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この作品は「To Heart」(c)Leaf Windows95版の世界及びキャラクターを借りて創作されています。
琴音シナリオに関するネタバレを含みますのでご注意ください。
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【前回のあらすじ】
 マルチの活躍によって超能力の謎が解けた琴音ちゃん。しかしそれはすべてが自分のせいだと分かっただけで、根本的な解決はこれからなのだった…。(『ロボットになりたい』参照)




琴音SS: 仮面エスパー





「ねえ、あの人じゃない? 姫川さんて」
「ああ念力で校長を殺害しようとしたっていう…」
「しっ、目を合わせちゃいけないわっ!」
 ‥‥‥‥‥。
 相も変わらずひとりぼっちの学校。なけなしの勇気を振り絞って『今までの事件は念動力が原因でしたゴメンナサイ』って掲示板に張り出したんですけど、尾ひれがついて今度は破壊魔だとか恐怖の念力少女だとか噂される始末…あああ…
「どうせ私なんて疫病神なんです…。友達なんてできっこないんです…」
 廊下の隅でいじいじと床にのの字を書いていると、不意に頭上から明るい声がかかりました。
「元気出してよ、姫川さん」
「あ、あなたは?」
「はじめまして、私は隣のクラスの松原葵!」
 松原さん、と名乗るその人はショートカットで快活そうな、要するに私と正反対の少女でした。い、一体何の用なんでしょうか。(びくびく)
「話は聞いたよ。こんな事でくじけちゃダメだっ」
「え…」
 思わぬ言葉に、私はきょとんとした視線を返します。
「あ、あの、私のこと気持ち悪くないんですか?」
「何を言ってるんだっ、困ってる同級生に手を差し伸べるのは当然のことだよ! 世間の風なんかに負けずに頑張ろうよ!」
 り〜んご〜ん。その瞬間松原さんの姿が天使のように見えました。ああ、この荒んだ世の中にこんな心の清い方がいたなんて…。
「ありがとう松原さんっ。私っ…私っ…」
「バカだな泣くことはないよっ。さあ、あの夕日に向かって疾走しようっ!」
 ようやくできた友達なので、まだ昼間ですというツッコミは敢えて封印する私でした。


 その日の放課後、すっかり打ち解けた私と葵ちゃんは、人気のない神社へとやってきました。
「ここは…?」
「格闘技同好会の練習場だよ。って会員は私ともう一人だけなんだけど…」
 なんでも葵ちゃんはえくすとりーむという格闘技の選手なんだそうです。女の子なのにすごいですね…。
「へ、変だよね格闘技やってる女の子なんて。ハッキリ言ってみんなから浮いてるし、あんまり友達もいないし…。だから琴音ちゃんのことが放っておけなかったんだ」
「そ、そうだったんですか…」
「でも私は決して自分の道が間違っているとは思わない! いつか綾香さんに勝てるまで、くじけずに戦い抜いてみせるっ!」
 綾香さん、というのは葵ちゃんが目指しているエクストリーム選手だそうです。決意を込めた葵ちゃんの瞳は何よりも素敵です。
「ちゃんと自分の目標を持っているんですね…。それに比べて私なんて、超能力でさんざん周りに迷惑かけて…」
「そんなっ。別に琴音ちゃんが悪いわけじゃないよ!」
「いいえ! 確かに私は校長の話が長くて照明が落ちればいいなーと思ったり、なんか幸せそうな男子生徒がいたのでむかついて階段で転べばいいのに…と思ったりしただけで何一つ悪くないかもしれないけど、それでも私の超能力が原因であることに変わりはないんです!」
「‥‥‥‥。そ、そだね」
「ああ…超能力で人の役に立てたら私の罪も償えるのに」
 そう、マルチちゃんみたいになることができたら…。でもダメですよね、私のこんな力なんてせいぜい人の迷惑にしか…。
 けど葵ちゃんは、私の手をしっかり握って言いました。
「そこまで分かってるなら大丈夫! 私も手伝うから、みんなが理解してくれるまで頑張ろう。ね?」
「葵ちゃん…。あ、ありがとうございますっ。それじゃ早速ですけど何か葵ちゃんの役に立てることはないですか?」
「え?」
「…やっぱりダメですか? 私の超能力なんて…」
「え、えーと、それじゃちょっと蹴りの練習するから、このサンドバッグを固定してもらえる?」
「はいっ、おやすい御用ですっ」
 木にぶら下がったサンドバッグは重そうでしたが、私に質量は関係ありません。意識を集中して念力を発動させると、砂の一粒に至るまでがっちりと固定しました。
「いい? 琴音ちゃん」
「はいっ」
「それじゃいくねっ!」
 軽く助走をつけると、サンドバッグに向かって強烈な蹴りを放つ葵ちゃん。
 ご ぎ ぃ !!
 一秒後、葵ちゃんは足を押さえてのたうち回ってました。
「あの…、固定するんじゃなかったんですか?」
「あは、あははははっ。そ、そうだねっ。間違ってはいないよねっ!」
「ごめんなさい…。やっぱり私の超能力なんてロクなもんじゃないんですね…」
「わーっ、今のはなしだからっ、ねっ!」
「いいんです…」
 私が例によって地面に文字を書こうとした、その瞬間でした。

「甘いわ姫川琴音!!」

「だ、誰ですかっ!?」
 突然響いた声にきょろきょろとあたりを見回します。
「上ですかっ!」
 見上げると顔を黒い覆面で覆った謎の人物が、腕組みをしたまますっくとお堂の上に立っています。
「罪を償うには何よりも強い心が必要。ただ落ち込むばかりで事態が解決すると思っているの!」
「ううっ」
「そんな事で社会復帰しようなどとは夢のまた夢!!
 あああ…なんだか痛いところを突かれているような気がします。でも一体あなたは誰ですか?
 と、私が横を向くと、なぜか葵ちゃんの顔にタテ線が入っています。
「綾香さん…。何やってるんですか?」
「ぎっくぅ〜。べ、別に私は何となく面白そうだから立ち聞きしてた来栖川綾香なんかじゃあ断じてないわよ。あ、そろそろ姉さん迎えに行かなくちゃ」
 勝手にベラベラと正体を明かすと、その寺女の制服を着た謎の人物(じゃないってば)はしゅたたたたーっと屋根から木の枝へと走り去っていきました。
「…あれが葵ちゃんの目標とする人物ですか?」
「ちょっと自信 な い 」
「でも言ってることはもっともですね…」
「そ、そうかなあ…」
 そうです、罪を償うにはもっと強い心を持たなくては…。その時私の胸に、ある決意が浮かんだのでした。


 そして翌日の放課後、私は葵ちゃんのクラスを訪ねました。
「あの…、葵ちゃん」
「あ、琴音ちゃん」
 葵ちゃんがこちらに駆け寄ってくると同時に、葵ちゃんのクラスの人たちが気味悪そうな視線を投げかけます。やっぱり私なんて近づかない方がいいのかな…。
「あの、葵ちゃん。やっぱり…」
「行こっ、琴音ちゃん」
 私の言葉を遮るように、手を握って歩き出す葵ちゃん。ううっ、優しすぎて涙が滲んできそうです。
 私は話があるからと言って、葵ちゃんと一緒に校舎裏へ行きました。
「あの…、私考えたんですけど、やっぱり超能力を使ってみんなの役に立とうと思うんです」
「うんうん」
「それで昨日徹夜して、こんなのを作りました」
 そう言って私は鞄から、ピンクのアイマスクと身を覆うようなマントを取り出しました。
「…なにこれ」
「エスパー仮面です」
「…はい?」
「そう、学園の危機に颯爽と現れる謎のヒーロー。それこそが私のやるべき事だと思うんです!」
 この仮面とマントで正体を隠した私が、校内に次々と起こる事件をばったばったと超能力で解決します。当然わき起こる賞賛の嵐。
『ありがとうエスパー仮面!』
『ああ、エスパー仮面の正体は誰なのかしら…』
 しかしふとしたことから、それが私だとバレてしまうのです。
『そんな、姫川さんがエスパー仮面だったなんて…。今まで邪険にしてごめんなさいっ!』
『なんていい人なんだ姫川さん!(オロロ〜ン)』
「そしてみんなから尊敬されてゆくゆくは総理大臣とかに…。私のブロマイドは男子校生を中心にバカ売れ…」(フフフフフ)
「あの…。琴音ちゃん?」
「という、何かこう熱いものを感じるんです!」(ぐっ)
「いや、握り拳なんか作られても…」
 不安そうな葵ちゃんに、私はバッグから真紅の仮面&マントを取り出します。
「大丈夫ですよ葵ちゃんの分も用意してありますから。はい、今日からあなたは 格 闘 仮 面 です」
 葵ちゃんは渡された変身セットを手に凍り付いていました。
「あのぅ…もしかして気が進みませんか?」
「え? あ、あははは、どっちかっていうとやりたくな…」
「そう…そうですよね… や っ ぱ り 嫌 で す よ ね … い い ん で す 別 に ……」
「やりたいです! とってもやりたいっ!!」
「なぁんだ、最初からそう言えばいいんですよっ。(コロッ) それじゃ頑張りましょうね格闘仮面!」
「はは、はは、あははははは」
 壊れたように笑い出す葵ちゃん。何か悩みでもあるんでしょうか?
 でもこんなに快く引き受けてくれるなんて、やっぱり私たちは親友なんですね…。
『きゃぁーーーっ!』
 その時タイミングの良いことに、校内をつんざく誰かの悲鳴が!
「出動です、格闘仮面!」
「あの、琴音ちゃん、本気?…だよね」
「私のことはエスパー仮面って呼んでください! 現段階で正体がバレたらどーするんですかっ!」
「ハイ…。わかりました、エスパー仮面…」
『 装 着 ! ! 』
 マスクとマントを装着すると、私たちは一目散に声のした中庭へと駆けていきました。

「ふふふ…。どうやら年貢の納め時のようね…」
「ひぃぃ〜〜〜、落ち着けレミィっ!!」
 遠目ですが、どうやら男子生徒が弓道部の人に襲われているようです。
「あ、あれは藤田先輩っ!」
「格闘仮面の知り合いですか?」
「その呼び方やめて…」
「知り合いですかっ!?」
「う、うんっ。同好会の先輩なんだっ!」
「それじゃ2階のベランダへ行きましょう」
「なんでわざわざ…」
 大急ぎで階段を登って2階の教室からベランダへ出ます。ギャラリーが大勢いましたが、私たちの姿を見るとさっとよけてくれました。みんな親切ですね。
「そこまでです、迷惑極まりないマッドハンター!」
「ホワッツ!?」
「とうっ!」
 格闘仮面の手を掴んで飛び降りると、超能力で着地します。
「たとえマジカルプリンセスが許しても、このエスパー仮面が許しません。学園の平和を守る嵐のヒーロー、エスパー仮面ただ今参上!」
「えーと…格闘仮面です…」
「あ、葵ちゃん!? 何やってんだ?」
「ち、違うんです藤田先輩! これには深いワケがぁっ!」
「よそ見してる暇はないですよっ、格闘仮面!」
「ひ〜〜〜〜ん」
 私はマントを翻すと、弓道着を着込んだ金髪女生徒と対峙します。
「さあ、痛い目に遭わないうちにその弓矢を収めなさいっ!」
「フフフ、この宮内レミィに逆らおうとは哀れな獲物たちネ…」
「ただのいっちゃった人じゃないですか」
「シャラーップ! ユー達もこの弓と矢でスタンド使いにしてあげるヨ!」
 訳の分からないことを言いつつ、ひゅんひゅんひゅん!と文字通り矢継ぎ早に矢を射かける宮内さん。しかしすべて私の超能力と格闘仮面の蹴りで叩き落とされました。
「おおっ! さすがは葵ちゃんだぜ」
「この際私であるということは忘れてください!」
「シット!」
 矢が尽きたので補充しようとしています。今がチャンスですねっ。
「オーソドックスに念力で吹き飛ばしましょうか。それともテレポーテーションで華々しく…」
「そんなの悩んでる場合かーーー!!」
「The エーンド!!」
 ばきっ!
 時間が止まったかのような空間の中で見えたのは、私の前に飛び出してきた葵ちゃんと、その額にぶちあたって折れた一本の矢でした。
 どう!、と葵ちゃんが地面に崩れ落ちます。
「大丈夫ですか格闘仮面っ! そんな…私のことをかばって…!」
「い、今琴音ちゃんが念力で私のこと盾に…っ」
「当て身」
 ごすっ
 格闘仮面は敵の攻撃により力尽きました。彼女の尊い犠牲を無駄にするわけにはいきませんね!
 私はすっくと立ち上がると、びしりと指を突きつけます。
「覚悟しなさいピクシィミサ!!」
「宮内レミィっ!」
「え、えーと、とにかく私の親友を傷つけた罪は万死に値します! 超能力発動ですっっ!!」
 ズゴゴゴゴゴゴ
「な、なんだこの地響きはーーっ!」
「避難しろーーっ!!」
 見物していた生徒たちが逃げ惑う中、私は最大限に高めた念力…で持ち上げた手頃な石を、背後から宮内さんの頭にぶつけました。
「オーノー!」
 どこかの佐藤さんのような声を上げて倒れる宮内さん。ふっ、悪の最期ですね…。
「大丈夫ですか? えーと、藤田さん(でしたっけ)」
「あわわわわ」
「やだなあそんなお礼なんていいんですよっ。だって私はどこからともなく現れる謎のヒーローなんですから…」
 なんて私がかっこよく決めている間に、葵ちゃんと宮内さんが目を覚まします。
「だだ大丈夫ですか格闘仮面っ!」
「う〜ん、いたたたたた…」
「お、レミィ。正気に戻ったか?」
「うーん。アレ? 変ネ、確か女子更衣室の覗きを追いかけてた筈だったんだケド…」
「ぎくっ!」
『覗き?』
 思わずハモった私たちが藤田さんの方を振り返ります。
「い、いや待てっ! 別に俺は覗こうと思ったわけじゃなく単に魔が差しただけであああっ」
「センパイがそんな人だったなんてっ…」
「あ、あの…滅殺です…」
「ひぃぃぃぃ〜〜〜〜!!」
 ちゅどーーーん!!!

 こうして校内に再び平和が戻ったのでした。
 中庭に残ったクレーターと消し炭は、まあ気にしないことにしましょう…。


 全てが終わった後私たちは風のように立ち去ると、校舎裏で変身を解き、何食わぬ顔で下校の道につきました。途中ヤクドナルドがあったので立ち寄ります。
「うーん、なんだか矢を受けたあたりの記憶がちょっとないんだ。ごめんね、役に立てなくって」
「あああ葵ちゃん、今日は私のおごりですからどんどん食べてくださいねっ!」
「え? でも悪いよ…」
「いーんですいーんです、友達になった記念ですっ」
 ふふ、でもこれでエスパー仮面は学校中に知れ渡ったでしょうし…。みんなのために活躍したことを知れば、クラスの人たちも私のこと見直してくれますよね…。
「それじゃ取ってきますねっ。何がいいですか?」
「え、えっと、それじゃ普通のハンバーガー」
「はいっ」
 るんたっ、と注文した私が葵ちゃんのところへ戻ろうとすると、自動ドアが開いてクラスの人が何人か入ってきました。どうしよう、声かけてみようかな…。
「あ…あの、こんにちは」
 挨拶しただけなのに、なぜか沈黙が流れます。
 数秒後
「ひ、姫川だぁぁぁっ!」
「逃げろぉぉぉぉぉっっ!!」
 土煙を上げて走り去っていくクラスメイトたち。
 カラーン
 トレイが乾いた音を立てて手から落ち、私はその場に膝をつきました。
「こ、琴音ちゃんっ!」
「そう、そうなんですね…。世間の偏見はそう簡単にはなくならないんですね…」
「いや、偏見というより正常な反応のような気も…」
「うわあんこの場で首つって死んでやるーーっ!!」
「落ち着いてーーっ!! ほら、私っ! 友達なら私がいるからっ、ねっ!?」
「葵ちゃん…」
 目からぽろぽろと涙がこぼれ落ち、思わず葵ちゃんに抱きつきます。
「ありがとうございます葵ちゃん! 私っ…私っ…葵ちゃんに会えて良かったですっっ!!」
「あ、あはは……はぁ」
 葵ちゃんの胸の中でえぐえぐと泣きながら、私は彼女の確かな友情を感じるのでした。

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 そしてヤックの外では、電柱の上で腕組みする謎の人影があった!
「美しい友情よ葵! 琴音! だがあなたたちの闘いは始まったばかり、決して振り返ることなく己の道を進むのよ!!」
「‥‥‥‥‥‥」
「え、何をしているのですかって? い、いーじゃないちょっとやってみたかったのっ」



<END>





【後書き】
 いや、琴音ちゃんと葵ちゃんの友情を書きたいなと…。(どこがだ)
 葵ちゃんなら同級生に敬語はなかろうと普通にしてみましたが、なんか熱血少年みたいになっちゃいましたねー。元が『ハキハキした敬語』が特徴の子なので難しいです。

※よーするに琴音×葵ですか?
※いや琴音ちゃんの誘い受け…


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