料理SS:ミス味っ子(後)




「あたしかぁ?あんまり得意じゃないんだけどな」
「なんか超不安…」
「あ、なんだよ、失礼な奴だな。あたしだって女の子なんだぜ」
「では清川さんよろしくお願いします!」
「そうだな、じゃスタミナがつくようにジンギスカンでも作るかな」
「おお豪勢だぜ!」
 さっそく野菜を切り始める望。包丁がまな板を打つ音が体育館内に響きわたる。
「なあ清川さん、もうちょっと丁寧にやった方が…」
「うるさい!気が散る!」
「へいっ!」
 ジャーーー!と肉が焼け、あたりにおいしそうな香りが立ちこめる。
「できたぜ!思う存分味わってくれよ!」
 さっそく舌を打つ審査員。
「結構なお味ですねぇ」
「おいしいけど…」
「何かね?所々に入ってるこの固いものは」
「ふむ…私の分析によると、どうやらまな板のかけらのようね」
「な、何言ってるんだよ!それじゃあたしがバカ力みたいじゃないか!」
「望ちゃん…」
「な、なんだよっ!イヤなら食うなよな!」
「ううん、まな板すら粉砕するほどのパワーがあったってことだと思うな。料理にはその気迫が大事なのよ!」
「そ、そう?ありがとう…」
「では採点です!
 …10点0点6点7点10点!とりあえず味は良かったということでしょう!」
「なーんかひっかかるなあ…」


「さあいよいよ味勝負も佳境だ!きらめき高校のアイドル、藤崎詩織さん!」
「わ、私!?そんな、なんの準備もしてなかったし…」
「まーまーまーまー」
「がんばって、詩織ちゃん!」
「困っちゃったな…それじゃ、ちょっと待っててね」
 そう言って出かけていった詩織は、数分後料理の本を持って戻ってくる。
「おーっとどうやら図書室に行ってきたようです!さすがパーフェクトヒロイン、万全を期します!」
「そういう言い方ってやめて欲しいな。私はただ失敗してまわりに迷惑をかけるのが嫌だから…」
 そう言いながら料理を始める詩織ちゃん。本を見ながらてきぱきと作業を進める。
「炊き込みご飯に白身魚のホイル焼きっスね!では審査員の皆様!」
「結構なお味ですねぇ」
「ホント、おいしいよね!」
「なかなか好評です!…おや、味皇様どうしました」
「う〜ん…おいしいことはおいしいんだけど、根性が足りないっていうか…」
「…そりゃ本の通りに作っただけだから」
「マニュアル通りの味だねえ」
「だから、本の通りに作ったんだってば」
「しょせん優等生的なものしか作れないのね」
「悪かったわね!」
「し、詩織ちゃん…」
 席を立つ詩織ちゃん。あわててメグちゃんも後を追う。
「あ、え〜と…とにかく採点を!
 …8点0点8点9点10点!お〜い、美樹原さんと並んで最高得点だぜ。
 …って、もう行っちゃったか…」


<好雄君の5分クッキング>

「ではこのへんで俺の知恵ってモンを見せてやるよ」

・インスタントラーメンの作り方
(1) ラーメンがひとつ入るくらいの電子レンジパックを買ってくる。
(2) 麺とお湯、乾燥ワカメをいれてレンジで5分
(3) お湯が少なかったら足し、スープを入れてできあがり。

「これなら鍋が汚れなくてバッチリだぜ!ただしワカメを入れないと吹きこぼれるから…なんだよ夕子」
「あたしヨッシーとだけは結婚したくない」
「な、なんだよ!お湯が少ないからスープも少しで済むし、塩分の取りすぎもなくて最高なんだぜ!」
「結構なお味ですねぇ」


「もう終わりか?それじゃ審査結果を…」
「ジャスト・ア・モ〜メント!」
「こ、この声は…」
「イェース、アイデアの達人片桐彩子!この私のエキセントリックな料理にまっかせなさ〜い!」
「(あら、夕子さんどちらへ?)」
「(しーーっ!)」
「いや〜…それじゃ片桐さんの料理は?」
「フンフ〜ン、カレーよ」
「カレー!わりと普通だーーーっ!」
(しかしそう言った彩子の取り出した材料とは。
「3日前の牛乳!」「生八つ橋!」
「前橋名物旅がらす!」「それに殺人コアラだって!?」
「彩ちゃん、それでカレーを作るっていうの!?まさか…
 いいえ、彩ちゃんには…まさかがあるのよ!」「ねぇよ!」
 鍋に湯を張った彩子は、材料を一気に放り込む!
「そうか!そのすべてを煮込むことでカレーのうまみをいっそう引き立てるのね!」
「ほんとかよ!」
「外井か、至急脱出用のヘリを」
「卑怯だぞ伊集院!」「逃がすな!」
「あっ!…夕子君がいない…」
「先ほどどちらかへ行かれました」
「(この僕としたことが…出遅れた…)」
 そうこうしているうちに彩子の料理は進む。
「そしてこれが私の秘密兵器よ!」
「なっ…これは油絵の具!?絵の具をカレーに入れるのね!」
「そう、これがうまさの秘密なのよ!」「うそつけ!」「絵の具なんて食えねーよ!」
「すごい根性だわ彩ちゃん!」
「いやだーーーっ!」
「時間!それまで!」
 そしてカレーができあがった…。
「これぞ片桐彩子特製!『芸術カレー!』」
「『芸術カレー!』じゃねぇよ!」「絵の具が流れてる流れてるよ!」
「ははははは…はーはっはっは!」
「なんだかんだ言って伊集院が逃げるぞ!」「取り押さえろ!」
「は、放したまえ!」
「さあさあ伊集院!」
 ついに審査員の前に並べられたカレー。しかしその時…。
「あ、ちょっと待って!」
「おお彩子君!」
 うにょうにょ。
「私のカレーは仕上げにこの変な虫を入れるのよ!」
「いれるなぁーーーっ!」
 変な虫がうごめく芸術カレーを前に、伊集院にどうしろと言うのか。
「さあ、たべてみてよ!」
「いや、たべてみてよったってね…」
「くっーー!そんな秘密があったのかぁぁ!」
「すごい工夫ね!」
「そこまで言うなら自分で食べたまえ沙希君!」
「いただきます」
「お゛い゛!」
「結構なお味ですねぇ」
「なかなか落ち着く味ね」
「‥‥‥‥‥」
 追いつめられた伊集院に、もはや逃げ道はなかった。
 おそるおそるスプーンを口に運ぶ…。

「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
「巨大化したーーっ!」「ブラボー!」
「体育館が破壊されたぞ!」「軍隊を呼べ!」「ウルトラマンだ!」
「母さん全然わかんないわよ!」「一目ぼれを信じます!」
 混迷を極める体育館。しかし!

「おやめなさい!」
「あ、あれは…」
 人々の注視する先に、一人の覆面少女が現れた。
「まったく…見ていられないわ」
「あ、あなたは?」
「そ、そうね。とりあえず覆面少女シュピーゲルとでも名乗っておこうかしら」
 シュピーゲルはそう言うと散らかった台所を片づけ、手際よく料理を始める。
「あの、何を…」
「黙って見てなさい」
 しばらくして、7人分の料理が出来上がった。
「あ、俺も食べていいんスか?」
「ま、特別に許可してあげてよ」
 シュピーゲルの出した料理はご飯に豆腐の味噌汁、魚のフライに野菜炒めといったありふれたものだった。しかし…。
「あ、」
「デリシャス…」
「フン」
「うまい」
「…美味しいですねぇ」
「いけるよ、コレ!」
「うん、まーまーかなっ!」
「夕子…」
「あ、あはは。細かいことは気にしない!」
 しばらく料理を味わっていた沙希だが、ふと口を開いた。
「なんて言うのかな…すごくあったかい気がする。
 料理は真心だって知ってたけど、でもこの料理はそれが本当に自然で、
 作った人の優しさが伝わってくるから…
 シュピーゲルさん、私…シュピーゲルさん?」
 覆面少女の姿はすでになく、まるで皆が夢を見ていたかのようだった。
 沙希は茶碗を手にしたまま、誰にともなくそっと呟いた。
「…私…もっと、頑張るね」


「(はあ…馬鹿なことをしてしまったわ)」
 体育館を抜け出した鏡魅羅は覆面を取り去ると、後悔の小さなため息をついた。
「料理なんて、みんなで楽しく食べられればそれでいいのにね…」
 廊下の向こうから声が聞こえ、ファンクラブの男たちが駆けてくる。
「鏡さん、どこ行ってたんですか。探したんですよ」
「あら、ちょっとね」
「すごかったですよ体育館。正体不明の謎の少女が優勝をさらっていきましてね」
「あらそう。ま、私には関係ないわね。おーほほほほ」
 魅羅はそう言うと、体育館とは逆の方向へと歩いくのであった。






<END>





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