【注】パロディSSではありますが全然笑えないです(^^; なにせ元の話が無茶苦茶重かったから…。



虹野パロディSS

ナースエンジェル沙希ちゃんSOS




「いてっ!いててててっ!」
「もう、じっとしてて」
 今日も平和なきらめき高校の保健室で、沙希はかいがいしく公の手当をしていた。野球部の練習中にスライディングで思いっきりすりむいたのである。
「はい、これで大丈夫よ。頑張るのもいいけど、あんまり無茶しないでね」
「いやぁ、虹野さんに手当してもらえるならいくらでもケガしたいなぁ」
「も、もう公くんってばぁ!」(ばしばし)
「いでぇーーーっ!!」
 と、扉ががらりと開き、2人はぱっと飛び離れる。しかしよろよろと入ってきたのは先生ではなく、奇妙な格好をした一人の女の子と犬だった。
「キ、キューティメグ!?」
「沙希ちゃん…」
「ど、どうしたんだ!敵にやられたのか!?」
 キューティメグの顔は真っ青、いやなにか黒ずんでいるように見える。とりあえずそっとベッドに寝かせたが、彼女は苦しそうに息をするばかりだ。
「はぁ…はぁ…」
「いったい誰がこんなことを…」
「…PETの毒毒魔人だワン」
「い、犬がしゃべった!?」
「僕はワンダフル星人のムク…。毒毒魔人の黒のワクチンに、キューティメグの体は冒されてしまったのだワン!!」
「く、黒のワクチン!?」
「憎しみと悪意から生まれた闇の汚染源だワン」
「そ、そんな…」
 クゥーン、とムクがメグの顔をなめる。少しは楽になったようだが、依然として危険な状態である。
「い、一体どうすれば…」
 と、外から邪悪な笑い声が聞こえ、2人と1匹は思わず身を潜めた。
「ヒ〜〜ヒッヒッヒッヒ〜〜、どこへ隠れた?キューティメグ。早く出てこないとこの学校すべてが黒のワクチンに汚染されてしまうぞ?」
「なんだって!?」
 公が小さく叫んで窓から外を見る。確かに学校全体が黒い瘴気に染まろうとしている。
「くっ、このままじゃこの保健室も時間の問題だ!」
「そ、それに学校のみんなが…。ねぇどうしようムクちゃん…」
 常識を越えた事態に泣き出しそうな沙希。ムクは沙希と愛の顔をしばらく見比べていたが、決意したようにすっくと立ち上がった。
「戦うしかないワン!」
「わ、わかった!ここはこの俺が…」
「なにを言うのだワン!男が変身しても勝てるわけないのだワン!」
「そ、そうなの?」
「というわけで沙希ちゃんに頼むのだワン」
「わかったわ!」
「(そんなあっさりーーー!!)」
 ムクはどこからともなくプレゼント用の箱を取り出すと沙希に手渡す。リボンをほどいて中から出てきたのは、ブローチのついた純白のナースキャップだった。
「こ、これで変身を?」
「そうだワン。さあ、腕を天にかざすのだワン!」
 ムクの言うとおり手を掲げる素直な沙希。とたんにナースキャップが光を発し、沙希の心に言葉が浮かんでくる!

「聖なる力、聖なる願い、ここへ!!」


♪ちゃらっちゃっちゃちゃーーん ちゃらら〜らら〜らら〜
 沙希の体をまばゆい虹色の光が包み、ピンクと白のナースルックへと変身した。いや、看護婦というよりもむしろ天使、地球の平和守るナースエンジェルの誕生だ!
「輝く光 気高き白  聖なる大地の 命の叫び
 ナースエンジェル!! 天よりの使い!」
「そこかぁっ!」
 毒毒魔人が扉を蹴って乱入してくる。人間の形はしているが、悪趣味な衣装に生気のない顔はまぎれもなく黒のワクチンをまき散らしていた。
「イ〜〜ッヒッヒッヒッ、おまえら全員黒のワクチンに冒されてしまうがいい」
「な、なんだと!」
「公くん、下がって!」
 沙希に止められ公は拳をおろす。気色悪い笑みを浮かべる魔人に、沙希はびっと指を突きだした。
「あなたの根性は病気だわ!わたしがお手当てしてあげる!!」
「できるものなら…やってみるがいい!はぁっ!」
「エンジェルリング・フォース・シールド!!」
 毒毒魔人が放った衝撃をシールドで防ぐ沙希。そのまま輝く光の中から、1本のバトンを取り出した!
「エンジェル・ビュー・アップ!」
「なにぃ!?」
「あ、あれは!?」
「エンジェルバトンだワン!さあナースエンジェル、この緑のワクチンを使うのだワン!!」
「う、うんっ!」
 黒のワクチンを浄化する緑のワクチン。その小瓶を受け取ると、沙希はバトンにセットする。
エンジェル・シャイン・スクローール!
「ぬぅっ!」
 沙希がバトンを回転させると、緑色の光が周囲すべてを照らす。たじろぐ毒毒魔人に、沙希はすべての力をバトンに集結させ、放つ!
「黒き闇の力よ、癒されよ。
 エンジェルエイド・ボム・ビーーム!!
「うぎゃぁぁぁぁっ!…ヒ、ヒーヒヒヒ、こうなったらお前らも道連れだ!」
「なんですって!?」
「ヒヒヒ…ヒャーッハッハッハッ!」
 ナースエンジェルの浄化の光の中に毒毒魔人は消えた。しかしふぅっと一息ついたのもつかの間、窓の外を見たムクが悲鳴を上げたのだ。
「大変だワン!黒のワクチンがすごい勢いで増殖していってるワン!!」
「えええっ!?」

 黒のワクチンは学校を越え、地球中に広がっていく。それがすべてを覆ったとき一気に膨張して生き物に襲いかかり、地球は一瞬にして滅亡するのだ。
「冗談じゃないわ!私の世界征服はどうなるの!」
「ひ、紐緒さんでも黒のワクチンは消せないんですか?」
「いろいろ手は施したけどどうしようもないわ。なんてこと、この天才が…」
「そ、そう…」
 変身を解いた沙希と愛を含め、全員とりあえず理科室に避難した。が、結奈もお手上げとあってはもはや打つ手がない。
「う…うぅ…」
「愛ちゃん!?」
 最初に黒のワクチンを浴びた愛は既に虫の息だった。ムクも公も無力感にうなだれている。
「ムクちゃん、緑のワクチンを使うわ!」
「し、しかしその緑のワクチンは黒のワクチンに対抗する最後の切り札!愛ちゃんに使ってしまっては最後の希望もなくなるのだワン!」
「何かワクチンを作る方法はないのか!?」
「緑のワクチンは命の花から作られるのだワン。しかし地球上のどこにも、命の花は咲いてないのだワン…」
 ムクの声がだんだん小さくなっていく。なにより愛を助けたいのはムクだろう。
「…やっぱり、このワクチンを使うわ」
「し、しかし!」
「ううん、人の命は地球より重いもの。わたし、誰も犠牲にしたくない」
 沙希の言葉に結奈が鼻を鳴らす。
「甘いわね」
「‥‥‥‥‥‥‥」
 最後のワクチンを手にとって愛に与える。黒のワクチンが消えていき、愛はうっすらと目を開けた。
「沙希ちゃん…?」
「大丈夫よ、愛ちゃん。わたしが全部お手当てするから、ね?」
「うん…」
 安心したように愛は再び眠りに落ちた。しかしそうは言ったものの、さてどうするのか。
「ムクちゃん、何か方法はないの?わたし何でもする!」
「…一つだけ方法はあるワン」
「本当!?」
 沙希と公の顔に喜びが浮かぶが、それとは逆に顔を上げたムクの目からは…涙が流れていた。
「ムクちゃん…?」
「方法はあるワン…。沙希ちゃん、君はこれから死ぬのだワン」
「え…?」
 瞬間、沙希の顔がさあっと青くなる。
「なぜ地球に命の花がないのか…。それは花の悪用を恐れた先代のナースエンジェルが自分の命の中に封じ込めたからだワン。だから命の花とはナースエンジェルの命そのものなのだワン…。
 沙希ちゃん…君の命がほしいのだワン!!」
「ざけんなこの犬ぁーーー!」
「ぐっぐるじい!」
 ムクを締め上げる公にも気づかず、沙希の体は小刻みに震えている。立っていることも出来ず、自分の細い体を抱きしめてぺたりと座り込んだ。
「(し、死んじゃうの?わたし…
 やだ、死にたくない…生きていたい…!)」
 しかし他に方法はない。黒のワクチンは恐るべき速さで広がっている。
「何を考えてるのよ」
「紐緒さん…」
 沙希はベッドの上の愛の顔を見た。他に方法はない。このままではみんな死んでしまうのだ。
「虹野さん!?」
 沙希がナースキャップを取り扉の方へ駆けていく。そこで一度立ち止まり、震える声で2人と1匹に告げた。
「もう…決めたの」
「待てよ、虹野さん!」
「待ちなさい!!」
「‥‥‥‥‥‥」
 廊下へ飛び出す沙希。公と結奈と、泣き続けるムクも後を追った。

 校庭は既に黒のワクチンで覆われていた。沙希はその中心に立つと、天空に手をかざす。
「虹野沙希!誰も犠牲にしないんじゃなかったの!?」
 結奈の鋭い声が飛ぶ。沙希は振り返ると、にっこりと微笑んだ。
「わたし、ナースエンジェルで本当によかったと思ってるんだ。だって、わたしの力で大好きな人たちの命を守ってあげられるんだもん」
「俺たちはどうなるんだよ!!」
 公が泣きながら絶叫する。
「地球が助かっても虹野さんのお父さんやお母さんや、俺は…っ!」
「…ムクちゃん、宇宙人…だよね。みんなのわたしに関する記憶を消してほしいの…」
「…分かったワン」
「何だと犬!?ふざけるな、そんなことさせるかァ!」
 沙希の手に力がこもる。
「やめろ、沙希ちゃん!!」
「…あは、公くんが名前で呼んでくれた…」
「何度でも呼んでやる!!やめろよ、まだ野球の試合だって残ってるじゃないか!お弁当だって一度しか食べてないよ!!俺…」
「うん…もっと、一緒にいたかったね。次に生まれ変われるなら、また虹野沙希がいいな…」
「沙希ちゃぁぁぁぁん!!」

 「聖なる力、聖なる願い、ここへ!!」

 光とともにナースエンジェルに変身する沙希。公たちの声ももう聞こえなかった。
「命の花、わたしの命をあげる…」
 バトンを手に回転する沙希。その体から命の花の種が降り注ぎ、地上に落ちて花を咲かせる。
「これが…命の花」
「地球が…命の花で満ちていくワン」
 はっとして全員が空を見る。光に包まれながら、沙希の体がゆっくりと消えていくところだった。
「沙希ちゃぁぁん!!沙希ちゃん!沙希ちゃぁぁぁん!!!」
 泣き叫ぶ公の前で沙希は消える。ムクも慟哭して天を仰いだ。
「救われたわよ、虹野沙希。あなたの命一つで、この全宇宙が…」
 自嘲気味につぶやく結奈。咲き誇る命の花が、いっせいに緑の光を放った。

 黒のワクチンは消えた…。



 変身の解けた沙希がゆっくりと目を開ける。あたりは一面の花畑。

「生きてる……」




<END>



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