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「うーん、一時間待ち」

 スパイダーマン・ザ・ライドの前で、つかさと花歩は迷っていた。
 そろそろ日も高くなり、どのアトラクションも待ち列が伸びてくる。
 どこかで覚悟を決めて並ばないと、結局どれにも乗れなくなるが……。

 スマホを見ていた姫水が質問する。

「バックドラフトっていうのが待ち時間少ないけど、駄目なの?」
「それあんまり面白くない」
「つ、つかさちゃん。もう少しオブラートに……」
「何でバック・トゥ・ザ・フューチャーが消えてあれが残ってるんやろ」
「まあ、真面目に映画の話してるのあれだけやからね……。最後の良心なんとちゃうの」

 結局、スパイダーマンに並ぶことにした。
 クルーと何か楽しそうに話していた勇魚を呼び寄せる。
 五人で列の最後尾につき、ここから待つだけの時間が始まる。

「ま、ユニバの待ち時間って長目に表示されてるから。実際は4、50分くらいで乗れるんちゃう」
「そうなんだ」

 と、つかさと姫水が普通に話している一方で、勇魚は夕理にどう話しかけたらいいのか迷っている。
『勇魚ちゃんと夕理ちゃんを仲良くさせるぞ作戦』は、今のところはかばかしくない。
 花歩としても悩ましいところだ。

(そろそろ例の話題を使わせる時やろか……でもまだ午前中やしなあ)
「ところでさー」

 悩んでいる間に、饒舌なつかさが話題を振ってきた。

「先輩たちのこと、どう思ってる? 待ってる間ヒマやし、全員ぶっちゃけてみない?」
「ええな! つーちゃん、ナイスアイデア!」
「うーん、せやね。みんなの本音聞いてみたいし」

 花歩も作戦は中断し、つかさの提案に乗っかることにする。

「じゃあまずは私からいい? 部長について!」
「どうぞどうぞ」
「部長はねー、もちろんカッコいいのは大前提やねん。イケメンで男前で、ダンスはキレッキレやし最高だよね。
 でもね、それだけとちゃうんやで!
 私が入部する前ね、ブラック部活とか噂流されて、部員全然集まらへんかったん。
 見学に行ったら、部室の中で一人で寂しそうにしてたんや。
 その時の姿を思い出すと、こう胸のへんがキュンとなってね。みんなはああいう部長知ってるかなー、知らへんやろなー、そもそも部長って」
「花歩」

 笑顔のつかさが、早口で喋り続ける友人を手で制する。

「ごめんキモい」
「なんでえ!?」
「で、でも立火先輩が大好きなのは伝わったで! ちょっとキモかったけど」
「勇魚ちゃんにまで言われた!?」

 いじいじと地面に字を書く花歩をさておき、一年生たちの本音トークが始められた。

「じゃ、次はあたしやな」


<立火について>

「まあ、いい先輩とは思うで。気さくやし、あんまり怒らへんし。
 でも正直ノリがちょっと古くさいよね。(「何やて!?」「花ちゃん落ち着いて!」)おいおい昭和かよって時々言いたなるわ。
 あと去年の三年生から無茶な目標押し付けられて大変やなーって思う」

「リーダーとしては十分よくやってると思う。もう少しスクールアイドルの理念を考えてほしいけど。
 でも私は大阪が嫌いやから、大阪のノリも嫌い。下らないコントやってる暇があったら真剣に練習してほしい」

「うちは自分が大阪っぽいから、立火先輩とはノリがめっちゃ合うで!
 面白くて頼りがいがあって、先輩が部長でほんまに良かったって思う! 大好きや!」

「皆を引っ張り、かつ気遣うこともできるリーダーシップの持ち主よね。でもμ'sのリーダーのような、伝説的なほどのカリスマまではないかな。良くも悪くも等身大の高校生だと思う」



<桜夜について>

「ううーん、悪い人ではないんやけどね……。部長と比べると、先輩らしいこと全然してへんなあって気はするよね……。
 あ、でもあの顔はうらやましい! 私もあれくらい可愛かったら人生楽しいやろなー」

「顔のことよりも、頭からっぽな点で人生楽しそうやな。アホってある意味最強って思う。扱いやすい先輩やし嫌いではないで」

「何を言うても陰口になるから、ノーコメントで」

「もー、みんな厳しない!? いつも明るくて楽しくて素敵な先輩やないか! 立火先輩のことほんまに大事に思ってはるし! うちは大好きやで!」

「ムードメーカー的なところがあるわよね。副部長の仕事は特にしていないけれど、いてくれるだけで部の雰囲気は明るくなってるんじゃないかな。(でも勇魚ちゃんを変な目で見るのはやめてほしい)」


<小都子について>

「やさしーよね! このまえ堺に行った時も、落ち着いてて大人って感じやったで。ああいう上品なとこ、部長とは別の意味で憧れちゃうなー」

「いい人ではあるけどさー、一緒に遊びに繰り出そうって感じではないよね。お育ちのよろしい感じやし。今日も来てたらこんな話できひんかったから、空気読んでくれて助かった感はある」

「うちの先輩の中では唯一まともな人やと思う。いつもお世話になってるし、まだ会って二か月弱なのに恩義がありすぎる。ちゃんと返せるとええんやけど……」

「優しくて大好きや! みんなのこと、ほんまによく見てはるよね! あと、あんなにおいしいお茶飲んだの初めて! 堺にはお茶の秘伝が伝わってるんやろか?」

「次期部長なのよね? 温和なところは長所だけれど、立火先輩みたいにグイグイ引っ張る感じではないから、来年はどうなるのかな。でも、人徳はありそうね」


<晴について>

「あ、あははは、正直ちょっと怖い……。クールすぎるよねえ。氷の剃刀って感じ?」

「あんまり関わり合いになりたくないけど、向こうも関わる気はなさそうやし、まあええんとちゃう」

「私を正論で打ち負かしてきた相手は初めてや。全然好きではないけど、一目置くべき人とは思う。
 一人を苦にしない精神力は少しうらやましい……真似したいとは思わへんけど」

「ちょっと色々あったけど、大好きな先輩やで! 頭がいいってだけで尊敬するし、この前は勉強教えてくれてめっちゃ嬉しかった! 今日はお土産買うてこ!」

「……部の計画立案はあの人が担っている感じよね。ある意味、裏のリーダーなんだと思う。立火先輩とは真逆の性格だけど、だからこそ足りない部分を補い合えてるのかな」


「ちょっとちょっと、藤上さんさあ」

 一通りぶっちゃけた後、つかさが引きつった笑いを浮かべていた。
 姫水の答えがあまりに期待外れすぎて。

「さっきから評論家みたいなことしか言うてへんやん。もっとこいつ好きとか嫌いとか言うてええんやで」
「え……そ、そうだったかしら」
「別にチクったりせえへんからさー」
「ひ、姫ちゃんはどの先輩も好きやから、わざわざ言わへんかっただけやで!」

 勇魚がかばうように前に出てくるのが、なおさらつかさを苛立たせる。
 困り顔の姫水から目を逸らし、心の中で吐き捨てた。

(何やねん! 東京の優等生様は、あたし達と同じ高さには降りられませんってか!)

 が、そんなつかさを花歩がなだめる。

「つかさちゃ~ん。こんなの遊びなんやから、そうマジにならなくても」
(あ、あれ、あたしの方が空気読めてない感じ?)

 普段とは逆の立場に、慌てて『ごめんごめん』と取り繕い、その後は無難な話題に終始した。
 もちろん姫水からは、無難な話しか返ってこない。
 建物に入り、アメコミの映像が流れる中、勇魚の目がつかさの横顔を映す。

(つーちゃん、姫ちゃんの本音が聞きたいんやろか?)
(そうやったら嬉しいな!)
(姫ちゃん、病気のことは話したくないみたいやけど……)
(もしこのまま治らへんかったら、姫ちゃんの考えも変わるやろうし)
(その時は、つーちゃんに話してみたらって言うてみようかな?)


 ヒーローと悪党の戦いに付き合った後、外に出た夕理が意外そうに言った。

「スパイダーマンってあんな陽気な人やったんか」
「あ、最初乗った時に私も思った。クモと合成された悲惨な人なのかと思ってた」

 同意する花歩に、姫水が知識を披露する。

「それは『ハエ男の恐怖』じゃない? あるいはリメイク版の『ザ・フライ』」
「姫ちゃん、映画詳しいんやね!」
「仕事柄、ちょっとね」
(映画かあ……。藤上さんと二人で見に行きたいなあ……)

 つかさの妄想は、しかし現実になるイメージが全く浮かばない。
 先ほどから結構話しているはずだが、一向に距離が縮まった気がしない。
 なんだか雲行きが怪しくなってきた……。


 *   *   *


 レストランは高いので、角煮まんとホットドッグを買って、芝生の上で昼食を済ませる。
 笑顔で『ミニオンまん』を頬張っている勇魚に、少しささくれ立っていたつかさの心もほっこりする。
 姫水と仲が良すぎる点を除けば、本当にいい子だと思う。

「勇魚ってほんまミニオン好きやなー。次はミニオン乗る?」
「え、あ、でも」

 喉につまらせそうになってから、勇魚は屈託ない笑みを浮かべた。

「100分待ちみたいやし、みんな待つの大変やろ? うちのことはええから、みんなが乗りたいのにしてや!」
「………」

 前言撤回。こういうところは全く好きになれない。
 つかさはジト目になって姫水の方へボールを投げた。

「この子こんなん言うてますけど、どうしますー藤上さん?」
「ミニオンに乗りましょう。絶対に」
「姫ちゃんっ!?」
「自分を後回しにしないでっていつも言ってるでしょう」
「ううう……ごめんね」

 とうとう謝りだした勇魚に、花歩がまあまあと取りなす。
 夕理はホットドッグをかじりながら、そんな様子を眺めていた。

(佐々木さんも割と面倒な性格してんねんな)
(まあ、大阪っぽくないとこもあるのは分かったけど……)


 黄色い謎生物と写真を撮りつつ、ミニオンパークへ向かう。



 勇魚のためと決意したものの、実際に100分待ちの表示を見ると皆げんなりする。
 とはいえ、根性を出して並ぶしかない。

 並んで少し経ってから、勇魚の小声が花歩へと届いた。

「花ちゃん、そろそろええかな?」
「せやね。夕理ちゃんちょっと飽きてるっぽいし、今がチャンスやと思う」
「うんっ、行ってくる!」
「健闘を祈るで!」

 お互い戦地のような顔をしてから、勇魚の方はすぐ笑顔になって、明るく夕理へと声をかける。

「ねえねえ夕ちゃん!」

 振り向いた夕理の顔は少し嫌そうだ。
 やっぱりうちってウザいんや……と落ち込みかけるが、そもそもこれが初めてではなかった。

『勇魚、お前ウザいねん』

 晴に手ひどく怒られたことは、苦い思い出と同時に勉強にもなった。
(確か、そう、パーソナルスペース!)
 行列の中なので限界はあるが、不快にならないような距離を取って、会話を開始する。

「夕ちゃんは、前回のラブライブはどこに投票したん?」
「え……」

 スクールアイドルの話題!
 Westaの一年生で、元々スクールアイドルが好きなのはこの二人だけだ。
 もっと早く話せば良かったのかもしれないが……。
 きっと今日のために、ラブライブの神様が残しておいてくれたのだ。

「うちはAqoursやで! いっぱい元気と感動をもらって、お礼のために一票入れてん!」
「Aqoursかあ。うーん……」
(あ、あれっ?)

 ここから盛り上がって誰推し?とかの話に流れるはずが、いきなりつまづいた。
 難しい顔をしている夕理に、勇魚は恐る恐る尋ねる。

「ゆ、夕ちゃんはAqoursは嫌い?」
「嫌いではないけど、あの優勝には疑問が残んねん」
「な、なんで!? 学校は廃校になって、でも名前を永遠に残そうって頑張って」
「だからこそや」

 田舎の感動的なストーリーに、夕理は従うまいと反旗を翻す。

「そんな状況、みんな情に流されて投票するに決まってるやないか!」
「う……そうかもしれへんけど……」
「パフォーマンスのみで公正に評価されたとは思えへん。まあ、Aqoursというよりファンの側の問題やけど」

 情に流されまくった勇魚としては、何も言い返すことができない。
 それも含めてスクールアイドルとちゃうんかなあ……とも思うが、論理立てて語れる自信がない。

「でも――」

 と、夕理の表情が少し和らいだ。

「曲については優勝に相応しかったと思う。そこは全く文句はないで」
「『WATER BLUE NEW WORLD』!」

 勇魚は嬉しそうに、いそいそとスマホとイヤホンを取り出した。

「うち、いつも聞いてんねん! 夕ちゃん、一緒に聞こ!」
「何でこんなところで……」
「ええやん、まだまだ先は長いし!」
「……まあ、待つ時は音楽が一番やな」

 勇魚の手が夕理の耳にイヤホンを押し込……もうとして、思い直して夕理に手渡す。
 装着されたことを確認してから、再生ボタンを押す。
 流れるのは何度も聞いた曲。今を大事に心に刻みながら、新しい世界に踏み出すための歌。

 イヤホンの長さの関係で、二人の身体は接触していたが、夕理は嫌そうではなかった。
 それとは別の理由で、少し暗い顔をしていたけれど。

「桜内先輩は小さい頃からずっとピアノ一筋で、コンクールで賞を取ったこともあるって」
「そうみたいやね!」
「優勝する曲を書けるのは、やっぱりそういう人なんやな。私みたいな、素人に毛が生えた程度の雑魚ではなくて……」
「もー! 何を後ろ向きなこと言うてるんや!」

 いきなり怒られて夕理は驚く。あまり怒らない子と思っていた。

「こんな素敵な曲を聞いて、考えることがそれなん!? 曲が可哀想やで!」
「……せやな。佐々木さんの言う通りや」

 怒られたことに納得して、夕理は顔を上げた。
 この曲の作曲者も東京でスランプに陥り、環境を変えるために引っ越したのが静岡だったという。
 その苦悩を想像すれば、いじけたことを言ってる場合ではなかった。

「この曲から学んで、何か吸収するくらいでないとあかんな!」
「さすが夕ちゃんや! それで、夕ちゃんはどこに投票したん?」
「私は朱津姫あかつき。姫路の」
「元チア部の人たちやね! あの空中パフォーマンス、めっちゃすごかったね!」
「だからこそ他にやれる人がいなくて、主力が卒業して潔く解散したけど」
「うんうん。寂しいけど、それもスクールアイドルやね! あっ、Aqoursでは誰が好き?」
「やっぱり桜内先輩やな。作曲家として尊敬できる人や」
「うちはねー、ヨハネ先輩! 面白くてかっこよくて大好き!」
「え、あの人って色物やん……」
「もー、夕ちゃんひどいでー!」


 *   *   *


 盛り上がっていく二人の話に、花歩は露骨に聞き耳を立てていた。

「花歩ちゃん。怪しい人みたいに見えてるけど……」
「しっ! 今まさに作戦進行中なんや。姫水ちゃんも成果をお楽しみに!」

 真剣極まりない花歩の姿に、姫水は制止を諦め待ち状態に戻った。

(今日の勇魚は夕理狙いなんやな。ええことやなー)

 などと呑気に構えていたつかさだが、今の状況にはっと気づく。

(あれ……)
(これって……)
(あたしと藤上さん、二人きり!?)

 もちろん他の三人も手の届く距離にいるが、他のことに集中している。
 姫水の話し相手は、つかさしかいない状態だ。

(大チャンスや! しばらくの間、あたしが藤上さんを独占できる!)
(な、何から話そう。話題はいっぱい用意してきたんや。え、ええと……)

 少し緊張しながら、大急ぎで話題を探す。
 テストの話、クラスの話、東京の話、好きな人――の話。
 素直に、それを話せば良かったのだが……
 口にしようとした瞬間、余計なことに気付いてしまった。

(ちょっと待って……)
(なんか毎回毎回、あたしの方から話振ってない?)

 ちらり、と姫水の横顔を見て、また奪われそうになる視線を慌てて戻す。
 姫水が会話を始める気配はない。
 無表情のまま、延々続く行列を眺めている。

(コスモタワーの時もあたしからだったよね!?)
(たまにはそっちから話しかけてもええと思うんやけど!)
(またこっちから振ったら、あたしが藤上さんと話したくて仕方ないみたいやないか!)
(いやまあ、実際そうなんやけど……)
(そんな風には思われたくない……)

 姫水の口はぴくりとも動かない。
 なんだか泣きたくなってきた。

(夕理から聞いたで。バスの中では、藤上さんから話しかけたんやろ?)
(なのにどうしてあたしだけ……)
(え、何? あたしのこと嫌いなの?)
(大人数やから今まで話してたけど、二人なら口もききたくないってこと?)
(何か嫌われることした……?)
(あ……さっき処女がどうとか言うたけど……)
(軽い冗談やろ! ほんま東京人はシャレが通じへんな!)
(あ、でも、最近は女が女に言うてもセクハラなんやったっけ?)
(………)
(言わなきゃ良かった……)
(ち、ちゃうねん。夕理があたしに幻想持ってそうやったから、釘を刺しただけで)
(別にああいう話が大好きってわけじゃ……)
(………)
(……ねえ……)
(あたし……)
(アンタのことが、好き……なんやけど……)

 それを口にすれば済む話なのだが、断じて言えるわけがない。
 そうやって悶々としていたので……
 姫水の目が一瞬だけ、自分に向いたことに気付かなかった。

(いつもお喋りな彩谷さんが、私とは話そうとしない……)
(やっぱり私のこと、あまり好きじゃないのかな)
(別にそれでもいいけど……)
(少し疲れたし、休み時間にさせてもらおう)
(ディズニーほどの非現実的な夢の国ではないけど、やっぱりこういう場所は現実感が失われる)
(期待してたフライングダイナソーも、何も変わらなかったな)
(あくまで遊具だものね……本気で死ぬような恐怖を感じないと、私の脳には影響しないのかもしれない)
(ああ……また世界が遠くなる)
(勇魚ちゃんの声を聞いていよう……)
(勇魚ちゃん、天名さんと一生懸命話してるのね)
(どうしてあなたは、そんなに優しいんだろう)
(世界中の人類が勇魚ちゃんなら、世の中は平和になるのに……)

 列は少しずつ進むが、つかさと姫水の間の空気は静止したままだ。
 つかさの心は折れて、もう妥協しようとしていた。
 敗北感はひどいが、自分から話しかけようと、姫水の方を向く――。

(んん?)

 顔を直視できず、少し下を向いていたため、それが視界に飛び込んできた。
 今日が初めての私服の、多少広がった胸元が。

(ちょっと待って!)
(もしかして、あたしの方が大きくない?)

 何一つ勝てるものはないと思っていたが、バストだけは勝っていたのだろうか。
 いや何としても、一つだけは勝っておきたい。
 だが、服の上からはよく分からない。

(他の友達やったら、後ろから揉んだりして確かめるとこやけど)
(藤上さんにそれをしたら、本気で訴えられそうやな……)
(うーん、もうちょっと角度があればなー)

 自分の上半身を動かしながら、何とかサイズを測ろうとする。
 同時に、花歩が一息ついて隣を向いた。

 その眼前にあったのは、友達の一人がもう一人の胸部をガン見している光景だった。



「……つかさちゃん、なんで姫水ちゃんのおっぱい見てるの?」
『!!?』

 二人が同時に飛びのく。
 我に返ったつかさの前で、姫水は両腕で胸を隠している。
 キッと相手の顔を睨み付けて。

「あ、あの、ちゃうねん、決してそんな!」
「………」
「その……」

 弁解の余地はない。
 正直に話すのが一番ダメージが少ないと、即判断して頭を下げる。

「あたしの胸とどっちが大きいか、どうしても気になって! ごめん!」
「え……そんな理由?」
「ほんまや! ほんまにそれだけ! やましい気持ちなんて全然ないから!」
「ふざけてんの!? それだけ大きかったら、どっちが上でもええやろ!」
「いや何で花歩がキレてんねん……」

 姫水は溜息をつくと、腕を下して警戒を解いた。

「一応信じるけど、誤解を招く行動はやめてね?」
「ハイ……深く反省してます……」
「二人とも大きくてよろしおますなあ!」
「花歩はちょっと黙ってて!」
「ど、どうしたの?」

 騒いだせいで、残る二人も話を中断してこちらをうかがう。
 勝手に怒り心頭の花歩が、遠慮なく暴露した。

「つかさちゃんが姫水ちゃんのおっぱい見てた」
「花歩おおおおおお!!」

 結局、夕理と勇魚にも事情を説明する羽目になった……。



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