負けないで 負けないで
強くならないといけない もっと もっと強く
頼れない 誰も 何も
信じられるのは自分だけ
誰も助けてなんてくれない 投げ出すこともできない
弱い自分はいらない 泣いてた自分を見たくない
せめて私ができること 弟たちを守ること
惨めな壁を見せないこと 私と同じにさせないこと
だから笑わなくちゃいけない 泣くことなんて許されない
他の誰にも負けないで もう二度と すがったりしないで
その誇りだけがすべての拠り所
だから強く もっと強く…
鏡SS:終わりと始まり
その日 少しだけ
彼に話してしまった
時間から取り残されたような小さな公園
私は唇を噛んだまま 揺れるブランコを止めていた
彼は困ったような顔で私を見てた
卒業も間近の小さな公園
沈黙が流れる中 ブランコのきしむ音だけが聞こえる
あと少しで何もかも終わったのに
「鏡さん」
差し伸べられる彼の手 私は顔を背ける
「鏡さん…」
後悔が指を縛る 同情なんてされたくなかったのに
「私は…弱くないわ」
それだけがたった一つの拠り所
昔の自分を否定できるもの 今の自分を守れるもの
「でも、鏡さんが思ってるほどじゃないよ」
手が私の手に重なる 抵抗と 別のものが同時に
どんな敵にも負けなかったもの
優しさに崩れていく
思い出したくない この感覚と、あの痛みと
「誰だって無限に強くなんてなれない
傷一つつかずになんていられない
だからなにもかも一人で背負い込まないで
君が不幸になることなんてないんだから
俺にでも何かができるから 俺は…」
「やめて!」
ひびが入る 出来ない そんな事出来ない
守らなくちゃいけない 背を向けて 歩き出す
「さよなら」
「鏡さん…」
歩き去る 走り出すのを押さえて
否定して 頭を掲げて 昂然と
守らなくちゃいけない 一体何を?
「鏡さん!」
捨てられない
守らなくちゃいけない
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外は風 もう冷たくない
春は近づいてる 近づいてる筈
(今日で終わりね…)
私の高校生活って何?
楽しかった思い出? 楽しくない 楽しくない筈
(‥‥‥‥‥‥)
曇らないガラスに線を描いてみる
そろそろ学校へ行かないと 卒業式 何も変わらないけど
(駄目ね…)
違ってたの? どうしたら良かったの?
違ってた 知ってた でも
「姉さん」
弟たちがいる
知ってた 支えられてた
でももう終わり どうしたらいい? どうしたら
「どうしたの、みんな」
「今日、卒業式だよね」
「ええ、そうね」
「今まで姉さんにばかり苦労させてごめんね。
でもこれからは、僕たちも何とかするから」
私は微笑むと、軽く弟の頭をこづいた
「無理するんじゃないの」
「姉さんもね」
笑顔が消える
(一人で何もかも 背負い込まないで)
いつも耳を閉じてた 聞きたくなかったから
誰にも 何にもすがりたくなかったから
負けないで
少しだけひびが入る
その向こうに何かが見える
「…行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
「おみやげ買ってきてね」
「バカ、なに言ってんだ」
「あははは…」
歩き出す 早くなる 駆けていく
駆け出そう 頭を高く掲げて
幸せになろう 誰にも負けないように
もしもまだ間に合うのなら
最後にもう一度だけ 私の持つすべて
駆けていく きっとまだ間に合う
昔の自分 今の自分 否定なんてできないけど
どんな私でもない もう一人の私
最後にもう一度だけ 本当のことを伝えたい
学校が見えてくる 3年間が消えていく
今までの時間 何のためだったのか判らないけど でも
でもその向こうに何かが見える
強くもなく 弱くもないけど
もしもまだ間に合うのなら
もう二度と逃さないから
見慣れたはずの伝説の樹
だんだんと近づく彼の姿
頭を高く掲げよう たとえ何もかも失くしても
それが本当の私なら 誰にも負けはしないから
そして
終わりと始まり
<END>