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「こっちだって500万円欲しいわ!」

 Number ∞の戎屋鏡香は、夕理とは正反対の理由で怒り狂っていた。
 次期部長候補の及川と早乙女が口々に主張する。

「我が部がランキング二位などあってはならないことです。このままでは予備予選は……」
「金満クソグループとしてネガキャン張りましょうか!? どこかの球団みたいに!」
「い、いや、それはあかん。ブーメランになりかねへん」

 鏡香的には全然足りないとはいえ、自分たちも結構な予算をもらって派手にやっている。
 これを機にどのグループも清貧に徹すべき、なんて話になると困る。
 他の幹部とも話し、結局は様子見ということになった。


 一方の聖莉守では嫌悪感を露わにする部員もいたが、部長の一言で空気が変わった。

「どんな方法にせよ、一人の少女の夢が叶ったのは素晴らしいことです。私たちも祝福しようやないですか」
「さ、さすがは和音さまや!」
「なんという聖女!」

 熱季だけは渋い顔で、小さな声で芽生に愚痴る。

「せっかく分かりやすく悪い奴が出てきたのに、なんで簡単に許すんや」
「悪い奴はないやろ人気あるし。それにうちは勝敗にこだわらないんやから、何が出てきても関係ないやろ」
「それなあ……正直つまらない考え方やと思う」
「熱季、もう六月なんやから、ええ加減にこの部と学校に慣れて。でないとお姉さんが卒業した後が辛いで」
「ううう……」

 ちらりと、予備予選に向け指示を出している凉世の姿を見る。
 姉に心配をかけたくはないが、この平和な子羊の群れに馴染める日は来るのだろうか……。


 *   *   *


 水曜日の住之江女子高校。
 中間テストの最終結果が返ってきたので、Golden Flagの話題は一時棚上げされた。

(240人中119位……。私ってほんまに普通やなあ……)

 花歩が嘆く傍らで、勇魚も暗い顔をしている。

「あうう、194位……」
「ま、まあ中学の時に比べたら頑張った方やろ?」
「でも晴先輩に会わす顔がないで。看護師になるにはもっと頑張らな!」
「うーん、目標があって偉いなあ」

 一方の五組では……

「つかさー、何位やった?」
「37位。ま、こんなもんやろ」
「一夜漬けのくせに何がこんなもんやねん! つかさって頭ええんやなー」
「いやいや、ほんま大したことないって」

 などと謙遜しつつ自尊心をくすぐられていたが、隣のクラスからの大声に打ち砕かれる。

「藤上さん、一位!?」
「超すごーい! マジすごーい!」
(よりによって一位かよ……)

 落ち込むと同時に、それでこそ彼女だとも思う。
 あんな人相手に、劣等感を持たずにいられる者などいるのだろうか。

(花歩はなんて言うてたっけ……)
(ああ……確か、差がありすぎて笑うしかないって)
(あたし、中途半端にプライド持ってるのがあかんのかなあ)

 溜息をついていると、晶から指で背中を叩かれた。

「例の件はその後どうなん?」
「ちょっと停滞中」
「そんなことやと思った。ほれ、これあげる」

 そう言って晶が手渡してきたのは、映画のチケット二枚だった。

「ちょっ、気持ちは嬉しいけど、誘うとか無理やって! もっと慎重にチャンスを待ってから!」
「そんなん言うてたら一生進展せえへんやろ。使わなかったら捨ててくれてええから」

 その間に先生が来てしまい、受け取らざるを得なかった。
 姫水と、二人きりで映画……?
 考えただけで鼓動は早くなり、授業は頭を通り抜けていく。


 *   *   *


「夕理ちゃーん、テスト何位やった?」

 部室に入るなり尋ねた花歩は、思いっきり冷ややかな目をむけられた。

「そっちの順位を気にしてる場合とちゃうやろ。
 Golden Flagのランキングは五日連続で一位や。
 私は今度という今度こそスクールアイドル界に失望した」
「しょっちゅうそんなこと言うてるやん」
「こ、今度はほんまにや! あんな連中を支持するなんて、大衆はアホしかいないんや」
「ま、まあまあ、みんな目新しいだけやと思うし。それよりテストの順位……」
「テストは自分がどれだけ理解しているか確認するためのものやろ。相対的な順位なんていちいち気にしてどうすんねん!」
(ぐふっ)

 後ろで聞いていた小都子が地味にダメージを受ける。
 ちなみに自分は四位。一時よりはかなり持ち直したが、どうせ晴には勝てないと思うと空しい。
 他の部員もやってきたところで、立火が皆に告げる。

「桜夜が進路指導に呼ばれたから、ちょっと遅れそうや。四時までに来なかったら練習始めるで」
「桜夜先輩は何位やったんです?」と、つかさ。
「下から21位や。あいつの下に20人もいるのが驚きやけど」
(その人たち卒業できるんやろか……とはいえ、これはチャンスや!)

 しばらく時間が空いた上に、勇魚はノートを開いて何か書いてるので、姫水が手持ち無沙汰に一人でいる。
 機をうかがっていたところ、先に小都子が夕理に話しかけた。

「夕理ちゃん。文楽のチケットがあるんやけど、日曜に一緒に行かへん?」
「いいですね。新曲作りのためにも、質の高い芸術に触れたいところです」
(よし、さらにチャンス!)

 これで、夕理ではなく姫水を誘う理由ができた。
 今の自分で上手くいく自信はないが、晶の厚意を無下にもできない。
 鞄からチケットを取り出し、脳内でシミュレーションする。

『藤上さーん、今度の日曜ヒマ?』
『映画のチケットが二枚あんねん。良かったら一緒に行かない?』

(うーん……これだけやと『え、何で?』とか思われるやろか)
(もっと誘うことの動機を説明して……)

『あたし、ほんまは藤上さんと仲良くなりたいねん』
『寝ても覚めても藤上さんのことばかり考えてて……』

(言えるかアホ!)
(や、やっぱり普通に誘おう)

 ぎくしゃくしながら姫水に近づく。
 何をするでもなく、座って机の一点を見ている姫水は、現実の存在ではないようにも思えた。
 見とれそうになる意識を引き戻し、思い切って声をかける。

「ふ、藤上さんっ。映画のチケットが二枚あるんやけど……」
「え?」
「そ、そのっ……」

 自分を映す姫水の瞳に、どぎまぎして言葉が出ない。
 どうしよう。
『え、何で私が彩谷さんと? 私たちそこまで仲良くないわよね?』とか幻聴が聞こえてくる。
 しかも気付けば、部のみんなが注視しているような気がする。
 本人的には長い、現実では数秒の時間が過ぎた後――
 結局つかさはヘタレた。

「よ……良かったら、勇魚と一緒に行ってきたら?」
「勇魚ちゃんと!?」
(こいつ露骨すぎるやろ!?)

 ぱっと明るくなった彼女の顔に、無性に腹が立ってきた。
 名前を呼ばれた勇魚が、ぴょこぴょこと近づいてくる。

「うちがどうかした?」
「彩谷さんがね、親切にも映画のチケットをくれるから、二人で行ったらどうかって」

 勇魚はチケットと二人の顔を見比べていたが、やがてにっこりと笑って言った。

「姫ちゃんとつーちゃんで行ってきたら? うちとはいつだって行けるし」
(おおおおおお! 偉いで勇魚! よく言った!!)

 つかさの目に映る勇魚はまさに天使。いつでも行けるアピールは少しムッとするが、贅沢は言えない。
 後は姫水の判断次第だが……。
 彼女は少し考えて、真っすぐにつかさの目を見る。

「彩谷さん、私と一緒に行きたいの?」
「う……」

 姫水からすれば当然の質問である。
 いくら勇魚の勧めでも、つかさ本人が嫌なら意味はないのだから。
 でもつかさとしては、聞かずに流してほしかった。
 目は直視できず、口は本心を言えず、視線を逸らしてひねた言葉を返す。

「ふ……藤上さんがどうしてもあたしと行きたいなら、やぶさかではないけど」
「え? いや別にそこまでは……」
「な、何やねん! あたしとは行きたくないってこと!?」
「何でそうなるのよ。彩谷さんがどうしても私と行きたいなら、行ってもいいわよ」
「そ、そんな仕方なくみたいな言い方はないんとちゃう!?」
「先に言ったのはそっちでしょう!」

 おろおろする勇魚の前で、二人は睨みあっていたが……

「もういい!」

 つかさはくるりと背を向けると、そのまま廊下に出ていった。
 夕理が急いで後を追う。
 部員たちがぽかんとしている中……
 部の人間関係を守るべき部長は、内心で慌てふためいていた。

(え、ち、ちょっと、どういうことや)
(一年生って、みんな仲良しとちゃうかったん!?)


 *   *   *


「はあ……」

 廊下で壁にもたれかかっているつかさに、ジト目の夕理が近づいてくる。

「つかさ、敢えて言わせてもらうけど」
「待って。言いたいことは分かる、分かるから」
「素直に行きたいって言うたらええやろ!? 何をつまんない意地張ってるんや!」
「うんまあ……そう言われても仕方ないやろな」

 頭をかくつかさは、落ち込みつつも意外と冷静そうだった。

「でも、言い訳に聞こえるかもやけど。
 あたしから下手したてに出て頼むのは、やっぱりあかん気がしてきた。
 それをしたら六組の子たちと同じカテゴリに入れられて、二度と出してもらえないと思う」
「そ、そうなの?」
「あたしは、あいつのファンになりたいわけとちゃう……」
「うーん……」

 どうにも複雑な状況に、夕理はそれ以上何も言えない。
 自分より遥かに対人経験値の高いつかさがそう言うなら、そうなのかもしれないが……。

「で、でもそのチケットどうするの? もし良かったら……」
「夕理は文楽やろ? 心配しなくても、ちゃんと相手はいるから」

 つかさは部室に戻ると、作詞の本を読んでいる子に軽く声をかけた。

「花歩ー、一緒に映画見に行かへんー?」
「なんか残り物みたいな扱いなんやけど!?」
「いやいや、あたし前から花歩と遊びたかったんやって。マジでマジで」
「調子ええなあ……まあ行くけど」

 楽しそうに花歩と話すつかさを、姫水は横目で見ている。

(だったら最初から花歩ちゃんを誘えばいいじゃない)
(何なのよ全く……)

 勇魚はおろおろしっ放しで、ついでに部長もおろおろしている。
 その間に死にそうな顔の桜夜が来て、練習が始まった。


 *   *   *


 一週間の活動を終え、Supreme Loveはほぼ形としては出来上がった。
 そして日曜日。


 ポリポリポリ
 映画館で隣に座って、花歩と一箱のポップコーンを分け合う。
 普通に楽しいし、映画は面白いし、悪くない休日だけれど……。
 隣が姫水だったらと、つかさはどうしても考えてしまう。

(たぶんドキドキして、映画なんて頭に入らへんかったと思うけど)
(そういう経験もしてみたかったな……)

 それが顔に出ていたのだろうか。
 映画が終わり、ロビーに出た途端に花歩から指摘された。

「つかさちゃんさ、体育祭の頃からあんまり元気ないよね」
「え? そ、そんなことないって」
「いやいや、そんなことあるでー」

 阿倍野の映画館の狭いロビーで、花歩は軽く笑うが、その目は真剣だった。

「もうちょっとシャキッとして欲しいな。つかさちゃん、私の憧れなんやから」
「え、そうなん? いつからそんな事に?」
「初めて会った時から。おしゃれで大人で、いい女って感じやし」
「いやいや、買い被りすぎやって」

 そう言ってもらえるのは嬉しいけど。
 毎日姫水と登校してるくせに、あちらの方が上とは思わないのだろうか。

「……藤上さんでなくて、あたしなの?」
「んー、姫水ちゃんみたいになるのは一生かかっても無理やろ?
 でもつかさちゃんくらいなら、私もいつかなれるかもしれないし」
「くらいって何やくらいって! こんにゃろ!」
「あはは、ごめーん」

 怒ったふりをしながらも、つかさの心は暖かかった。
 姫水への気持ちが複雑化する一方なだけに、花歩のようなシンプルな友達は助かる。

(なんか、毎回友達に励まされてる気がするなー……)

 エスカレーターを降りながら、つかさは下のフロアを指し示す。

「この後どうする? そこのゲーセン寄ってく?」
「あ、それなんやけど。私も今朝知ったんやけど」

 と、下の階に降りたところで、花歩が遠慮がちに切り出した。

「京橋のコムズガーデンってとこで、例の瀬良さんがライブするらしいねん。ちょっと行ってみない?」

 つかさの眉根が寄せられる。
 遊ぶ気満々だったのに、いきなり仕事の話をされた気分だ。

「はいはい、日曜まで部活ですか。まっじめー」
「い、いやでも、Golden Flagは気になるやろ?」
「みんな騒いでるけど、あたしゴルフラはどうでもええねん。どうせ500万円を使い果たしたら終わりのグループやろ」
「そう簡単に使い果たすかなあ……」
「とにかく、あたしはそこまで真面目とちゃうから」

 そう言ってゲーセンに行こうとする友達の服を、花歩の手が慌てて掴む。
 少し逡巡していたが……。
 結局観念して、正直に本音を言った。

「偵察の役に立って、部長に誉めてもらいたい……」

 つかさの表情は一転し、にっと笑って相手の背を叩いた。

「最初からそう言うたらええねん。花歩の想い、喜んで応援するで!」


 *   *   *


「京橋って滅多に来いひんよね」
「別に何もないしねー。京橋行くんやったら普通に梅田行くやろ」

 暁子が聞いたら青筋を立てそうな話をしつつ、二人は目的地へ向かう。
 京橋駅から徒歩すぐ。
 吹き抜けの広場を地下街が囲む、変わった建物がコムズガーデンである。

 階段から見下ろすと、地下二階の広場でもうライブは始まっていた。



『瀬良さーーん!』
『光ちゃん、可愛いーー!』

 歓声を受けながら、笑顔の少女が楽しそうに歌い踊っている。

(うわあ、ダンス上手すぎ)
(くそ、実物も可愛いやないか……藤上さんほどではないけど)

 プロが作った動画だけに加工されまくってるのかと思ったが、全くそんなことはなかった。
 特にそのダンスは本物だ。
 時折、高校生離れした動きを交えつつ、本人は息も切らせていない。

「島で育つとあんな超人ができるの?」
「しーっ。つかさちゃん、失礼やで!」

 小声で話しながら、人の隙間を縫って広場へ降りる。
 来るのが遅かったようで、ほどなくしてライブは終わった。
 最後のバク転を決め、万雷の拍手を浴びせる観客へ光は微笑む。
 その姿は爽やかで、つかさの目には金にまみれたグループの印象はなかった。

(うまく分離しやがったなあ。金満担当はあっちの部長ってことや)

 金縁眼鏡のうさん臭い部長が、握手攻めされる光を見てニヤついている。
 と、しばらくして眼鏡を直したかと思うと、いきなりこちらへ歩いてきた。

「そこの二人……」

 つかさと花歩は身を固くする。
 しかし相手は近くでビデオカメラを回していた、別の女子高生二人組だった。

「Number ∞の偵察部隊やな。日曜までお疲れさん」
「な、なな何のことでしょう? いやあ今日はええ天気やなあ」
「休日出勤で何か見返りあるの?」
「それはもう、貢献ポイントを貯めればいずれ幹部に」
「アホ! 何を正直に答えてるんや!」

 片方が片方に突っ込み、それ以上ボロを出す前に逃げていった。
 そして暁子の眼鏡は、今度こそつかさ達へと向く。

「ようこそ、Westaの彩谷つかささん。こんなに研究熱心とは意外やな」
「どーも、単にこの子の付き合いですけど。そちらこそ、よくあたしなんか知ってますね」
「先日のライブは見せてもろたし、ブログもチェックしてるからね。丘本花歩さん、早よステージに上がれるとええな」
「はっはいっ! ありがとうございます、頑張ります!」
「何をお礼言うてんねん」

 冷ややかに言うつかさの目は険しい。
 先ほどは興味のないようなことを言ったが、実際に歌うのを聞いたらいい気はしない。
 夕理が必死に曲を作っている一方で、こいつらはそれ以上の曲を、何の苦労もせず買ったのだから。

「あ、Westaの人だ」

 ファンから解放された光が、スキップするように近づいてくる。
 同じスクールアイドルに会えたことが嬉しいようだった。

「もうすぐラブライブだね。お互いきばろう!」
「せ、せやね! 私は出られへんけど」
「悪いけど、あたしはラブライブとかどうでもええから」
「え、Westaは戦う前から降参?」
「そうは言うてへんやろ。あたしはともかく、Westaは負けへんわ。だって……」

 軽くいなすつもりだったが、後が続かず、とっさに頭を占めた名前を出す。

「……うちの藤上姫水が何とかするから」
「って、他力本願かーい!」

 味方の花歩から盛大に突っ込まれた。
 そう言われても、つかさの自力で何ができるでもないしする気もない。

「し、しゃあないやろ。あたし部活は遊び半分やし」
「もー、カッコ悪い!」
「あはは、面白い人たちだね。藤上さんかあ。確かにライブでは人目を引いとったねえ」

 のほほんと笑う光は、しかし言うことは辛辣だった。

「じゃけんど、別に怖くはないなあ。覇気を感じられないし。
 求められた通りを演じるだけの人形って感じだった」
「あ!?」

 つかさの目の色が変わった。
 慌てる暁子の前で、光に向かって一歩踏み出す。

「おい、コラ田舎者。あんまり調子に乗ってるんやないで」
「おっ、ヤクザっぽくなってきたね。でも広島の方が本場じゃけえ」
「知るかタコ! アンタなんかに、あたしの……じゃなかった、うちの藤上は絶対負けへんわ!」
「迫力はあるけど、結局人任せじゃけん締まっとらんねえ」
「は、はいはいはい、そこまでそこまで」

 これ以上は炎上しかねないと暁子が割って入る。
 素直すぎる光の口をふさいで、そのまま話を切り上げた。

「何にせよ、今の破竹の勢いのままで我々は予備予選に臨む。
 広町さんにはせいぜい警戒するよう伝えといてや」
「くっ……部長はあなたなんかに負けませんからね!」
「花歩も他力本願やん……」


 *   *   *


 せっかく京橋に来たのだからと、そのへんを散歩してみる。
 京阪電車が頭上を通ってから、花歩は感心したように言った。

「つかさちゃんがあんなに怒るなんてね」
「も、もうええやろ。恥ずかしい……」

 ついカッとなってしまった。
 姫水も光も次元の違う子なのに、自分が怒ってどうなるのだろう。
 場違い感にさいなまれるつかさを、花歩が慰める。

「ええやん、ますます憧れたで。つかさちゃんって、ほんま友達思いやなあ」
「友達……友達かあ」
「でも田舎者呼ばわりはあかんと思う」
「そこは反省してる……」

 南の空には、大阪ビジネスパークのビル群が見える。
 せっかくだから大阪城まで行こうと、そちらへ向かって歩き出した。

「明日も一緒に登校やろ? 藤上さんに気合い入れろって言うといて」
「いや自分で言うたらええやん……」
「あ、あたしが言えた義理とちゃうやろ。練習も真面目にしてへんのに」
「うーん、なら今日のことも教えるね。つかさちゃん、姫水ちゃんをけなされてめっちゃ怒ったって」
「それは言わなくてええから!」

 しばらく歩いて、ビルの間を通り過ぎる。
 見えてきたのは地区予選の会場、大阪城ホール。
 あそこへ行くには、まずオリックス劇場での予備予選を突破せねばらならない。
 ラブライブ本番まで、あと二週間――。


<第16話・終>

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