愛ちゃんの小さなお茶会(後)







「めぐめぐ、誕生日おめでとぉー」
「おめでと」
「おめでとう、メグ」
「あ、ありがとう…」
 学校帰りのあのお店は、落ち着いた雰囲気が愛のお気に入りである。大好きな友だちに囲まれて今日は一番幸せな日のはずだったが、愛の視線はどうしても店の入り口の方へ向いてしまうのだった。
「ほらメグ、ケーキ食べようよ」
「う、うん…」
「写真撮ろう写真」
「うん…」
 笑わなくちゃいけない。せっかくの愛のための誕生会なのだから。みんなが祝ってくれてるのに、自分だけ落ち込んでるわけにはいかない。
「‥‥‥‥‥‥」
 愛はとにかく楽しもうと必死だったので、あやめの憮然とした表情にも気づかなかった。
 無理してなんとか盛り上げようと、相手の話に合わせる誕生日。
 ちょっとだけ勇気を出していれば、こんなことにはならなかったのに…
「あーもうやめっ!」
 あやめが突然机を叩いて帰り支度を始める。驚いた3人がなにか言おうとする前に、彼女は機関銃のようにまくし立てた。
「こんなのお祝いでもなんでもないでしょうが!少なくとも今みたいな愛見たくて集まったわけじゃなないわよ。みんなしてなに気使ってるのよ!」
 3人はしーんとなるしかなかった。確かにあやめの言うことももっともである、が
「それを言ったらおしまいだよ…」
「おしまいで結構!!」
 まだ渡してないプレゼントをカバンに詰めて、あやめはとうとう席を立つ。詩織は抗議の声を上げかけるが、なにを言ったらいいのか分からなかった。
「…これは、愛が元気になるまでのお預けにしとく」
 小さな一言を残して、彼女の姿は店外に消えた。見晴はなにかフォローしようとしたが、うつむいてるだけの愛にお茶を濁すのはやめた。
「…とりあえず、主人くんが来るまで待ってみようよ」
 見晴はそう言うと、顔を見合わせる2人の前で、あやめの残したケーキを丁寧に包むのだった。

 果たしてもう一方の当事者も、理科室で見事に落ち込んでいた。なんとか抜けだそうと「少し休憩しませんか」とか「なんだかケーキが食べたい気分ですね」とか口走っていたのだが、結奈がそんなくだらない逃げを許すはずもなかったのだ。
「ああ、俺は最低のダメダメ人間だ…」
「今更なにを言ってるのよ」
 結奈の冷静な指摘が不幸にさらに追い打ちをかける。うらめしそうな目で暴君を見て、公はぼそぼそと口にした。
「紐緒さんだって本当は美樹原さんのこと嫌いじゃないくせに…」
「‥‥‥‥‥‥」
 初めて詩織に愛を紹介されたとき、公は最初からなにかのペテンだと思ってた。なにぶん女の子にもてたことなどなかったので、手の中に残ったチョコレートすらうさんくさく見えたものである。
 しかし詩織に強要されて初めてデートした瞬間、公は自分の不明を深く深ーく反省した。一緒に動物園に行っただけでこの世で一番幸せそうな愛には、ひとかけらの嘘も感じられなかった。詩織に聞くと男の子とつきあうのは初めてだったそうで、つまりはそれがたまたま自分だったというのがあまりに不憫というべきか…。
「美樹原さんは本当にいい娘なんです。そりゃあもう、こんないい娘が世の中にいていいのかと思うくらい」
「…そうかもしれないわね」
「他の奴を好きっていうならどんなことをしてでも応援します!…でも俺だけは考え直した方がいいと思う」
「まったくその通りね」
「俺のどこがいいのかさっぱりわからないですよ…」
「私も全然わからないわ」
「そこまでハッキリ言うことないでしょう!!」
「ええい漫才やってるのあなたは!!」
 不毛な会話はやめにして、公は深々とため息をついた。実際、これでいいのかもしれない。自分がここでこんなことをしていれば、愛だって考え直すかもしれない。
「その通りね。別にあなたは彼女を好きなわけでもないでしょうし」
「それは…」
 少なくとも自信を持っていえ好きですとは全然言えない。公はもう一度ため息をつくと、実験の手伝いを再開するのだった。

 そして見晴も帰り支度を始める。今日渡せなかったプレゼントも、またすぐ渡せるときがくると信じて。
「またいつもの幸せいっぱいのめぐに戻ったら、4人でちゃんとお祝いしようね」
「見晴ちゃん…」
 愛はなにか言おうとして、でも結局なにも言えなかった。見晴はもう一度微笑んで手を振ると、ゆっくりと扉を押した。
 薄暗くなった外であたりを見回すと、道路のわきの柱の陰に、腰まで届くポニーテールを見つける。
「あ・や・め」
「わぁっ!?」
 すっとんきょうな声に、思わず見晴は吹き出してしまう。ふてくされて歩き出すあやめを、見晴もあわてて追いかけた。
「めぐなら大丈夫だと思うな」
「そだね」
「藤崎さんがいるもの」
「しゃくにさわるけどね」
 結局自分たちと似たようなものなのだろう。お互いにそう心の中で納得して、見晴はあやめに小さな包みを差し出した。
「何これ」
「えへへ、あやめのケーキの残り」
「そんなもの持ってくるなっ!」

「メグ、そろそろ私たちも帰ろう」
「う、うん…。ごめんね詩織ちゃん…」
 もう時計は6時を回っていた。いくら家のすぐそばとはいえ、これ以上遅くなっては家族が心配する。
 外はもう暗くなっていて、涼しい空気があたりを流れていた。けっきょく最後まで公は来ず、同じ空の下で結奈の実験を手伝っているのだろう。
「本当に腹立つよね、公くんて。昔からああだったんだから」
「そ、そんなこと…」
「ううん、どうせ今だって紐緒さんの言いなりになってるのよ。つくづく情けないったら」
「詩織ちゃん!」
 一瞬、2人同時に立ち止まる。あたりの空気がまた少し涼しくなった気がした。
「…私の好きな人の悪口言わないで…」
 それは本当に蚊の鳴くような声だったけど、詩織の胸を針のように突き刺した。青ざめた口からうめき声がもれる。
「ごめん…」
「あ、わ、私こそごめんなさい!なにもできないくせに偉そうなこと言って…」
 中学の頃はいつも詩織が助けてくれた。彼に紹介してくれたのも詩織だった。
 それではいけないと思ったから愛は彼を校門で待つようになって…勇気はあるものではなく、出すものだと知ったのだけれど。でも今自分の側に公はいない。どんなに頑張っても、だめなものはだめなのかもしれなかった。
 そのまま2人は黙って歩いていたが、近所の公園を通りかかったとき、ふと詩織が口を開いた。
「…メグは、彼のどこが好きなの?」
「え…」
 みるみるうちに赤くなるのが街頭の薄明かりでもはっきりわかったが、しばらくたって愛の視線が公園に向く。
「…昔ね、この公園に子犬が捨てられてたの」
 その声はどこか懐かしげで、いつものおずおずとした調子ではなかった。
「私はいつも動物拾ってきてたから、もうだめだって言われてて…。どうしようって、ずっとここで困ってたの」
 詩織もひとつのことを思いだしていた。中学の1年の頃だったろうか。
「そしたら向こうの入り口の方で行ったり来たりしてる人がいて…。男の子だから私は隠れちゃったんだけど、10分くらいたってからかな。子犬のところ行って、頭なでてあげてて…」
 その子犬は公の家では飼ってもらえず、彼は詩織に頼みに来た。詩織の家でもだめだったので、公と2人で飼ってくれる人を探したものだった。
「そのとき私の家にも来たよね」
「そ、そうだった!?」
「うん…。『一緒に探します』って言おうとしたけど、結局言えなくて…」
 その犬は今は近くの家で大きくなったけど、そのときの記憶は今も変わらない。そして詩織と出会って、公を見るようになって…。
「『あ、いい人なんだな』ってあのとき思ったの。それからずっと、変わらなかったから」
「…だから好きなんだ」
「うん…、今も大好き」
 激しくもないし、届いてもいないけど。愛の思いは静かに流れ続ける。
 スポーツや勉強がトップでなくても、彼は愛に優しかったから。愛には他になにも必要でなかった。
「大丈夫、幸せになれるよ」
 別れ道にやってきて、詩織は愛に保証する。
「公くんは本当に頼りないけど、悪い人じゃないことは確かだから」
「う、うん…」
 でも、だからこそ今一緒にいたかったけど、それはもう無理なのかもしれない。
 詩織に別れを告げて、愛は残り少なくなった誕生日を自分の家へと歩いていった。

 すっかり夜になった。理科室の窓のむこうの、どこかで愛が落胆してるだろう。あるいは泣いているかもしれない。
「(だって仕方ないじゃないか…)」
 結奈の命令である。逆らえば命はないかもしれない?
 いや違う。結奈はそんなことはしない。
「(美樹原さんだって、もう呆れはててるって)」
 そして本当に大事な友だちと、楽しく誕生日を過ごしているかもしれない。
 いや違う。そんなことができる愛ではない。
「(たぶん今ごろ泣いてる…)」
 自分のせいだろうか?自分のせいだろう。なのにこんなところで、いったい何をやってるんだろう。
「何をしているの。さっさと分析結果を出しなさい」
「紐緒さん…」
 公は苦しそうだった。どう言ったらいいのかわからなかった。
「美樹原さんのこと、本当になんとも思ってないんですか?」
「行かない理由をさんざん並べ立てていたのは自分でしょう」
 いきなり答えに詰まる。実際その通りだ。では行きたい理由はなんだろう?
「…彼女にだけは笑っていてほしいから…とかいうのでは、だめでしょうか…」
「だめね、くだらないわ。愛だの恋だの、つくづくくだらないわね」
 一瞬、公の頭の中でなにかが弾けた。
「そりゃ紐緒さんにとってはくだらないでしょうよ!でも彼女にとっては一番大事なことなんだ。俺なんかのために…」
 そして言葉が続かない。話ができるだけで喜んでいた愛。いつも一緒に帰りたいと校門で待っていた愛。そんな彼女に、自分は何をしようとしていたのだろう?
「俺、行きます!!」
「この私に逆らう気なの」
「ええー帰ってきたらどんな罰でも受けますとも!!でも今は紐緒さんがダメと言っても行きます。美樹原さんが待ってるんだから!!」
 人はそれを自暴自棄というのかもしれない。でも愛にあげられるものは他にはない。
 自分は不幸には慣れているけど、愛には笑顔が一番よく似合うはずだった。
「紐緒さ…」
 言いかけて、公は絶句する。今一瞬結奈が微笑んだように見えたのは気のせいだったろうか。
「処置無しね、あなたみたいな役立たずはここにいても無意味だわ。私の怒りが爆発しないうちにとっとと消えなさい」
「…紐緒さん…」
「聞こえたの?聞こえないの?」
「は、はいっ!ありがとうございましたっ!」
 白衣を着た少年は、弾丸のように理科室を出ていく。結奈はゆっくりと流しに近寄ると、自分用にコーヒーを入れた。いつもは愛が入れてくれたものだった。
「…おめでとう」
 理科室の窓から、全力で走る公の姿が見える。結奈はコーヒーの入ったビーカーを掲げると、声には出さずに祝辞を送った。


「それにしても、愛ももう18かぁ」
「早いもんねぇ」
 両親の言葉も、今の愛には申し訳ない。年ばかりくって中身の進歩しないことといったら。
「どうしたの愛ー。暗いよー」
「な、なんでもないよ」
「まあ愛ちゃん。心配事ならいつでも私に言ってちょうだいね」
「う、うん。大丈夫」
「ワン!」
 膝の上のムクをなでながら、愛はなんとか笑顔を作っていた。操以外の全員は、状況をうすうすと感じ取っていたのだが。
「…もうすぐ、8時ねぇ」
「そ、そうだね」
「…愛は、奥手ねぇ」
「お母さん、言ってることに脈絡がないよ」
「あら、そうだったかもねぇ。おほほほ」
 夫婦漫才も愛にはあんまり笑えなかった。別に誕生日だからどうということはないのだが、でもあと4時間しかない…。
 ピンポーン
「へーいへい」
 幸が玄関を開けると、走ってきたらしい詩織が息を切らせて立っていた。手にはプレゼントの包みを抱えている。
「やあっ詩織ちゃん。なにかくれるの?」
「め、メグはいますか?」
「し、詩織ちゃん…」
 親友の声にあわてて出てきた愛の姿は、やはりというか元気がなかった。
「メグ…本当にこのままでいいの?」
「え…」
「待ってるだけなの?来てくれないなら、迎えに行けばいいじゃない!メグはそのくらいの想い持ってるんだから!!」
「で、でも…」
 言われてみれば思いつきもしなかった。結奈の実験中にあの理科室に乗り込んでいくというのは普通思いつかない。
 確かに他に愛にできることはないのだけど、デートに誘うにも何日も時間をおいてようやく行動に移せる愛である。ましてやこんな夜中に突然…。
 それに、会いに行っても追い返されるかもしれない。すでに一度断られたようなものだ…。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 そのまま固まってしまう愛に、詩織はもう躊躇しなかった。今の今まで、親友のためになにかできたとは言い難かったから。
「メグ、右手は動かせる?」
「え?う、うん」
「左手は?」
「動くけど…」
「それじゃ、右足も動かせるよね」
 そこまで聞いてようやく愛は詩織の言いたいことを理解した。ゆっくりと右足を動かすと、玄関におろして靴を履く。
「ちょっとずつでいいから、前に進めるよ。今までだってそうだったじゃない」
「詩織ちゃん…」
 校門で待っていたことも、必死になって話しかけたことも、無駄にしたくないなら行動するしかない。
 自分の想い以外なにも持たないなら、せめて想いが伝えられるように…。
「まあ愛ちゃん、こんな時間にどこへ行くの!」
「み、操お姉ちゃんっ」
「不良よ、不良になってしまうわ!早く戻りなさい!」
 戻るどころか大急ぎで靴を履くと、愛は玄関を開け放った。
「お…お姉ちゃんの言うことを聞けないなんて不良のすることよ!」
「まーまーまーまー。愛ー、早く行けーい」
「メグ、誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとう!」
 詩織から渡されたプレゼントの包みを持って、愛は外へ駆け出していった。もう肌寒くなっていたけど、そんなの気づきもしなかった。
 右足を出して、左足を出して。そうすれば必ず前に進めるから!


 これで行き違いになったりしたら悲劇だったが、幸い通る道は同じだった。
「きゃっ!」
「わっ!み、美樹原さん!?」
「あ…、ぬ、主人くん…」
 交差点の角で激突しそうになるところを、公が急ブレーキをかけてなんとか切り抜ける。詩織からのプレゼントが落ちそうになるが、愛が必死で抱きとめた。
「だ、大丈夫だった?」
「は、はい…」
 会えない時間はほんのわずかだったのに、なんだか久しぶりのような気がしてならない。
 でも今は目の前にいるのだ。夢じゃない。
「たっ…誕生日おめでとう!」
「あ、ありがとうございますっ」
「…えーと…」
 ここでふたたび公は自分を呪う羽目になった。プレゼントが…ない。
「ごめん…」
「い、いいんですそんなっ」
 本当にそんなのどうでもよかった。彼がここにいるということは、自分に会いに来てくれたということだ。
「あの…、嬉しいです…」
「あ、いや…。遅くなってごめん…」
「い、いいんです…。あの、少し歩きませんか?」
「そ、そうだね」
 そして始まる真夜中のデート。いつもと変わらず気のきいたセリフは浮かばなかったけど、でもいつもよりもひときわ愛の笑顔は嬉しそうだった。
「そ、それじゃベンチにでも座らない?」
「は、はい…」
 いつのまにか足は公園に向いていて…小さなベンチに並んで腰掛けて、満天の星空を見上げる。
「それ、詩織から?」
「は、はい…。あの、開けてみますね」
 どうしてもほころんでしまう口もとを必死で押さえて、ごそごそと開けた包みから出てきたのはペアのティーカップだった。
「さすが品物選びがうまいなぁ…」
「は、はい…。詩織ちゃんだもの…」
「あ、ちょっと待ってて」
 カップを手にした公は自販機のところへ走っていって、戻ってきたときには紅茶が満たされていた。
「缶紅茶だけど…」
「お、お茶会ですねっ」
 チン、と可愛い音を立て、2つのカップが乾杯する。どんなに高いお茶よりも、この紅茶の方がおいしかった。
「ほら、見える?あの真上あたりにあるのが琴座のベガなんだ」
「わぁ…。織り姫ですね…」
「少し南にあるのが鷲座のアルタイル。左にある白鳥座のデネブと合わせて夏の大三角形。もう夏も終わりだけどね…」
 彼に寄り添って星の話を聞きながら、幸せな誕生日はゆっくりと回っていく。いるか座が真南にやってきたころ、愛がくしゅんと小さくくしゃみをした。
「さ、寒い?そろそろ帰らないと」
「ま、まだ大丈夫です…」
 立ち上がった公の袖をつかんで愛が哀願するような目を向ける。公はしばらく迷っていたけど、愛の手を取って立ち上がらせた。
「それじゃ明後日の土曜日に、一緒にショッピングに行こうよ。プレゼント買いたいから…」
「ほ、本当ですか?」
「う、うん。美樹原さんさえよければ」
「も、もちろんです!嬉しい…」
 空になったティーカップを丁寧にしまって、思い出の公園での小さなお茶会は終わった。愛が彼を好きになったときの思い出は、きっと告白のときまで話せないけど。
 愛の家までの短い距離を、動物の話などしながらゆっくり歩いた。
 玄関に着いて、もう帰らなくてはならないけど、また明日からいつでも会えるから。
「あの、今日は本当にありがとうございました」
「お、俺こそ遅くなって本当にごめん!」
 愛はにっこり微笑むと、ぺこりとお辞儀をして家の中へ入っていった。公はその場に呆然と立ったまま、自分の心臓の動悸を聞いていた。
「(いや、こうなる気はしてたんだけどさ…)」
 訳のわからない言い訳をしながら、でも公の心はもう迷わない。誰よりも何よりも、一番大切なものを見つけたから。
「…おやすみ、美樹原さん」
 公はそうささやいて、ゆっくりと自分の家へ戻っていった。もっともその足取りは、数分後にはスキップになっていたらしい。


「めぐちゃん、今度こそ誕生日おめでとう!」
「まったく、世話焼かせるわね」
「よかったね、メグ」
「う、うん…。みんな、ありがとう…」
 幸せそうな愛の頭には、昨日公に買ってもらったリボンが可愛く結ばれている。見晴とあやめからのプレゼントは、コアラのぬいぐるみと猫のステーショナリーだった。
「ねえねえ、それでキスくらいしたの?」
「し、しないよっ。話しただけ!」
「まあ、あの公くんじゃね」
「で、その主人は?」
「今日は紐緒さんのところで実験だって…」
 結奈様に逆らった罰として公は今まで以上にこき使われるそうだが、笑いながら話していたので本当のところはわからなかった。現に土曜日は一日中、愛の側にいてくれたのだから。
「あーもう、幸せでいいよねぇ」
「あ、あははは…」
「でも主人にはもっとしっかりしてもらわないとね」
「うんうん、私たちのメグをまかせるんだものね」
 そう言いながらみんなの顔は楽しそうである。愛自身もまだまだだけど、それでも今となってはなんでも大丈夫な気がしてきたあたり、自分はけっこう楽天主義者なのかもしれなかった。
 そしてケーキが運ばれて、3度目のお茶会が始められる。女の子たちのおしゃべりは、いつはてるともなく続くのだった。



<END>




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