (yukihiro@po.incl.or.jp)    97/02/22 09:48:22
 「まぁったく、やってらんないわ。」
乾果をくちゃくちゃ噛みながら、フィリーは来人の後をのろのろと飛んでいた。

 来人とキャラット、そしてもうひとりのパーティメンバーカレンの3人は、突然いなくなった若
葉を探しに街中を駆け回っていた。キャラットの報告を聞いた時ちょうどその場に居合わせたロ
クサーヌは
「では、私も協力いたしましょう。」
と云ってどこかへ消えてしまった。

「もー若葉が迷子になるのなんてもう35回目じゃないの…。ご飯の時間になったら勝手に帰っ
てくるわよ…。ねぇ来人、もう宿にもどらない?お腹もすいたし…。」
フィリーは昼食を取り損ね、腹を立ていた。若葉の迷子騒動さえなければ今頃はこの街の名物を
お腹いっぱい食べていたはずなのだ。学生でにぎわう街なら、食事がおいしいに決まっている。
おりしもお昼どき、左右にならぶ露店からは何かを焼く香ばしいにおいや、誰かがものを租借す
る音や楽しそうな談笑が聞こえ、饅頭を蒸しているゆげがもうもうとあがる。

 さっきからそれらを見聞きしているフィリーはブツブツこぼしてみるのだが、来人はフィリー
を無視して道行く人々に若葉らしい異国風の服を来た女の子を見なかったか訪ね回っている。し
かし学生の街であるここは、あらゆる国から留学生がやってきており、いつもならとても目立つ
若葉の服装が、ここではたいして珍しいものではなく、捜索は難航していた。来人の心は焦るば
かりである。

 「ねー来人!お腹すいた!お腹すいたってばぁ!!」
何度目かの焼き鳥屋の露店を通りすぎた時、ついにフィリーの胃袋は限界を向かえた。
「あーーっ!うるさいっ!若葉が心配じゃないのかっ!この薄情妖精っ!」
いつもは大きな声を出さない来人だが、この非常事態に腹が減ったなどとわめきちらすフィリー
についカッとなってしまった。通りすぎる人が何事かと振り返る。
「な…なによ。そんな怖い顔しなくても…。」
「ご、ごめん、フィリー。後でたらふく食わせてやるから…。」
「今串焼きの一本も買ってくれたっていいじゃないのっ!私が餓死したら、来人のせいだからね
っ!」
このえらく人間くさい食いしん坊の小さな妖精は、体が小さいせいもあるのか、すぐお腹がすく
のだ。来人はそれをすっかり失念していた。さき程からかんでいた乾果はすでに食べてしまった
らしい。
「フィリー、ごめん、フィリーの事ちょっと考えてなかったよ。じゃあ何か…。」
「もういいわよっ!ばかっ!妖精殺しっ!」
「あっ!フィリー!」
フィリーはあかんべをひとつすると、バチバチと静電気を立てながらすごいスピードで来人の周
りをくるくる回って、空のかなたへひゅんと飛んでいった。










#0016   こてつ (yukihiro@po.incl.or.jp)    97/02/22 10:14:15
 お腹がすいてしょうがないのに、スピードを出して飛んだせいで、フィリーはへろへろと浮い
ているのが精一杯だった。
「ああ…意地をはらないで何か買ってもらえばよかった。」
人でにぎわう市場通りを越え、フィリーはどこか休めるところはないかと木々が茂る公園へと向
かった。

 「あう…。」
お腹がすいて、力がでない。フィリーがよろよろと草の上に倒れこんだ。とたん!
「すばらしい!!」
どこかで聞いたようないやーな声が頭上から降ってきた。大きな影がフィリーを覆う。
「ゲッ!あんた…。」
ふわふわしたソバージュの髪、きらりと光る眼鏡の奥に、知的だが、どこかにわずか、ほんの少
し、狂気の滴をたらした瞳、フィリーをがっしとつかんだ彼女は…。
「メイヤー…ステイシア…。」
こんな目の色をしている時の彼女がいかに危険であるかを、実は結構なつきあいがあるフィリー
は経験で知っていた。
「そうです!この私とした事がすっかり失念していました!何もわずかな情報をたよりに、こん
なヘンピな公園で、フェアリーリングを探す事などなかったのです!」
「あ…あんた…。何云ってんの…?」
ぶるぶると体がふるえるが、お腹がすいて力がでない。とてもメイヤーの手を振り払えそうにな
い。
「コレで準備はOKです!さあ行きましょう!悠久なる歴史の息吹を求めて!フィリーさん、あ
なたは自分が妖精である事を幸運に思うべきです!自分がすばらしい瞬間に立ち会える幸運を古
代神、エルハンディオニソス・パッカデルーラに感謝すべきです!ん〜すばらしい!」
「あ…。だめだ…私コロされるかも…しれない…。」
フィリーの意識が遠くなる。

 メイヤーはぐったりしたフィリーを、肩からかけた昆虫採取用の銅管に放り込むと、意気揚々
と「カリオン遺跡」へ向かった。


#0017   こてつ"調子にのりすぎ"丸    97/02/22 11:19:27
 「おっ!そこ行くステキな吟遊詩人の…お兄さん?お姉さん?ちょーっといい話があるんです
けどね、如何です?お安くしておきますよぉ?」
いかがわしい裏通りを歩いていたロクサーヌはフード付きマントで顔を隠した長身の男が細い路
地からこっちを手招きしているのに気がついて足を止める。
「情報屋さん、ですか…?おもしろければ、買いますよ?」
「おっ!そうこなくっちゃ。情報は松竹梅とありますが、どれからいきやす?」
うれしそうに手もみをして向かえるマントの男の濃いサングラスと、ロクサーヌの青い目とがバ
チリとあった。

 「ふんふん、そうですか、そいつはおもしろいですねぇ。ルビーの壺とはねぇ。こいつはまた
一騒動ありそうだ。で?今朝から何人にこのお話を売ったんです?2人?思ったより少ないです
ねぇ。」
 汚い路地の真ん中で、ロクサーヌがマントの男の額に手を当てて、なにやらひとりでぶつぶつ
感心したり、問いかけたりしている。
「では、その2人の風貌を思い浮かべてみてください?ほほう!これはこれは。カイルさんと…
、メイヤーさんですね。で、三人目がワタシと…。ほうほう。なんという偶然。」
男の足はわずかに宙に浮き、顔には苦悶の表情が浮かんでいる。男はロクサーヌの掌によって宙
づりにされているのだ!

 「く…。キサマ、何者だ…。こ、このデイル・マースを…こうもやすやすと…。信じられん!」
「いえいえ、あなたの力はすざまじいものがあります。そうですね…。ちょっと、人としての力
を越えているかもしれませんね。でも落ち込む事はないですよ。ただ、ワタシの方が、ほんの少し、
あなたより強かっただけなんですから。でも、あなたがいけなんですよ?法外なお金をとろうな
んて考えなきゃよかったですねぇ。ん?」
「ぐ…。」
「をや?心を閉ざしましたね?すばらしいですよ。」
ニッと笑うロクサーヌをデイルはにらみつける。
「でも、これだけのお話を聞かせて頂ければ十分です。どうもありがとうございました。あいに
くとお金は持ち合わせておりませんので、せめてもの変わりに、ワタシの名前をお教えしましょ
う。ワタシは吟遊詩人ロクサーヌ。いつかまた、どこかでお会いするかもしれませんね。あなた
とは…。」
今度はにっこりほほえむと、ロクサーヌはデイルをそっと地面におろし、深々と一礼をして立ち
去った。

 ようやく動けるようになったデイルが路地を出て辺りを見回した時にはすでに吟遊詩人の姿は
ない。
「ちっきしょーーーーーーっっっ!ゆるせんっ!ゆるせーーーーーーんっ!後悔させてやる!こ
のデイル・マースがここまでコケされて、許しておけるものかっ!ふははははははははは!思い
しらせてやる!思い知らせてやるぞっ!ははははははははははは!」
言葉とは裏腹に実に楽しそうな高笑いを上げながら、得体のしれないライバルの出現に胸躍らせ
たデイル・マースはマンホールのフタをはずすと、その中に消えていった。

 「ルゥゥウファァアアアアァス!お前にも協力してもらうぞぉぉぉおおおっ!」




#0018   月影 すいません初めてなもんで・・・・ (tukikage@dlue.plala.or.jp)    97/02/24 01:51:46
一方そのころ・・・・

「(ふーやっと落ち着いた。)」
「ようするに、蒼紫の居場所が知りたいわけね。」
「お兄様の事ご存知なんですか!」
「まぁ一応・・・・たぶん蒼紫なら裏山にいると思うからいってみるか。セシルと
シンシアはどうする?」
「うーん、まぁ暇ですしボクも付き合いますよ。」
「シンシアもおにーちゃんについていく。」
「そうか、それじゃぁ行くか。」
「はいっ、よろしくお願いします!」
「ルーファス先輩。」
「なんだ?セシル。」
「なんだか周りの視線が気になるんですけど・・・・・」
「あれほんとだ、みんなこっちを見てるぞ。」
「おにいちゃん、おにいちゃん。」
「今度はなんだ。」
「ここといれのまえなんだけど・・・・・」
よく見ると周りの人が白い目で見ている。
「げ、とりあえず場所を変えよう!」
「あっ、まってください.」

「若葉さん.」
「あ、若葉でいいです。」
「それじゃぁ若葉、蒼紫は多分ここに居ると思うけど・・・」
「まぁそれではここが裏山なんですね。ずいぶん大きな山なんですねー。」
「この山には凄いものがあるらしいですよ。」
「それシンシアもきいたよ。」
「え、シンシアも一体誰から。」
「デイルせんぱい。」
「げ。(いやな予感が・・・)」
しかしもう遅かった・・・
「ルーファスくん。」
「うわぁびっくりしたぁ。げ、デ・・・デイル先輩。」
「げ、とはなんだ、げ、とは。」
「(あのぉ、誰なんですか?)」
「(デイル先輩ですよ。)」
「はじめまして私、紅若葉といいます。」
「あ、どうも。紅って・・・・」
「そうです、蒼紫の妹ですよ。」
「まぁいいそれよりルーファスくん、君に手伝ってほし・・・」
「いやです!」
「なんだ、突然。」
「先輩の頼みなんてろくなことありませんから。」
「まぁ最後まで聞け。頼みというのは悪の吟遊詩人を倒すことだ。」
その時、茂みから突然何かが飛び出してきた。
「なんですって!!」
「うわぁ、ソ・・・ソーニャ一体何処から・・・」
「そんな事どうでもいいじゃないですか!それよりデイル先輩それは本当ですか!」
「本当だとも。奴は伝説のルビーの壷を使ってとんでもないことをたくらんでいる。」
「(多分嘘だな。)」
「なんて恐ろしい。すぐに阻止しないと。」
「わかるかソーニャ!ルーファスお前も来い!」
「なんで俺まで!」
「ボクもいやですよ。」
「そうか、そういえば奴に対抗するために作った魔法試してないな、ここで使ってみるか・・・・」
「わ、わかりました、いけばいいんでしょ!」
「え、なんだか悪いな、無理矢理誘ったみたいで。」
「(無理矢理だよ)で、そいつは何処にいるんですか?」
「今ごろ奴は学園の地下にいるはずだ。」
「急ぎましょう、正義のためです!」
「ちなみに奴は、青髪でマントを着ている。」
「(青髪でマントはて?何処かで・・・・)」
「あ、あのお兄様は・・・」
「そうか、蒼紫も連れて行こう。」
「(ロクサーヌめ俺様を敵にまわしたことを後悔させてやる!)」


#0019   月夜見 (taduoka@venus.dtinet.or.jp)    97/02/25 01:08:19
「新参者ですが、どうぞよしなに……」
「……若葉ちゃん?」
 突然、あらぬ方に向けて頭を下げだした若葉に、ルーファス達は怪訝な目を向けた。
「あ、いえ、改めてご挨拶を、と思いまして」
「なーんだ、俺様はまたてっきり頭が……」
「??はい。頭が、なんでしょうか?」
 軽いギャグを飛ばそうとしたデイルは、若葉のあまりに澄み切った、純真な瞳にまっすぐに見つめられると、急に言葉に詰まってしまった。
「いや、ね。頭が、重いのかなー、なんて。……リボン、とか」
「まあ、お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。このリボンは、少しも重くはございません。それというのもこのリボンは……」
 深々と頭を下げた後、意味無くガッツポーズなど作りつつ、熱弁を振るいはじめた若葉を前に冷や汗をかいていたデイルは、ふと、自分に突き刺さる無数の視線に気づいた。
「……信じられないわ。あの、デイル・マースが……」
「先輩が、ペースを乱されてる……」
「シンシア、はじめて見たよー。せんぱいも人間だったんだねー」
「あの、そこまで言うのは……」 
 フォローにまわるのはセシルのみ。他のアカデミーのメンバーは、この異常事態に興味津々である。
「しっ、仕方なかろう?なんとゆーかこの、システィナ嬢から宗教をぬいた上になお純粋培養、といったかんじのこの目線が……」
 デイル必死の弁解。しかしこれは墓穴。
「……信じられないわ。あの、デイル・マースが……」
「先輩が、まともに言い訳してる……」
「シンシア、はじめて見たよー。せんぱいも、心にうしろめたいことの一つや二つ、あるんだねー」
「……あの、その人もう、半泣きですから……」
「っっがー!!なんだかもう、ロクサーヌといいこの娘といい、今日は調子を狂わされっぱなしだ!この俺様としたことが……」
 歯ぎしりして悔しがるデイル。
「よーっぉおおっし!こーうなったら!……とりあえず実験だ!えーと……、ラシェル君!よろしく頼むよ!」
『いないっつーの』
「……そしてそのときお兄さまがおっしゃったことなんですが……」
 ルーファス以下四人、声とポーズを揃えての突っ込みを受けて、半泣きから七十五パーセント泣きへと変化しつつあったデイルをよそに、若葉の兄自慢はまだまだ続いていた…… 


#0020   こてつ    97/02/26 12:20:00
 「なんですって?フィリーちゃんもいなくなった?」
「…そうなんだ…。」

 来人、キャラット、カレンの3人は、一日中足を棒にして若葉を探したのだが、夕方になって
も何の手がかりも得られず、一旦宿に戻り、カレンの部屋で今後の相談をしていた。フィリーま
でもがいなくなったという来人の報告にさすがのカレンもどっと疲れが押し寄せて来たようだ。
「でも、フィリーさんならお腹がすけば戻ってくるんじゃないかなぁ?今までも時々パーティ
からはずれて他の妖精さん達と遊んでた事があったし…。」
「うん…だったらいいんだけど…。」
責任を感じてうつむく来人だが、その時お腹がぎゅう〜っと鳴った。
「あ、そういえば私達昼食をとってないんだわ。」
「ボクも。云われてみればお腹ペコペコだよ。」
「それじゃあとにかく腹ごしらえといきましょう!ここの街は夜でも活気付いてるにぎやかな所
みたいだから、かなり遅くまで動けると思うわ。迷子捜しはご飯の後よ!」
落ち込む来人を励ますように、カレンが明るくその場をまとめ、一同は食堂へ降りる事にした。

 
 その時。

 びいぃんと弦をはじいたような音がした。部屋の空気が突然濃密になったように感じられる。
ランプの炎が風もないのにじりじりとゆれ、小さくなる。
「魔力の波動!?」
何者かが、この空間に干渉しようとしているのだ!
カレンが寝台の下の剣を素早く取り出し、来人に渡す。そのまま腰の短剣を抜いて、ゆらゆらと
ゆがみだした窓枠をキッとにらみつける。
「来人さん…。」
キャラットが来人の後ろにそっと回り込む。来人はキャラットをかばい、前へ出た。グニャ
グニャとゆがむ窓枠は、もはや元の形を止めていない。何かが、そこへ、出現しようとしていた。 
「何なの…一体…。こんな所で戦闘になったら…。」
カレンの額を汗が流れる。

 ゆがんだ空間は、何か人の形を形成しようとしていた。なんだかその形には見覚えがある。
「…ねぇこれって…レミットさんのパーティの人じゃないの?」
その言葉にカレンもうなずいて構えた短剣をおろす。
「そうねぇ…たしか…眼鏡の…」
「メイヤー…なんとか?」
今や空間は確かにメイヤーを形作ろうとしていた。
3人は唖然となって、「それ」が固まるのを待つしかなかった。

 「はーい!みなさん!聞こえますか?あーあーあー?声は届いてますか?わたくし、メイヤー
・ステイシアです!どーも触媒が悪いと上手くいきませんねぇ。」
本来窓があったその場所に、とうとうメイヤー・ステイシアの上半身が形成された。メイヤーは
どうやら森の中にいるようで、暗くてよくわからないが、彼女の後ろに何か古い建造物が建って
いるのが見える。
「イリュージョン…?」
来人は以前本で読んだ魔法の知識をひっくり返して、今目の前で起こっている現象に該当する魔
法の名前を探し当てた。

 たえず安定しない空間は、ときおりぐにゃりと像をゆがませたが、声はちゃんと聞こえてくる。
「えー、あ、もしかして皆さん、驚いてます?今晩わ、メイヤー・ステイシアです。えー、突然
このような出現の仕方をして申し訳ありません。ちょっと時間がなかったもので。」
「おっ…驚いたわよっ!何なのあなた!いきなり人の部屋に魔法で現れるなんて、失礼だと思わ
ないの?!」
「いやー、すみません、触媒の質が悪かったようで。おっと、こんな事をしている場合じゃない
んです。わたくしちょっと皆さんにお断りしておこうと思いまして、緊急の事もあり、こうして
参上いたしました。」
「ど、どうしたんですか?」
来人の後ろに隠れていたキャラットがおそるおそる聞いてみる。
「はい、わたくし、ちょいとした私用で、あなた方のパーティの、」
と、ここで一旦メイヤーは言葉を切って、よっこらしょとしゃがんで一瞬画面から消えた。
「フィリーさんをお預かりしております。」
「あっ!」
「フィリーさん!」

 再び現れたメイヤーは、手に大きなガラス瓶を持っており、その中には泣いて助けをこうフィ
リーがいた。しかしフィリーの声は聞こえない。
「だぁ〜いじょうぶです!彼女に危害は加えませんから!ただ、ほんのちょっと、協力して頂く
だけですよ。で、一応そちらのパーティの方にも断っておかないといけないと思いまして。今晩
だけ彼女をお貸し頂ければ結構です。明日の朝にはそちらの宿にお返しに伺いますので。では私
はこれにて!ああ、神秘の遺跡、神秘の宝物が私を呼んでいる〜………」

 現れた時とは逆に、一瞬にしてメイヤーの像は消え、窓枠は、ただの窓枠に戻った。



#0021   もとひろ (motohiro@wakhok.ac.jp)    97/02/26 20:29:21
ナレーター:「さて、みなさんお忘れかもしれませんが、
       カイルさん達はどうなったんでしょう?」

「なに、今のコメントは?」
リラ・・・変な事にツッコミ入れないでください
「んで、カイルの兄ちゃんはどないや?」
「まだ気を失っています。」
「だらしないわねぇ〜。コイツこれでも本当に魔族!?」
(ピクッ)
「この高貴なる魔族を馬鹿にする・・・」
シュババババッ!バチバチバチッ!
「のあっ!!」
リラの言葉に反応して起きあがったカイルの目の前を先ほどの
セキュリティシルテムがうろついていた

「・・・へっ?(ここまで来ない・・・そうか!!)
 ふははははっ、さてはこのカイル様に恐れをなしたか!!」

『・・・ハァ・・・』

いきなり起きて、一人ボケをかましているカイルを見て、
3人がいっぺんに溜息を吐いた。

「ちょっとアンタ、ここの下を見てみなさいよ。」
「何?何処だ?」
仁王立ちして笑っていたカイルが後ろを振り向き、足下を見てみると、

安全地帯

と書いてあった。

「・・・だそうよ、高貴な魔族さん」
「(コイツ、バカやな)」

アルザが心の中で思っていたツッコミも虚しく、
とうのカイルは、白い灰となっていた


#0022   こてつ (yukihiro@po.incl.or.jp)    97/02/28 13:25:44
 燃え尽きたカイルを無視して、3人は辺りを見回した。

 「安全地帯…。行き止まりだと思っていましたけど、あの突き当たりの壁がマジックミラーみ
たいになってたんですね。こっちからは見えるのに、あっちからだとただの壁に見えるんだ…。」
後ろには透明の見えない壁があり、その向こうを先ほどのセキュリティシステムがいらいらしな
がらうろついている。こちらの反応は感知できるのに、壁のせいで入ってくる事ができないらし
い。
「どーも、「コレ」がバリアになっとるようやな。あのまるっちいのは、入ってこれへんみたい
やし。ホレホレ!いい気味や!バーカ!」
コンコンと見えない壁をたたきながら、アルザがセキュリティボールにべろべろと舌を出す。

 そのとき、通路の奥を調べていたリラが戻って来た。
「ねえ!ちょっと!この通路ずっと奥まで続いてるわ!それに今までと違う石壁で作られてるの
よ!天井もかなり高くなってるし!」
リラの声が高い天井にわんわんと響く。
「おっ!そう云われてみればそうやな。それになんやえらいカビ臭いにおいのする空気や思とっ
てん。」
「学校のダンジョンを抜けて、遺跡に入れたって事なんでしょうか…?」
「きっとそうよ!やった!やったわ!」
「やったでぇ!お宝売り飛ばして食い放題や!」
「やりましたね!」

 3人娘がぴょんぴょん飛び跳ね、喜びを分かち合っていると、灰から復活したカイルがよれよ
れとその輪の中にまざってきた。
「よくやったぞ…3人のしもべ達よ…俺様が世界を制服した暁には、まずウェンディを左府将軍
に、リラを右府将軍に任命し、最高軍事顧問としてアルザを迎え…」
「さっ!それじゃあお宝目指してレッツゴーよ!」
「えいえいおーや!」
「はい!」
「こ、こらぁっ!きっキサマら俺をコケにすんのもたいがいにしろぉっ!」
思いっきり無視されたカイルが噴火して怒鳴り散らすが、だれも彼の云うことなど聞いていない。
宝を売り飛ばした後の分け前の話などを楽しそうにしゃべりしながらどんどん先へ歩いて行く。
「あっ!俺を置いていくなぁぁぁぁああっ!」
慌てて3人の後を追い駆け出したカイルも通路の奥に消えた時、壁に文字が浮かび上がった。た
ぶん魔法によって、ずいぶん昔記されたと思われる文章には、以下のような事が書かれていた。

−ダンジョンを抜け、遺跡までたどり着いた君たちパーティ一行には、ご褒美として全ての単位
に2ポイントがプラスされる!おめでとう!しかし油断してはいけない、カリオン遺跡はに今ま
でのトラップとは比べものにならないくらいのすごい仕掛けが君達を待ち受けている!遺跡を抜
け、無事、生還してもらいたい。健闘を祈る!−24代目学長−

その下に、少し離れて、もう一行、小さな警告文が載っていた。

−安全地帯は約300メートルで終わる。300メートルから先は、君たちの本当の試練の場所
となるだろう−

 何もしらないカイル一行は、今まさに300メートル先にある、扉を開けようとしているとこ
ろだった。



#0023   阿黒 (CYE10052@niftyserve.or.jp)    97/03/01 02:38:44
 ここで少し時間は戻る。
「ねえねえ、これがメイヤーのいってたガレオン遺跡じゃないの?」
「姫様、カリオン遺跡ですわ」
「…う、うるさいわね!名前なんかどうだっていいのよ!」
 真っ赤になってレミットは侍女のアイリスを叱りつけた。だが、
それは照れ隠し。神妙そうな顔をしているが、アイリスの目は優しく笑っている。
 もっとも彼女の目はいつも笑ってるのか泣いてるのか、それとも眠っている
のかわからないのだが。


#0024   阿黒    97/03/01 02:52:24
「やはり、この扉は何かの力で封印されているようです」
 さっきから頑丈そうな石板で作られた遺跡の扉を調べていた楊雲がそっと呟いた。
 ここはS&Wの裏山の一角にある森。そこにあるという遺跡の情報を手にして
勝手に飛び出したメイヤーを拘留、もとい連れ戻しに来たのだが。
「皆さん、何だか妙な雰囲気を感じませんか?何か、背筋が寒くなるような」
 貧血を起こして木陰で休んでいたティナが辺りを見回しながら不安げに囁いた。
口には出さなかったが、実はアイリスもティナほどではないが同じ感覚を覚えていた。


#0025   阿黒    97/03/01 03:05:33
 それに対して楊雲が口を開きけ…
「あ、見て見て、こんな所に剣が刺さってるわよ!割りと高価そうなのにね」
 無造作にレミットは近くに刺さっていた剣を抜き取った。長い間野ざらしにされて
いたにも関わらず、その刃には錆ひとつ浮いてはいない。どうやら相当強い魔力を秘
めた剣のようだった。そのような知識にはとんと縁のないアイリスやティナにもそれ
と分かるほどの。それに。


#0026   阿黒    97/03/01 03:16:16
「姫様、その剣の刺さっていた場所、魔法陣になってますわよ?」
 だがそのアイリスの指摘は無視された。突如、遺跡の扉が開き始めたのだ。
「やったー!扉は開くし、こんな剣は手に入るし!さ、この調子でメイヤーも見つける
わよ!」
 そのレミットの手を楊雲がつかんだ。
「…待ってください…」
「あああああああああああああっつうううう!!」
「や、楊雲さん、お願いですからエクトプラズムを吐かないでください!」


#0027   阿黒    97/03/01 03:28:41
 楊雲の口から湧き出た白い霊的物質(主成分は主にタンパク質)はどうやら金縛り
までかけられたらしいレミットの頭の上にまるでゲロのようにぶちまけられていた。
時々、所々に人の顔を浮かび上がるのがますます不気味だ。
「ここはカリオン遺跡ではないそうです。そしてその剣はこの遺跡の封印なのだ
そうです。早く封印をもどさないといけない、と言っておられます」
「そうなんですか!?…ところで、どうしてそんな事を?」
「ティナさんの横にいらっしゃる方が教えてくださいました」
 無論、彼女の横には誰もいない。


#0028   阿黒    97/03/01 03:39:16
「だっ…誰ですかあっ!?」
 思わず悲鳴をあげてそのまままた貧血で立ちくらみを起こしかけたティナを
アイリスは慌てて支えた。
「なるほど、それでようやくブルーローズヒルまで辿り着けたわけですね。で、
ここの剣とは時々遊びにくる仲だと」
 ”何か”の身の上話に移っているらしい楊雲に、動けないままのレミットがそれ
でも何かを伝えようと必死になって目線とうなり声をあげる。
「とりあえず私を自由にしてよっ!ですわね姫様!」
「うー!うー!」



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管理者: ガテラー星人