このSSは「Wizard's Harmony」(c)アークシステムワークスを元にした2次創作です。



雪の中街は踊る (前) (中) (中の2) (後の1) (後の2)





「ねぇねぇおにーちゃん」
「さっきザウン食べたばかりじゃないか…」
 しかしことお祭りには誘惑がありすぎる。立ち並ぶ屋台に俺も腹が減ってきたが、なにぶん先ほどの予定外の出費で財布が苦しい。
 と、珍しく先輩が助け舟を出してくれた。
「うーむよしよし、それでわ草魚を釣りに行くぞ!」
「わーい、シンシアもやるー!」
「せ、先輩…大丈夫ですか?」
「たうぜんである!」
 草魚というのは言葉のとおり草の中に住む魚なんだけど、臆病で人前にはめったに姿を現さない。屋台でも時々出ていて、虹色ホタル草の実で釣るのだがなかなかコツが必要なんだよな。
「いよっお兄さん、それやったら安うしときまっせ!」
 聞き覚えのある声に人込みをかき分けると、ジョルジュの奴が草の茂った生けすの向こうで手招きしてるところだった。前ではマックスが一心不乱に釣竿を垂らしている。
「なんだジョルジュ、正月から商売か…」
「それが商人の心意気っちゅうもんや。ここは一発釣り上げてシンシアちゃんにええとこ見せたれや」
「うーん…あ、新年おめでとうマックス」
「やかましい気が散る!!」
 しくしくしく…。
 背の高い草に隠れて見えないが、生けすの中では草魚がごそごそと動き回っている。マックスはその辺りに糸を垂らすのだが敵は一向に食いつかない。しびれを切らしてふっと気を抜いたところへ、草魚がぴょいと飛び出してエサだけ持っていってしまった。
「ああっちくしょおーーーー!!」
「はっはっはっマックス君、明鏡止水が足りんのだよ」
「くっ、ジョルジュ!もう一回だぜ!!」
「いやそら大歓迎やねんけど、自分財布の中身は大丈夫なんか?」
「はっしまったマフィン買う金がねぇ!先輩、男の頼みっス金貸してください!!」
「おまえ、俺の財布の中身くらい見当つくだろう…」
「わんわんこわいーー」
「オレは犬じゃねぇぇぇーーーーー!!」
 暴れそうになるマックスを俺が必死で押さえている間に、ジョルジュが木の枝の釣竿を2本取り出してきた。
「どやルーファス、今やったら銅貨20枚にまけとくでぇ。シンシアちゃんもやりたいやろ」
「うんっ、シンシアやるやるーーー!」
「うーん、仕方ないなぁ…」
 と、ここまではジョルジュの計算どおりだったんだけど、先輩の性格をきっちり把握してないあたりまだまだ甘いよなぁ。
「だーれか忘れとらんかね」
「あ、いやー先輩にこないつまらんことさせられまへんわ」
「そうか、そこまで頼まれては仕方ない。釣竿を持ていっ!」
「そ、その今ちょいと釣竿切らしてまして…」
「実験台とどっちがいい?」
「持って来ます!(ああ!今日は厄日やぁーーー!)」

 そして数分後
「うおっ、また釣れたぜ!」
「すごいすごーーい!」
「容赦ってもんを知りませんね…」
「そ、そのへんで堪忍したってやぁーーー!」
「うはははははははははは!!」
 俺とシンシアはあっさり全滅したが、やはり先輩のやることは尋常でない。草の中にほいとエサを投げ入れ、グラサンを光らせて絶妙のタイミングで釣り上げる。既にバケツの中は、草から出て身動き取れない草魚で一杯だった。
「ジョルジュ君、替えのバケツを持ってきたまい」
「こ、この通りです!病気の母親にせめて土産でも買うてこと始めたこのバイト、このままでは土産はおろか顔見せることもできまへん。ううっ堪忍してぇなおっかさん!」
「ベッタベタの言い訳だな…」
 土下座して雪に頭をこすりつけるジョルジュに、マックスの目からだーっと涙が流れる。
「先輩!ここは笑って許してやるのが武士の情けってもんっスよ!」
「ねーデイルちゃん、もうやめようよー」
「駄目だシンシア!この人はやめろと言うとやる人なんだ!!」
「そう言われるとやめたくなるではないか」
 先輩はいきなりバケツを取り上げると、3匹を残して草魚をすべて生けすの中へ返してやった。
「ま、この3匹は君らで焼いて食べなさい」
「デイルちゃん…どうもありがとう!」
「おおきに!おおきにですわ!」
「先輩、俺は感動したっス!!」
 うーん、わりと優しいとこもあるんだなぁ。ジョルジュはさっそく網を取り出し、太陽石同様火の魔石である火星石に火をつける。
「それでは我々はそろそろ行くぞ」
「え、俺は草魚食べられないんですか!?」
「馬鹿者、3匹しかないだろう。では諸君達者でな!」
「おにーちゃんばいばーい」
「またアカデミーでっス!」
「よいお年をやで〜〜〜」
「ああっそんなぁーー」
 畜生優しいのは俺以外にだけかっっ!!

「せんぱーいどこ行くんです?」
「そうさのう…」
 あてもなく街をふらついていると、道から少しはずれたところで聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。あわてて走っていってみると、案の定チェスターとジャネットだ。
「うるせぇ!大きなお世話だっつってるだろうが!!」
「まったくわからず屋だね!オレは親切で言ってやってんだぜ!!」
「それが余計だってんだよ!!」
「ふ、2人ともケンカはやめろってば…」
「あ…なんだ、ルーファスか」
 なんだルーファスかはないだろぉ…。とりあえず俺たちは場所を移すと、2人から事情を聞いた。
「俺はあのローブ手に入れるって言ってるだけなのにこの女が!」
「だから外れるに決まってるんだよ!まだわからないのか!?」
「あージャネット君チェスター君いまいち話が見えんのだが…要するにあれのことかね?」
 先輩の指さした先には一軒の屋台がある。
「…ひもくじ屋…」
「俺は絶対に1等を引き当ててみせる!」
「だからあれは客寄せの飾りだって何度も言ってるだろ!」
「うるせぇ!やってみなくちゃわかるか!」
「はあ…まったくあきれたバカだね」
「ああ!?誰がバカだコラァ!!」
「く…くだらなすぎる…」
 思わず口のすべった俺を二人がキッとにらみつける。あわてて弁解しようとする俺の前に、先輩が横から口を出した。
「まあまあジャネット君、ここはチェスター君に好きにやらせた方が面白…もとい身をもって覚えるのではないかね」
「うっ…わ、わかったよ。勝手にしな!」
「けっ、最初からそう言やいいんだよ!見てな、気合で1等を引き当ててやるぜ!!」
 そう言って意気揚々とくじを引きに行ったチェスターは、末等の五星糖を1個手に戻ってきた。
「だから言わんこっちゃない…」
「う、うるせぇッ!!本当はこれがほしかったんだよッ!!」
 そうわめいて星形の砂糖の塊を無理矢理口に入れる。あーあ、甘いもの嫌いだって言ってたのに。新年早々血の気の多い奴だなぁ…。
「そうだ、よかったらみんなで武術大会を見に行かないか?たぶんラシェルあたりが飛び入りで出てると思うし」
「武術大会だぁ〜〜〜〜?」
「オレは行ってもいいよ」
「い、行かないなんつってねぇだろ!!」
「先輩はつまんないから来ませんよね?」
「馬鹿だなぁ、可愛い後輩の頼みを断る訳がないじゃないか」
「(来なくていいのに…)」
 先輩もさっき言ったように、武術大会のたぐいは本当にしょっちゅう開かれている。場所もラグリッツ広場という大きな広場だが、やはりお祭りにはつきものなんだ。
「でもジャネットがチェスターの世話焼いてるなんて意外だったなぁ」
「ったく、危なっかしくて見てられたもんじゃないよ」
「ああ!?んだとコラ!!」
「これからチェスターの面倒はぜんぶジャネットにまかせるかな」
「じ、冗談じゃないよ!!」
「こ、こっちの方から願い下げだぜ!!」
 なんて話しながら広場に到着する。さすがに人だらけで全然見えない。
「うーん、どうするかな…」
「ルーファス、押してもだめなら上を見ろというのだよ」
「なんすかそれ…」
 しかし言われた通りに広場の名物である巨大な七界樹がある。その7本ある大きな枝には人が止まって観戦していたが、さすがに一般人には登れないのでまだ空きがある。フライを使える俺たち4人は、とりあえず樹の下まで行ってみることにした。
「おーい、ルーファスセンパーイ!」
 不意に頭の上から声がする。見上げるとラシェルが大きな樹の上から手を振っていた。
「この枝空いてるよー!」
「早く早く、試合始まってるのよ」
「ハッ、邪魔者が来ちまったか」
 あれ、アリシアとレジーまで…。ディナーに行ったんじゃなかったのか?
「俺はそのつもりだったんだけどね。気まぐれなお姫様は、どうしてもお友達が気になるんだとさ」
「あらレジーくん。いい男ってのは女の子の友情を尊重するものよ」
「お友達?」
 フライで樹の上に上がった俺たちが見ると、闘場では真琴が拳を構えてじりじりと間合いを詰めているところだった。しかも相対して竹刀を構えているのは…
「げ、蒼紫じゃないか」





続く



続き
感想を書く
ガテラー図書館に戻る
アカデミーに戻る