この作品は「ときめきメモリアル2」(c)KONAMIの世界及びキャラクターを借りて創作さ
れています。
陽ノ下光に関するネタバレを含みます。
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先生の最後の話が終わり、みんな荷物をまとめながら、名残惜しそうにお喋り。
私も離れてしまう前に、友達との会話を繰り返す。
そして視界の隅に、どこかへ急ぐように教室を出ていく彼を見て
小さく息を吐く。これで高校生活も終わり。
やり残したことは何にもないや。
光SS: もう泣かない
昇降口の前で琴子と待ち合わせ。
部室の掃除を終えた彼女が、早足で歩いてくる。
「待たせちゃったかしら?」
「ううんっ、今来たところだよ」
私の方も、陸上部のみんなとのお別れは済んだし、あとは帰るだけ。
…帰るだけ。
目と鼻の先にある校門へ、ゆっくりと向かう。
「あっという間の三年間だったねー」
「中学の時も言ってたわよ、それ」
「あ、あはは。そうだっけ?」
いつも過ぎればそう思うんだろう。
今だって、昨日のように思い出せる。
入学式の日。真新しい制服を着た私が、この学校まで走ってきて、そして――
…あれから、もう三年経ったんだぁ。
近づいてくる校門。
数え切れないほど繰り返した、琴子との下校。
他愛ないお喋り。
それだけのはずなのに…
琴子の足が止まる。
「ねえ、光」
「うん」
「私、言いたいことはちゃんと口にするようにしてるの」
聞きたくない。
いや、言ってほしい。
「うん…知ってる」
「だから今も、言わせてもらうわ」
真っ直ぐに私を見る親友の顔。
心の中に必死で何かを堪えた…
たぶん今の、私と同じ顔。
「泣きなさいよ!
そうやって無理してるの、見てられないわよっ…!」
あの時は、なんて幸運なんだろうって思った。
七年も経ってからの、彼との再会。
きっと運命だね。これからはずっと一緒だね――なんて。
そこまでの幸運を期待するのは、ちょっと虫がよすぎたね。
別の女の子に惹かれていく彼。
それを、目の前で見る毎日。
私の幸せは、そのまま苦しい気持ちに変わる。
…こんな想いさせるなら、帰ってこなければよかったのに。
…ううん、会えただけでも嬉しかったよ。
…本当? 本当にそう思ってる?
自問自答の、答えは結局どっちだったんだっけ。
私は――
「泣かないよ」
笑顔は作れなかったけど。
精一杯の力を込めて、私は言う。
「光っ…!」
「ねえ、琴子は知ってるよね。
私が小さいころ、すっごく泣き虫だったって。
彼と離れ離れになったとき、毎日毎日……ずっと泣いてたって」
突然の昔話に、憤りのやり場もなく横を向く琴子。
「…耳にタコができるくらい、聞いたわよ」
うん。
琴子には何度も話した。
『でも、泣いてばかりじゃだめだから。
いつかまた会った時に、泣き虫じゃ嫌われちゃうから。
そう思って……頑張ってきたんだよ』
それが私の支えだったから。
泣いてばかりの自分とさよならして
走ることを始めて
琴子と出会って
高校に入学して…
いろんな事があって、それでも頑張ってこられたのは
何があっても、彼の前で笑顔でいたのは
あの時そう決めた、それが理由だから。
「頑張っても、結局は失恋しちゃったけど……
でも、それで泣くなら全部元に戻っちゃう。
あの時からの七年と
高校での三年の…
十年間は…何の意味もなかったってことになるよ」
だから私は泣かない。
これが本当のお別れでも
私は昔の私じゃない。
想いが届かなくたって
私には、かけがえのない時間だったんだ――。
「…本当に、バカね」
髪を揺らし、後ろを向いてしまう琴子。
「ごめんね。
かわりに琴子が泣いてくれる?」
「やっぱりバカ」
目をこすって、いつもの怒った顔をこちらに向ける。
「あなたが泣かないのに、私が泣く訳にはいかないじゃない」
…うん。
ありがとう、琴子。
私もふざけて、怒ったふりをする。
「バカって言う方がバカなんだよ〜」
「ハイハイ」
「も〜」
ちょっとすねた顔をして、そして笑おうとした、そのとき…
「あ…」
鐘だ――
ひびきのの街に、響き渡る伝説の鐘。
良かったね。きっと幸せになれるね。
どこかで聞いているはずの彼へ。
直接は言えなくても、おめでとうって
そう、思ってるよ…
「えいっ」
軽く勢いをつけて、校門を横切る。
「鐘に送られるなんて縁起がいいわね」
「あははっ。カップルじゃなかったけどね」
「ま、ね。けど…」
琴子の手が私の肩を回し、一緒に校舎を振り返る。
余韻を残し消えていく音。
「なんだか、祝福された気がしない?」
そうだ…
自然と笑顔が浮かんでくる。
「うんっ…!」
そうだ、これは終わりじゃない。
十年前のあのときに、新しい私が始まったように。
また違う私が始まる。きっともっと強くなれる。
目の前にそびえる時計塔。
ひびきのの校舎。三年間の時間。
いつかまた会った時は、きっと笑顔でいるね。約束だよ。
だから今は…
ばいばい――公くん。
<END>
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