この作品は「To Heart」(c)Leafを元にした二次創作です。
PC版琴音シナリオのネタバレを含みます。

超先生SSこんぺに参加したものです。

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暮らしに生かす超能力



「はっ、バカくさ。超能力なんて信じられねー」
 ヒロの奴め〜。人の特ダネをあっさり切って捨ててくれちゃって、あんな奴に話したのが間違いだったわよ。ああ、誰かあたしのニュースを理解してくれる人はいないのかしら。
「Hi! シホ。どうしたの、なんだか元気ないヨ?」
「ああレミィ! あんたよ、あんたを探してたのよ!」
「What?」
 さっそくヒロたちに教えた情報を、そのままレミィにも話してあげた。
「グレイト、素晴らしいデス! 日本にもエスパーがいたのネ!」
「うんうん、信じてくれるのはあんただけよ。レミィって本当にいい子よねぇ」
「当たり前ヨ、シホは正義のジャーナリストだもの。シホほど物知りで正直な人は見たことがないヨ!」
 …そこまで言われるとちょっと良心が痛むんだけど…。まあ細かいことは気にしないのが志保ちゃんのいい所よ。
「でさ、放課後に突撃取材を敢行しようとか思ったりするのよ。あんたも来る?」
「Really? 行く行く、もちろん行きマス!」
 そんなわけで放課後、あたしとレミィは一年生の教室へやってきた。確かこのクラスだったわよね〜。
「あ、そこのあんた。姫川さんってどの子?」
 尋ねた相手は、教室の隅の女の子を指さすと、脅えたように逃げていく。なによ感じ悪い。まあ理由は知ってはいるんだけど。
「やっほー。あんたが姫川さん? あたしは長岡志保っていうんだけどぉ」
「ハーイハローハロー。アタシは宮内レミィでス」
 嫌な雰囲気を蹴散らすように明るく挨拶してやったのに、その小柄な一年生はゆっくりと暗い顔を上げると、再びゆっくりと机に目を落とした。
「…わたしに関わらない方がいいですよ…」
「へっ」
「わたしに関わるときっと不幸になります」
「あはは、んなわけないじゃない。あたしにどんな不幸があるっていうのよ」
「…人気投票で下位になるとか、グッズが売れ残るとか、PS版で一人だけ音声オフにされるとか…」
 えらく具体的ね…。ってそんなことを聞きにきたんじゃないのよ。
「わたしの噂は知ってるんでしょう…?」
「ああ、あんたが疫病神だって話? 世の中にはいい加減な噂を流す奴がいるもんよねぇ」
「まったくデス。嘘は良くないヨ」
「ヒロなら突っ込んでくれるとこなんだけどまあいいわ…。そんな噂が流れるのもあんたの能力が凄いからよ。さすがは琴音ってことね。なんちゃって」
 ………。
「琴音ってこ・と・ね」
「繰り返さなくても聞こえてます」
「かわいそうに…。辛い毎日に笑顔を忘れてしまったのね」
「単につまんないから笑えなかったんです!」
 とにかくここでは埒があかないので、みんなでヤックへいくことで合意した。
「合意した覚えはないんですけど…」
「いいからいいから。それじゃレッツらゴー」
 そーゆうわけーでどんなわけでー、学校を後にして街へ繰り出したあたし達。
 その道すがら、あたしはボールをぶつけられ、車にひかれかけ、鳩にフンを落とされた。
「………」
「これで…わかったでしょう?」
 それはすべて事前に琴音ちゃんが予測していたことだったわ…。ま、まあたまにはこんな日もあるわよ。
「や、やったぁ! これで志保ちゃんニュースが正しかったことが証明されたじゃない。今日はついてるわよねー」
「強引に前向きになってますね…」
「ふふん、あんたみたいに後ろ向きまっしぐらな子とはわけが違うのよ」
「あ…今度は長岡さんの頭上に隕石が落ちてくるような気が」
「カットカットカットカットカットカットぉぉぉー!!」
 全力で予知を妨害する。ぜーはー、なんだか命がけの話になってきたわね。
 避難するようにヤックへ逃げ込み、レミィは注文、あたし達は席を確保した。
「まあハンバーガーでも食べてパーッと騒げば気分も明るくなるわよ」
「そういうものでしょうか…。ところで聞きたいことがあるんですけど」
「なになに? 何でもお姉さんに言ってみそ」
「その手に持ってる競馬新聞はなんですか…」
「ああこれ? 大丈夫、不幸しか予知できないなら負ける馬を当ててくれりゃいいし」
「そういう問題じゃありませんっ! 高校生は馬券買えないでしょっ!」
「ちぇっ…。わかったわよ、totoにしとくわよ」
「同じですっ!」
 予知を役立てる一番いい方法だと思うんだけどなぁ…。と、レミィが大量のハンバーガーをどさどさとテーブル上に積み上げる。
「好みがわからないから全部注文しちゃいまシタ。でも太ったからって訴訟起こしちゃ駄目ヨ。Ha−Ha!」
「笑えないネタはやめときなさいよ…。まあとにかく予知能力は本物だったわけ。これを活用しない手はないわよ!」
「でも…こんな能力なんて…」
「No,no.エスパーだってことだけでもWonderfullデス」
「そうよ自信持ちなさいって。あんたは全人類の中でも高いランクにいるのよ! あたしの次くらいに」
「ものすごく最下層のような気がしてきました」
「まあまあ。それにあらかじめ不幸を教えてあげれバ、みんなも助かってHappyデショ?」
 せっかくレミィが慰めてやってんのに、さらに暗い顔になる琴音ちゃん。
「駄目なんです…」
「何が?」
「避けようとしても無駄なんです。どんなことをしたって、わたしが呼び寄せた不幸は必ず起こります。どうせ運命は変えられないんだから…」
「おバカ!」
 思わずあたしは、テーブルを叩いて立ち上がっていた。
「…バカってわたしですか…?」
「そうよ! なによやる前から諦めちゃって、情けないったらありゃしないっての」
「でも……あっ」
 小さく叫んでうつむく彼女に、あたしの眉がつり上がる。
「なに、また予知が来たの? いいわよ言ってみなさいよ。そんなのに負ける長岡志保じゃないわよ!」
「シホ、かっこいいデス!」
「ふっ、人生とは自分の手で切り開くものよ!」
「な、長岡さん…どうやらわたしが間違っていたようです…。ちなみに見えた不幸は、次のテストで赤点を三つ取って補習を受けるというものです」
「しょせん人間なんて運命には逆らえないわよね」
「言ってることが違うじゃないですかぁぁっ!!」
 えー、だって今から勉強しても仕方ないし…。あたしは無意味なことはやらない主義なのよ。
「まあ予知能力なんて大して役に立たないことがわかったっつーか」
「救いのない結論をさらりと言ってくれますね…」
「レミィ、食べてないでなんか言いなさいよ。他に超能力って何かないの?」
「ウーン。代表的なのはテレポーテーションかナ」
「それよ! あんたがあたしの家までテレポートして、さらに学校までテレポートすれば二度と遅刻しなくてすむじゃない!」
「…もう少し…まともな使い道はないんですか…」
「そうネ。テレポートが使えればフリスコにもすぐ帰れるし、旅行もたくさんできてとってもGood!」
「なるほど、タダで海外旅行はおいしいわねぇ」
「無茶ですよっ。だいたいわたしが他の場所に瞬間移動したら、元々そこにあった空気はどうなるんですか?」
「え? それはほら、あんたが元いた場所に入れ替わりで移動するのよ」
「じゃあコンクリートの中に瞬間移動したら、元々自分のいた場所には人型のコンクリートが現れるんですか? もう少し常識的に考えてください」
「だーっ! 細かいことをうるさいわね。で、テレポートできるの?」
「できません」
「じゃあ今までの会話って全部無駄じゃない!!」
「長岡さんが勝手に進めたんです!!」
 コミニュケーションって難しいわねぇ。ったくも〜。
「んじゃ次」
「ウーン。クレアボイアンス、透視」
「きゃああ! なんていやらしい!」
「なんでわたしの方を見るんですかっ!」
「いやいやその気持ちもわからないではないわよ。あんたもそーいう年頃なのねぇ」
「ぜんぜん人の話を聞いてない…」
「鍛え上げられた筋肉は嫌い?」
「え、どっちかというとスリムな身体の方が…ってなに言わせるんですかぁっ!」
 あっはっはっ、耳まで真っ赤になっちゃった。えーと、他に超能力は…。
「もう…いいです。誰も本当のわたしを見てくれない…」
「え?」
 涙目になる琴音ちゃん。そんなに悪いこと言ったかしら。
「さっきから超能力の話ばかりじゃないですかっ。もっとこう、イルカが好きで絵の得意な普通の美少女に関する話題はないんですか!」
「ないわよ地味だし」
「(地味ー!)」
 超能力抜きなら下手するとあかりより地味な琴音ちゃんは、店の隅っこに行って床にのの字を書き始めた。
「フ、フフフ、そうですよね。わたしの価値なんてそんなものですよね…。ずっと友達いない〜 彼氏もいない」
「なんか歌い出してるし…」
「Oh,No! コトネが自信をなくしてマス。シホ、コトネのいいところを誉めてあげようヨ!」
「うーんそうねぇ。胸がつつましやかなのがいいんじゃない? あたしらなんて重いからもう肩がこっちゃって」
「………。大変です、長岡さんの座っている椅子が転倒しそうです」
「へっ?」
 すてーん!
 驚くひまもなく、椅子がひっくり返って床に放り出されるあたし。
「運命には逆らえませんよねぇ」(くすっ)
「こ、こんガキャぁ…。いいわよ受けてやろうじゃない。表へ出ろ!」
「怒っちゃ駄目ヨ。コトネは予知をしただけなんだから、転んだのはコトネのせいじゃないデス」
「う…。そりゃそうかもしれないけどぉ」
「コトネも、いじけてないでちゃんと話をしようヨ」
「はぁい…」
 いつの間にかテーブルの上のハンバーガーはほとんど消えていた。全部レミィが食ったんかい。
「要するに、コトネはその予知能力を何とかしたいのネ?」
「はい、普通の女の子になりたいです…」
「それならシンディの知り合いにソレ系の研究をしている人がいるから、聞いてあげマス!」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます、宮内さんは天使のようです!」
「えー? つまんないわねぇ、結局なんのネタにもなりゃしない」
「…この人にケチャップかけてもいいですか?」
「アッハハ。それならいっそ、シホに予知能力を譲っちゃえバ解決?」
「あ、それいいじゃない。いらないならあたしによこしなさい」
 そう言って琴音ちゃんの肩に手を置いたその時! 不意に稲妻が走り、あたしも予知能力が身についたよーな気がするわ。
「ああー見える見える、琴音ちゃんの未来が見えるわ〜」
「それは良かったですね…」
「こ、これは! 尊敬する長岡大先生の弟子としてニュースの伝道師になってるわ〜。なかなかいい未来ねぇ」
「白昼夢は家で見てください!」

 翌日ー。
 昼休みに琴音ちゃんの教室へ行ったんだけど、なんか休んでるって。理由を聞いても誰も知らないし、事件の香りがするわね。
「あ、レミィ。琴音ちゃんどうしてるか知らない?」
「Yes! ゆうべステイツから来た黒服の一団にいずこかへと連れ去られていったヨ」
「ちょっと待て…」
「ダイジョブダイジョブ、心配ありまセン! 根拠はないけど」(HAHAHA)
「どーしてあんたはいつもそう朗らかなのよ!」
 やだっ、今ごろは実験体1号!? どどどーしよう。
「あの…」
 って後ろにいたじゃん。
「心配かけさせんじゃないわよ、まったくぅ」
「はい? えーと、アメリカでわたしの能力について調べてもらいました」
「あ、それ報告書? 見せて見せて」
「あ…」
 琴音ちゃんの手から紙束を引ったくって、レミィと一緒に覗き込む。へえ、ちゃんと日本語に訳してあるのね。
「なになに、被験者の能力は予知ではなく、念動力である可能性が高い…」
 悲観的な性格から万事に悪い想像をするあまり、無意識に念動力が発動されその想像通りの現象を起こすものである…っておい。
「あんたかぁっ! ボールも鳩も椅子もあんたのしわざかぁっ!」
「ごめんなさいごめんなさい!」
「まあまあ。無意識だったんだからしょうがないヨ」
「ううっ、ありがとうございます。宮内さんはなんて優しいんでしょう」
 ちぇっ、何よ何よ。あたしの心が狭いみたいじゃない。
「しょうがないわね〜。じゃあその念動力を一回ずつあたしらのために役立てなさい。それで勘弁してあげる」
「え…」
 悲痛な表情を見せる琴音っち。むっ、こんな好条件に不満があるっていうの?
「そんな…。わたしに犯罪者になれって言うんですね…」
「って何を想像してるのよ」
「誰かを殺るんじゃないんですか?」
「殺るかっ! てことでレミィ、何か超能力のご用命はない?」
「ア、それならひとつ頼みたいことがありマース」
 そんなわけで、放課後あたし達はレミィの家へとやってきた。
「…豪邸ですね…」
「いいとこのお嬢様だったのね…」
「ホラ、庭に大きな木があるでショ? あの木の上までワタシ達三人を運んでほしいノ」
「あ、それならおやすいご用です。えいっ」
「って、うわーっ! 心の準備くらいさせなさいよーっ!」
 不意に足場が消えたかと思うと、あたし達の体は見えない力で木のてっぺんへ運ばれた。突然だったから空中飛行を楽しむ余裕もありゃしない。
 すごく高いってほどじゃなかったけど、まあそれなりに眺めは良かったわ。
「はー、この景色を見たかったわけね」
「ウウン、いつも見てるヨ? この木はよく登ってるモノ」
「…じゃあ超能力になんの意味があったのよ」
「だってシホやコトネは木登りなんてできないでショ? 一人で見てもつまらないデス」
「え…」
「だから一緒に見たかったノ。シホもコトネも、日本でできたワタシの大切なFriendsだかラ…」
「レミィ…。あんたって奴は…」
 グスッ。や、やあねぇこれは単なる心の汗よ?
「ほ、ほら琴音。あんたの友達いない歴に終止符が打たれたわよ、喜びなさいって」
「ぐー」
「寝てるんかい!」
「あ…。ごめんなさい、三人も持ち上げたから力を使い果たしちゃって…。ということでおやすみなさい。Zzz」
「ちょっとちょっとちょっとぉ! あんたの念動力なしであたしはどうやって降りればいいのよ!」
「Yeahhh! 樹上生活! サバイバルデース!」
「いやー!」
 結局琴音ちゃんが目を覚ました頃には、すっかり日が暮れていた。
「すみません…。わたしのせいで…」
「ダイジョブダイジョブ、シホは全然気にしてないヨ」
「勝手に代弁してんじゃないわよっ」
「ところで、長岡さんのためには何をすればいいんですか?」
「え、あたし?」
 そうねえ。
 うーん…。
「…やっぱいいわ」
「ええっ!? ど、どうしたんですか。一番強欲そうな長岡さんが」
「悪かったわね…。だいたい物を動かせるっていったって、人の心は動かせないじゃない」
「え…。それは、そうですけど」
「だったら、いいわよ」
 そう言って二人に背を向ける。う…。ちょっとあたしらしくなかったわね。
「い、いや別に深い意味があるわけじゃないのよ? …って何してんの」
 振り返ると、なにやら考え込んでた琴音ちゃんが、不意に星空へ両手を向けて念じ始めた。
「宇宙塵を念動力で呼び寄せました。これから流れ星になりますから、その人の心が動くようにお願いしてください」
「ええ!? い、いやそんな急に」
「シホ! 流れたワヨ!」
「ヒ…ヒロが少しくらいはあたしのこと意識しますように!」
 ……………。
 はっ!
 夜空を横切った光は一瞬で消え、あたしの顔には血が上った。
「Wao! Love? Loveナノネ!」
「長岡さんにも人並みの心というものがあったんですね…」
「いや、あの、だから、今のはウィットに富んだ志保ちゃんジョークというか…」
「これはみんなに教えてあげなくちゃいけないネ!」
「ではタイトルは琴音ちゃんニュースということで」
「やめてぇぇぇぇぇええ」
 腕をぶんぶん回して二人を止めるあたし。
「ドーシテ、別に全然恥ずかしくないヨ? 愛は地球を救うヨ」
「あんたの感覚で語るなっ! それに…いいのよ、ヒロにはちゃんとした相手がいるんだから…」
「シホ…」
「長岡さん…?」
 目を逸らすようにして星を見上げる。
 そうね、予知能力が本当だったなら、あたしには不幸な未来が見えるのかもしれないけど…。
 …でもあたしにとっては、いい未来なのよ。
「ねえ、シホ」
「いいんだって。もう何もゆーな」
「じゃなくて、コトネがまた寝てマス」
「ぐー」
「……」
 結局あたしとレミィが交代で、琴音ちゃんをおぶって帰っていった。ったく、世話のかかる後輩ねぇ。

 その半月後。
「くぉらぁ琴音!」
 勢いよく教室の扉を開けると、帰ろうとしていた琴音ちゃんが顔を上げた。
「あ、長岡さん。こんにちは」
「ホントに赤点三つで補習になったじゃない! 予知が実現したってことは、あんたが念動力でやったんでしょ!」
「単なる実力通りの結果ですよっ!」
「はぁ…。こんなことなら試験問題を盗み出すとか、テストの日に校舎を崩壊させるとかしてもらうんだったわ…」
「本っっ当にロクなこと考えませんね…」
「こうなったら腹いせにゲーセンへ行くわよ。あんたもついて来なさい」
「え、ちょっとっ!」
 ヘッドロックして玄関まで引っ張っていくと、ちょうどレミィが顔を出す。
「ハロー! 二人ともドコ行くノ?」
「あ、レミィもゲーセン来なさいよ。この子が連れてけってうるさくって」
「言ってませんっ!」
 かくしてあたし達はゲーセンへ突撃。超能力でパックを操る琴音ちゃんと、エアホッケーにて死闘を繰り広げたのでしたとさ。ちゃんちゃん。




<END>



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