このSSは専門用語(笑)多数につき、同人に興味ない方は読まないでください!ウォンチュ!


                コミケSS:イェーイ!有明


     期末テストも終わり、みんな夏休みを心待ちにしていた頃でした。私と見晴ちゃ
    んも廊下を歩きながら長い休みをどう過ごすか相談していたのですが、不意に見晴
    ちゃんははっとすると、柱の陰に隠れてしまったのです。
    「ど、どうしたの見晴ちゃん」
    「しーっ」
     気づかれないように彼女が見つめてる先には、2人の男の子が何か話していまし
    た。えっと、詩織ちゃんの幼馴染みの人…だっけ?
    「それじゃ11時頃行けばいいか?」
    「おう、並ぶのは御免だしな」
    「ついにコミケも有明かぁ」
     見晴ちゃんの耳がびくん!と大きくなります。まるで本物のコアラさんみたい…。
    「コミケ…有明…」
    「見晴ちゃん?」
    「…えへへ。めぐ、いっしょに有明に行かない?」
     …何しに?

    「勝手に行けば」
    「あやめぇぇぇ〜。3人で行こうよぉ〜!」
     必死であやめちゃんを説得する見晴ちゃん。私たちって3人で一組の仲良しグル
    ープなんです。詳しくは『かくれんぼバレンタイン』を読んでくださいね☆
    ところでいつの間にか私も行くことになってる…。
    「ほらほら、めぐからも頼んでよぉ、ね?」
    「え、えと…」
    「愛を巻き込むなっ!だいたいあんたたち、コミケがどういうもんだか知ってんの?」
     えーと、三毛の子猫かなぁ?
    「自分で作ったマンガ本とか売るところでしょ?」
     全然違ったね…。
    「甘いっ、コミケとはまさにこの世の地獄!灼熱の太陽の照りつける中人混みに
    はね飛ばされながら同人誌を求めてさまよい歩き、すでに喪失した金銭感覚ととも
    に財布の中はすっからかん。一冊また一冊と重くなっていくバッグは肩に食い込み、
    ジュースは売り切れ!トイレは行列!ボロボロになって家にたどり着いた後は1人
    にやつきながら本をめくるという、それはそれは恐るべき祭りなのよ!」
    「がぁぁぁん!」
    「な、なんて恐ろしい…」
    「ま、行くっていうなら止めないけどさぁ。あんたらなんて海の藻屑と消えるのが
    オチよ。そんじゃ」
    「あやめぇぇーーっ!」
     見晴ちゃんの叫びを無視してあやめちゃんはすたすたと去ってしまいました。そ
    れにしてもずいぶん詳しいねあやめちゃん…。
    「ま、まさかそんな所だったなんて…。でも見晴負けないっ!一目惚れの力はそん
    なことじゃくじけないよね、めぐっ!」
    「別に私一目惚れした覚えは…」
    「公くんラーーブ!」
    「…聞いて人の話…」


     結局私は見晴ちゃんにくっついて国際展示場駅まで来てしまいました。くすん、
    さよならムク…。
    「うわぁ、本当に並んでるね」
    「う、うん…」
     遠くに見える大きな建物からは人の列が真っ直ぐ伸びて、途中でぐるりとUター
    ンまでしています。途中ではアイスキャンディー屋さんが回っていましたが、雲の
    おかげで涼しくてあまり売れてないみたいでした。
    「11時半かぁ、公くんいないかなぁ…」
     並んでる間にも見晴ちゃんはきょろきょろしてましたが、とうとう見つからなか
    ったみたいでした。行列は思いのほか早く進んで、私たちはついに会場に足を踏み
    入れたのです。
    「ねぇ見晴ちゃん、あの顔中に包帯巻いた人だれ?」
    「公くーーん」
    「なんだか着物着た人が多いね」
    「どこよぉー」
     …私を連れてきた意味ってあるの?ねえ。
    「あっ、館林さん?」
    「え?あ、如月さん!」
     そこにいたのは見晴ちゃんと同じ文芸部の如月さんでした。重そうな荷物をかか
    えてよろめいています。
    「だ、大丈夫?持ってあげるよ」
    「あの、私も持ちます」
    「あ、ありがとう。嬉しいです…」
     荷物の中身は全部本みたいでした。さすが如月さん、読書家なんですね…。
    「えへへ、如月さんてこういうところ詳しいの?」
    「そうですね。今回で7回目でしょうか」
    「そ、それじゃ公く…男の子の行きそうな所ってわかるっ?」
    「今日はあまりないと思いますが…とりあえず南地区へ行ってみましょうか?」
     私たちは如月さんに連れられて通路を歩いていきました。途中で出会った変わっ
    た衣装を着てる人たちはこすぷれいやーといって、さっきの包帯さんはるろうに剣
    心の悪役さんなんだそうです。なんだか難しいです…。
    「でもあやめから聞いてたのとずいぶん違うよねぇ」
    「う、うん。そんなに怖い場所じゃないよね」
    「くすっ、誤解したらダメですよ。ここは自分の思いを表現したい人たちが、それ
    を本に託して名も知らない相手に手渡せる場所…。新しい出会いと発見に満ちた、
    創作者の聖域なんです」
    「そ、そうだったんだ…」
    「素敵なところだったんですね…」
     そう言われると周囲の人はみんな楽しそうで、なんだかキラキラと輝いています。
    「それじゃ下へ降りましょう」
     しかしエスカレーターを降りて東1ホールというところへ入った私は、あっさり
    人の波に飲まれてしまったのでした。
    「み、見晴ちゃぁぁぁん!」
    「めぐぅぅぅっ!」
    「い、一度外へ出ましょう」
     もとが小柄な私たちはとても太刀打ちできません、ほうほうのていで東側の出口
    付近に抜け出しました。みんなどんどんぶつかってくるんだもん…。
    「そうだよね、ぶつかるならもっとエレガントにぶつからないとね」
    「館林さん、人にぶつかるのは良くないですよ」
    「エ、エヘヘ。冗談なの」
     いつも真面目な如月さんに、あわてて見晴ちゃんはペロッと舌を出します。
    「いくら急いでいるといっても、人を押しのけていくのはやはり迷惑ですね。流れ
    にまかせてゆっくり見ていくのが一番ですよ。お目当てでないサークルも、きっと
    宝物が埋まってるはずですから…」
    「如月さんてすごいんだ…」
    「そ、そんなことはありませんよ。それがコミケというものなんです」
     あらためて会場を見渡すと、熱気と活気が高い天井まで届いていそうです。机の
    上に並べられた色とりどりの本。よほどの思い入れがないと作れないんだろうな…。
    真剣に目を通す読み手の人。「これ、ください」その一言に売り子さんの顔がぱぁ
    っと輝きます。自分の創作物が売れたときの喜びって、きっと私なんかには想像も
    つかないものなんでしょうね。
    「ねぇ、あの行列は?」
     見晴ちゃんが指さした先には、道路までずらっと延びた長い人の列がありました。
    一番後ろの人は、なにやらボール紙を持っています。
    「ああ、あれはIN○IDE EDI○IONの行列ですね。高○ゆんというプロの作家が描い
    てるんですよ」
    「え、これって全部本買う人の列なの?」
    「ええ、壁際は人気サークルですから…どこも行列ができてますしね」
     正面へ回ってみると、確かに列の先頭の人が1人ずつテーブルの前に案内されて
    います。看板には「新刊エヴァ本 カヲル×シンジ」という、謎の言葉が書かれて
    いました。
    「あの…、あれはどういう意味なんでしょうか?」
    「え…」
     如月さんは言いづらそうに説明します。
    「えっと…○○×○○というのはその作品で誰と誰がカップルになっているかとい
    う意味なんです。このあたりの本はやおい本といって、マンガやアニメに出てくる
    男の子同士をカップルにしたものが多いので…」
    「…ホモマンガ?」
    「そ、そういう言い方もあるかもしれませんね」
     身もふたもないよ見晴ちゃん…。
    「それじゃあの人は?」
     見ると、黒のサングラスにマスクをつけたいかにも怪しそうな人が、周りを気に
    しながら本に目を通しています。如月さんにもわからないらしく、小首をかしげて
    悩んでいました。
    「なんでしょうね、コスプレではなさそうですし…」
    「ヘアバンドしてるってことは、女の子だよねぇ…」
     ヘアバンド…
    「…詩織ちゃん?」
    「びくぅっ!」
     そっと近寄っておそるおそる声をかけてみると、予想通りの反応が返ってきまし
    た…。
    「メ、メグっ!どうしてここに!?」
    「えっと、話すと長くなるんだけど…ごめんね、邪魔しちゃって。ゆっくり本選ん
    でね…」
    「ご、誤解よメグぅぅぅぅぅっっ!
    (ああ、やおい好きなんて知れたらもう学校に行けない…詩織のバカ、なんでこの
    列に並んじゃったのよ!あなたエヴァの最終回は許せないって言ってたでしょ!?
    ああ、でもでも、最近高河○んて商業誌に描いてくれないし…)」
     なんだか詩織ちゃんは苦悩してるみたいです。声かけないでそっとしておいた方
    がよかったのかな…。
     と、如月さんが眼鏡を光らせると、一歩前へ進み出ました。
    「藤崎さん…やおい本を買うことは、そんなに恥ずかしいことでしょうか?」
    「き、如月さん…」
    「本当に好きなものなら、もっと自分の心に素直になるべきではありませんか?」
     ピシッ。どこかでガラスにひびの入るような音がします。
    「自分の心に素直に…
     そうよ、私はやおい本を買いたい…」
     ピシッ
    「私はやおい本を買ってもいい!」
     ピシパシッ
    「私はやおい本を買ってもいいのね!」
     カシャーン!
     わーーーーパチパチパチパチ
    「め、めぐっ!なんでこの人たち拍手してるの!?」
    「わ、私に聞かれても…」

     作家に ありがとう
     一般人に さようなら(笑)
     そして、すべてのやおい好きに
     おめでとう!

    「おめでとう、藤崎さん」
    「ありがとう、如月さん…」
     如月さんは目を潤ませて温かい拍手を送っています。わ、私も拍手した方がいい
    んでしょうか?
    「館林さん、おめでとう」
    「はい?」
    「メグも、おめでとう!」
    「し、詩織ちゃん?」
    「さあっ、トロワ×カトル本を買いまくるわよぉー!」
    「そうですか?私はやっぱりトレーズ×ゼクスの方が…」
     呆然としている私たちを置き去って、2人は本を買いにいってしまいました。
    あんなの詩織ちゃんじゃない…。
    「うーん、やっぱりコミケって大変なとこなんだね」
    「うん…連れてきたのは見晴ちゃんだけどね…」
    「あ、あははははは。これからどうしよっか?」
     見ず知らずの土地で途方に暮れる私たち。でも神様は救いの手をさしのべて
    くれました。
    「はぁ、けっきょく来ちゃったわけね」
    「あ、あやめちゃんっ!」


                             <続くでござるよ〜>
    

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