内気な眠り姫


「明日は、ちゃんと話しかけようね」
ほとんど日課みたいになっちゃったけど、自分にそう言って私はベッドに入りました。

今日も、なにも話せませんでした。
あの人を見つめるだけの日がずっと続いています。
きっと私の事なんて全然知らないんだろうな。
目立たないし、クラスも離れてるし、
私、内気だし…

彼のことは中学のときから知ってました。
詩織ちゃんの幼馴染みで、ときどき彼女と話してたけど、
私は男の子が苦手なので、彼が来るといつも隠れてました。
3年生になって、急に頑張り出したって詩織ちゃんから聞かされて
なんとなく誰のためかわかったから、私は心の中で応援してました。
合格発表の日、
彼は大喜びで私たちの方に駆けてきました。
詩織ちゃんと一緒に「おめでとう」って、そう言ったけど、
声が小さすぎて聞こえなかったみたいでした。
あの時からかな…
気がつくと彼のことを目で追うようになって。
一生懸命頑張ってる彼を見て、私も頑張らなきゃって思ってるのに
いつも同じ所で足踏みしたまま。

好きです。
大好き

もうすっかり夜も更けたのに、今日も眠れません。
瞼を閉じても、枕に顔を埋めても、彼のことばかり浮かんできて。
今、なにしてるのかな…
もう寝てるよね。 誰の夢見てるの?
眠れないまま電気スタンドに手を伸ばします。
しばらくぱちぱちして、
ようやく慣れてきた目に飛び込んできたのは、机の上の書きかけのラブレター
引き出しの中は出せなかった手紙でいっぱいです。
私は小さくため息をつくと、小さな手鏡を手に取りました。
…にこっ
鏡の中の自分にもう一度微笑んでみます。
何度も練習してるのに、いつになったら見せられるんだろう。
可愛い、って、思ってくれるかな…

「おはよう」
ひとこと言うだけでいいの。
後ろから近づいて、そう言えばきっと答えてくれる。
頭では分かってるんだけど、実際の私ときたら
一歩近づくたびに動悸が高まっていって
声を出そうにも、息すらできなくて
結局いつも逃げ出してしまいます。
彼のことばかり見てるくせに
彼の瞳がこちらを向くと、あわてて目を逸らせて

…神様、私はどうしてこんなに弱いんですか?

時計は1時を回ってました。
どうしても眠れないので、気分転換に窓を開けてみます。
 わぁ…
目の前には、空いっぱいのイルミネーション
あの人にも、見せてあげたいな…
あ!
ひとすじの光が、さあっと星の海を渡っていきます。
私は急いで目を閉じると、心の中でお願いしました。
あの人が、私の方を振り向いてくれますように
…ううん、そうじゃなくて
少しでいいんです、私に勇気をください
あの人と話せるだけでいい。私に勇気をください…!

おそるおそる目を開けると、そこは元通りの星空で
銀色の光が何もなかったかのように、きらきらと静かに輝いていました。
私は自分の白い息に気がついて、そっと窓を閉めました。


もっと自信を持とうね。なにもできない私だけど
あの人を想う気持ちだけは、だれにも負けはしないから。
自分を好きになろうね。でなきゃあの人も私を好きになってくれるわけないから。
好きになれるような自分になろうね…
「明日は、ちゃんと話しかけるの」
自分にそう言うと、今度こそ私はベッドにもぐりこみました。
目が覚めたときは、きっと…



おやすみなさい


                          <END>



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