この作品は「こみっくパーティ」(c)Leaf、
「ONE〜輝く季節へ〜」(c)Tactics、
「Kanon」(c)Key
の世界及びキャラクターを借りて創作されています。
ONE全般、Kanon真琴シナリオに関するネタバレを含みます。


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ONEの同人誌を作ろう!






 今月のこみパもつつがなく終了。ブースを片づける俺に向かって、手伝いもしない大志が尋ねてきた。
「お務めご苦労まいふれんど! して、次のジャンルは何にする?」
「ああ、ONEにしようかと思って」
「…まい同志、時代は既にAIRだぞ。同人界を制覇せんとする者が時流も読めぬとはなんと情けない…」(ハァ)
「うるさいな、俺は昨日クリアしたんだよっ」
 この系統には疎かった俺だが、やってみると結構面白かった。こみパで一ジャンル築くだけのことはあるな。
 ちなみに勧めてくれたのは意外にも玲子ちゃんだ。理由は全キャラをクリアしてよく分かったが。
「にゃはは〜☆ せんどークン、ONE本出すんだ〜」
 と、噂をすれば私服に着替えた玲子ちゃんが顔を出す。
「んじゃリクエストがあるんだけどぉ」
「いや、もう分かってるから言わなくていい」
「氷上シュン…」
「だーっ、だから言うなっつーに!」
「なによぉ、やおいやってくれと言わんばかりのキャラじゃない。エロゲ界では貴重なんだからね、ぶぅぶぅ」
 貴重でも嫌なもんは嫌だ…。
 横から大志が偉そうに指を突きつける。
「あいにくだな芳賀玲子。このジャンルの購買層はほとんどが男、当然ターゲットも男性なのだよ!」
「えーっ、男女差別だぁ。女性読者も大切にしてよぉ」
「黙れ! 和樹が描くのは詩子×茜18禁と既に決まっている!」
「決めんなっ!」
「ちぇー…誰かシュン×浩平本作ってくれないかなぁ」
 玲子ちゃんは少し寂しそうに去っていった。ごめんよ、だってあいつ渚カヲルのパクリじゃん。

 自宅に戻り、買ってきたONE本を読破して、熱が冷めないうちに方針をまとめる。
 初めてだから難しいことはせず、癒し系のいい話にしよう。キャラは…
「よぉっ、和樹っ!」
 と、いきなり玄関が開いて、ずかずかと由宇が上がり込んできた。
「聞いたでぇ、おね本作るそうやな」
「ここが人ん家だって知ってるか?」
「細かいことは気にせんとき。なぁなぁ、作るんやったら繭の本にしてぇな」
「相変わらずだな、ぷに萌えめ…」
「澪でもええよ」
 繭と澪か…、わりと好きではあるけどな。
「特に繭の本って全然ないんよ。不憫やろ、可哀想やと思うやろっ!」
「ま、まあ確かに」
「ED前の展開と、ラストの日記はいっちゃん感動できるやないか! これは不当な扱いやで! つーことで和樹、あんたが布教し」
「甘い甘い、ちょ〜おアマチャンねっ!」
 こみパ帰りらしくバッグを抱えた詠美が、いつの間にかふんぞり返っている。俺の部屋にプライバシーはないのか?
「誰が甘いんや。大バカ詠美」
「ふんだ、しょせんは物を知らないパンダね。繭の本なんて売れるわけないじゃない」
 そりゃまあ、俺もそんな気がする…。
「どアホっ! 売れる売れないは問題やない、愛があるかないかやっ! むしろマイナーキャラを敢えて取り上げる、それが真の同人作家やろがっ!!」
「なまいきなまいき〜! そんなの後で後悔するに決まってるんだからぁ! あたしの知ってる奴なんてねぇ、『究極のシホ本を作る!』とか言って300部刷ったくせに、表紙がシホなもんだから全然手にとってもらえず、在庫の山抱えて寝る場所もないんだから」
 うわっ、シャレにならねぇ。想像して、その恐ろしさに思わず身震いする俺。
「ひ、表紙だけでも瑞佳描いとこうかな」
「この…ド阿呆がぁぁぁぁぁぁっ!!」
 スパァァァァーーーン!!
 ハリセンが一閃し、俺は血を吐いてもんどり打った。
「そんなん羊頭狗肉やないかっ! 内容と違う表紙なんぞ、詐欺や! 裏切りやっ!」
「ふふーんだ、みんなやってる事じゃない。それどころか表紙だけ上手い奴に描かせて、中身はヘボンなんて日常ちゃはんじよっ!」
「くっ、テンプラ本にまで手を出すとは…。もうウチの知ってる和樹やないな」
「だ、誰もそこまで言ってない…」
「永遠なんてなかったんやーーー!!」
 由宇は大声で叫ぶと、永遠の世界、もとい神戸の山奥へ帰っていった。つーか、だったら自分で好きなだけ描けよ…。
「パンダの寝言なんて気にしなくていいわよ。あたしの言うとおりにすれば大儲け間違いなし! というわけでONEはやめてKanon本作りなさい。売れるから」
「プレイした事ないぞ」
「いいわよそんなの。キャラ設定知ってれば同人誌くらい作れるでしょ」
「お前と一緒にするなよ…」
「したぼくのくせになまいき〜! Kanonなら絵さえ上手ければ信者が買ってくんだからぁ。ごちゃごちゃ言わずに真琴本作りなさいよねっ!」
 慣れっことはいえ、相変わらずの無茶苦茶ぶりだな。
 ん…? 何かが引っかかって、頭の中の記憶を辿る。
「確か大志の情報では、一番人気はあゆと名雪という話だったけど…」
「ぎくぎくっ」
「『真琴本は売れんな』とも言ってたぞ?」
「あ、あんなヘンテコメガネの言うことなんて当てにならないわよっ。クイーン詠美ちゃんさまの流行感覚を信じないわけぇ!?」
 とか言いながら、後ろめたいことでもあるのか後ずさる詠美。
「ふみゅうっ!」
 案の定テーブルの足に引っかかって盛大に転ぶ。ぶちまけられるバッグの中身。真琴の本、真琴のバッジ、真琴人形…分かりやすい奴だなぁ。
「か、返しなさいよぉっ!」
 大慌てで引ったくり、半泣きになってバッグに押し込む。
「べ、別に真琴シナリオでボロボロ泣いたりしてないんだからぁ! あんなのただの狐じゃない! 鈴の音聞くたびに涙がこみ上げたりしてないもんっ! ふみゅ、ふみゅ…ふみゅぅぅぅんっ!!」
 勝手に泣き出すと、そのまま外へ飛び出してしまった。はぁ、しょうのない。真琴が狐とか言って…
 って思いっきりネタバレしていくなよ!!

 結局オールキャラ本になり、割といいネタも浮かんで調子よく描いていた。
 しかし毎日机に向かっていると、さすがに集中力も落ちてくる。
 特に頭にトーン貼るキャラ。瑞佳、七瀬、繭、澪、ついでに氷上…こんなにいるのかっ。こんなことなら茜をメインにするんだった…と後ろ向きな愚痴をこぼす俺。
「くそっ、七瀬と澪! お前らのリボンも面倒なんだよ!」
 とうとうトーンが切れて、痛くなった腕を回しながら商店街へ向かう。行き先はいつもの画材屋だ。
「よう、彩ちゃん」
「こんにちは…」
 そういえば彼女の漫画はトーン使ってるの見たことないな。あそこまで緻密になると必要ないのかもな。
「彩ちゃんはトーンとか使わないの?」
「…高いから…」
 い、いらんことを聞いてしまった。
「…今度は、何の本なんですか?」
「あ、ああ。『ONE〜輝く季節へ〜』っていうゲーム」
「葉鍵系ですか…。売れるんでしょうね…」
「…いや、その」
「いいですね、売れるジャンルは…」
 君の本が売れないのはジャンルのせいだけじゃないと思う…なんて言ったら呪い殺されそうなので黙っておいた。
「…でも私、ONEなら少しやったことあります…」
「え、そうなんだ」
「はい、玲子さんの家に行った時に、茜シナリオだけ…」
「感想は?」
「…あの後で消えた幼なじみが戻ってきたりしたら、きっと修羅場でしょうね…」
「‥‥‥」
 彩ちゃん、妙に楽しそうなのは気のせいか?

 そんなこんなで原稿は完成し、さっそく塚本印刷へ持ち込んだ。
「にゃぁぁ〜、女の子が可愛いですぅ〜」
「ありがとう、千紗ちゃん」
「元のゲームも見てみたいですぅ。どこで売ってるですか?」
「うぐっ」
 ち、千紗ちゃんて確か16歳だったよな。俺はなんて本を持ち込んでしまったんだ…。
「ま、まあ大人になれば分かるさ、な?」
「そうですか? そういえば、他にも同じキャラ描いてた人がいるですよ」
「なにっ?」
 彼女の指さした先に、印刷済みの同人誌が積まれていた。近寄って手に取ってみる。
 ぐはっ、表紙からして18禁エロエロ本だぁ!
「なぜか皆さん服着てないですね。寒くないんでしょうか?」
「‥‥‥。千紗ちゃん、君だけはそのままの君でいてくれ」
「にゃ?」

 いよいよこみパ当日。設営も終わり、見本誌チェックを待つ。
 お、来た来た。
「ども。今回はONE本です」
「まあ、それは楽しみですねぇ」
 パラパラと本をめくり、内容を確認する南さん。
「はい、結構です」
 俺に本を返し、にっこり笑って言う。
「サンジとゾロは出てないんですか?」
「それ違います…」
 そして開場。潮のように人が満ちていく。
 真っ先に来てくれたのはあさひちゃんだった。いつもありがたいよな。
「えと、あの、す、すごく良かったですっ」
「ありがとう、励みになるよ」
「あ、あたしもこのゲーム好きで、みさき先輩の話とか感動しちゃって…」
「うんうん、あれは良かった」
 急に本で顔半分を隠して、上目遣いに俺を見るあさひちゃん。
「え、えと、あ、あたしが声…当てるとしたら、誰がいいと思いますか?」
「え?」
 うーん、誰だろう? あさひちゃんの声は可愛い系だからな…。
「敢えて言うならちびみずか?」
「えいえんはあるよ、ここにあるよっ♪」
「合ってねぇーー!!」
「えぐっ…。あ、あたしってやっぱりダメ声優だから…。和樹さんに迷惑ばっかり…」
「い、いや別にそういう」
「ごめんなさい和樹さん!」(ダッ)
「あさひちゃんちがうんだーー!!」
 ああ、行ってしまった…。後で謝っとこう…。
 時間が経つにつれ、ぼちぼち顔なじみがやって来る。
「シュン君描いた〜?」
「ギャグでよければ一応…」
「繭の出番が少ないやんか」
「すまん、描いてみると動かしにくかった」
「真琴は?」
「ONE本だっつーに!」
 この分なら昼過ぎには完売しそうだ。次もONEにしようかな。
 なんてことを考えていると、場違いに健康的な奴が現れる。
「やっほー。見に来てやったわよ、バかずき」
「なんだ瑞希か。いつもこんな所までご苦労様」
「ふ、ふんだっ。売れずにピーピー泣いてるんじゃないかと思って、見物によっ」
 相変わらず素直じゃねぇなぁ…。
「なに? 今度はどんなマンが描いたの?」
「知らない奴が読んでも面白くないぞ」
「そ、そう…。そうよね、どうせあたしなんて部外者だもんね…」
 まーた、すぐわけわからん事でいじける。
 あらためて自分の本を眺めてみる。ああは言ったけど、一応そこそこは読めるかな? 永遠とか難しい話は入れてないし、それなりにストーリーもあるし。
「ほら、そこまで言うなら読んでくれよ」
「え、いいの?」
「そのかわり、感想聞かせろよな」
「う、うんっ! 覚悟しときなさいよ、つまんなかったら承知しないんだから!」
 瑞希は笑顔でそう言うと、大事そうに本を抱えて帰っていった。俺の同人活動はいろんな人に支えられてるんだなぁ…感謝。
「なあに我々の仲ではないか、まいはにー」
「おまえには感謝しとらん」

 律儀にもその晩、瑞希が感想を言いに訪ねてきた。
「電話でもよかったのに」
「う、うん。でも直接言いたかったから。
 ゴメン…あたし、今まで和樹のマンガを誤解してた。こんなにいい話を描けるんだね…」
「み、瑞希…」
 思わず目に涙がにじむ。マンガを描いてて良かった…。そう思える瞬間だった。
「と、とにかく上がってくれよ。お茶でも入れるからさ」
「うん、それじゃお邪魔しまーす」
 台所へ行き、お湯を沸かす。部屋から瑞希の声が聞こえる。
「でもホント凄いよね。全部和樹が考えたの?」
「い、いや。元ネタのお陰だって」
「そっか、元になったのがあるんだ…」
「ああ、そこのパソコンの側に置いてあるだろ? ONEって書いてあるやつ」
 そうだな、何より原作への感謝を忘れちゃいけないな。ONE、欠点はあるけどいいソフトだった。
 ‥‥‥‥。
 しまったぁぁぁぁっ!
 床を蹴って部屋に戻ると、案の定、瑞希がケースを手に肩を震わせていた。
「ふーんそう…。こういうゲームだったんだ…」
 見ているのはパッケージの裏。他のソフトよりは薄いとはいえ、特に左下の絵はヤバすぎるー! 恨むぞTactics…。
「お、落ち着けっ! 確かにONEはエロゲーだがエロはおまけみたいなもんであって、別になくてもっ!」
「あたし、エロゲーなんかの話に感動してたわけね…」
「ち、ちょっ…」
「和樹のバカ! サイテーー!!」
 バターーン!!
 壊れんばかりの勢いでドアを叩きつけ、視界から消える瑞希。俺はがっくりとその場に崩れ落ちる。
「無様だな、同志和樹」
「大志…。お前がどこから入ってきたのか突っ込む気力もないよ…」
「痴れ者め! 世間の偏見などに敗れてどうする!? お前はそんな気持ちであの本を作ったのか!」
「うっ…」
「エロゲーで何が悪い、これだって一つの文化だ! 違うか、違うか、違うかぁぁぁっ!!」
 そ、そうだ。一般人の瑞希がああいう反応なのは仕方ないが、俺がこのソフトを気に入っていることに変わりはない。18禁だろうが何だろうが、七瀬や瑞佳が好きだ! 俺はここにいたい。俺はここにいてもいいんだ!
「目が覚めたよ、大志…」
「わかれば良いのだ。お前の偉業を称えるため、大学でも皆に宣伝してやろう。和樹はエロゲーで同人誌を描いていると!」
「ヤメロこん畜生」
 まあ、同人は理解ある人向けに描くとして…。瑞希とはしょっちゅう顔合わせるしなぁ。どうしたもんやら。
「なあに安心しろ。あのような潔癖人からも、理解を得るための策はある」
「そ、その策とは?」
「PS版『輝く季節へ』を買ってくるのだ」
「それはいやだぁ!!」








<END>





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