・この作品は『「けいおん!「THE IDOLM@STER」の世界及びキャラクターを借りて創作されています。
アイコン劇場のテキストだけ抜き出したものです。時間のある方はアイコン劇場の方をご覧ください。



『若草の音楽家達』


梓「あのっ、今日プリントが配られたんですけど、予餞会っていうのをやるんですよね!」
 冬の日の放課後。いつものようにみんなでお菓子を食べていると、あずにゃんがそう言いながら駆け込んできました。
唯「え、なんの予選? トーナメントバトルに突入したの?」
紬「唯ちゃん、予餞会よ。卒業生を送る会」
唯「あ、それかぁー。去年も市民ホールでやったよね」
梓「もしかして、私たちも演奏できたりします?」
澪「いや、例年は外部からゲストを招いているから…今年もそうなると思うよ」
梓「あ、そうなんですかぁー…」
律「去年はなんかOGの偉い人の講演だったよな。私は寝てたけど」
和「ちょうど良かった、予餞会の話よね」
唯「和ちゃん、どうしたの?」
和「去年のが堅すぎて大不評だったから、今年はアイドルを呼ぶことになったの」
さわ子「え、何!? ジャニーズ!?」
律「うわ、食いついてきた!」
和「呼べるのは女性アイドル限定です」
さわ子「ええー!? 女子高に女の子呼んで誰が得するのよ…」
和「そーゆー業界の男性を招くことは風紀的に好ましくない、女性でないならアイドル自体不可、という教頭先生の意向でした」
さわ子「あ、教頭かぁー…うん、教頭じゃ仕方ないわね…」
律「かつてのヘビメタラーが、今では権力におもねるんですかぁー?」
梓「ロック魂のカケラもありませんね」
さわ子「うっさい! 大人になると色々あるのよぉ!」
和「というわけで、音楽やってるあんた達なら詳しいかなって思ったんだけど、誰かいい人知らない?」
澪「そう言われても、あんまりアイドル方面は詳しくないしなぁ…」
唯「あ、ねえねえ。それならこの人にしよう、この人!」
紬「765プロの、天海春香さん?」
律「記事ちっさ。まだ売り出し中なんじゃないの?」
唯「うん、あんまり有名じゃないけど、この前聞いてたラジオにゲストで出てたんだよ。けっこう面白かったよ」
唯「それに、趣味:お菓子作りってあるのがいいよね! お菓子持ってきてくれそうだよね!」
澪「お菓子目当てに呼ばれるアイドルって、切なすぎるだろう…」
律「そんな駆け出しアイドルじゃなくってさ、もっと有名人呼ぼうぜ!」
和「コラコラ、そんな予算あるわけないでしょ。たかが高校の行事なんだから」
梓「こういうのの相場っていくらくらいなんでしょうね?」
澪「そうだなあ。ムギんちで芸能人呼んだことあったりする?」
紬「私の家? お父様の誕生パーティには、五○ひろしさんとか北○三郎さんとか呼んだけど…」
澪「呼べるかそんな大御所!」
紬「ちなみに今回の予算はどれくらいなのかしら?」
和「ごにょごにょ」
紬「うーん、それだとFランクアイドルしか無理かも」
唯「え、アイドルにランクとかあるの?」
和「唯、この世のすべてにはランクというものがあるのよ…」
唯「聞きたくないよそんな現実…」
紬「でも唯ちゃんがティンと来たなら、きっといい面構えなんだと思うわ」
澪「お前は何を言ってるんだ」
和「そうね、それじゃこの人に頼んでみようかしら」
梓「え、そんな簡単に決めちゃっていいんですか?」
和「こういう時、唯のカンはよく当たるしね。どうもありがと」
唯「わわ、ほんとにアイドルが来るんだね。楽しみだな〜」
律「ま、無名アイドルだしなぁー。多くは期待しないようにしようぜ」
梓(わざわざお金払ってアイドル呼ばなくても、私たちの演奏なら確実に盛り上げられるのに…)


春香「プロデューサーさん! お仕事ですよ、お仕事!」
P「ああ、俺も小鳥さんから聞いた。小さくても雑誌に載せてもらった甲斐があったな」
P「しかし予餞会か…うーむ」
春香「もう、仕事を選べる立場じゃないじゃないですか。小さな事からコツコツと、ですよ!」
P「もちろん仕事は受ける。だが春香、これはなかなか難しい仕事だぞ」
春香「え、卒業生を送る会がですか?」
P「普通のライブと違って、アイドルに興味のある客ばかりじゃない。『学校の行事だから仕方なく参加した』という生徒も多いだろう」
P「そういう聴衆を沸かせることができるか…。アイドルとしての腕が試されるところだな」
春香「ううっ、確かにそうですね。時間は…1時間かぁ。さすがに一人じゃ厳しいかも」
春香「あ、雪歩ー。よかったら一緒に出ない?」
雪歩「え、私!?」
P「こらこら、勝手に人数を増やすんじゃない」
雪歩「そ、そうだよ、高校のイベントなんて無理だよぉ。むくつけき高校男児の前で歌うって考えただけでぶるぶる」
P「いや、今回の依頼元は女子校だけどさ」
雪歩「あ、それなら出ます」
P「男と犬がいなけりゃ何でもいいのかよ! まったく、たとえ男子校でも歌ってもらわなきゃ困るよ」
雪歩「あうぅ、すみませぇん…。本当に私ってダメダメアイドルで…」
春香「こんな雪歩や私のためにも、まず大事なのは経験ですよ!」
P「そうだなぁ、じゃあそうするか。まあ二人だと経費も増えるから、実質ノーギャラでやってもらうことになるけど」
春香「え゛」
雪歩「がんばろうね、春香ちゃん!」
春香「あ…あっはっはー」
P「先方に連絡しておこう。一度打ち合わせもした方がいいな」


憂「へぇ、同じ予算で二人も来てくれるんだ」
唯「太っ腹だよね〜。そんでそんで、土曜日に芸能事務所で打ち合わせなんだよ!」
憂「お姉ちゃんも行くの?」
唯「そりゃもう無理矢理付いてく…じゃなくて、ステージプランの助言に行こうかと!」
憂「もしかしてお姉ちゃん、その場でスカウトされちゃったりして」
唯「えへへへぇ。そうなったら困っちゃうなぁー」
憂「あ、でもお姉ちゃんは可愛いから、すぐに100万人くらいファンがついちゃうかも…」
唯「え…いやあ、それはないんじゃないかな…」
憂「そんなことになったら、お姉ちゃんが遠くに行っちゃう…!」
憂「ダメだよお姉ちゃん! アイドルデビューなんて認めません!」
唯私服涙(なんかスカウトされる前に却下された!)


 そして打ち合わせ当日
律「いやー、私もアイドルにスカウトされちゃったりしてなー」
さわ子「私もアイドルの道を選んでれば、今頃ファンが100万人くらいついてたかも! くっ、道を誤ったわ…!」
唯困惑(嫌だよ…。この人たちと妹が同レベルだなんて、姉として思いたくない…)
紬「梓ちゃんも来れば良かったのにね」
澪「あんまり興味なさそうだったし…。というか、無関係なのに付いてくる私たちが非常識な気も…」
律「なに言ってんの、音楽の話が私たち抜きでできると思ってるのかね!」
和「頼むから大騒ぎしないでね」
律「あい…」

澪「え…ここ?」
さわ子「芸能事務所って飲み屋の3階にあるものなの?」
和「まあ、小さいところはこんなもんじゃないですか。少し早いけど、上がって待ってましょうか」
唯「和ちゃんさっきからクールだね…」


P「どうもどうも、御依頼ありがとうございました。私がプロデューサーです」
律「プロデューサーですってよ奥さん!」
唯「すごいねプロっぽいね! 名前にもプロって入ってるしね!」
律「そりゃ、プロのデューサーだよ! アマデューサーより100倍は強いよ!」
P「あのう…」
澪「どうかこいつらの事は気にしないでください!」
紬「アイドルの方はどちらにいらっしゃるんですか?」
P「あ、今はレッスンに出てます。時間までには戻りますので、座ってお待ちください」
さわ子「それじゃ私たちは先に契約の話をしてましょうか」
和「そうですね。唯たちはアイドルさんが来たら話しててくれる?」
唯「らじゃー!」

雪歩「は、春香ちゃん。そんな急がなくても、まだ時間は大丈夫だよぉ」
春香「だって窓から人影が見えたよ! きっともう来てるんだって!」
雪歩「だ、だって春香ちゃんがそんなに走ったら…」

春香「すみません、お待たせしましたあ! アイドルの天海春香でー…」
春香「うわあ!」
 どんがらがっしゃーん!
 ………
 ……………

律(え? なに? ネタ?)
唯(笑えばいいのかな? 笑えばいいのかな?)

雪歩「はわわわわー! ど、どどどどーしよー!!」
雪歩「すみません! すみません! こんなダメダメな春香ちゃんは穴掘って埋めておきますぅー!」
春香「ちょっ、やめて雪歩! 死ぬ死ぬ!」
紬「なんだか楽しそう方たちで安心しました」
全員(今のどこに安心する要素が!?)


 今頃先輩たちは、芸能事務所で大騒ぎなんだろうなぁ…。
『天海春香 ファーストシングル』
梓「あ、この人だ…」
 うん…アイドルだからって先入観を持つのは良くないよね。高度な音楽性を持っているのかもしれないし!
 ちょっと視聴してみよう。
春香『もっととぉくへおよいで〜みたい〜』
春香『光満ちる白いあーいらん』
 あ…あれぇ?
 こういう…音楽性…なのかなあ?


春香「ええと…大変失礼をばいたしました」
春香「改めまして、今回はご指名ありがとうございましたっ」
律「なんか大人のお店みたいっスね」
澪「お前は喋るな」
紬「お二人は、今何年生なんですか?」
春香「あ、私は高一です! 雪歩は高二だよね」
雪歩「う、うん…。しっかりしてなくてすみません…」
紬「それなら、私たちと同じ構成ですね」
唯「私たちは二年生で、今日は来てないけど後輩が一人いるんだよ〜」
律「でも学年下なのに、『雪歩』って呼び捨てなんだ。芸能界ってそういうもんなの?」
春香「え…そう言われるとそうですね…」
春香「す…すいません雪歩先輩。敬語使った方がいいでしょうか?」
雪歩「ええ!? い、いいよ別に! 学校も違うんだしいいよ!」
澪「お前は本当にロクなことを言わないな…」
律「なんだよ、ちょっと疑問に思っただけじゃんかよぉ…」
春香「ところで皆さん軽音部ってことは、楽器がお上手なんですよね!」
唯「え? ま、まあそんなこともあるかな!」
雪歩「すごいですぅ。私なんてピアニカくらいしか吹けませんし…」
春香「私もカスタネットくらいしかできないや」
唯「うんたん!」
春香「うんたん!」
唯&春香「うんたん! うんたん!」
澪「日本語でおk」
律「でもアレでしょ、コンサートの時なんかはバンドに命令する立場なんでしょ? ギターソロカモンとか言うんでしょ?」
紬「女王様みたいで素敵ですね!」
春香「いやいやいや、私たちそんなに偉くありませんから! 生バンドなんて付きませんから!」
雪歩「歌う時はいつもカラオケ音源ですぅ…」
唯「そうなんだ…。よし、それなら私たちが演奏してあげるよ!」
澪「ちょっ、何を言い出すんだ!」
唯「え、ダメ?」
澪「当たり前だろっ。プロの人たち相手に、私たちみたいなアマチュアバンドがおこがましい…」
律「えー、いいじゃん。やってやろうぜー!」
紬「私たちでお役に立てるのでしたら喜んで」
澪「だーかーらー!」
春香「本当ですか!? すごく嬉しいです!」
雪歩「生バンドだなんてドキドキしますぅ」
澪「ええー!?」
春香「あ、でも一応プロデューサーさんに聞かないと…」
澪「そ、そうだよ! 確認した方がいいよ!」


P「なるほど。いいんじゃないか?」
 ガーーーン
澪「ちょっと自分を見つめ直す旅に出ます」
P「え!? な、何かまずいこと言ったかな?」
律「ミュージシャンは旅に出たがるものなんス。気にしないでください」
P「真面目な話、知らない人が知らない歌を歌っても盛り上がるのは難しい!」
春香「それ、私たちの歌なんか誰も知らないって言ってますよね…」
P「まだFランクなんだから仕方ないだろう。謙虚に事実を受け止めないとな」
P「その点、校内で馴染みのあるバンドが演奏してくれれば、生徒達の興味も引けるだろう」
唯「なるほど、さすがはプロのデューサーさんですね!」
さわ子「話は聞かせてもらったわ! そういうことなら、衣装もこちらで用意しましょう!」
澪「先生まで調子に乗らないでくださいっ!」
和「大丈夫なんですか? 途中で破けたりしたら大迷惑ですよ?」
さわ子「何よ、失礼ねぇ。今までだって、気に入ったアイドルに服を送ったりしてるのよ」
P(え…。いつもオーディション後に服をプレゼントしてくれる人って…)


唯「というわけで、私たちもバックバンドで演奏することになったよー!」
律「ま、時間的に考えて、覚えられるのは一曲くらいかな」
梓「………」
唯「あり、嬉しそうじゃないね」
梓「別にいいんですけど、そのアイドルさん達、自分の力じゃ盛り上げられないって言ってるんですよね」
梓「プロがそんなんでいいんですかね。大したことのないアイドルだって、自分で認めてるようなものじゃないですか」
唯「うーむ、あずにゃん厳しい」
澪「まあ、まだ大したことのないアイドルだからこそ、うちの高校に呼べるわけだしさ」
梓「そ、それはそうですけど」
律「あずにゃん、演奏したがってたじゃん」
梓「それはそうですけどっ」
唯「ねえあずにゃん、私だって最初からギターが上手かったわけじゃないよ」
唯「みんなに応援してもらって、ようやく形になったんだもん。アイドルさんだって同じだよ」
梓「唯先輩…」
律「今は上手いかのような言い方ですなぁー」
唯「ううう、そんな意地悪言わない!」
紬「そうね、これも何かの縁だもの。少しでもトップアイドルに近づけるよう、私達も応援しましょう?」
梓「は、はい…。すみません。私の心が狭かったです」
律「よしあずにゃん! ひとつネットで口コミを広めてくるんだ!」
梓「ええー、私がやるんですかあ?」
律「そうだぞー。『リッチャンハカワイイデスヨ』と百回書き込んでこい」
澪「なんでお前の宣伝になってるんだよ!」


P「よし、今日のレッスンはここまでにしよう」
春香&雪歩「ありがとうございました!」
春香「あまり時間はないけど、少しでも上手くならないとね!」
雪歩「学校中ってことは、千人弱くらい来るのかなぁ。今の私達には大舞台だね」

雪歩「春香ちゃんの学校は予餞会とかあるの? 私の学校はないけど」
春香「うちは一応あるけど、在校生の出し物だから、アイドルとかは呼ばないなー」
春香「まあ、出し物もレッスンが忙しくて、私はほとんど参加できないんだけどね」
雪歩「そっか…」
雪歩「私、思えば三年生の人達のことってあまり知らない…」
春香「うーん、部活も委員会もやってないと、なかなか上級生と接点ってないよね」
雪歩「もうじき卒業しちゃうのに、こういうのって何だか寂しいね」
春香「ま、まあそれは仕方ないでしょ? アイドルやってるんだから」
春香「そ、それにほら、代わりと言ったら何だけど、桜高の軽音部の人達と仲良くなれたじゃない!」
雪歩「そ…そうだよね。うん、そうだよね」

 そうして日々は瞬く間に過ぎ…

P「音無さんに頼んで、あちらの学校について調べてもらったぞ」
春香「これを元ネタに、トークを考えるわけですね!」
雪歩「ううっ、トークなんてできるかなぁ。春香ちゃんの足を引っ張らないようにしなきゃ…」

梓「もうっ、真面目に練習しましょうよ!」
澪「そうだぞ。今回は相手方にも迷惑がかかるんだからな」
唯「うう…。分かったよ、このケーキ食べたらやるよ〜」

 あっという間に、予餞会の当日が来たのでした!

P「それじゃ、俺は校長先生に挨拶してくるから」
春香「はーい」
和「リハーサルもなしでごめんなさいね。長時間ホールを借りる予算がなくて…」
雪歩「だ、だだ大丈夫ですっ、市民ホールに穴掘ったりしませんからっ!」
和「うん、そうしてくれると助かるわ」
紬「しゃらんらしゃらんら〜」
春香「あ、機材運びですよね! 手伝います!」
紬「あら、そうですか? それならお願いしますね」
雪歩「は、はいっ」


春香「えーっと、これを運べばいいのかな?」
梓「あ…ど、どうも」
春香「あ、同じ高一の人だよね? 今日は頑張って歌うからね!」
梓「よ、よろしく」
春香「まあ、まだあんまり上手くなくて申し訳ないけど…」
梓「え!? い、いえいえいえ、まあその」
梓「あの…参考までに聞きたいんだけど、普段どれくらい練習してるの?」
春香「私? だいたい日曜に事務所に行って、半日レッスンしてるよ。営業がない日は一日」
梓「え、日曜に!? どこにも遊びに行かないで!?」
春香「あはは、今はとにかく練習しないと…」
春香「後は空いてる時間に自主レッスンとか、通勤に片道2時間かかるから、電車の中で歌詞覚えたりとかね」
 がしっ
梓「ごめんなさい、あなたのこと誤解してた! 真面目に練習してるなんて、素晴らしい人だったんだね!」
春香「え、それだけで認めてくれるの!? どんだけハードル低いの!?」
梓「それが当たり前じゃない先輩や顧問がいるんですっ。頑張ってね、応援するから!」
春香「あ、ありがとー」


雪歩「うう、やっぱり緊張する…。私なんて、学芸会でも脇役ばかりだったのに…」
唯「大丈夫? なんか元気ないよー」
雪歩「ははははいっ、大丈夫ですっ」
雪歩「…あのぅ、平沢さんは、舞台で演奏するとき緊張しますか?」
唯「え、私? うーん、あんまり緊張はしないかな。楽しんだもの勝ちだしねー」
雪歩「す、凄いですぅ。私なんかより、ずっとアイドルの才能があると思います」
唯「そ、そうなの!? こここれはやっぱり憂を何とか説得してデビューするしか」
雪歩「それに引きかえ私なんて、やっぱり夢見すぎだったのかも…」
唯「え!? そんなことないよ、諦めちゃダメだよ!」
唯「あ、あのね、澪ちゃんってああ見えてもすごい恥ずかしがりなんだよ。それでもボーカルまでやったりしてるんだから大丈夫!」
雪歩「秋山さんがですか? ちょっと意外です…」
唯「だよね、でも文化祭ではパンツまで見せて場を盛り上げたからね! 何事もやればできるんだよね!」
雪歩「ええっ!? すごいプロ根性ですね! それだけの覚悟が必要なんですね!」
唯罪悪(ごめん澪ちゃん…)


律「はぁ…」
澪「なんだ? ため息なんかついて」
律「あ、いやぁー…」
律「この前見てたテレビにさ、あの子たち出てたんだよね。ちょっとだけだったけどさ」
澪「そりゃ、アイドルなんだから、オーディションに受かれば出るだろ」
律「全国版の雑誌にも載ってるしさ…。私たちと同学年なのに…」
澪「って何、まさか自分たちと比べてるの!? もうちょっと身の程を知ろうよ!」
律「だ、だって私たちのバンドって好評だったじゃん! ライブはいつも盛り上がったし!」
律「でもしょせんは、校内限定の人気だったと今気付いたというか…」
澪「そりゃ校内でしか活動してないんだから当然だろ…。今さら何を言ってるんだ」
律「はいはい悪かったですね。どうせ井の中のお猿でしたよ! 蛙の大将でしたよ!」
澪「ツッコまないからな」
律「ううう〜!」
澪「…まったく、律はほんとうにばかだな」
律「どうせバカですよーだ」
澪「別にテレビに出なくたって、雑誌に載らなくたって、そんなの関係ないだろ」
澪「うちのバンドは世界に一つだけで、その部長をできるのはお前だけだって、みんな思ってるんだからな」
律「え…」
律「みおしゃん…」
澪「ほら、分かったらさっさと準備する!」
律「うんっ、あたい、もう泣かないよっ」
澪「はいはい」


春香「雪歩、心の準備はできた?」
雪歩「ううっ、正直、まだ自信はないけど…」
雪歩「…でも、春香ちゃんが一緒だもの。きっと大丈夫だよね」
雪歩「私はいつも、春香ちゃんの前向きな姿に励まされてきたんだから」
春香「や、やだなあ急に、照れちゃうじゃない。でも、ありがとっ」
 ほあああああああ
春香「あ、あの、何か?」
紬「いえっ、いいものを見せていただきました!」
紬「あの、765プロって女の子ばかりなんですよね」
春香「へ? ええ、そうですね」
紬「つまり、よりどりみどりという事ですね!」
春香「まあ、選択肢は広いかもしれないですね(クライアントさんにとって)」
紬「でも…やっぱり茨の道だったりしますか?」
春香「そうですねー。厳しい道ですね」
紬「世間の目も厳しかったりするんでしょうか!?」
春香「うーん、そんなこともありますね(進路指導の先生とか)」
春香「でも私負けません! 必ず想いを叶えてみせます!」
紬「素晴らしいです! 心の底から応援してますね!」
春香「えへへ、ありがとうございますっ!」
雪歩俯き(なんだか話が噛み合ってないような…)


教頭『それでは桜ヶ丘高校、平成21年度予餞会を開催いたします』
春香「いよいよだね!」
雪歩「待って待って春香ちゃん、校長先生の挨拶が終わってからっ」
校長『え〜、三年生の諸君、少し早いが卒業おめでとう。受験の労をねぎらう意味でも、この予餞会では心穏やかに楽しんでいただきたい』
 ………
校長『そして本日はアイドルのお嬢様方をゲストにお呼びしたわけですが、彼女らは君らと同年代でありながら既に社会に出て働いていらっしゃる。その姿勢を目の当たりにすることで、諸君にもいずれ社会人となった時の心構えというものを…』
春香「長いよ!!」
和「ごめんね、うちの校長いつもああだから…」
雪歩「い、胃が痛くなってきた…」


P(校長の長い話が終わり、いよいよライブが開始された!)
会場(ぱちぱちぱちぱち)
春香「皆さん初めましてーっ! 765プロでアイドルやってます、天海春香といいまーす!」
雪歩「萩原雪歩ですぅ。本日はお招きいただき、本当にありがとうございますぅ」
春香「私、女子高って初めてなんですよ! なんだか華やかでいいですね!」
雪歩「私は一応女子高だけど…。やっぱり共学だとロマンスとかあるのかな?」
春香「いやー、ないない。全然ないよー」
会場(しーーーん)
春香「そ、それじゃ早速ですけど、一曲歌わせていただきますね!」
雪歩「萩原雪歩で、『Kosmos,Cosmos』です」

雪歩「ええっ、私が最初なんですか!? しかもKosmosって、最初はノリのいい曲がいいんじゃ…」
P「そもそも、席を立ってノってくれるような客じゃないからな。まずは歌が上手いんだと思わせた方がいいだろう」
P「二人の中で『一般人に一番上手く聞こえる』のは、雪歩のKosmosだと思う」
雪歩「そ、そうでしょうか…。自信はないけど、やってみますぅ」
春香「雪歩、ガンバ!」
雪歩『Cosmos,Kosmos もう戻れない…』
憂(上手だなぁ。やっぱりプロの人なんだね)

律「みんな、真面目に聞いてんなぁ」
梓「何だかんだで、礼儀正しい学校ですよね」

雪歩「あ、ありがとうございましたっ!」
会場(ぱちぱちぱちぱちぱちぱち)
春香「続きまして、天海春香いきます!」


春香「二番手は私として、女子高で卒業生を送るなら歌は決まってますよね!」
P「ああ。雪歩で引き込んだ客を、春香が盛り上げるんだ!」

春香「乙女よ大志を抱け!」
春香『立ち上がれ女諸君!』
憂(元気の出る歌だよね)


唯「うう…みんなもう少しノってくれてもいいんじゃないかなぁ」
紬「わ、私たちの時はもっと歓声とかあったわよね?」
澪「そりゃ、文化祭で来たのは聞きたい人だけだもの…。全員強制参加の今日とは違うだろ」

春香「ありがとうございましたー!」
会場(ぱちぱちぱちぱちぱちぱち)

P(その後も何曲か続いたが、状況はあまり変わらなかった…)
P「う…う〜ん。決して冷めているわけではないが、熱くもないという微妙な状況だ…」
さわ子「ま、仕方ないでしょ。音楽に特別興味のない生徒なんてそんなもんですよ」
さわ子「私が高校生の頃なんて、一流オーケストラの演奏だろうと構わず寝てましたからね!」
P(おい、音楽教師!)

雪歩(は、春香ちゃぁん…)
春香(弱気になっちゃダメだよ雪歩! スマイルスマイル!)
春香(ほら、次は軽音部の人たちも一緒なんだから!)
雪歩(う、うん…)

律「よっしゃ、出番だな。みんな行くぞ!」
唯「おーっ!」

和「それではここで特別ゲスト、桜高軽音部の皆さんです」


律「いやー、どーもどーも」
紬「雪歩さんも春香さんも、お疲れ様です。とっても素敵な歌ばかりでしたね」
春香「あ、あははは。ありがとうございます…」
憂「お姉ちゃーーん!!」
生徒会長「澪さーーーん!!」


春香(私たちの時より盛り上がってる…)
雪歩(正直、プロとして情けない…。でも…)
春香&雪歩(それが今の実力なんだから仕方ない!私たちがやるべきことは、どんな形でもライブを成功させること!)

春香「それでは、演奏・軽音部の皆さん、歌は春香と雪歩で最後の曲です! 『i』!!」
律「ワン、ツー、ワンツースリーフォー!!」

澪(ぜ、絶対に失敗はできないぞ…ってあああ緊張するぅ!)
梓(近くで見るとダンスって大変そうだなぁ…。いっぱい練習したんだろうなぁ…)
律(すごい、本当に私たちの演奏に合わせて歌ってくれてる! 私らプロっぽい!)
紬(素敵なハーモニーね。一曲だけなのがもったいないくらい)
唯(楽しいなー。後ろから見るアイドルさんって何だか新鮮だね)
雪歩(後ろに誰かがいるって、なんだか不思議な気がする…。少し心強いかな…)
春香(あの短い練習期間で、しっかり形にしてくれている…。この演奏に負けないよう、心を込めて歌うぞー!)

雪歩「ねえ春香ちゃん。『i』の歌詞の最後のとこ、ちょっと変えてみるのはどうかな?」
春香「え、どんな風に?」
雪歩「軽音部の人たちに感謝の意を込めて、こんな感じに…」
春香「あ、いいね! 自分を伝える方法って、色々あるんだよね!」


雪歩(いくよ、春香ちゃん)
春香(せーの)
春香&雪歩『歌や楽器で自分を伝えよう!』
唯(あれっ、少し歌詞変えた?)
律(へへっ…ニクいことをしてくれやがるぜ)

春香&雪歩『言葉だけでは言えない熱い気持ちを、少しだけでも届けられたならば――』
春香&雪歩『幸せ!!』

春香「今日はありがとうございました!!」
雪歩「卒業生の皆さん、今後のご活躍をお祈りしています!」

春香「最後に教頭先生が少し話した後、生徒の皆さんは帰っていきました」

春香「はぁー、無事終わったぁー…」
澪「お疲れ様! 最後はそこそこ盛り上がったよね」
雪歩「うう、軽音部の皆さんのお陰ですぅ。私たちだけだったらどうなっていたか…」
紬「そんな事はないですよ。素晴らしいパフォーマンスでした」
唯「私なんて結構ミスしちゃったしねー。てへぺろ」
律「右に同じ。てへぺろ」
春香「あはは…。えっと、ですね」
春香「今日は、本当にありがとうございました!」
雪歩「私たちはまだまだ未熟なアイドルですけど…」
春香「今日の経験を糧に、いつか絶対トップアイドルになりますから!」
紬「はいっ。私たちも微力ながら応援を続けますね」
澪「来年の予餞会には、もう呼べないくらいビッグネームになってるかもね」
雪歩「と、ととんでもないですぅ。ぜひ呼んでください!」
春香「桜高の皆さんだったら、同じ料金でお引き受けしますよー」
律「お、言ったな? 絶対に忘れてやらないぞ?」


梓「あ…あのっ!」
雪歩「はい?」
梓「お、怒らないで聞いてください。もし、もしもですよ?」
梓「私たちがプロになりたいって言ったら……通用しそうでしょうか?」
春香「え…」
唯「おおー! あずにゃん、プロ目指すの?」
紬「素敵ね。私も応援するわ」
梓「いえ、そうじゃなくてですね……私たち、なんですけど…」
律「って、このメンバー全員か!?」
澪「無理無理無理! 何言ってんの!」
梓「いや、だからもしもの話ですっ」
春香「………」
春香「なれないって事はないと思うよ。私なんて何の取り柄もない普通の子だけど、何とかアイドルやってるんだし」
雪歩「私に至っては普通以下の、ダメダメ人間なのにアイドルですから…」
春香「でも…」
春香「やるなら本気でやらないと。中途半端な気持ちじゃ、絶対にやってけないと思う」
梓「そ…そうだよね…。こんなこと聞いてる時点でダメだよね…ごめん…」
春香「ダメなんてことはないよ! 気が向いたら挑戦してね、歓迎するから!」
雪歩(………)
P「おーい、そろそろ帰るぞー」
さわ子「私たちも撤収するわよー」
唯「あ、はーい」
雪歩「えっと、それじゃ…」
春香「皆さん、お元気で!」
唯(アイドルさんたちは、そう言って帰っていきました)
唯(またいつか、会える日が来るといいな…)

律「おっし、片付け完了っと」
紬「それじゃ帰る前にお茶でも…」
澪「…梓」
澪「あんなことを聞いたのはどうして?」
梓「あ…。そ、それは…」
律「そりゃ私らだって、なれるもんならプロになりたいけどさー」
唯「進路調査にミュージシャンって書いたら、先生に怒られるレベルだもんね…」
紬「やっぱり、部活動じゃ物足りない?」
梓「ち、違います! そういうことじゃないんです!」
梓「ただ…一年後には、私が先輩たちを送る立場なんだなって」
梓「先輩たちがいなくなったら、軽音部も廃部になっちゃって、一緒に演奏する機会もなくなって…」
梓「だったら、だったらプロになれれば少しでも長く、この5人でいられるんじゃないかって…」
梓「そんな勝手なことを考えてただけです! ごめんなさい!」
唯「あずにゃん…」
紬「…そうね。気持ちはよく分かるわ」
紬「私だってこの軽音部が大好き。いつか終わるなんて、考えただけでも泣きそうになってしまう…」
紬「でも、だからこそ今この時間を大事にしようって、そう思うんじゃないかしら」
梓「紬先輩…」
澪「それに、軽音部が廃部になるなんて誰が決めたんだ?」
澪「まずは新学期に、新入生を3人集めるのが先だろ」
澪「梓は唯一の先輩になるんだから、しっかりしないとね」
梓「澪先輩…」
律「ま、私なんかは卒業してからも入り浸っちゃうけどなー」
律「やっぱり元部長としては、後輩諸君の活動は気になるわけだし?」
律「ウザいって言われても、しつこく顔を出しちゃうぜー」
梓「律先輩…」
唯「私はこの先どうなるかなんて分からないけど…。でも、ギターだけはやめないよ」
唯「私が夢中になれたこと、みんなと過ごした思い出、全部ギー太に詰まってるんだもん」
唯「ちゃんと練習して、あずにゃんに色々教えてもらったこと、絶対に忘れないようにするよ」
梓「唯先輩…」
梓「ううっ……ひっく……」
唯「よしよし、泣かないの」
律「うし、それじゃお茶にするか!」
澪「私たちは、彼女たちみたいにはなれないけど…」
紬「私たちのペースで、ゆっくりとでも音楽を続けていきましょう?」
唯「そうだね――いつかまた、演奏を聞いてもらえるといいね!」

P「それじゃ、今日はお疲れ様!」
雪歩「はい、お疲れ様でした」
春香「きっとファンも増えましたよね?」
P「ああ、そうだな。次は自分たちの力だけで増やせるようにしような」
春香「ううう、頑張りま〜す」

雪歩「…ねえ、春香ちゃん」
春香「ん?」
雪歩「軽音部の人たち、楽しそうだったね」
春香「だよねー! 部活動もけっこう面白そうだよね」
雪歩「でも…今の私たちには無理だよね」
春香「そりゃあね。部活やってる暇があったらレッスンしなきゃね」
雪歩「このままでいいのかな…」
春香「ん?」
雪歩「い…今ならまだ、引き返せるよね?」
雪歩「部活動に打ち込んだり、行事の準備に大忙しだったり、クラスメートと遊びに行ったり…」
雪歩「そんな、一度きりしかない高校生活を、私たちは捨てようとしてるんだよ…」
春香「雪歩…」
春香「…あはは、そうだね、馬鹿みたいだね!」
春香「厳しいレッスンに営業活動。それで売れる保証があるわけでもなし、もしかしたら芽が出ずに終わるかもしれないんだもん」
春香「高校を卒業するとき、何してたんだろって思っちゃうのかもね」
雪歩「……………」
春香「でも、私はやめないよ!」
春香「トップになれるかなんて分からない!でも、やらなきゃ絶対になれないもの!」
雪歩「春香ちゃん…」
春香「それに、確かに部活動も楽しいかもしれないけど、アイドル活動だって捨てたものじゃないと思うな」
春香「雪歩も一緒だし、ね」
雪歩「…うん、ごめんね。私も最後まで頑張る」
雪歩「一度始めたことだもの。ここで逃げたら、またいつもの私に戻っちゃう」
雪歩「…うう、春香ちゃん。こんなフラフラしてる私でごめんね。見捨てないでね」
春香「あはは、大丈夫だって」
春香「私たちは、彼女たちみたいにはなれないけど――」
雪歩「うん、この先どうなるかなんて分からないけど――」
春香&雪歩『それでも、信じた道を進んでいこう。一年後、どんな形でも、胸を張って私たちの歌を聞いてもらえるように!』



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