菓子会社の陰謀に乗せられてみんなが浮かれ騒いでいるある日、私は公くんを中庭に呼び出した。
「やだなー教室で渡せばいいのに恥ずかしがっちゃって…ぐはぁ!」
「あなたは黙ってついてくればいいのよ…」
 みっともなくヘラヘラ笑ってる彼のみぞおちに一発叩き込んで黙らせると、そのままずるずると引きずってメグの前に放り投げる。
「ほら連れてきたわよ。あとは煮るなり焼くなり好きにして」
「な、なんか胃液吐いてないっ!?」
「気のせいでしょ。じゃあね、ふんっ!」
 おろおろするメグを残して足早にその場を去る。何よメグなんて…

 不潔!!



詩織SS: Ringing-Friendship





 中学2年の時初めて会ったメグはそれはそれはおとなしい女の子だったわ。人と話すのが苦手で、いつも私の陰に隠れてたっけ…。
(詩織ちゃん)
(詩織ちゃん…)
 ああ、可愛かった…。(うっとり)
「詩織ちゃん?なんか目が空中遊泳してるんだけど…」
「そう?気のせいよ…」
 それなのに今は男と付き合いたいだなんて!私はそんな破廉恥な女の子に育てた覚えはないわッッ!!しかも相手はあの公くん!?この世に正義は存在しないの!?
「ねえメグ、今からでも考え直さない?その若さで人生捨てることはないと思うわ」
「そこまで言わなくても…」
「いいえあなたは公くんのことを知らないのよ!高校受かったのはマグレだしスポーツもぱっとしないし、中学の頃は頼りない・情けない・ふがいないの3ない男というあだ名の持ち主だったわ」
「い、いったい誰がそんなあだ名を!?」
「私」
「…詩織ちゃんてそのうち大勢敵作ると思うよ…」
 あーっ全然わかってない!こんなに説明してるのになんでわからないのかしらっ!?いつの日か『あの時詩織ちゃんの言うことを聞いておけばこんなことには』って必ず思うんだからね!!その日になってももう遅いのよ!!
「いいわよもう…。で、日曜日はデートだって?」
「う、うん…。一緒に動物園に行こうって…」
 ガッデム!
「し、詩織ちゃんもあたたかく見守ってくれるよね?」
「嫌よ」
「そんなぁっ」
「もうメグなんて知らないわよ!どうにでもなれば!?ふんだっ!」
「し、詩織ちゃぁぁん」
 なによメグの裏切り者。友情より男を選ぶのね。あんたなんて人間じゃないわ。二度と心配なんてしてやるもんですかっっ!!


 それがなんで次の日曜日に動物園前にいるのかって?うるさいわねなんか文句ある!?私は最強のヒロインだから何やってもいいのよ!
 なので木に扮しながらベンチに座るメグの様子をうかがう私。
(あーもうあんなに嬉しそうな顔しちゃって!あれが帰るころには失望に変わると思うと涙を禁じ得ないわ…。だいたい公くんも公くんよ!デートの時は女の子の3時間は前に来ておくのが常識でしょう!?)
 5分経過。
 10分経過…
「メグっっ!!」
「きゃぁっ!し、詩織ちゃんっ」
 近くで見るメグの姿はすっかりお目かししちゃって、頬もちょっと染まってすごく可愛い…とか言ってる場合じゃなくて!
「どうしちゃったのよ公くんは!待ち合わせは10時ちょうどだったんでしょう!?」
「まだ10時10分だよ…」
「女の子を10分も待たせるなんて天下に轟く重罪、本来ならハリセン百たたきの上スマキにして川に叩き込むのが妥当だわ!今こそ立ち上がれ美樹原愛!!」
「と、とりあえず座ってよ…」
 メグに袖を引っ張られ、ベンチに並んで腰を下ろす。待たされてるくせににこにこしてるメグ。私には理解不能…
「よっぽど楽しみだったみたいね」
「え?う、うん」
 ぽっと顔が赤くなる。ああー面白くない!
「なんだか夢みたいだよね。いつも遠くから見てるだけだったのに…。詩織ちゃんのおかげだね。ありがとう」
「…別に…」
 にっこりと微笑みかけるメグ。素直な感謝の言葉に私は嬉しいやら悲しいやら。ただぶすっとした顔で行き交う人たちを見てた。
 でも1時間たっても。
 2時間たっても公くんは来ない。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 おそるおそるメグの顔を覗き込むと、うつむいたその目には一杯に涙が浮かんでる。
「メ、メグっっ!」
「私やっぱり嫌われてるのかなぁ…」
「ち、ちょっとそんなことないってば!」
 あんの男はぁぁぁぁぁぁ!!!
「メグは全然悪くないわよっ!あ、そうだ。せっかく来たんだからぁ私とデートっていうのはどぉ?」
「‥‥‥‥‥」
「そ、そうね。今日はもう帰った方がいいわ。そして一切を忘れなさい」
「でも…」
「公くんには私から確かめてあげるからっ。ね?そんな泣かないで。何も心配しなくていいから、ねっ?」
「…うん…」
 そのまま落ち込んでるメグをなだめて家まで送り届けると、私はすらりとハリセンを引き抜いた。
 今日はどうやら…血を見ることになりそうねッッ!!
「ぬぅぅぅしひとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 道ゆく人を振りむかせながら諸悪の根元の家へと突撃する私。そのままいけば彼の家は消滅するはずだったけど、幸いその前に本人が玄関から姿を現す。
「おわっ詩織っ!?」
「天誅ーーーっっ!!」
 どごずがぁぁああん!!必殺の一撃は一瞬の差でかわされた。この期におよんで見苦しいわね!
「お、落ち着け話せばわかるっ!!」
「へぇ〜なにがわかるって?話してみなさいよさぁっ!!」
 今の時刻は12時30分。どんな言い逃れをするのかと思ったら…
「その…実はちょっと寝坊して…」
「ちょ・っ・と・寝・坊・し・た・ぁ・〜〜〜!?」
「ひぃぃぃぃぃ〜〜!!」
 その瞬間私の中で何かが切れた。ええ切れましたとも。最初から切れてるって?それ以上に切れたのよ!!
「メグが…メグが今日のことどんなに楽しみにしてたか知ってる!?どんなに嬉しそうにあなたを待ってたか知ってる!?それを裏切っておいて、あなたにとっては寝坊する程度のことだったわけね!!」
「べ、別に寝坊したくて寝坊したわけじゃ…」
「言い訳は見苦しいッ!あんなに優しいメグを傷つけて…あなたは昔っからそーゆーヤツだったわよね!だから私は最初からやめとけって言ったのよ!あんたなんて最低よこの○×△●■!!二度とメグに近づかないで!!!」
「し、詩織…がはぁ!!」
「聞きたくなぁーーーいっっ!!」
 必殺の左が彼のアゴをとらえ、落ちてきたところにオラオラ千発を叩き込むと一本足ハリセン打法で彼を天空の星と化し、涙を流しながら私はその場から駆け去った。どうしてそう全然進歩がないのよ。以後『許せない』と『信じらんない』をプラスして5ない男と呼んでやるわ!!


 その晩私はしばらく苦悩した後、重い気分でメグの家に電話をかけた。ああ、なんて言って慰めたらいいのかしら…。
『ハイ、美樹原です。…あ、詩織ちゃん?うんもう大丈夫。あの後主人さんが来てね、今日は本当にごめん、この埋め合わせはきっとするからって言ってくれて。それで来週の日曜こそ動物園に…詩織ちゃん?』
 バキッ!
 あ、電話機握りつぶしちゃったわ…。って主人の野郎!!二度とメグに近づくなって言ってるそばからこういうことするかぁーーー!!
 いえ、それより問題はメグの方よ!可哀想にまたあんな男に騙されて。今度こそ女の子の方がいいってことを…じゃなくて男の汚さをわかってもらわないと!
「あら詩織、こんな時間にどこへ?」
「止めないでお母さん!これはすべて正義のため、ひいては全人類のためよ!」
「そう、遅くならないうちに帰ってらっしゃいね」
「理解のある母親を持って幸せだわ…」


「あ、詩織ちゃん?」
 電話が急に切れたので心配になったらしく、メグが道路をこちらへ歩いてくる。私は無言で彼女の手を掴むと公園へ連れ込んだ。
「し、詩織ちゃん!ど、どうしたの?」
「メグ、ちょっとそこに座りなさい」
「そこって地面だよ…」
「じゃあそっちのベンチでいいわ。とにかく座りなさい」
 びくびくしてるメグと一緒に腰かけると、私は三つ指をついてとうとうと語り始める。
「いいことメグ?あなたは今日ひどい目に遭わされたのよわかってる?それがなんでそうあっさり平気な顔をしてるんだか私にはさっぱり理解できないわ」
「あ、あの、でも、主人さんちゃんと謝ってくれたし、間違いは誰にでもあるし…」
「誰にでもあるで済む問題じゃないわよッ!あなたは彼の過去を知らないからそんなことを言えるけどね、ええと」
 とか言いつつ昔の日記を取り出すわ・た・し。
「そうそう、彼は小学校1年の時に給食を残してたし、3年の時は体操着忘れて先生に叱られてたし、小学6年の7月2日午後12時56分に私が貸した10円は催促するまで返さなかったわ!」
「詩織ちゃんの幼なじみにだけはなりたくないね…」
「とにかくそういう男なのよ!ね、なんだったら私が新しい人紹介してあげるから。公くんだけはやめときなさい。あいつは最低よ、クズよ、女の敵よ、彼と付き合うくらいならワニとでも結婚した方がまだマシってもんよ!」
「‥‥‥‥‥‥」
 あ、メグが涙ぐんでる。私の言葉に感動したのかしらっ?
「ひどい、詩織ちゃん…」
「へ」
「私の目の前で私の好きな人の悪口言わなくたっていいじゃない!ひどすぎるよ…」
 唖然とする私の前でぽろぽろと泣き出すメグ。ち、ちょっとちょっと…。ええっ!?
「な、何よ何よっ!私はメグを心配して言ってあげてるのに!」
「別に心配してくれなくていいよっ!そ、そりゃ詩織ちゃんに比べたら私なんて何の取り柄もない女の子だけど、でも自分の恋くらい自分で頑張れるもん…」
「へ、へぇ〜〜よく言うわねぇ紹介したのだって私なのに!何よメグなんて、私の影に隠れてなきゃなんにもできないじゃない!」
「ひ、ひどい…」
「何がひどいって!?だいたいあんたなんてせいぜい私の引き立て役なのよ!私の言うことだけ聞いてればいいのよ!!私がいなきゃ好きな男とも話せないくせに偉そうなこといってんぢゃないわよっべろべろべーーだ!!」
「し…詩織ちゃんなんて大嫌い!うわぁぁぁぁぁん!!」
 ちょっと言い返しただけでメグは泣きながら走っていき、夜の公園のベンチには私が一人だけ取り残された…
 わ、私悪くないよね?
 ないよね?
 ないよねぇぇぇぇ!?


 どよ〜〜ん
 次の日のバスケ部は、私の周囲50cmだけブラックホールと化していた。
「あっれーどうしたんですか詩織先輩?元気ないぞっ!」
「あんたは元気でいいわねぇぇぇぇ優美ちゃぁぁぁぁ〜〜ん」
「ひぃぃぃぃごめんなさいごめんなさい!なんだか知らないけどごめんなさいっ!!」
 何故よ!何故私はこんなに不幸なのに他の連中は不幸じゃないのよ!こんな世の中滅んでしまえ!!
「し、詩織。今日は調子悪そうだし早退したら?」
「そうね奈津江。あなたもたまには頭が回るわね」
「(殴ったろかい…)」
 私はとぼとぼと体育館を出ると、さまよえるオランダ人のようにあたりをさまよった。もう自分が何をしてるかもわからないわ…
(詩織ちゃんなんて大嫌い!)
(大嫌い!)
(大嫌い!)
「ああああああああああっっっ!!!」
「ふ、藤崎さん!?どうしたのっ!」
 はっと顔を上げるとそこは中庭の芝生の上で、マネージャー姿の虹野さんが心配そうにこちらを見てる。
「虹野さん…。ふっ、あなたはいい子ね。私は嫌な女の子なのよ…」
「そ、そんなことないよ。藤崎さんはとってもいい人だと思うな!」
「きーっうるさいわねこの偽善者!もういいわよこうなったらドラえもんに頼んで地球破壊爆弾を出してもらうまでよ!!」
「と、とにかく落ち着いてっ」
 私は虹野さんと並んで腰を下ろすと昨日のことを涙ながらに話した。
「そりゃ私もごくわずかにくらいは悪かったかもしれないけどっ。少しくらい私の言うことも聞いてくれたっていいじゃない。ねえそう思わない?」
「そ、そうね。でも本人が好きなんだから仕方ないよ」
「納得いかないわ…」
「と、とにかくちゃんと仲直りした方がいいと思うよ?美樹原さんも藤崎さんが嫌いだなんて本気で言ったわけじゃないよ、きっと」
 そうね…。確かにいくら物好ききわまりないとはいえ本人が好きなんだし、ここは涙を飲んで我慢するしかないのかもしれないわ…。
「でもメグに何て言ったらいいのか…」
「大丈夫、根性さえあればなんとかなるわ!根性、根性、根性よ!」
「あなたその単語だけで世の中渡ってけると思ってるわね」
「うんっ」
「‥‥‥‥」
 しかしそこへタイミング良くメグが走ってくる。
「あ…詩織ちゃん」
「メグっ!?」
 私を探し回ってたらしく息を切らせてるメグ。私が何も言えずに口をぱくぱくしてる間に、メグの方から意を決したように話しかけてきた。
「あ、あの…。ごめんなさい詩織ちゃんっ!詩織ちゃんのこと嫌いなんて言っちゃって…」
「な、なんでメグが謝るのよ!悪いの私の方じゃない!」
 潤んだ目で私を見つめるメグ。ああっ見ないで。そんな目で私を見ないで!
「詩織ちゃん…私本当は詩織ちゃんが大好き…」
 り〜んご〜ん。私の頭上で天使の鐘が響きわたった。
「そ、そうでしょうっ。私もメグが大好きよ!」
「でも主人さんのことも大好きなの…。だから詩織ちゃん、お願いだから彼のこと悪く言うのやめて…」
 ひゅ〜〜どろどろ〜〜。今度は悪魔のすすり泣きが響きわたった。でも…仕方ないよね。
「わかったわ、メグ…」
「詩織ちゃん…ありがとう!」
「よーくわかったわ。もうメグは心配しなくていいのよ」
「え゛」
「これからは私が
 力   の   限   り
 メグと公くんの仲を応援してあげるわ!だからもう安心していいのよ!」
「あ、あの…。詩織ちゃん?」
 そうよ、それが親友としてのつとめってもんよ!たとえあんな男でも私が鍛えてやれば多少はメグと釣り合う男になるかもしれないしっ!
「え、その…。別にそこまでしてくれなくても…」
「やーねぇ遠慮しなくていいのよお友達じゃない。必ずメグの恋を成就させてあげるわ。ねえ虹野さん?」
「なんでわたしがっ!?」
「何を言ってるのよ虹野さん!根性でしょう!?」
「そ、そうよ根性よ!頑張って応援するわ!根性ー!」
 扱いやすい娘で助かるわ。しかしこれでメグの幸せは決定したようなものねッッ!
「あの…」
「心配しないで!」


 そして次の日曜日。
「服はこんな感じでいいかしら。あとはさりげなくブローチなんかを」
「詩織ちゃん…。服ぐらい自分で選ぶよ…」
「何言ってるのよ!あなた男の子とデートしたことなんてないでしょう!?」
「詩織ちゃんはあるの?」
「うぐっ、ち、知識として知ってるからいいのよ」
 メグの手を引いて家を出発し、動物園に行く前に虹野さんと落ち合う。
「一応お弁当作ってきたけど…」
「ご苦労。さあメグ、これを彼に渡せば万事OK、あいつは単純だからポイントアップ間違いなしよ」
「はぁ…」
「それからデート中はこの小型トランシーバーで連絡を取るから分からないことがあったらなんでも聞いてね」
「あの、詩織ちゃん…」
「藤崎さん、やりすぎじゃぁ…」
 つまらないことを言いかけた2人は私に一にらみされて押し黙った。
 そして動物園へ。この前のでさすがに懲りたのか、今日は公くんが先に来ている。
「それじゃ行ってらっしゃーい!」
「い、行ってきます…」
 私に背中を押されて早足で彼に近づくメグ。あからさまに緊張してる。ああ、見てて不安だわ。このデートがうまくいくかどうかはこの私にかかっているのね!
「美樹原さん、この前は本当にごめんな」
「い、いえ…。そんな、気にしてません…」
(甘いーーーーーっ!!)
(応援するんでしょ藤崎さん…)
 2人は並んで園内に入り、私たちも後をつける。コマンドーよろしく茂みの中を移動しつつ2人を観察。
「藤崎さん、わたしたちってものすごく怪しくない?」
「大丈夫よ、今の私たちは髪を伸ばした神岸あ○りと性転換した薫ミ○キーに変装してることになってるから問題ないわ」
「それって何の変装もしてないってことじゃぁ」
「いちいちうるさいわね!すべてはメグのためよ。メグのためならたいていのことは犠牲にできるわ!」
「(そのたいていの中にわたしは入ってるんだね…)」
 それにしても動物園ってのが既に子供っぽいわよね。これはシチュエーションよりも行動の方で盛り上げないと…。
『もしもしメグ、聞こえる?』
「し、詩織ちゃんっ?」
「? どうかした美樹原さん?」
「な、なんでもないですっ」
 あわてて彼に背を向けて小声でトランシーバーに話しかけるメグ。
「なななななに?」
『手よ!手を握るのよ!!』
「は?」
『そうでもしないとあなたたちの仲は進展しないのよ!いいから手を握りなさい!!』
「ええええええっ!?」
「美樹原さん?」
「え、あのっ、そのっ!」
 メグの顔が紅潮し、一瞬にして石仏のように固まった。ああーじれったいじれったいじれったい!本来なら公の手がメグに触れるなんて嫌でたまらないのを抑えて勧めてやってるのにっ!
「虹野さん、何か策はないのっ!?」
「えええっ!?わ、わたしもデートとかってあんまりしたことないしっ」
 使えない…。やっぱりさりげなく近づいていってわざとメグにぶつかりよろけたメグが彼に抱きしめられる…とかいう強硬手段に出るべきかしら?
 彼に抱きしめられ…抱きし…
「きーーっなんで私のメグがあんな男にぃぃぃぃ!!」
「藤崎さんっ!」
「! ふせてっ!」
 慌てて虹野さんの頭を茂みに押し込む。くっ、主人の奴きょろきょろしてるわ。絶叫はまずい絶叫は。
「…なんか今誰かの声が聞こえなかった?」
「き、気のせいですっ。全然なんでもありません!は、早く行きましょうっ」
 メグ、あなたそういう態度取るの。私悲しいわ…。
「あ、あの、楽しいですね」
「うん、そうだね」
「う、嬉しいです…」
 小学生かいあんたたちは!なんか頭痛がしてきた。
 私の苦悩をよそに時間だけが刻一刻と過ぎていく。
『メグ!腕を組みなさい腕を!』
「そ、そんなの無理だよぅ…」
『じゃあ茂みに連れ込んで2人きりになりなさい!』
「詩織ちゃぁん…」
 ああーもう人がいろいろ作戦出してやってるのに全然言うこと聞かないじゃない!いつからそんなに聞き分けがなくなったのよ!
「かくなる上は番長グループが出てきて『よう兄ちゃんいい女連れとるやんけ』『こ、怖いですっ』『やめないかお前ら!』みたいな展開に持ち込まないとダメね」
「(藤崎さんの恋愛観て何年前…)」
「ということで番長と言えば根性、根性と言えば虹野さん。こんなこともあろうかと衣装は用意してあるからよろしくね」
「よ、よろしくってわたしが2人に因縁つけるの!?」
「なぁにうまくいってから真実を話せばきっと笑い合える青春の思い出となるんじゃよ。のうオンナスキー殿?」
「藤崎さんすでに目が正気じゃないっ!」
「ええいわめくなっ!」
 抵抗する虹野さんに学ランを着せるべくどたばたと奮闘する私。
 当然、発見された。
「詩織?こんなとこで何やってんだ?」
「はっ!?」
 気がつくと呆れた顔の公くんが目の前にあり、その向こうではメグが自分は関係ないと主張するように背を向けている。
「な、何を言ってるの?私は髪を赤く染めたシーラ・シ○フィールドであって断じて藤崎詩織なんかではないわ」
「詩織ぃ〜〜〜」
「うっ…。ふ、ふんっ。あなたたちがふがいないから手伝いに来てあげたのよ。ねえメグ?」
「わ、私っ…」
 びくんとしたメグは私を見て、公くんを見て、さんざん逡巡した後、思い切ったように口にした。
「詩織ちゃん…余計なお節介やめて」


「は、早まるな詩織!!」
「藤崎さん落ち着いて!」
「詩織ちゃぁぁぁん!!」
「何よ!!離しなさいよ!!」
 ちなみに状況を説明すると私がアザラシの池に身を投げようとするのをみんなが必死に押さえてるところだったりする。
「ええそうよどうせ私は単なる邪魔者よ!えーえー余計なお節介ですとも!!何よメグのばかぁぁぁぁぁ!!!」
「ご、ごめんなさいっ!ごめんなさい詩織ちゃん!!」
「今まであんなに助けてあげたのにもう私は用なしだからどこかへ消えろって言うのね!メグってそういう人だったんだふーんそう!!」
「そ、そんなことっ!私…私…」
「いい加減にしろよ詩織!!」
 公の怒鳴り声に思わず私も彼に向き直る。何よ、だいたいあなたが…。
「本当に昔から変わらないよな…」
「こ、公くんに言われたくないわよっ!」
「ごめんな美樹原さん。こいつときたら俺が小学生の頃もお姉さん風吹かせてあーだこーだと世話ばかり焼いて」
「過ぎたことは言わなくてよろしい!私はただメグのためを思ってるだけよ!」
「美樹原さんのためか?」
「うっ」
「自分のためじゃないのか」
「ううっ」
 公くんにズバリと言われて返す言葉がない。こ、この完璧超人藤崎詩織が彼なんかに。なんて屈辱なの…。
「詩織ちゃん…」
 ぶたれた子犬のような目でメグが一歩前に出る。
「詩織ちゃんの言うとおり、私いつも詩織ちゃんに助けられてばかりだったよ。主人さん紹介してもらったのも詩織ちゃんからで…。だから、このままじゃいけないから、詩織ちゃんにすぐ頼るのやめようって思ってる。でも詩織ちゃんが邪魔だとかそういうことじゃなくて、私、詩織ちゃんが見守ってくれてるだけで勇気づけられるし、だから…」
 あたりがしーんとする中メグはそのまま俯いてしまった。
 でもその声は最後まではっきりと聞こえた。
「…わかったわよ…」
「し、詩織ちゃん」
「詩織…」
「今日は帰るわ。でも公くん!私がいないからってメグを傷つけるような真似をしたら絶っっっ対に許さないからね!」
「はいはい」
「ふんっ!」
 苦笑する彼に背を向けて私はすたすたと出口に向かって歩き出す。メグも公くんに促されて反対方向に歩いていった。たぶん何度も私の方を心配そうに見てることが、背中越しだけどなんとなくわかった。
 日曜日の動物園は青空の下で、みんなが楽しそうに歩いてる。私は何しに来たんだか…。


 虹野さんと並びながら、とぼとぼと帰途についた。
「で、でもわたし藤崎さんの気持ちもわかるな」
「‥‥‥」
「わたしも弟がいるんだけどね、わたしがあんまりお節介焼くもんだから『もうほっといてくれ』って言われちゃって」
「‥‥‥」
「相手の喜ぶ顔が見たくて、役に立ちたいって思っただけなのにね」
「‥‥‥」
「…でも、それって自分のためだよね。誰かに必要とされるのって嬉しいから」
「…だから、必要じゃないって認めたくない…」
「でも…。弟離れしなくちゃいけないんだよね」
「妹離れ、か……」
 少し足を止めて、虹野さんに頭を下げる。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「う、ううんっ。わたしなんかでお役に立てたなら」
 嬉しそうに言う虹野さんに、中学のころの自分を思いだした。
 今のメグは私がついてなくても大丈夫。寂しいけど…。喜ばなくちゃ、いけないんだよね。



 その後メグと公くんはそれなりにうまくやってるみたい。私から見れば相変わらずもどかしいけど…
 メグは、がんばってる。
「でもねメグ」
「なあに?」
 放課後に一緒に帰りながら、私とメグの関係なんかを考える。
「本当に自分一人じゃどうしようもなくなったときは…。私でよければ相談に乗るからね」
「う、うんっ」
 メグが嬉しそうに微笑む。だから、いいよねそれで。
「ねえ、詩織ちゃん」
「ん?」
「私たち、ずっと友達だよね」
 友達、か……
「…当たり前じゃない」
「う、うん…。詩織ちゃん、大好き」
 メグが幸せならそれでいいかな。こうして一緒にいられるだけで。

 そう思うことにした。
 ようやく友達になれたかな?





<END>



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