○2% さん
- 01 にじのむこうのおはなし (採点:7)
- 暗喩ベースで構成されていく物語というのは、文章ならではの醍醐味ですね。とても綺麗なおはなしでした。作品の配置は偶然の結果とはいえ、こういったポエティックな作品はリストの最初にこそ相応しいと思います。
ただ、このテーマだからこそ、普段なら気にならない些細な言葉遣いが気になったりもします。例えば、序盤の「目線」――ラフな作品なら普通に使われるスラングですが、綺麗な物語の雰囲気作りにはマイナスです。そういった細部が貫徹されていれば、もっと魅力的な作品になったのになぁ、と。
- 02 黒船 (採点:9)
- 笑! テンポの良い会話、脱力を誘う駄洒落オチ、大好きです。や、元々落語みたいなものが割と好きなんですが、すごくそういう雰囲気が出てました。知ったかぶりの先生というネタは伝統的な「ちはやぶる」とか「転失気」の系統ですが、「黒船」という歴史上の一大イベントを持ってきたあたりが効いている印象(こういう小噺ってどこかにありましたっけ?)。これに、噺家が喋っているかのようなメタなノリが少し入っていれば言うことなかった、かなぁ。
【紹介文】確かに、この内容なら紹介文はこれしかない……使い方が洗練されている感じです(「続きを読む」の小さな枠で長文を読むのは割と大変だったりもしましたが……!)。
- 03 遵守 (採点:6)
- 旧世紀の雰囲気とベタな展開が大好きです! ただ、(邪推してしまいますが)作者さんは普段は違う文体でお書きになっているのでしょうか。読みにくいわけではないけれど、ところどころ、地の文の簡素で硬めの言葉遣いが破綻しているように思えました……や、そういう印象があるというだけなのですが。
- 04 海神の矛 (採点:5)
- テーマは凄く興味深いのですが……! 残念ながら、説得力が感じられませんでした。このテーマは、相当知り尽くしている書き手が、相当注意深く色々な要素を切り捨てない限り短編では書き切れないテーマだと思います。それでいて、書き切れないからといって長編にすると魅力が薄れてしまうテーマだとも思います。
【紹介文】「人が担ぐに」は「人が担ぐにゃ」の方がリズムが良くないですか?
- 05 理屈じゃないこと (採点:5)
- 理屈じゃないけど二人は別れます、という点について素直に飲み込めるだけの説得力はありましたし、ラストの「愛しています」はベタながらも好きな演出でした。
でも、少し物足りないところも。具体的にいうと、「小さくても何故か腹が立つ事」や「不満があったってどちらかが受け入れたり譲ったり」のエピソードを具体的に紹介して欲しかったなぁ、というあたり。
- 06 For tune the rainbow (採点:7)
- 知ってはいけないことなのかもしれませんが、やっぱりお嬢様とピアノの関わりについての具体的なエピソードを読みたかったなぁ、と思ってしまいます。でも、素敵なおはなしでした。普段は百合を敬遠している私が楽しんで読めたのですから間違いありません。
- 07 事実上悪真実上正義 (採点:4)
- 読んでいて、王道だ! と感じました。や、こういうのが「王道」だと思えてしまう現代は病んでいる、と思わなくもないのですが……こういった(ある意味で)真っ直ぐなストーリーは大好きです! というか、勇者と魔王ネタが大好きです!
でも、私の感覚ではタイトルの語呂が良くないように思えます。真実上ってなんやねん。
- 08 パースペクティブ過剰 (採点:8)
- まず、ここまで文字を詰め込んでおきながらスムーズに読める文章に仕上げてくる技量と注意深さが凄い。段落毎に視点が変わるうえ、段落間の繋がりを直接示す接続語さえないのに、曖昧性なく場面が繋がる(どこかに騙しがあって私がそれに気付いていないのでなければ、ですが)――書き慣れた人でも、かなり注意して構成しないとこれは作れないんじゃないかと思います。
で、内容について。勝手な決め付けですが、私はこのおはなしを「分からない」を分かるための作品だと受け取りました。描写されなかった事件の内容を深読みしたいならいくらでもできますが、傍観者でさえない「通りすがり」の視点に終始しているのは、現実世界に遍在する「認識と理解への断絶」を描きたいのだとしか思えなかったからです。このおはなしにミスリーディングがあるとすれば、読者に「作中人物には理解できないが、提示された情報を俯瞰して組み合わせることのできる自分には理解できるかも」と錯覚させる点でしょう(あるいは、作者さんがそうした俯瞰と解釈を望んでいらっしゃるのだとすれば私は早々にリタイアした悪い読者ということになりますが……)
- 09 テロリスト長沢 (採点:6)
- うわ、もう、汚いなぁ……!
――と、率直な印象はさておき。内容の割に描写を抑えすぎではないでしょうか。ギャップを狙っているのかもしれませんが、一読者としてはもっと暴走した語り口で同じストーリーを読みたいと思いました。
- 10 いろはの森 (採点:7)
- 舞台をSFにした意味がないとは思いませんが、その設定を生かし切れていないとは思いました。残念ながら、現状ではSFならではの「ノスタルジック」に届いていない、という印象です(実在の地名を出してくるあたり、惜しいところまで行っているんですが……あとこれ、近未来じゃなくて遠未来ですよね?)。
でも、少女期の普遍的な切実さは伝わってきましたので加点します。あと、作者さんは蟲師とかお好きですか?
- 11 「やっぱりさ、天使っていると思うんだけど」 (採点:6)
- 特に前半、持って回ったような表現を使いすぎじゃないかなぁ、と思いました。あるいは思春期の気恥ずかしさを表わしたいのかもしれませんが、ストーリーが素直なのに地の文まで回りくどい言い回しになっていると違和感があります。でも、後半は読みやすかったし、全体としての物語も爽やかでした。
- 12 フォーカス・レンジ (採点:5)
- キャラクターは紋切型ながらも魅力的だし、非常に「良い話」ではあるのですが……なんだろう、ジーンと来るものがありませんでした。物語に入り込めていれば、ラストの「点へ昇ったのだ」でジーンと来たはずなんですが。実際には「誰が上手いことをry」と思っただけでした。惜しい。
- 13 僕の後ろに誰かいる (採点:4)
- 読み進めるまで、こんなにシリアスなおはなしだとは思いませんでした(申し訳ありません)。洗髪の最中に後ろから視線が! という普遍的な錯覚を起点をしてコミカルに繋げるのかなぁ、とばかり。多少読みにくい文章なのですが、パラノイアっぽい雰囲気を出そうとしているのであれば成功だと思います。
ただ、「」を使う台詞と使わない台詞の物語における役割の違いが分からなかったので、私はこの作品を読み切れていないのかもしれません。
- 14 ずっとずっと言えなかった言葉なんだけど、この世界で僕は幸せだった。もうこの世界は消えてなくなってしまうけど君は一人でも大丈夫だから、一人でも歩いていけるから、いつでも僕はここにいるから。でも最後にこれだけは言っておきたかった (採点:5)
- ハッピーエンドが好きなので、このラストを支持します(ページ分けのタイミングから考えると、2ページ目は作者さん自らの手による二次創作のような位置付けなのかもしれませんが……)!
誤字や用語の誤りが多かったり冒頭の説明が冗長だったり「交通事故」という安直な小道具を使用していたりといった欠点もありますが、精霊「ナイトメア」という設定と夢らしく繰り返される夢の描写が切実で印象深い作品でした。
- 15 打ち上げ花火、下から見た日 (採点:6)
- 各所で「ハルヒみたい」という意見を目にしてから読んだのですが、キャラクター的にもシチュエーション的にもあまり「ハルヒみたい」とは思いませんでした。むしろ「星之スミレ(@菫画報)みたい」と思ったり(マイナーで失礼。というか、名前が似てるだけだ)。
「26発なんて、あっという間だった」が妙に印象深かったので少し加点を。
- 16 さくら (採点:7)
- ラストがきちんと締まっているし、必要以上にグロテスクな描写に流れていないあたりが好印象です。この狂い方を見るに、少女たち以上に「僕」の方が操られている、というかむしろ「僕」は桜の化身なのかな、とも思うのですが……(そうすると最後の2行で「桜」をも超越した存在が暗示されてしまうので、やっぱりそれよりは緩い想定なのでしょうか)。
- 17 19140901 (採点:7)
- 雰囲気が濃くて、印象深い作品でした。超絶に高級な着物を纏った少女を浜辺に無造作に座らせてしまうあたり、正木氏も大出氏と同様、最初から半ば以上取り憑かれていたということなのでしょうか……?
ただ、終盤のアナグラムは蛇足だったかもしれません。彼女と彼女たちとの繋がりが強引に示されてしまうと、物語の美しさが削がれてしまうようにも思います(あるいはそこが作者さんの狙いなのかもしれませんが)。
- 18 生命 (採点:6)
- ヤバい。読んでいるうちに頭がおかしくなりそうでした。不思議な空気。
- 19 エンジェル・サイズ (採点:8)
- ひたすら描写が淡々としているためか作中で起こる事件の割にインパクトは弱めでしたが、ストレートに面白い話でした。お約束なキャラクター+シチュエーション+展開なので安心して読めます。流行なのかライトな死神モノが毎回のように登場するのですが、きちんとまとまっていれば飽きません。
- 20 今日見る明日 (採点:4)
- ピュアだ……! なんだか、内容も文章も純粋で。これを素直に楽しめない自分に気付いて打ちのめされます。皮肉ではなく、とても真っ直ぐなおはなしだと思いました。
でも、ストーリーらしいストーリーもないし、インパクトもないのであまり高く評価はできません。ごめんなさい。
- 21 雪国 (採点:4)
- 「列車」に寓意を持たせて深い内容を語るというのはとても小説らしい題材だと思いますが、ラストで「私」がその寓意の方をダイレクトに喋ってしまってい(るようにみえ)て少し興ざめでした。徹頭徹尾、暗喩で進めてほしかった……
- 22 俺の押しかけサキュバス (採点:5)
- 「また別の話」の方を読んでみたいです。出会い編もクサい台詞の応酬で楽しげでしたが、別の話の方が面白そう。
【紹介文】初挑戦でこの内容なら、そりゃ赤面もするでしょう……拍手!
- 23 現状改善系恋愛呪文 (採点:6)
- 序盤と中盤に出てくる丁寧語の語り口の意図は測りかねますが(とても読みにくかった)、ラストは……ええ、確かに衝撃でした。これは切ない(ただ、「せつない」と明言しない方が良かったと思います>ラスト)。
- 24 結婚適文句 (採点:7)
- 言葉が浮かばない……! や、こういう無茶なノリを無性に好きな自分が割と嫌いなんですが、それでも好きなものは好きなんです。海苔が口の中に貼り付かないようにとか、小ネタのセンスにも非凡なものを感じます。オチにも気持ち良く脱力しました。ただ、散々突っ走ってすっきり落ちるソツのない展開のためか、読後の印象はちょっと薄めかも……
【紹介文】実は紹介文にかなり萎えつつ本文を読み始めたんですが、読んでいるうちにこれで良いのかもなぁと思えてきました。白々しい感じが本文の妙なノリにマッチしているような。
- 25 マージアここに在り (採点:5)
- (切れないナイフとか)妙に神話的な小道具が出てくるあたり、深い含意があるのかもしれませんが、よく分かりませんでした……ただ、物言わぬマージアの圧倒的な異種性は感じました。
- 26 僕らは分かたれたアンドロギュヌス。 (採点:8)
- まず、「死のうと思い立ち」「南十字星」から「総武線」に繋がるギャップで物語に惹き込まれました。あまつさえ列車と会話まで始めてしまって、このストーリーはいったいどこまで飛んで行くのか、と。最後に「小岩」を持ってくるセンスも秀逸。なぜかこの企画では「不思議電車」系の作品を良く見かけるのですが、その中でも特に面白いイメージを形成していたと思います。
とはいえ、聖書関連の固有名詞と総武線沿線の固有名詞を説明なく使っていて、さすがに少し敷居が高いかもしれません。あと、ラストの「[〜] is end.」はダメでしょう。変なところで変なものをリスペクトしなくて良いです。
- 27 ヤンキー女と美少年 (採点:6)
- 分かりやすくて読みやすくて、楽しげなおはなしでした! 漫画みたい。石郷岡さんより森田さんの方がワルっぽく見えたりするあたりもお約束。ここまでコテコテに書くならいっそラストも「豆腐のカドに頭をぶつけて」くらいまで定型フレーズにしてほしかったところですが、面白かったからOKです。
【紹介文】ストレートな紹介文で好印象です。捻った紹介文も良いですが、こちらの方が読み手には優しいですね。
- 28 Forest Note (採点:4)
- うーん、舞台設定は凄く魅力的なんですが……やっぱり消化不良気味です。曖昧な物語というのも良いものですが、この舞台と人物だとストレートで具体性のある筋書きを期待してしまいます。
- 29 Blind (採点:8)
- 1ページ目の日常会話だけは、もう少し書き方を工夫できないかなぁ、と思いました。テレビドラマのタイトルを出さず、「トリビア」の名前は出すのに内容は出さず……こんなおしゃべりはあり得ないでしょう。登場人物たちが明確な固有名詞を持っているだけに、そのあたりのリアリティのなさが目立ちます。
とはいえ、気になったのはそのくらい。4ページ目、まったく救えない展開をあっさりと書いてしまえるあたり、(かなり強引でしたが)勢いで押し切られました。5ページ目、タカくんの思考にもミキさんの思考にも、同意はできないのに、酷く共感してしまったり。
や、ラストを読み切るまでは4点くらいかなぁ……と思っていたのですが。「どうにもならない」としか言い様のないラストに妙なインパクトがあったので加点します。このストーリーで読後感が悪くならないというのは凄いです(各所で「ラストが物足りない」というコメントを目にしたので追記してしまいますが、個人的にこのラストは現状で過不足ないと思っています)。
- 30 限りなき夏 〜A Frozen Summer〜 (採点:7)
- 読み込めば深いテーマが見えてくるのかもしれないとも思ったのですが、表層が親の借金で水商売という紋切型なので読み込む気になれませんでした(それにしても、未成年+水商売+傷痕って……)。
とはいえ、キャラクターやシーンにはそれぞれインパクトがあって印象に残っています。崖上のシーンとか、ベッドシーンとか(笑)、読んでいてかなり盛り上がりました。潔癖症の異常性の描写も、適度に面白く仕上がっている感じです。
- 31 正義の味方の悩み (採点:4)
- 優等生でエキセントリックなヒロインは割と好きですし、どこかで見たようなお約束な配役も好きです。ただ、ちょっと台詞回しがクドすぎるのと展開が唐突すぎるのとで、物語に入り込めませんでした。
- 32 俺たちいつも仏恥義理だぜ、夜露死苦! (採点:9)
- 男の子可愛いよ男の子。ホントにキュート! や、先生も由紀ちゃんも可愛いけど……!
- 33 射的と祭りと悪党と (採点:6)
- >ギャルゲーにありがちな
お前が言うなお前が! や、もう、バカすぎて、ついていけません(良い意味で)!
【紹介文】
>語るべきことは一つ
何を語りたいのか分かりませんでした……ごめんなさい! やっぱりアレですかね、世の中ツンデレ幼馴染だよ君ィ、ってことですかね。
- 34 心の無い少年と、美しい夜。 (採点:4)
- オーソドックスながらも、深い題材。ただ、設定のインパクトで勝負できるようなテーマではないので、このベーシックな設定を生かしてどうストーリーを描写していくかが決め手になると思うのですが……残念ながら、その点では少し物足りない印象が残ります。タイトルと紹介文から容易に予想される展開を超えた何かが欲しいところ。好きな題材だけに、惜しい。
- 35 西と東、白と黒 (採点:6)
- 興味深い舞台設定。主張があからさますぎて少し押し付けがましく感じることもありましたが、一種の童話だと思って読めば飲み込めます。
ただ、白い国の方で事件らしい事件が起きないのはやっぱり物足りないかも。容量も余っているようですし、後半にも何らかの(白い国ならではの)アクシデントが起こればバランスが良いのではないでしょうか。
- 36 ソラアイ (採点:3)
- これ、舞台はどこなんでしょう。現代日本でないのは間違いないにしても、時代を匂わせる描写がないので……パラレルワールドかな、とも思うんですが。世界設定の説明が少なすぎて、最後までどういうおはなしなのか分かりませんでした。
……あ、でも、タイトルは目立ってました(今回、このタイプのタイトルは他にありませんでしたね)!
【紹介文】世界に入り込めなかったので、ハートがフルにはなりませんでした……申し訳ありません。
- 38 山田仁の行き先 (採点:7)
- なんだこの山田とかいう男はっ、幽霊とはいえ老人に対して居丈高に振る舞ったりして(しかも、口調だけ丁寧なあたりがタチ悪すぎ)! とか、なんだこの大橋とかいうジジイはっ、初対面の人間の知り合いをケシカラン呼ばわりするなんて失礼な! とか、礼に欠ける登場人物たちのことはあまり好きになれなかったのですが。そのへんは、幽霊業界は殺伐を信条としているのだろうということで飲み込みました。
何よりシチュエーションが面白かったし、登場人物たちの動機にも筋が通っていて、(人物の性格の件を差し引いても)分かりやすく読後感の良いおはなしだったと思います。「旅はまだ続く」という雰囲気の語り口も、ストーリーの広がりを感じさせて好きです。
- 39 イケナイ☆化学実験! (採点:6)
- ためになるなぁ……高校時代にこれを読めていれば、化学がもっと好きになっていたんじゃないかと思います。ネタそのものは親父ギャグの好きな化学ティーチャーが授業中に垂れ流す与太話級なのですが、BL結合するとこんな凄いことに!
ところで、作者さんは中高一貫校の御出身ですね(……あるいは在学中)?
【紹介文】全然、ほどよく、ないです。
- 40 不思議な君とのシンパシー (採点:4)
- これは確かに凄い! ぜんぜん尺が足りてないよ! 長編で書いてください!
でも、藤咲さんは素敵でした!
- 41 No River to Cross (採点:8)
- あー、なんだっけこういうの……あ、すれちがい通信だ! と、蛇足はさておき。プロの演奏家に対して「誰が聴いたか知れ」と命じる男は現代の感覚からすると少々気色悪いのですが、そのへんも時代の違いだろうということで、さておき。
音楽共有機能という小道具の設定とその使い方が粋でした。ただ、「ノルウェイ(ノルウェー?)の森」を未読なので詳細なコメントは避けます。
あと、純粋に設定に対する疑問。作中のiPodの無線LAN関係って具体的にはどういう機能なんでしょうか。認証+購入とありますが、作中で流れる曲は、付近にいる他人のiPodが「お薦め」している曲ですよね? そうすると、主人公は曲を手当たり次第に購入しまくっているということですか? それとも、近くにいる間は試聴扱いになるとか?
- 42 焚火 (採点:7)
- 衝動と後悔と、二人の間の微妙な齟齬と。兄妹、暴力、火事と題材は軟派ですが、色々と深く考えてみたくなる作品でした。突き放した感じのタイトルも秀逸。
- 43 仮面を忘れた不登校児 (採点:4)
- いかにも「周りが見えません」という雰囲気で独善的に綴られていく地の文の語りが、「俺」の本質的な非社会性を象徴している感じ。その点、筋の通った物語だったと思います。
【紹介文】意味が分かりませんでした……ごめんなさい。
- 44 おかめと天狗とアインスタイン (採点:9)
- うはー。この戦前の雰囲気、好きです。ちょいと誤字がありますが、ラフでもなく硬くもない文体が一貫していてお見事。相対性が云々とかいう、しょうもない駄洒落もそれっぽい感じ。オチに文化勲章かよ! という唐突さまでそれっぽい。「それっぽい」としか書けなくて恐縮ですが、素敵なおはなしでした。
- 45 おかえり (採点:7)
- 「良い話」でした。記憶をテーマにしたストーリーは巷に溢れていますが、綺麗にまとまっていれば素直に楽しめます。無闇に悲劇だったり安易に救済されたりしないラストが良い感じ。
- 46 ザ・ロケットフィンガーNO.5 (採点:7)
- 面白そうなのになぜか読む気の起こらないタイトル(良い意味でも悪い意味でもなく)だったので心配しながら読み始めたのですが、蓋を開けてみれば落ち着いた内容でほっとしました。でも、最初の3行に誤字らしき箇所が複数あったので、印象が……
- 47 ポテト (採点:5)
- ……や、ごめんなさい。どう感想を書いて良いのか分かりません。つまらなかったわけじゃないです。
- 48 タクシー (採点:5)
- ブラックなショートショートとして、よくまとまっているように感じました。でも、引用がノー・マンズ・ランドにドニー・ダーコだと、引用負けしてしまうような……! や、ドニー・ダーコは観たことないんですけど、多分。
あと、この作品、筋書き自体はベーシックなのですが、雰囲気が(前回までの)この企画ではあまり見たことがない感じで新鮮でした。
- 49 バレンタイン事変 (採点:4)
- うーん、ギャグ作品にこんな感想を書くのもどうかと思いますが、説得力がありませんでした。バカにはバカなりの論理が必要なんじゃないかと思います。このストーリーにはそれがありませんでした。
- 50 2月30日にいたチャコ (採点:5)
- 不思議で優しくて、読後感の良い作品でした。ただ、2人の性格が掴めなかったのが痛かったかも。チャコは不思議少女なのでそれでも構わないのですが、「私」が何を考えているのか良く分からなかったので(悪い読者で申し訳ありません)……このおはなしを素直に楽しめたとはいえません。
- 51 夏の風 (採点:4)
- 兄妹の仲の良さがひしひしと伝わってきました。楽しそう。クーラーが直ったら、二人で高校野球をTV観戦しちゃったりするのかなー、とか想像しながら読みました。
- 52 豚 (採点:7)
- 惜しい! と言いたくなる作品。終盤、「私」が田舎を離れるまでは、強烈におどろおどろしくも印象深い展開と描写でした。会ったこともない老婆を「殺そう」と何の婉曲もなく提案できる主人公がひたすら危うくて、いっそ清々しいくらいで(耳を切り取ったのは、遺体の損傷が激しすぎて「耳がなくなっていてもバレない」からだったのか、それとも単に常軌を逸した興奮の結果なのか……いずれにしろ怖すぎる)。
ただ、ラストの物足りなさは……やっぱり容量不足でしょうか? それとも、殺人鬼の末路は紋切型でしかありえないという皮肉……?
【紹介文】このタイトルと内容なら、確かに「紹介文なし」が正解だと思います。
- 53 瓦礫の森を哀れむように (採点:8)
- やっぱりハードボイルドは格好良いなぁ……自転車のくだりにはもう少し工夫の余地があると思いますが、しっかりサスペンスになっているし、ステレオタイプの混ぜ方も丁度良くて、完成度の高い物語だと思いました。
【紹介文】本文と合ってないですよー。
- 54 メルヘン非常口は暖色のライティング (採点:6)
- 「どうして心は汚れるのかって? おかしなことを。世の中に汚れないものがあるなんて、どうして思えるんだ?」――と、なんとなく、そんな胡散臭い台詞が浮かびました。普通の感想が書けなくて申し訳ありません。
あと、
>「カゴメの」
>「野菜生活ね。はい」
は今期最も印象深いフレーズでした!
- 55 饗宴 (採点:7)
- 幻想と呼ぶには鋭敏にすぎ、寓意を読み取るには絢爛にすぎる描写。分からないのに感想を書き付けるのもどうかと思いますが、深く読み込むこともなくただ文章のリズムを楽しみながら読み進めました。「言葉使い師」「球体関節人形」といった長い単語がリズムを崩してしまうのを嫌悪しながら、あるいは途切れたリズムのために否応なく際立ってしまうそれらの単語を視神経の奥へ流し込まれながら。
- 56 Show must go on. (採点:4)
- 「二年」が「ニ年」になってる……! と、重箱の隅はさておき。10年も付き合っていて別れもせず結婚もしない人間が四人中二人もいるなんて割と異常なんじゃ……と、蛇足もさておき。
冒頭から幽霊だと分かるように書き始めたからには、ラストでもう一展開か二展開はほしいところ。でも、友情のイメージはとても素敵でした。
- 57 エース (採点:4)
- 青春スポーツ小説は貴重な存在。まずは、このテーマを選択なさった作者さんに拍手を。
ただ、理由は分からないのですが、このおはなしにはまったく爽やかさを感じることができませんでした。試合場面の描写が端的すぎたり、心情描写がクールすぎるからかなぁ、という気がするのですが……題材が題材だけに、その点が致命的。
とはいえ、試合展開のビジュアルは適切に浮かんできましたので、スラムダンクみたいなストーリーを目指していらっしゃるのだとすればある程度は成功していると思います。
- 58 飽くなき赤色 (採点:4)
- 大筋では特に「良く分からない」おはなしだとは思いませんでしたが、細かいところでは疑問点が多いです。3人の人物の名前にだけわざわざ(一見不要な)読み仮名が付いているのはどんな伏線なのか、とか。中盤、唐突に現れる丁寧語の3行は何なのか、とか。
あと、いくら何でも警察でのシーンが都合良く展開しすぎです。警官を出し抜くための作戦がもっと冷徹に、高度に練られたものであれば、終盤の衝動的なアクションとの対比でもっと面白くなったと思うのですが……
- 59 Day after tomorrow (採点:5)
- 母校にひとり忍び込みビールを飲む、という情けないビジュアルが好きです。
- 60 「1万2000円は高すぎる」 (採点:4)
- 突拍子もないタイトルというわけではありませんが、タイトルに惹かれました(オリジナルと思われる「9マイル〜」は未読なんですが)! 惜しいことに、謎物語としてはミスディレクション的な要素が何もないので少し盛り上がりに欠けるような気がするんですが……っ。
あと、主人公の性格が掴めませんでした。地の文とセリフで人格が違う……というか、作り物めいた感じ(や、フィクションが作り物っぽいのは当たり前なんですが)。
- 61 山小屋語り (採点:7)
- うへぇ、怖いよぅ……上手く表現できませんが、酷く無力感を覚える作品でした。文体の面での試みも興味深くて、この物語が他の方々にどう評価されるのか気になります。
- 62 格闘少女 (採点:4)
- 「格闘」は詐欺だーうわーん! というか、「私」の言葉遣いが凄く乱暴で怖いんですが、スケバンさんなんでしょうか……
- 63 未来視の見る夢 (採点:9)
- 風景、テーマ、構成、コノハちゃん――どれを取っても、私の趣味にピンポイントです。本当にありがとうございました! 内容も過不足なく書かれていて、分かりやすい印象です(普通に読んだら割と「投げっ放し」の要素の多い構成にも感じられるのですが、この作品に限っては不思議とそれが物足りなさに繋がりませんでした)。
や、確かに難点もあります。誤字とか。フルネーム連呼とか(狙って連呼してるのかなぁ……)。でも、それらは些細な問題で、ほとんど気になりませんでした。
【紹介文】そっけない記号の羅列だけで物語のスケールを倍加している感じ。少なくともこの欄の使い方でいうなら、他の作品を大きく引き離してこの作品がトップだと……や、でも、この使い方はちょっとズルいかも。この物語をハッピーエンドだと受け取るためにはこの帯を本文の一部として読む必要があるような気がしますがそれは反則ですし、しかしこの帯をあくまでメタなものとして解釈してしまうと酷く救えないストーリーになってしまうし、とはいえこの作品でいう「未来」はその程度の曖昧性は軽く包含しているように思えるし……わー、わー、わー。
- 64 ブランコ (採点:5)
- 「けぇ〜たいでんわぁ〜!」が素敵でした。公園でこんなひとり芝居を見せられたら間違いなく惚れます。FF以下の扱いをされて許しちゃうのは甘すぎだろ、とは思いますが。あと、ブランコは止めずに飛び降りて欲しかったです(ビジュアル的に)。
- 65 金曜日のつめきり (採点:7)
- 前半は乙一の「記憶」のような展開を予想しながら読んでいたのですが(彼女はつめきりにトラウマを持っているのかと……)、後半まで読み進めてそれが勘違いだったことに気付きました。フワフワというかサラサラというか、とにかくそんな柔らかく取り留めのない雰囲気と、良く読むと実は割と縦横無尽だったりする展開が素敵です。駄洒落オチにも一捻りあるようなないような感じで、唐突なのに押し付けがましくない。投稿No.002のような小噺のオチにも繋がる心地好さがありました。あと、「流しで煙草を――出し忘れたゴミを――」のような畳み掛けも好きなのですが、(少なくともこの界隈では)前例が多すぎるので食傷気味かもしれません。
- 66 残照の夏、伸ばしたてのひら (採点:4)
- うーん、消化不良気味です。中盤までは幻想っぽいままで終わっても良いと思いながら読んでいたのですが、終盤で病名そのほかを具体的に出したからには完全に筋を通してほしかった。や、「α1――」で始まる段落をマンガやアニメにしばしば使われるようなコラージュ的なフラッシュバックの場面だと受け取れば、このままで構わないような気もするのですが……
- 67 世界一の小説 (採点:5)
- あ、この作品の作者さんには不本意かと思うんですが、これを読了したあとで「ありきたりだ」と点数を下げていた他のいくつかの作品の点数を上げに行ってしまいました……や、単純にコミカルな馬鹿話ではあるんですが、こういう競作企画のような場に出てくると思わず本気で反応してしまいますね!
- 68 両手いっぱいの花を (採点:6)
- こりゃ悲劇だ! ……ごめんなさい。「ヒルデぇぇぇぇぇぇ!」のくだりで爆笑してしまったバチあたりな読者は私です。
- 69 Humph, please throw away person who has done ppp or lost xxx! (採点:8)
- も う 、 あ ら ゆ る 意 味 で 奇 跡 的 な 作 品 。
採点を放棄したくもなりますが、とりあえず8点。末広がりで縁起が良いように。
- 70 アリス (採点:8)
- トモ可愛いよトモ。やっぱり「ファックミー、ダーリン」は凄い威力です。あと「キモイとこ」も。
それと比較すると後半のインパクトは弱めでしたが、月並みな展開に落ち着くことで(第一印象では「エキセントリックすぎて理解できない!」というほかなかった)トモさんを身近に感じられたので、それほど悪いまとめ方でもないかなぁ、と。「僕」のですます調の語りもトボけた感じで効果的だったと思います。
- 71 ……動物園に行きたかった (採点:7)
- うっはー、ナンセンスかと思ったらナンセンスじゃない……?
(無茶苦茶な感想だと自分でも思いつつ書いてしまいますが)これ、投稿No.008に近い作品だと思いました。有無を言わせぬ、というほかない展開が素敵です。
- 72 月時雨 (採点:5)
- 冒頭の「ベアトリーチェ」で面食らいつつ、作品全体が「お芝居的な何か」なのだろうか、と予想したのですが……どうなんでしょう。
- 73 14文字の涙 (採点:7)
- 読んでいてドキドキしました! 特に中盤、ミステリっぽくて良かったです。「彼女」の性別とか、秘密とか。あと、相手の姿の見えない電話というテーマが大好きなので、読めて良かったな、と。
全体としては(「彼女」の病状の緊迫感があったり、文章のテンポが割と速めだったりしたにもかかわらず)三人を取り巻くゆったり感が印象に残っています。多分、メール→兄妹の会話という遅延がちなコミュニケーションに起因する、ゆったり感。
- 74 魔女の岬 (採点:8)
- 時間交錯系の設定が元々好きだということもあり、終盤の展開をひたすら楽しんで読めました。
【紹介文】単なる本文の抜き出しですが、「読もう」という気にさせてくれました。上手い選択だと思います。ただ、引用部が作中で最も小気味良い会話で、それに匹敵する箇所が他になかったのは惜しいような、物足りないような……
- 75 夜の夜 (採点:9)
- 最初、うわーありきたりな設定だなぁ、と思ってしまったのですが。その設定をこう持ってくるか! と唸らされました。死が見える人間は、なるほど「死なない」も見えます。終盤、幸と夜の関係の変化も、面白い未来を予感させて好印象。あと、おばあちゃんが妙に素敵でした。さすが、年長者は違います。
- 76 Another (採点:6)
- とても評価に困る作品です。ラストの一文を考えなければ、中盤のウジウジは魅力的だけれど締まりのないおはなしになってしまうし、ラストを考慮に入れるとオチだけで中身のないおはなしになってしまうし……
- 77 曇りのち晴れ。 (採点:7)
- ここまで台詞回しが芝居がかっていれば、完全にフィクションとして素直に楽しめます。というか、幼い頃にクラスメートの女の子が書いたポエムを読まされた記憶がよみがえりました(良い意味で)。
【紹介文】「どこにでもいる」って、いないよこんなの! と、最初は考えたのですが。わざとらしい外観を剥ぎ取っていけば、コアの部分は意外と普遍的な内容だったかも。
- 78 君が星を手にするとき (採点:9)
- 安直な感想で恐縮ですが、これ、好きです。永遠の少年でもあり、立派な紳士でもあり。素敵な親父です。ロケットを打ち上げる、ただその瞬間を、当事者ではなく第三者でもない視点から紡ぎ上げる――10KBの掌編に相応しいテーマだと思いました。
【紹介文】ぜんぜん本編と関係ないと思うんですがこれ!
- 79 奥の細道 (採点:6)
- うーん、物語そのものの筋書きはだいたい分かっていると思うのですが……なんというか、中途半端な印象でした。感性を揺さぶるにも足りず、理性を納得させるにも足りず。作中を満たす危うい空気が非常に好きですし、今回の分かりにくい系の作品の中では最も再読を誘うものだったのですが……
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