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この作品はKONAMIの「ときめきメモリアル」「ときめきメモリアル2」「ときめきメモリアル3」「ときめきメモリアルGirl's Side」
「ときめきメモリアル ドラマシリーズVol.2 彩のラブソング」を元にした二次創作です。
各作品に関するネタバレを含みます。








”巨大ロボットの実演”という放送を聞き、屋上へと向かう珪たち。

 屋上へ続く階段には、既に生徒があふれていた。
 しかし見れば他校の制服ばかりで、この学校の生徒は見あたらない。危険を察知して近づかないかのように。
 どうにかして上を覗き込むと、何やら揉めているようだ。実行委員の腕章をはめた生徒が、白衣の少女と押し問答しているのが見える。
「事前に届け出のない出し物は禁止ですっ!」
「やかましいのだ! メイたちのやることはすべて許されるのだ」
「紐緒さん、許可取ったって言ったじゃないですか…」
「フフフ、敵を騙すにはまず味方からよ」
 物騒な会話に顔を見合わせる珪たちだが、そうこうしている間に上では決裂したようだ。
「ええいしつこいわね! メイ、少し脅かしてやりなさい!」
「はいなのだ! エネルギー充填120%、スパーーク!」
「わああああ!?」
 轟音、そして爆音と地響き。吹きつける熱風とともに、『しまったミサイルと間違えたのだ』という声が辛うじて聞こえる。
 当然ながら生徒たちは震え上がり、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 残ったのははばたき学園の三人のみ……正確には珪はぼーっとしていて逃げ遅れ、まどかは逃げようとしたところを和馬に捕獲されたのだが。
「おい、見たかよ今の! マジで本物だぜ!」
「喜んどる場合かアホー! あんなんに付き合うてたら死ぬわ!」
「あれ…葉月君じゃないですか」
「む、午前中のナンパ男なのだ」
 声に上を向くと、人がいなくなったお陰でようやく相手の顔が見えた。電脳部で会った蒼樹千晴と、科学部で会った伊集院メイ、そして右目を髪で隠した白衣の女生徒だ。
 女の子がいるとあって、まどかも覚悟を決めて階段を一段飛ばしで上がる。
「いよっ、お嬢ちゃんまた会うたな。きっとオレらは赤い糸で結ばれとるんやで」
「なんなのメイ、この無知蒙昧を絵に描いたような男は」
「はい、ナンパ男ですのだ。こらナンパ男、このお方は天才紐緒結奈閣下なのだぞ。頭が高いのだ」
「あのなあ、オレには姫条まどかっちゅー名前が…」
「うおおお! すげぇぇぇぇぇ!!」
 和馬の叫び声にまどかと、千晴と話していた珪が振り返る。そこでようやく給水塔の隣のロボットに気づいた。
 身長5メートルはあるだろうか。青を基調とした金属のボディと、長い手足にいくつか物騒な兵器らしきものがついている。
 白衣の女生徒――紐緒結奈は、小馬鹿にした態度ながらも少し嬉しそうに言った。
「フン、この程度で驚いてもらっては困るわね。これは世界征服ロボのプロトタイプ。本物はこの10倍になる予定よ」
「じ、10倍!? なんだか想像もつかねぇぜ…」
「蒼樹…お前らこんなもの作ってていいのか?」
「ひ、紐緒さんも伊集院さんも根はいい人なんですよ。ほんとに」
「これで全世界は私のものよ。ああ、燃えてきたわねメイ!」
「はいなのだ閣下!」
「……」
 千晴が屋上の隅で頭を抱えている間に、結奈は白衣を翻してリモコンを取り出す。
「観客が少ないのが気に障るけど、まあライト兄弟の初飛行時も観客は少なかったわ。それでは動作実演を…」
「ま、待ってくれよ。俺さ、一度でいいから巨大ロボに乗ってみたかったんだよ。俺に操縦させてくれねえか?」
「おい和馬ー!」
 まどかの制止を無視してなおも頼み込む和馬。結奈はその姿をじろじろと見ていたが…にやりとその口が歪む。
「フフフ。なかなかいい肉体を持っているようだから、特別に許可してあげるわ。ただし後で実験に付き合うのよ」
「お、おう。任せとけ!」
「安請け合いしてこのアホは…」
 結奈がリモコンを操作すると、首の下のコクピットが開いて梯子が降りてきた。
 大喜びの和馬が掴まると、梯子はするすると上昇して彼を運び、収納する。
 無線が繋がっているのか、結奈はリモコン裏のマイクに向けて呼びかけた。
「あなた、名前は?」
『はばたき学園の鈴鹿和馬たぁ俺のことだぜ!』
「鈴鹿君。くれぐれも言っておくけど、右手の赤いボタンは」
『ん、これか?』(ポチッ)
「戦闘開始ボタンだから押さないように…って言ってるそばから押してるんじゃないわよこの愚民!」
『うおおお!?』
 いきなり動き出すロボットの体! 目の前をぶんと通り過ぎる鋼鉄の足に、まどかたちは飛び上がって一目散に避難した。結奈も舌打ちしてそれに続く。
「まずいことになったわね…」
「あー、そんな心配せんでも。あのアホにロボットの操縦なんかでけへんって」
「アホはあなたよ。この私がパイロットの腕に頼るようなシステムを作ると思うの? メイ、説明してやりなさい」
「はいなのだ。このプロトタイプ世界征服ロボにはバーサークシステムが組み込まれているのだ。脳に直接刺激を与えることで、パイロットの潜在能力を限界以上に引き出すのだぞ。ちょっと廃人になるけど」
「むっちゃヤバいやん!」
『ぎゃああああ!!』
 リモコン越しに、脳を刺激されているらしき和馬の悲鳴が聞こえる。それが途切れて数瞬の後。
『皮のボールに願いをこめて、回せ正義のスルーパス! 勇者バスケマン鈴鹿和馬、ご期待通りにただ今到着!!』
「なかなかいい感じに壊れてるわね」
「感心してる場合じゃないです! Oh,my God!」
 ロボットは一歩、また一歩とフェンスに向けて歩くと、その金網に手をかけ、紙っぺらか何かのように引きちぎった。
 結奈たちが慌てて避けたその場所へ、投げ捨てられた金網が音を立てて落下する。その向こうではロボットが膝を曲げ、ジャンプの態勢を取っている。
「まさか――飛び降りるつもり!?」
 下では多くの生徒たちが文化祭と楽しんでいるのだろう。そこへ戦闘状態のロボットが舞い降りたとき、どんな事態が引き起こされるのか。
 このまま文化祭は破壊されてしまうのか――。

 しかし遥か下の地面から、思わぬ助けが現れた!

「あれー、万里ちゃん。あれ何かなぁ」
 もえぎの高校2年、河合理佳は、りんご飴と格闘している友人にのんびりと問いかけた。
「なんですの理佳? くっ、ナイフとフォークがないと食べにくいですわ」
「何だかロボット兵器っぽいねー。こっちに飛び降りてくるみたいー」
「あらそう…って、なんですってぇぇ!?」
 御田万里が見上げると、確かに何か人型の大きなものが金網を破って姿を見せている。
「ちちちょっと理佳、何とかなさい!」
「えー? 面白そうなのにぃ」
「そういう問題じゃないでしょっ!」
「うーん、万里ちゃんの頼みなら仕方ないっかぁ。おいで、ジャイアントメカふりくたー!」
 叫ぶと同時に、理佳は指をぱちんと鳴らす。ジェット音とともに、遥か天空より飛来するのは巨大な犬型ロボット!
 風を切って舞い降りるや、前足で理佳と万里をすくい上げ――
「あははは、いいよぉジャイアントメカふりくたー!」
「きゃあああ! お、おおお降ろしなさーーい!」
 驚愕する生徒たちを後目にそのまま上昇し、まさに飛び降りんとする科学部ロボに、華々しく頭突きを食らわせた。
「な!?」
 弾き飛ばされひっくり返るその機体に、メイは目を丸くし、結奈の目が鋭くなる。
 そして唖然とするばかりの男子たちは、それでも何とかして我に返った。
「な、なんやあれ…。お、おい和馬! 無事か!」
『光になれぇぇぇぇ!!』
「あかんわ…。無事やけどあかん…」
「くっ、私以外にこんなロボットを作れる者がいたなんて…。世の中は広いものね」
「で、でもパワーは互角っぽいですのだ。バーサークシステムがある分こちらが有利なのだ!」
「競ってどうするんですかっ! そこの方、緊急事態です。そちらのロボットを貸してください!」
「いいよー」
 千晴の言葉に、ひょい、と前足から降りる理佳と万里。
「でも、あっちのロボットってパイロットがいるんでしょ? こっちも誰か乗せないと不利かなぁ」
「あらそう。ならそのへんのを実験台に…」
 結奈、そして周囲の視線がまどかに集中する…が、和馬と同じ目に遭うのは御免な彼は、手近の珪を掴んでバリヤーにした。
「…任務、了解」
「結局声優ネタかいな…。ええい、こうなったらとっとと片づけたれや! エレガントにな!」
「命なんて安いものだ…。特に俺のはな」
 既に科学部ロボは起き上がって、攻撃態勢を整えつつある。急いで駆け寄る珪に、犬型ロボットは舌を伸ばして飲み込むように収納した。目が光り、二体のロボットが対峙する。
「ええとねー。ジャイアントメカふりくたーには、ゼロシステムという脳に直接情報を送るシステムが…」
「これもかい!!」
『お前を……殺す!』
『正義の力ぁぁぁぁ!!』
 そして繰り広げられる激闘の渦。
 人型のキックが犬型の胴を蹴り、犬型の牙が人型の腕を噛み砕く、そんな屋上での光景を、紐緒結奈は白衣をなびかせ別世界のことのように見ていた。
「どうやら、世界征服の道はなかなか険しいようね…」
「で、でもメイがいますのだ。きっとメイが閣下の役に…」
「…いいえ。あなたはいずれ私の下から去ってもらうわ」
「そんなっ!?」
「いつか私は伊集院家を敵とするかもしれない。その時にあなたは私と共に戦えるの?」
「そ、それは…。お兄様は……でも……」
「フ…覇王たるもの全てを切り捨てる覚悟が必要。あなたにそれは出来ないわよ…」
「ううっ……ぐすっ」
「…でも、今しばらくは私の所にいなさい。今しばらくは…」
「閣下…」
 などと師弟がウェットな会話を繰り広げている間に。
『でやぁぁぁぁ!!』
 どちらが叫んだのか不明だが、絶叫とともに2体は全エネルギーを費やして体当たりを敢行し、すさまじい激突音とともにそのまま動かなくなった。
「ここまでね…。よし、爆発よ」
「うんうん、ロボットの相討ちといえば爆発だよねー」
「何を馬鹿なこと言ってるんですかっ! 葉月君、大丈夫ですか!?」
「おーい和馬、生きとるかー」
 二体のロボットの胸部分が開き、中からボロボロになったパイロットが排出される。
 煙を上げている機体を滑り落ち、死んだ魚のように屋上に横たわる二人。慌てて駆け寄ってくる友人たちの声を耳に、その意識はしばらく途切れた。

*  *  *


 少しずつ目を開ける。
 珪の前にぼんやりと広がるのはどこかの天井。いや、光景よりこの匂いは……保健室?
「あ、目が覚めましたか?」
(空野…?)
 覗き込む顔に、一瞬珪はクラスメイトの顔を重ねたが、違った。ショートカットの、優しそうな女の子だった。
「虹野先輩、こっちも気がついたみたいですよ」
「本当、みのりちゃん? 良かったぁ」
『救護班』の腕輪をつけた女生徒が二人。そして隣のベッドで和馬が身を起こしている。
「いつつつ…。お、俺たち助かったのか?」
「たぶん…」
「おっ、なんや。気ぃついたんか」
 自販機にでも行っていたのか、缶ジュース片手のまどかが入ってくる。
「そのコたちが一生懸命看病してくれたんやで。お礼言うとけや」
「そ、そうなのか? 悪ぃな」
「…サンキュ」
「ううん、気にしないで。私たちはこれが仕事だから」
 にっこりと笑う女の子は虹野沙希、もう一人のバッテンの髪型をつけた子は秋穂みのりと名乗った。
「私は虹野先輩の手伝いをしただけですから。あとそっちの人、その顔の絆創膏、いい加減貼り替えた方がいいですよ」
「う、うるせーな。ほっとけよ」
「それなら寝てる間に優しく貼り替えてくれたら良かったのにぃ、とか内心で思っとるで」
「思ってねぇよ!!」
「なんで私がそんなことしなくちゃいけないんですかっ!」
「み、みのりちゃん落ち着いてっ」
 結局予備の絆創膏を何枚かもらって出ていくと、入れ違いで別の生徒二人が保健室に入っていく。
「虹野さん、秋穂さん、お疲れさま。そろそろ交代しよう」
「そう? それじゃあお願いね」
「おおっとラッキー!」
 中から聞こえる声にまどかは指を鳴らすと、出てくる二人を笑顔で出迎える。
「いやあ、偶然とは思えへんタイミングやなぁ。赤い糸で結ばれとるっちゅー証拠やで。てなわけで一緒に回ろ」
「また始まったぜこいつは…」
「え、ええっ? 私と?」
「そう、沙希ちゃんと。遠慮せんでもええんやで〜」
「ダメです」
「そう、ダメ…って、え、ダメ?」
「そうです。虹野先輩は私と一緒に回るんだから!」
 言いながら割って入ってきたのは、目を釣り上げたみのりである。
「いやいやいや。もちろんみのりちゃんも一緒に誘ってんねんで」
「うーん、そうね。大勢の方が楽しいかも…」
「イ・ヤ! ひどいです虹野先輩、二人で回ろうって約束してたじゃないですか。なのに朝から他人の世話ばっかりで、私はもういらない女なんですかっ?」
「あ、あのねみのりちゃん。誤解を招く言い方は…」
「せやでみのりちゃん。オレが清く正しい男女交際のあり方をぐほっ!」
「大きなお世話ですっ!」
 一年生にアッパーを決められているまどかに、待たされている二人は疲れた顔をしている。
「おい、もう行こうぜ。大体てめえはしつこいんだよ」
「右に同意見…」
「ええい、外野は黙っとれ! 今ええとこなんや!」
「え、えっと!」
 紛糾していく事態に、沙希が手を合わせてフォローに入った。
「あのね、この学校に来てくれたなら是非見ていってほしい場所があるの。そこだけ一緒に行きましょう? ここから近いし、ね?」
「まあ、虹野先輩がそう言うなら一カ所くらいは…」
「こない可愛い子たちと一緒にいられるんや。贅沢は言わへんで」
 そう言ってみのりに睨まれるまどかに苦笑しながら、沙希は一同を連れて玄関へと向かった。

 案内されてきたのは校庭の外れ。
 校門に向かって左手にある、一本の古木。常緑樹の緑に茂る葉を見上げ、沙希は優しい目で話し始める。
「この樹はね、伝説の樹って呼ばれてるの」
「伝説?」
「うん、きらめき高校に伝わる伝説。この樹のたもとで、卒業の日に女の子からの告白で生まれたカップルは、永遠に幸せになれる…」
 言ってからまどかたちに顔を向け、少し照れくさそうに笑う。
「私、きらめき高校でこの場所が一番好きなんだ。女の子の恋の味方をしてくれるこの樹は、すごく優しいんだなって思うから…。え、えへへ。ちょっと恥ずかしいね」
「虹野先輩…」
「ええな、そういうの…。せやけど、別に卒業の日まで待つ必要はないと思うで。さあ今すぐオレに告白して幸せな伝説をってがはっ!」
 まどかに右ストレートを叩き込んでから、沙希の腕を取って引っ張るみのり。
「さ、行きましょ虹野先輩。そーゆーナンパな人より私と幸せになりましょう」
「ち、ちょっとみのりちゃんっ。えーと、ごめんね。ゆっくりしていってね〜」
 ノックダウンされたまどかに謝りながら、沙希は校舎の方へ引きずられていった。
「ううう…。どうしてこう冗談っちゅうもんが通じんねん…」
「てめーは普段の態度からして冗談だから区別がつかねーんだよ…。それにしてもつまんねぇ伝説だよなー。どうせなら『この樹の下で百回ドリブルしたら全国優勝できる』とかにしろよ」
「まあ、お前に恋に憧れるロマンティックな気持ちを説明しても無駄やろな」
 せっかくだからと、まどかが樹に柏手を打って可愛い女の子との出会いを祈願していると、じっと樹を見上げている珪が視界の隅に映る。
「なんや葉月、告白されたい相手でもおるんか?」
「…別に、そういうわけじゃ」
 ぷいと横を向く珪に、まどかは少し柔らかい目をして再度樹を見上げた。
「ま、伝説っちゅうか、憧れが集まったみたいなもんなんやろなぁ。それと一人では告白する勇気のない子の、背中を押す役やな」
「…俺には関係ない…」
「まあまあ。そういえばはば学にも似たようなのあったやん。教会で逆立ちした男はモテモテになれる、だっけ?」
「ちげーよ。十字架にボールを当てるとパワーアップすんだろ?」
「どっちも違う…」
 教会で待っているお姫様のもとへ、王子様が迎えに来る。
 しかしそれを口にすることはなく、珪は頭上に茂る葉に、何となく伝説の重みを感じていた。

*  *  *


「葉月、そろそろ行くで」
 呼ばれる珪だが、今度は樹の根元を見つめて別のことを考えている。
「昼寝に丁度良さそうだな…」
「おいっ! 他校の文化祭に来て昼寝する奴がおるかい」
「でも眠い…。俺はしばらく寝るから、二人で回ってきてくれ」
「うわ、マジだこいつ…」
 呆れる二人の視線を浴びながらも、寝る気満々で樹の裏側へ回る…が。
 目的は果たせなかった。もえぎの高校の制服を着た女の子が、先客としてそこにいたのだ。
「ん…何だよ、騒々しいな」
 しかも起こしてしまった。どうしたものかと無表情に困っていると、女の子の声を聞きつけたまどかが後ろから肩を叩く。
「葉月、ようやった」
「何もしてない…」
「ども彼女、すまんなぁ。まさかこないな所に眠り姫がおるとは思わんかったんや」
「眠り姫ねぇ…。いいさ、そろそろ起きるつもりだったんだ。昼寝するなら使っていいよ」
 切れ長の目とボブカットの持ち主は、起き上がって大きく伸びをした。
「昼寝もええけど、せっかく会うたんやから交流を深めたいと思わへん?」
「何だよ、ナンパってやつか? 悪いけどそういうの好きじゃないんでね」
「ううっ、そのクールさがまたステキやで」
「お待たせしました、芹華」
 と、背後から別の女の子の声。
 振り返ると、綺麗な黒髪を後ろでまとめた、温和そうな女の子がにこやかに立っている。
「茶道部はもういいのかい?」
「はい、素敵な茶席でしたよ。芹華も来れば良かったのに」
「ああいう堅苦しいのは苦手なんだよ。じゃあ行くか」
「あの、でも、こちらの方は?」
 ようやく話を振ってもらい、まどかは気さくな笑顔を作って親指を立てる。
「オレ、姫条まどか言うねん。今から君たちをナンパしようと思うとるとこや」
「うふふ、面白い方ですね。私は橘恵美といいます」
「おい恵美、軽々しく名前を教えるなよ」
「まあ、でも自己紹介をされたら名乗らないと失礼に当たるのでは…」
「いやー、その出会いを大事にする姿勢は感動ものやで。ちゅーことで一緒に回らへん?」
「ごめんなさい。芹華がそういうのは好きではないみたいなので」
「あっさりダメかい!」
 と、後ろから和馬がまどかの肩を叩く。
「おい、姫条」
「お前なぁ…。そないにオレの邪魔したいんか」
「なんか変な奴らがこっち来るぜ」
 変な奴? と視線を向けると、確かに校門の方から歩いてくる…
 リーゼント。
 サングラス。
 だらしなく着崩した学ランの、ズボンに両手を突っ込んだまま大股で、その三人はコピーのように並んでガンを飛ばした。
「おうおう兄ちゃん、可愛い子二人連れたぁ見せつけてくれるじゃねぇか」
「……」
 あちゃぁ…と顔を覆うまどか。
 今どきこんな格好した連中にこんな所で絡まれるとは、よくよくついてない。
「悪いけど今取り込み中や。明日にしといてや」
「てめぇ、ナメとったらシバクぞコラ!」
「中途半端に関西弁使うし…。分かった分かった。なあ恵美ちゃん、すぐ済むから待ってぇな」
「だ、駄目ですよケンカは」
「なあに、ちょっと拳と拳で語り合うだけや。和馬、お前は部活があるんやから手出したらあかんで」
「ちっ、仕方ねぇな…」
「葉月、お前は顔だけやないとこ見せたれや。まあお前の分は一人でええわ。残り二人はオレが片付け…」
「Zzzz…」
「寝てるんかい!」
「いつまでゴチャゴチャやってやがんだコラァー!」
 短気な不良たちがいきなり殴りかかってくる。三対一だがやるしかないか…とまどかが身構えたところへ、すっと隣に誰かが並んだ。
「あたしもああいう連中は大嫌いなんだ」
「な、ちょっ!? 危ないて!」
「言ってる場合じゃないよ。来るよ!」
 眼前に迫るパンチに、まどかも芹華も互いの目の前の相手に対し――
 勝負は一撃。
 したたかに反撃をくらった不良二人は地面で目を回し、残る一人があわあわと後ずさる。
「何や、歯ごたえのないやっちゃ」
「はん、顔を洗って出直してきな」
「チ、チクショー…。こうなったら悪役のお約束で、女を人質に取ってやらぁー!」
「ああっ、なんちゅーお約束な奴や!」
 不意をついて、不良が恵美を目がけてダッシュする。芹華を間に挟んでいるため、まどかの助けも間に合わない。
 恵美へと伸びる不良の手!
 しかしその手が寸前で止まる。横合いから芹華が、目にも止まらぬ動きで不良の腕を掴んでいた。
「汚い手で恵美に触るんじゃないよ…!」
 言うが早いか、一本背負いで不良を投げ飛ばす。
「ぎゃうっ」
 先ほど倒された二人が起き上がろうとしたその上へ、見事に落ちて、三人揃って情けない悲鳴を上げた。
「く、くそっ。てめえら覚えてやがれぇー!」
「はいはい、おととい来てや」
 逃げていく不良たち。まどかは溜息をついて手を振ってから、くるりと女の子の方へ向き直る。
「やるやん、芹華ちゃん。オレは惚れ直したで…って、もしもし?」
 しかしその声は二人に届くことなく、恵美が芹華の手を取っていた。
「芹華…。私なら大丈夫ですのに」
「そりゃ、恵美ならあんな奴ひとひねりだろうけどさ。でも恵美にケンカなんかさせたくないよ…」
「でも、そのせいで芹華が危険な目に遭うなんて…」
「い、いいんだよあたしは…。恵美さえ無事なら、さ」
「芹華…」
「恵美…」
「芹華…」
「恵美…」
「なんでやねん! なんでここにおるええ男は無視やねん!」
「もういいから、行こうぜ…」
 完全な二人の世界に泣くしかないまどかと、まだ寝ている珪を引きずって、もしかすると俺が一番苦労人かもしれねぇとふと思う和馬であった。


ガールズ6  ガールズ7  そして…

















 
 
「うーん、噂は本当かも」
 きょろきょろと周囲を見回しながら呟く奈津実に、羽音が尋ねる。
「なっちん、噂って?」
「いや、きらめき高校は可愛い女の子が多いって」
「そ、そうかなぁ」
「そんなわけないでしょう」
 と、不愉快そうに眼鏡を上げながら志穂が言う。
「顔で合格者を決めるわけじゃあるまいし。理屈上は平均すれば同じような容姿になるはずよ」
「う、うん。理屈はともかく、うちの学校だって可愛い子は多いと思うよ」
「そうよねぇ。ミズキとか」
「……」
「なあに紺野さん? 『私の方が須藤さんより可愛い』とでも思ってるんじゃないでしょうね?」
「ちち違うよぉ…」
「まあそれはともかく」
 なんだか紛糾しそうなので、話を変えつつ奈津実はにやりと笑う。
「制服はあたしたちの方が可愛いよねー。きら校のってぶっちゃけ古臭いよね」
「うわ、なっちん。他の学校でそういうこと言うのは…」
「ほんと、超聞き捨てならないって感じ!」
 やば、と奈津実が首をすくめて振り向くと、そのきら校の制服に身を包んだ女の子が二人、そのうち片方が腰に手を当てて睨んでいる。
「あ、あははは。まあまあ、あたしの主観だから聞き流して」
「聞き流せるわけないっしょ! こういう伝統的なセーラーはかえって貴重なんだかんね。ねえ真帆?」
 同意を求められた隣の少女は、しかし予想に反して遠い目をしてぼそりと言った。
「ごめん夕子。ホント言うと私も古臭いと思う…」
「ああっ、何よ超裏切り者!」
「まだ姉さんの制服の方がマシよ…」
「あんなオレンジスカートのどこがいいのよぉ!」
 いきなりの仲間割れに顔を見合わせる奈津実たちだが…
「ふっふっふっ」
 と、そこへ第三勢力登場。
「ここはうちらもえぎの高校の出番のようやな。どや、この時代の最先端を行く制服は!」
「おばん臭い」
「何その地味色」
「なんやてぇぇぇぇ!! おどれらそこへなおれぇぇぇ!」
「ち、ちとせ〜」
「まあまあ、普通の服なだけいいよ。私のバイト先の制服なんて着ぐるみだよ。あはははは」
 明るく笑うツインテールの少女に、それは果たして制服なのか、と突っ込みたくなる一同だった。


ガールズ7  そして…

















 
 

 文芸部部室――。
「有っち、先行くわよ」
「有っちはやめなさい。今来たばかりじゃないの。藤井さんも少しは文学というものを…」
 文句を言いながら展示を見ていた志穂だが、その目が壁に貼られた紙に釘付けになる。
(こ、これは!)
『落ちていく太陽 波の音だけが耳に響く――
 運命の糸が赤いのは この心臓の鼓動のせいでしょうか?
 切なくなる時もあったけど
 信じてます 想いはいつか 二人を照らす星になるって…』
(な、なんという乙女心を存分に表したポエム! さすがきらめき高校、ここまでのポエマーがいたとは侮れないわね…)
 少し緊張しながら、壁に手をついて作者名を確認する。
『如月未緒』
(フフ…。如月さん、覚えておくわ…)
 眼鏡を光らせ不敵に笑う志穂に、一人待っていた羽音が声をかける。
「志穂さん。なっちんたち行っちゃったし、私たちもそろそろ…」
「そうね…。空野さん、どうやら私は生涯のライバルを見つけたようよ。詩人の血が騒ぐわ…」
「わあ、志穂さんて詩とか書くんだ」
「はっ! そ、そんなわけないでしょう。嫌ね、行きましょう」
「? 志穂さん、顔真っ赤」


ガールズ6  そして…

















 
 
「なんだその面ぁ…。情けねぇ、誰にやられやがった」

 とある路地裏。男臭い空気が漂うその場所で、リーゼントの三人は声の迫力に震え上がる。
「そ、それが奴ら卑怯なんで。こちとら何もしてねえのに、いきなり大勢で後ろから襲ってきやがって…」
「何ぃ? そんな汚ねえ奴らだったのか」
「へ、へい。だから負けるのも仕方なかったんで…へへへ」
「ぬうう…。子分の顔に泥を塗られたとあっちゃあ、黙っているわけにはいかねぇ。てめぇら、案内しやがれ!」
「お、押忍! よろしくお願いしますぜ――」
 割れた学帽の下で鋭い目が光る。その動き出した巨体に向けて、子分たちの声が唱和した。

「番長!」







<つづく>





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