あしたの公子ちゃん
−らぶらぶ編−



 私もけっこう人気出てきたし、今日は念願の詩男くんとデート☆
 朝早くに起きてお弁当作って…。どんな展開が待っているのかしら、どきどき。
「それじゃ並木道の方へ行ってみよう」
「はぁい」
 公子、詩男くんの行くところならどこへでも行きますぅ。
「こういうところを歩くのって気持ちがいいよね」
「ああ、恋愛小説の一場面みたいだね」
「えっ…」
 つまりは私と詩男くんがヒロインと主人公で…なーんて、詩男くんってばダイタンっ!
「今日は天気がいいから、芝生にでも座ろう」
「う、うんっ」
 よーしよーし、ムード出てきたぞぉ。どんな話をしようかな?
「そういえばこの公園じゃない?昔2人だけで来たのって」
「あぁ、そういえばそんなこともあったよね」
「うんうん、大きな池に落ちそうになったりね」
 これぞ幼馴染みのアドバンテージ!思い出話でしんみりとさせてからああしてこうして…きゃっ、私ったらなにを考えているのかしら。うふふふふふ☆
「あの時は死ぬかと思ったよ。あれ、そのとき公子は?」
「へ?」
「確か怖くて見てただけだったような…」
 はぅっ!
「い、いいじゃない、昔のことよ」
「そ、そうだよね。過ぎたことだったね」
「でも今からでも遅くないよね。また昔みたいに…」
「…さっきと言ってることが違うよ公子ちゃん」
 あぁん、大失敗だよぉ〜!やっぱ詩男くんてガード固い…
 とりあえず正攻法は難しそうね。じっくり作戦ねらなくっちゃ。えーと…来週はゆか之助くんと植物園だっけ。少しは妬いてくれるかなぁ?くれないか。


 ふぇーんゆか之助くん来ないよぉ。女の子待たせるなんて最低よっ。
「ごめーん、待った?」
「ううん全然っ…あんた誰」
「あっ、人違いでした。それじゃ…」
 …あの人、学校でいつも体当たりしてくる変な人だよね。外でもあの髪型なんて…まさか変態さん!?いやぁぁぁーーっ!
「いやぁ申し訳ないです〜。うーん、遅く歩きすぎたみたいですね〜」
 おわっ!びっくりしたぁ!
「ううん、いいの。今来たとこだもんっ(にっこり)」
「それは良かった。それでは参りましょう〜」
 ううっ、心優しい自分が憎い…。
「僕は少し見たいものがあるので、後からいらしてくださいね〜」
「はい?ちょっとっ!」
 ゆか之助くんはさっさと行っちゃった…。ひっどぉーい!
「どこ行ったのよ!もうっ、ぷんぷん!」
 あ、いた。なんだって食虫植物のコーナーなんかに…。
「やぁ、見てくださいこのハエトリソウ。面白いですねぇ」
「そ、そうね」
「お母様が女性はハエトリソウと同じで、隙を見せると骨まで食い尽くされるとおっしゃってましたが、どういうことなのでしょうねぇ?」
「あ、あははははは…」
 ふと嫌な予感が私の背中を走る。
「ゆか之助くんて、…もしかしてマザコン?」
「は?まざ紺とはどのような紺なのでしょう」
「う、ううんなんでもないっ!」
 ああっ変なこと聞いちゃった。嫌われてないといいんだけど、くすん。
「いやぁ、本日は楽しかったですねぇ」
「そ、そうね」
 全然気にしてないみたい。ゆか之助くんて心が広いのねぇ。


 今日はのぞむくんと彫刻展なの。それは3年目の春だろうって?細かいことは気にしちゃダ・メ。
「ふぅん、よくできてるな。本当に生きてるみたいだ」
「ほんと、よくできてるよね」
 でも彫刻よりものぞむくんの方がかっこいいな…なーんて、てへっ☆
「あっ、のぞむくん。触っちゃダメよぉー」
「え?」
 ボキ
「‥‥‥‥‥‥」
 しばらくそのまま固まってた私たちだけど、監視員の足音に急に我に返る。
「のぞむくん、逃げよう!」
「ち、ちょっと公子ちゃん!」
 はぁはぁ…
「だ、大丈夫よ、ね?誰にも見られてなかったし…」
「うーん、でもちょっと良心が痛むよな」
「のぞむくん…」
 彼は少し美術館の方を見つめていたけど、にっこり微笑んできっぱりと言った。
「やっぱりオレ謝ってくるよ。こんなの卑怯者のやることだし」
「そ、それじゃ私も」
「壊したのはオレだろ。公子ちゃんはここで待っててくれよ」
 なんて…なんて男らしいの。私のハートはゆ〜らゆ〜ら…
「良かったね、簡単に許してもらえて」
「ああ、心配かけてごめん。それとさ…」
「え?なぁに?」
 のぞむくんはしばらく鼻の頭をかいて、照れたように横を向いてしまった。
「オ、オレのこと乱暴者だって思ったかもしれないけど…。そ、そんなことないからな」
 …ぷっ。
「そーんなこと気にしてたのぉ?」
「バ、バカ、そんなんじゃねぇよ。ただ念のため言っといただけだよ」
 彼ってば照れまくっちゃってる。うふふ、かーわいいっ!


 急に雨が降ってきたけど…。ちゃーんとカサ持ってきてあるもんね。
 エラいぞ、公子!
「あれ?愛也くん?」
「た、た、高見さん…」
 私の顔を見るなり真っ赤になっちゃう愛也くん。やっぱり同い年には見えないなぁ、可愛いんだけど。
「カサ、持ってこなかったの?」
「は、はいっ!うっかり忘れちゃって…」
 ふーん…詩男くんの紹介だし、しょうがないっかな。
「ね、それじゃ一緒に入ってかない?」
「えええっ、い、いいんですかっ!?」
「うん、いいよ。無理にとは言わないけど…」
「ぜぜぜひお願いしますっ」
 ばさっ、カサを広げて雨の中を歩き出す。愛也くんはずっとうつむいたまま。
「ねぇ…私と一緒じゃつまんない?」
「そ、そ、そんなことないです」
「じゃあ、なんで何も話してくれないの?」
「あ、あの、それはその、き、緊張しちゃって…」
 そんな緊張しなくたっていいのに…。愛也くんて本当にうぶなのね。
 カサを打つ雨粒の音を聞きながら、私たちは何も話せないまま帰ったの。
「あ、あの、ありがとうございました」
「ううん、いいよ。困ったときはお互い様だもん」
「あ、あの、ぼく…。い、いえ、いいです。それじゃ」
 …何か言いかけてやめちゃった。


 今日から楽しい夏休み。去年より成績上がってるし、今年は目一杯楽しむぞぉ!
「なーおっこちゃん!」
 うっ、その軽い声は…。
「なぁに?」
「実はさあ、遊園地の券が2枚あるんだよね。もち、一緒に行くだろ?」
「ちょっとぉ、夕くんていつもそう強引なんだよね」
「そ、それがオレの持ち味なの。はーい決まり決まり決まりねー」
「ちょっとっ!」
 もうっ。でもナイトパレードやってるし、タダなら許しちゃおうかな。えへへ。
「ほら、ビビール乗ろうぜビビール!」
「やーん、待ってよぉ」
 思いっきり楽しんだ後は、オ・ト・ナの時間☆ 2人で寄り添いながら、輝くネオンを見つめてたの。
「オレ、何度もこのパレード見てるけど…今日が一番キレイだな」
「…どうして?」
 彼の視線はパレードじゃなくて私を見ていた。
「ん、まあ、やっと願いがかなったっていうかさ」
「願いって?」
「…ずっと前から好きな娘と見たかったから」
「え、なに?よく聞こえなかった」
「ほ、ほら、静かに見てろって。もう終わっちゃうぞ」
 …うふふ、聞こえちゃった。夕くんて意外と純情なんだね。
「なんか夜が明けちゃったって感じだな。ま、いいか」
「うんっ!すっごく楽しかった!」
「へへっ、そうだろ?またどっかに連れてってやるよ」
 そう言って嬉しそうに微笑む夕くんの笑顔が、私には何よりのごほうびでした☆


 待ちに待った修学旅行は、北海道へ4泊5日なの。んーと、六花亭のお菓子でしょ、とうもろこしでしょ、カニにバター飴にラーメンに…お小遣いがいくらあっても足りないよぉ。
「公子ちゃん」
「あ、沙希人くん…」
「ねえ、よかったらボクと一緒に見学しない?」
 詩男くんは…見あたらないわ。せっかく誘ってくれたのに、断ったりしちゃ悪いよね。
「うん、一緒に行きましょう!」
「ホント!?やったぁ!」
 ところがどっこい、幸せな私たちに忍び寄る怪しい影!
「危険だ、危険だな。この私が一緒に行ってやろう」
「げっ!別にいいですぅっ!」
「そうか、そこまで頼まれては仕方ない。では行くぞ」
 あぁんなんでこうなるのぉー!
「公子ちゃんて、紐緒くんの知り合いだったの?」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
 時計台…は混んでるから、クラーク像行こっか。
「ボーイズ・ビー・アンビシャス。いい言葉よね」
「そうだね、ボクもいずれ日本一の応援団員になってみせるよ!」
「おおっ、沙希人くんが燃えている!」
「クックク、笑止な限りよ。いずれこの世はすべてこの紐緒結一のものになるのだからな!ウワーッハハハーーッ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 相変わらずねぇ。でもここまでスケールの大きい人って、ちょっと憧れちゃうな。
「ねぇ公子ちゃん、明後日の自由行動は2人だけで行こうね」
「う、うん」
 沙希人くんにひそひそとささやかれて、私は思わずうなずいちゃった。

 今日は約束通り沙希人くんと見学なんだけど…。まだ来ないなぁ、どうしちゃったんだろ。
「ねぇ公子、聞いた?」
「好代、なに?」
「沙希人くんが、風邪でダウンしちゃったんだって」
「えーっ!?」
 そんなぁ、おとといはあんなに元気だったのにぃ。
「あんたが引っ張り回して無理させたんじゃないの?」
「し、してないもんっ」
 でもやっぱり心配だなぁ。せっかくの北海道だけど、お見舞いに行こうかな。
「もしもし、沙希人くん。大丈夫?」
 返事がないので、私はそっとドアを開けて中に入りました。沙希人くん、眠ってる…
「ん…あれ、な、公子ちゃん?」
「あっ、起こしちゃった?」
 沙希人くんは熱っぽい目で私のほう見てた。
「ご、ごめんね。一緒に見学行けなくって…」
「カゼだもん、しょうがないよ。今日は私がつきっきりで看病してあげるから、ね?」
「え!?そ、そんな、悪いよ!」
「いーのっ、私には旅行よりも沙希人くんの看病の方が大事だもんっ」
 きゃっ、言っちゃった。公子照れちゃうっ。
「ずっとそばにいるから、安心して眠ってね」
「あ、ありがとう。ずっと風邪引いてたいな…」
「え?今なんて?」
「な、なにも…」
 あらら、真っ赤になって布団かぶっちゃった。旅行はつぶれちゃったけど、公子幸せ…

 …でもその幸せは長続きしなかったの。
「ねえ結一くん、どこ行くのよぉ」
「研究だ」
 また研究なのぉ。
 結一くんに連れてかれた先には、いわゆる大きなミステリーゾーン。
「は、初めて見た…」
 ふよんふよんふよん
 と、そこへいきなりUFOが!
「フッ、この紐緒結一に会ったのが運の尽きだな。天才自ら正体を暴いてやるぞ」
「ええええっ!?」
 な、なんか宇宙人が下りてきたよぉ。
「¢◎〓ョ∈∂∇√」
 なんか言ってるぅ〜!
 ムンクになってる私を無視して、結一くんは変な機械を組み立て始めた。
「私が準備するまで持ちこたえろ」
「女の子を盾にする普通!?」
「何を言う、この紐緒結一の役に立てることを光栄に思うがいい。それともこの場で宇宙人の餌食になりたいか?」
 そんなのいやぁぁぁーーっ!だって私詩男くんと…詩男くんと…。
「こうなりゃヤケよっ!いくわよ宇宙人!」
「℃¥$¢£%#&*@§☆★○」
「ラブラブフラーーッシュ!」
 まぁ、私にこんな技があったなんて。これも愛の力なのね!
「≠<>≦≧∞∴♂♀°′」
「ラブラブファイヤー!」
「伏せろ高見!」
「え?きゃぁっ!」
「やれ、紐緒アーマー!」
 BEEEEEEM!
「∧∨¬⇒⇔∀∃キ∈∋⊆⊇⊂⊃∪」
 宇宙人は謎の言葉を残して去っていった。た、助かったのね…。
「フッ、大したことのない。私に挑戦するなど一万光年ほど早かったようだな」
「光年は距離の単位じゃ…」
「い、行くぞ!」
 もしかして私たち地球の危機を救ったの?彼と結ばれた場合、どんな生活が待ってるんだろ…。
 う、ううん。こういう人に限ってすごくいい旦那様になってくれたりして。
 (希望的観測)


 今日は彩史くんとプラネタリウム。ちょっとロマンチックな展開を期待しちゃう、うふふ。
「それじゃLet's go. 入ろうぜ」
「う、うん。ところで彩史くんてなんで英語話してるの?」
「Oh, you don't know. 知らなかった?オレって実はリヤニ人との混血なんだ」
 ぷぷっ、相変わらず面白い人。でもリヤニ人てどこの国の人かしら?
 プラネタリウムの中は本当に宇宙にいるみたいで、私は星々に囲まれて彩史くんとの時間を過ごしたの。
「…綺麗ね、彩史くん」
「‥‥‥‥」
 いきなり彼は私の方に頭をもたせてきた。やーん、どうしようっ。
「彩史くん?」
「‥‥‥くー」
 寝て…寝てるのぉっ!?信じらんない女の子とのデートの最中に居眠りなんてっ!
「むにゃ……ちゃん、大好きだよ…」
 え、え!?今、私の名前言わなかった?
 彩史くんの体温を感じながら、私は星を見るのも忘れて真っ赤になってたの。公子どきどき…。
 外に出た彼は、照れくさそうに頭をかいてた。
「ごめんごめん、最近徹夜しててさ」
「いーのっ、彩史くんの寝顔が見られたもん」
 もう公子なんでも許しちゃう☆
「なぁ、オレ何か変なこと言ってなかった?」
「言ってたよぉ、私のことが好きだって」
「え?おい、It's joke. 冗談だろ?」
「うふふ。Secret. ひ・み・つ」


「高見さん、ちょっといいですか?」
「なぁに?未夫くん」
 期末テストも終わって、もうすぐクリスマス。私の成績もトップクラスを維持してたし、もう未夫くんとも気兼ねなくつき合えるかな。
「よろしければ今度の日曜に、映画にご一緒したいのですが…」
「えっ?どーしよう…なーんて、いいよん」
 今やってるのって『愛のメロディ』よね。さすが未夫くん、ロマンチックぅ。

 映画はすっごく良くって、私は思わず感動して泣いちゃったの。
「くすん、可哀想よね」
「そうですね…」
 未夫くんも眼鏡を外してハンカチで涙を拭いてる。あ、眼鏡外したとこ見るのって初めてだ。
「映画、とても良かったですね」
「うんっ。未夫くん、途中で泣いてたでしょ」
「えっ、見てたんですか?お恥ずかしい…」
 あらあら、恐縮しちゃってる。
「眼鏡を外した顔、すっごく綺麗だったよ」
「そ、そうでしょうか…。僕、眼鏡をしてない方がいいですか…?」
 うーん、難しい質問ね。確かに素顔もステキなんだけど…
「そんなことないよ。未夫くんの眼鏡って似合ってるもん」
「そうですか?ありがとう、お世辞でも嬉しいですよ」
「お世辞じゃありませんよーだ」
 未夫くんはにっこり微笑んでくれた。ああ、この笑顔が私の理性を狂わせるの…


「レイ子様のお友達でいらっしゃいますか?」
「友達じゃないけど、クラスメイトよ。高見公子っていうんだけど」
「高見だけは入れるなとのレイ子様のお言葉です」
 レイ子のやつぅ〜〜〜っ!
「が、その美しさに目がくらんで何も見えませんわ。今のうちのお入りになってくださいませ。くれぐれも…レイ子様にはご内密に」
「‥‥‥‥‥‥」
 あの女の人、目が嫌だったわね…。
 あっ、今始まるところかな。
「皆さん、わが伊集院家の誇るクリスマスパーティにようこそいらっしゃいませ。日頃の現実を忘れて、今日は大いに楽しんでいってくださいましね」
「相変わらずやなやつ」
「あら、高見さん。なんで貴方がこんな場所にいるの?」
「あんたねぇ、招待状出しといて門前払いなんて性格悪すぎるわよ!」
「なんのことかさっぱりわからないわね。さて、大使の人たちに挨拶してこなくちゃ。貧乏人の小娘なんかに構ってる暇はないわ」
 ‥‥‥‥‥。後で覚えてなさいよレイ子…。
「あっ、公子ちゃん。きみも招待されてたのか」
「詩男くんっ」
 彼ってばタキシード着込んじゃって。舞踏会みたいでス・テ・キ。
「公子ちゃん…よかったら送ってこうか?」
「えっ…?」
 もしかして送り狼とかっ!?お父さんお母さん、公子は今日オトナになります…。
 でもそのとき横から声が
「随分だな、藤崎。今までさんざん冷たくしといて、今さらそれはないんじゃないか?」
「鏡…!」
「魅羅彦くん!」
 私をはさんで2人が火花を散らしてる。ああ、公子どうしたらいいの!?
 ふい、と視線を外したのは、詩男くんの方だった。
「…別に、彼女はただの幼馴染みだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「詩男くん…」
 彼はそのまま振り向かずに行ってしまった。ひどい…
「魅羅彦くんっ!」
「…そんなに怒るなよ、かわりに俺が送ってってやるよ。嬉しいだろ?」
「知らないっ!親衛隊とでも帰ればいいじゃない!」
 怒って帰ろうとする私を…いきなり彼は後ろから抱きしめたの。
「親衛隊は先に帰した」
「ど、どうして…?」
「今日だけはおまえと一緒にいたいんだ…」
 耳元でささやかれて、私のハートはバクハツ寸前。こくこくとうなずく私。
 小雪の舞う帰り道で、彼はぽつぽつと自分のことを話してくれたの。
「中学の頃の俺は貧弱で、何度も何度も女の子に振られ続けた。だから高校に入るときは生まれ変わろうって、もてる男になってやろうって決意したんだ」
「‥‥‥‥‥」
「俺が目を引くようになったとたん女たちはきゃあきゃあ騒ぎ出して…だからわざと高慢な態度をとって、女たちに復讐してきた」
「そうだったんだ…。でも、それって…」
 魅羅彦くんの目が私を見つめる。
「…ああ、そんなことしたって周りも自分も傷つけるだけだった。でもおまえの素直な心に触れて、俺は自分の間違いを知ったんだ。俺は…」
「くちゅんっ」
 あ…ど、どうしよう、こんな時にくしゃみなんて…。
 …魅羅彦くん、怒ったかな?
「…かなわないな、おまえには」
 彼は微笑んでそう言うと、私にコートをかけてくれた。こんな風に笑うんだ…。
「み、魅羅彦くんが風邪引いちゃうよ」
「そんなにヤワじゃないさ」
「そ、それじゃ…」
 私はそう言って、そっと彼に寄り添う。1つのコートに、2人の体。
「…こうすれば、魅羅彦くんも少しは暖かいでしょ」
「ああ…暖かいよ」
 誰もいない夜の街を、私たちは腕を組んだまま帰ったの。
「今度、うちに遊びに来てくれよ。妹たちも喜ぶよ」
「魅羅彦くんて、妹いるんだ」
「ああ、6人ばかりね」
「6人!?」
 なんだか魅羅彦くんの顔すごく嬉しそう。家ではいいお兄ちゃんなのかもね…。


 ううっ、寒いよぉ〜。寒いと思ったら雪が降ってるじゃない。
 ピンポーン
 あれ、誰かな?
「センパイ、こんにちはっ!」
「優樹くん、寒くても元気ね」
「ねぇねぇ、ボクと雪合戦しようよ!」
「えええっ?寒いのに…」
「ほら、早く早く!」
 んもうっ、元気なのはいいんだけど、ちょっとワガママなのが玉に傷かな。
「うー、寒いよぉ」
 ポカッ
 いきなり雪玉をぶつけられて、ところどころ白くなってる私の頭。
「あはははは、ぼーっとしてるからだよ」
「やったなぁー!」
「ボク、昔から雪合戦は得意だったんですよ」
「いいわよ、私だって自信はあるんだからねっ」
 寒さも忘れて、思いっきり雪合戦しちゃった。うーん、あした筋肉痛になりそう。
「はあ、はあ…センパイ、ちょっと一休みしましょうよぉ」
「はあ…う、うん、ちょっとだけね」
 優樹くんと並んで雪の上に寝転がる。ああ、気持ちいい…。
「ねぇ…女の人って、やっぱり年下は嫌いなのかな?」
「ど、どうしたの急に?」
 優樹くんは寝転がったままこちらを見る。いつも子供の彼だけど、その目はすごく真剣だった。
「先輩はどうなんですか?」
「わ、私は…ほら、優樹くんには優樹くんのいいところがあるし」
「でも、好きな人から弟としてしか見てもらえないのは悲しいです」
「あ、あははは。そろそろ再開しよっか?」
「うん…そうですね。変なこと聞いてごめんなさい」
 びっくりしたぁ、優樹くんてときどきどきっとすること言うよね。
 うーん、私はあんまり歳とかにはこだわらないけどな。そう言ってあげれば良かったのかな。
 ポカ
「…やったなぁ!」
「へへーん、先輩のへなちょこ玉なんてボクには当たりませんよー」
「こいつぅっ」
 うん、難しいコト考えるのはよそうっと。考えても答えが出るわけじゃないもんね。
 私は優樹くんとの雪合戦を目一杯楽しんだの。それこそ子供みたいに、ね。
 でもその光景を窓から詩男くんが見てるなんて、私は全然知らなかったの…。

 ふぇーん、服の中に雪が入っちゃった。シャワーでも浴びてこようっと。
 服を脱ぎかけた私は、留守電が入ってるのに気づく。もしかして詩男くんかな?
『もしもし、館林です。最近、家の近くに変なコアラが住み着いたんだ。目つきが悪いんだよ』
 …だから誰なのよってば。



<次号完結!>




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