【注意】
このSSは「ときめきメモリアル」に関する1999/09/21現在の情報を元に書かれています。
2キャラの口調とか実際の製品版とは全然違うかもしれませんがご了承ください。(何て賞味期限の短そうなSSだ…)
また、事前情報はシャットアウトしたいという方もご注意ください。








美樹原SS: ひびきの動物園日誌






 あの、あの、こんにちは。美樹原愛です。高校卒業してからは動物園に就職して、飼育員さんとして働いてます。
 もちろん動物好きの私には天職であり長い間の夢だったのですが、それと別にしてある野望がありました。
 そう…ときメモ2に登場することです!
 デートといえば動物園が定番、私が動物園でウロウロしていれば2の背景CGに載るかもしれません! ああ、なんて深遠な計画なんでしょう…。
 そーゆーわけでさっそく私は元祖背景キャラの見晴ちゃんに教えを請うのでした。
「誰が元祖背景キャラよっ」
「お願い見晴ちゃん、私出番がほしいの…」
 うるうると目を潤ませて懇願する私。だってだって、本編では地味だしぱずる玉ではムクの方が目立ってるし、ドラマシリーズは1,2作目で影も形もなく、3作目は確かに話は良かったもののメインシナリオではしょせん前半キャラ、最後まで話に絡んだ清川さんとは出番において雲泥の差だった私が2でのリベンジを誓ったところで誰に責められるでしょうかいいえ責められるわけがありません。
「見晴ちゃんはいいよね、シナリオ1本もらえたもんね…」(しくしくしく)
「わ、わかったよぉ。まあ主人公の人を見つめるのが一番だけど…。まだ2主人公って全然分かんないから、とりあえず登場する女の子のまわりウロチョロしてればいいんじゃない?」
「なるほどー」
 さすがは見晴ちゃんです。これで背景キャラの座は私のものですねっ。
「でもひびきの市って動物園ないと思ったけど」
「ええっ!?」
 私はあわてて2の情報が載っているゲーム雑誌をひっくり返しました。
 公園、植物園、コンサート会場、神社・・・
 ガァーーン
「ひ、ひどいです…。ひびきの市がこんな地獄のような場所だったなんて…」
「別に動物園のない市なんていくらでもあるんじゃ」
「なにを言うの見晴ちゃん! 動物園こそ地域の要にして最優先施設、いわば地上で重要なのは動物園だけでそれ以外はおまけみたいなものよ!」
「(むちゃくちゃ言ってるよぉ)」
 でも地図の右下の方に『再開発地域』なんてものがあるので、おそらく前作同様ゲームが進むに従って施設が増えていき、動物園も建設されることになるのでしょう。うん決定。
 というわけで数ヶ月後、バケツとモップを持った飼育員姿の私は、新しくできたひびきの動物園に転任していたのでした。
「いよいよ作戦開始ですね…そういえば見晴ちゃん、殺人コアラさんて2に登場するの?」
「わたしに聞かないでよ」
「『達人ゴリラ』とかに変わってたらステキだよね…」
「(どんなゴリラよ…)」
 などとうっとりしながら動物の世話を始める私。そのとき門の方から土煙が!
「あはははははははは」
 ドドドドドドドドドドドド
 赤い髪の女の子が意味もなく走っていました。あ、あれはまさしく新ヒロインの陽ノ下光ちゃん。
「あの…、園内を走らないでください…」
「はっ、ご、ごめんなさーい!」
「光は相変わらずだなぁ」
 などといかにも幼なじみライクな発言をかます男が隣にいたので、どうやら間違いないようです。さっそく私は周囲をうろうろし始めました。
「(うろうろ)」
「ねえ、なんだか私たち誰かに尾けられてない?」
「気のせいだろ」
「そうかなぁ。ところであのシベリアンハスキー可愛いよね」
「でも、目が怖いよ」
 デートの3択も終わったようなので、これくらいくっついてれば背景として十分でしょう。でも目の前にあるライオンの檻を見て、私の中にムクムクと新たな欲求が生まれました。
 もしこのライオンを放してバトルに持ち込めば…。
 前作のパターン(マタギ、虚無僧、マングース)からして、主人公がピンチの時に『正義の飼育員さん』として私も登場できるのでは!? しかもSDキャラと声つきです。
「ありがとう、正義の飼育員さん」
 既に私の頭にはそんな台詞まで見えていました。完璧です。なんて恐ろしい計画でしょう。というわけで実行です。
「えーーいっ!」
『ガオーーー』
「うおっライオンが!?」
 さあバトル開始です! 前作がFF4のパクリでしたから、今回はFF8並のポリゴンバトルでしょうか?
 そう期待した瞬間でした。
「両足会長キーーック!!」
 どげしいいぃぃぃっ!!
 突如飛び込んできた小柄な女の子のドロップキックが炸裂し、呆然としている私の前でライオンさんは宙を舞いました。
「生徒会長! 赤井ほむら!!」(ババーーン)
「ありがとう、正義の生徒会長」
「へへっちょろいもんだぜっ」
「さすが3年間も生徒会長なだけのことはあるねっ」
「え? 会長ってそーゆーもんなんだろ?」
「(校長にだまされてるぞ赤井さん…)」
 なんて談笑しつつ帰っていく3人を見送りながら、私はライオンさんと一緒にしくしく泣くのでした。

「ねえめぐ、いい加減やめたら?」
「見晴ちゃん…。私が2に登場しなければいいと思ってるのね」
「いやそーじゃなくて社会人としての常識が」
 ハタチ過ぎてもコアラの髪型してる人に言われたくないです…。
「ほっといてよぉっ!」
「あっ」
 魎呼と津名魅様を足して割ったような髪型の子が、別の男の子とデートしていました。水無月琴子さんに間違いありません。
 そういえば2では女の子も思考ロジックを持っていて、主人公の見ていないところでほかの男子生徒と付き合ったりもするとか。あるいは先ほど陽ノ下さんといたのは別人で、こちらが本当の主人公さんなのかもしれないです。
「まして水無月さんといえば『ヒロインの親友』という点で私の後輩…。ひとつ先輩として暖かく見守らなくちゃいけませんね」
「めぐと違って扱い大きいけどね…ああっごめんなさい何でもないです!」
 何か言っていた見晴ちゃんをカバの池に投げ込むと、さっそく私はさりげなく背景で仕事を始めました。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥!」
 …あれ?
 なんかケンカしてるみたいです。『爆弾』という懐かしい単語が頭に浮かびます。私も高校生のころは…って年寄りくさい。
 結局爆弾が炸裂したようで、水無月さんは怒ったように彼と別れてしまいました。
「あの、どうかしたんですか?」
「ええ…。彼ときたら私とデートしてるつもりだったらしいのよ」
「はい?」
 それはときメモの基本じゃあ。
「デートとは何ですか!『逢い引き』と言いなさい!」
 ‥‥‥‥。
 そういえば『横文字が嫌い』という設定だったような…。
「そ、それじゃプラネタリウムに誘うときは『星空映写場へ行かないか』とか言わないと爆弾点灯なんでしょうか?」
「当然ね」
「ときメモ2は『ときめき想ひ出弐』と改題して発売ですかっ?」
「その通り」
 ださー!
「あなたも日本文化の重要性をかみしめることですね。それでは失礼」
 帰っていく水無月さんを見送りながら、2の主人公さんは果たして彼女からバレンタインのチョコレートをもらえるのかなぁ…とかいらぬ心配をする私でした。

 その後も綾波レイの背景に出没したり、(虹野さん+マルチ)/2の背景に出没したりと大活躍の私です。バナナの皮で滑ってる女の子もいましたが、それは見なかったことにしました。
 これでどの女の子とデートしている時にも背景には私がいることに…ふふふ。
「美樹原さん、仕事してくださいよ…」
「し、してますよ〜」
 園長さんに突っ込まれて、私はあわててお猿さんのサル山を掃除します。昔は眺めるだけでしたけど、思えば遠くへ来たものです…。
「けぇーーーっ!!」
「きゃあっ!」
 などと物思いに耽っているところへいきなり誰かが攻撃してきました。まさかお猿さんがっ?
 と思いきや、大きな剣を構えた無表情の女の子でした。
「一文字流斬岩剣、この世に切れぬものはなし!」
「あの…、園内での斬岩剣はご遠慮ください…」
「…嫌です」
「あの…」
「私は山葉堂のワッフルが好きです」
 意味不明の言葉を残し、その金髪の女の子はワッフルと斬岩剣を手に去っていきました。さすがときメモ2、一筋縄ではいかないようです…。
「相変わらず馬鹿なこと言ってるわね」
「あ、紐緒さん…」
 2の設定を見る限り、まだ世界征服どころかひびきの市すら征服できてないらしい紐緒さんでした。
「うるさいわねこれからよこれから! 今は発明で忙しいのよ」
「エモーショナルボイスシステムとかですか?」
「ふん、大した技術であることは認めるけど、1人にしか使えないとは宝の持ち腐れね」
「プレステのハード的な限界らしいです…」
「プレステ2で完全版とか言って全員で使えるのを売り出すんじゃないの?」
「そうなんですか?」
「いや、知らんけど」
 でもなんとなくありそうです…。さらに紐緒さんは続けました。
「実はそれだけじゃない。この裏には恐るべき陰謀が隠されていたんだよ!」(なぜかキバヤシ調)
「ど…どういうことだ紐緒さん!!」
「わからないのか? プレステ2による完全版EVSを搭載した…
 ときメモ1のリメイクだよ!!」
「な…なんだってーーー!!」
 そ、それじゃ私も主人公さんの名前を呼びかけたりするんでしょうか?
 は、恥ずかしい…。(でも私って苗字しか呼ばないんですよね…)
「しかし所詮は机上の空論、本当のところは分からないわ」
「出たらいいですよね…」
「もし出たら未だにめぐめぐ言ってる誰かがどう反応するか見物ね」
(即買います。(作者))
「ま、それまではせいぜい背景キャラでもやってるがいいわ」
「うぐぅ」
「私は伊集院家との決戦に向け準備しないと。あの新キャラの設定は私に対する挑戦としか思えないわね。それじゃ失礼」
 紐緒さんは白衣を翻して去っていきました。そういえば伊集院さんの妹さんはメカが得意らしいので、伊集院家の財力と合わせれば紐緒さんの敵になるかもしれません。
 でもあのバカボンのパパみたいな喋り方で紐緒さんの相手が務まるんでしょうか…。
「誰がバカボンのパパなのだー!」
「あ、こんにちは…」
「メイを馬鹿にしたのだ! 許せないのだ! 外井にいいつけてマッスルの刑にしてやるのだ!」
「あああっごめんなさい、私ったらなんてことを!」
「これでいいのだ」
 …やっぱりバカボンのパパじゃないですか…。
 なんてやってるうちに時は過ぎ、もう閉園の時間です。今日も一日何事もなく終わりました…。
 と思いきや、まだ園内に女の子が残っています。
「あの…、そろそろ閉まりますよ…」
「ごめんなさい、今大事な話の途中なんです」
「え…?」
 きょろきょろと周りを見回します。誰もいませんけど…。
「ね、これなんかどうですか?
 まあ、そうなんですか。
 うふふ、そうですね」
 その女の子は何もない空間に向かって一人で話していました。
「あの、誰と話してるんですか?」
「え? ここにマンドラゴラの精霊がいるじゃないですか」
 ガァーーン
 私はがっくりと膝をつきました。負けました。完敗です。いくら空想好きな私でもここまではできません。
「バカには見えないんです」
 しかも追い打ちです。これが2キャラの実力なのか…。
 すっかり敗北感に打ちのめされた私は、まだブツブツ言ってる女の子を残してとぼとぼと園内の後かたづけを始めるのでした…。

 動物園の外に出ると、空は真っ赤な夕焼けでした。
 門の前ではデートを終えたらしいカップルが別れ際の会話をしています。私にもあんな頃があったんですよね…。
「それじゃ先生、また明日」
「うふふっ、今日は楽しかったわ」
 教師が白昼堂々教え子とデートしていいんですか…?
 しかもよく見ると準ヒロインの麻生華澄さんです。成績優秀、スポーツ万能、容姿、性格とも完璧というどこかで聞いたような人です。
 ‥‥‥‥‥‥。
「詩織ちゃん、髪の毛染めたの?」
「ええ最近の流行は緑かなって…ってしまったぁーー!!」
 やっぱり…。
「ふっ、ばれてしまっては仕方ないわね。いかにも麻生華澄とは仮の姿、その実態は名を変え髪型を変え催眠術を会得し、周囲に『憧れのお姉さん』という偽の記憶を植え付けた藤崎詩織その人だったのよ!」
「何でそこまで…」
「だって公くんたら3年間経っても結局ロクな男にならなかったんだもの。この際同年代には望みを捨てて、年下に走ってみようとか思うのは自然な成り行きじゃないかしら?」
 アンタだけです、という言葉を私は必死で飲み込みました。
「それにしてもメグ、私たちがきらめき高校を卒業してから随分経つわね…」
「うん…なんだか遠い昔のことのようだね…(ずいぶん強引な話題転換だけど…)」
 思えばPCE版で入学してからはや5年。本当に色々なことがありました。クリスマスパーティ、バレンタイン、修学旅行、そして伝説の樹の下での告白…。何もかもが走馬燈のように現れては消えていきます。
 どこからか『二人の時』が流れる中で、私と詩織ちゃんは沈みゆく夕日を眺めていました。
「私、怖かったのかもしれない…。2が出たらみんな私のことなんて忘れちゃうんじゃないかって…」
「メグ…」
「で、でも詩織ちゃんは大丈夫だよ。どうせ真っ先に忘れ去られるのは私みたいな影の薄いキャラだから…」
「ふっ、いいのよメグ。あちこちで『今回のヒロインは藤崎より好感が持てそう』とか書かれてるのは私だって知ってるわ…」
「し、詩織ちゃん…」
 どうしてでしょう、涙がこぼれてしまいます。これが時代の流れというものなのでしょうか。
 でも…、でも…
 たとえ世間が2に変わり、私たちの記憶が薄れていったとしても…。あのきらめき高校の青春も、ときメモ1で盛り上がった日々も、その価値が失われるわけでは決してないですよね…。
「メグっ」
「詩織ちゃんっ」
「じゃ、私は麻生華澄としてもう一花咲かせるから」
「裏切り者ーーー!」
「ほーほほほ、私の時代は終わらないわよー!」
 しょせん詩織ちゃんは詩織ちゃんでした。
 悩むのがバカらしくなった私は、そのまま家路につくのでした…。


 こうして私の作戦は終わりました。
 まっ、これで動物園のどの背景にも私がいることでしょうし、あとは2の発売を待つばかりですねっ。
「ところでめぐ、ちょっと気になったんだけど」
「なあに? 見晴ちゃん」
「背景CGなんてとっくの昔に完成しちゃってるんじゃないの?」
 ‥‥‥‥‥‥‥。
「ムク、餌!」
 バウバウバウバウバウバウバウ
「なんでわたしがーーーっ!!」
 ふふ、ふふ、うふふふふ…。
 もし本当に私の出番がなかった日には…。
 このまえ北海道で捕獲したキラーヒグマ、ひびきの高校にけしかけちゃおうかな…。
 なーんてことを考える、美樹原愛・20歳の秋でした。




<END>





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