「はいっ!お弁当!」
「悪いねー虹野さん。うっかり昼メシ代使い込んじゃって」
「ううん、作るの好きだから別にいいの。でもダメよ、ちゃんと食事のこと考えなくちゃ。食生活は人が生きてく上での基本なんだから」
「あ、うん、わかってる。そ、それじゃ」
 フフフよくやったわね下僕1号!これで計画の第一段階は成功よ。




紐緒SS:サイバーランチ




「やっぱり良心が痛みますねえ…」
「そんな無駄なものはさっさと捨てなさい。私は捨てたわ」
「…そーでしょうよ」
 ふん、目的のために手段を選ばないのが真の支配者よ。
 弁当によって男子生徒を次々と洗脳する、恐るべき強敵虹野沙希!
 あの女の野望を打ち砕くためには、このサンプルがどうしても必要なのよ。
「私の調査によれば、彼女の弁当を食べた者はすべて虹弁ジャンキーと化し…」
「そりゃうまいですからね」
「やはり麻薬が混入されていると見て間違いないわ。さっそく検査してみましょう」
「はぁ」
 まずは米粒やトンカツの一片をすりつぶし、ヒモグラフにかけてみる。
 結果は…白。
「やはりそう簡単には尻尾はつかませないわね。あるいはオリジナルの洗脳剤…あの女なら自力でそのくらい調理しかねないわ」
「紐緒さ〜〜〜ん…」
「より突っ込んだ調査が必要よ。下僕1号!酢酸カーミンにチトセリン、それに紐緒リトマス液の用意を!」
「とほほ…」

 見つからない…
 なんて事なの、この紐緒結奈の科学力をもってしても洗脳因子を特定できないなんて。虹野沙希、どうやらあなたを甘く見ていたようね。
 かくなる上は私自ら作ってみるまでよ。コンピューターを駆使してレシピをはじき出すと、材料を紙に書いて代金と一緒に渡す。
「は?」
「は?じゃないわよ。後で私の家に届けなさい」
「なんで俺…いえ、いいです…」
 当然ね。この天才がスーパーで買い物などできるはずはないわ。
 見てなさい虹野、これでどちらが上かをはっきりさせるわよ。

「買ってきましたぁ」
「それじゃあなたには試食してもらうから、そのへんで待ってなさい」
「あ、俺ちょっと腹の調子が…」
「洗脳効果を見るだけだから大丈夫よ。安心しなさい」
「(あ…安心できるかーーーっ!)」
 真っ青になってる下僕から材料を受け取ると、私はさっそく調理に取りかかる。ミニハンバーグ?ふん、俗物的な…

 ぺたんぺたん
 なによこのひき肉は。固めるそばからボロボロ崩れていくじゃないの。
 ボロッ
 …不愉快よ。凝固剤の洗礼を受けるがいいわ。

 さてと、次はキャベツをゆでて…
 ‥‥‥‥‥‥
 なかなか柔らかくならないわね。
 …そう、キャベツの分際でこの私にたてつくとはいい度胸だわ。水酸化ナトリウムでもくらいなさい!
 よし、柔らかくなったわ。さすが天才ね。


「…で、これを俺に食えと?」
「当然ね。なんのためにあなたを生かしておいたと思ってるのよ」
「‥‥‥‥‥‥」
「食べるの?食べないの?」
「いただかせていただきますっ!」
 日本語が変ね。これだから愚民は嫌よ。
「モグモグ…はぅあ!!」
 呼吸困難と体の震え…どうやら失敗のようね。
「オクレ兄さん!!」
 ち、完全に失敗だわ。この私としたことが、一体どこで間違えたのかしら。
 しかし…これはこれで使いようがありそうね。ふふふふ…
「オクレ兄さん!!!」
「うるさいっ!」


「え?私に味見?」
「そ、そうなのよ。作ってみたのはいいけれど、一度虹野さんに味見してもらいたくて」
 くっ、この私がこんな屈辱的なセリフを…覚えてなさいよ虹野沙希。
「うん、いいわよ。喜んで!」
 くくくっ、かかったわね。
「…盛りつけ…ううん、いいの。それじゃいただきまーす」
 私の機能的かつ斬新な盛りつけに不満を持つとは愚民め…。この改良に改良を重ねた殺人料理で、せいぜい安らかにあの世へ旅立つがいいわ!
 ぱくっ
 モグモグ…

 ど…どう?
「…ごめんね紐緒さん。私、料理の事じゃウソつきたくないから…」
「は?」
「まずこのハンバーグだけど、ちゃんと空気抜いた?これじゃ口の中で崩れちゃうわよ。それからなんか表面固いけど、片栗粉でも混ぜたの?パン粉ちゃんと入れようね。入れるときは牛乳で湿らせて…」
 その後数分間虹野の説教は続いた…。
「でもせっかく作ってくれたんだもの。ちゃんと全部食べるね!」
 ひょいぱくひょいぱくひょいぱく…
 …そう、さすが料理の鉄人…。胃袋も鋼鉄なのね…。
「ごちそうさま!また挑戦してみてね!」
 ふ…ふ…ふふふふふふ!
「いいわ覚えてなさい!必ずやあなたをギャフンと言わせてみせるわ!」
「その根性よ!」
 私の殺人料理は通じなかった…しかしこの紐緒結奈に不可能などありはしない。
 なぜなら私は天才だから!ああ、燃えてきたわ!
「次こそは必ずや!」
「根性よ!」


「おーい、大ニュース大ニュース」
「なんだ?好雄」
「あの紐緒結奈が虹野さんに料理習ってるらしいぜ。彼女もわりと女の子らしいとこあったんだな」
「……違うんだ…違うんだよ好雄……(泣)」





<END>




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